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166. ディアーナは片割れに再会する

「瑠衣果の世界に戻すって…」


瑠衣果の世界に戻れば家族に会える。

だがそうすればルーファスは死ぬ。


「アル。お前の提案には矛盾がある。ディアーナが死ねばそれは寿命だ。お前の望み通りにはならない」

『うん。だからあちらの神と賭けをしたんだ』

「ディアーナの事を好きだと、永遠に一緒に居たいと言ってるお前の言葉とは思えないな」

『そうだね。僕にとってもディアーナが側に居てくれる為の賭け。これならフェアでしょ』


アルは目を細めてディアーナを見つめた。

家族のことを出されて動揺しているディアーナに向けて、アルは『ほら、お迎えが来てるよ』と目の前を指差した。

ディアーナは言われた通りに視線を動かして、ピタリと止まる。

喘ぐように口を震わせた後、我慢するように口を引き絞った。

ディアーナの様子にルーファスは一瞬訝しむが、すぐに察してアルを睨みつけた。


「瑠衣果の家族…双子の兄を呼んだか」


アルはニヤリと笑う。


『ね、これでルーファスが選ばれるか分からなくなったね』

「ディアーナが死ぬくらいなら、俺はこのままでいい」

『ルーファスは王様なのに無責任』

「その言葉。そっくりそのまま返してやる」


二人が口論を始めたたのも気づかず、ディアーナは真っ直ぐ懐かしい姿を見つめる。

ディアーナの見つめる先に立つ双子の片割れは夢だと勘違いしているのか、真っ白な空間を不思議な顔をして眺めていた。


双子の兄、琉偉の色素の薄い髪から覗く瞳は静かだ。少し痩せてしまった以外、姿形は瑠衣果が死んだ頃と殆ど変わらない。

恐らくディアーナの世界と瑠衣果の世界では時の流れが違うのだろう。



『やあ!白須琉偉君!』


アルが両手を挙げて琉偉を歓迎した。

琉偉は少年姿のアルを一目見た後、興味なさ気に目を逸らしてルーファスに視線を送ると僅かに目を見開いた。それから側に立つディアーナに顔を向けると、今度こそ溢れんばかりに目を見開く。


ディアーナは琉偉に凝視されて動けないでいる。

今の姿は瑠衣果では無い。琉偉に声を掛けたくても見知らぬ他人が声を掛けたら不審に思うだろう。







「瑠衣果?」






琉偉の口から発せられた言葉にディアーナは瞠目する。

姿が違うのに何故分かったのだと驚く頃には、その身体は琉偉に抱き締められていた。


「瑠衣果っ!お前生きていたんだな…」


ディアーナの後頭部を抱えるようにして強く抱き締める琉偉の声は震えて涙声になっていた。


「分かるの?」


琉偉の肩口に顔を押し付けられたディアーナの目に涙が浮かんだ。


「当たり前だろ。俺達は産まれる前からずっと一緒だったんだ。瑠衣果がどんな姿でも分かるに決まってる」


ディアーナは琉偉に腕を回して抱き締め返す。


「ごめんなさい!ごめんなさいっ!!みんなを置いて行って本当にごめんなさいっ」


泣きながら謝罪の言葉を繰り返すディアーナに、琉偉はディアーナを抱き締めたまま首を振った。


「謝らなくていい。どんな形でも瑠衣果が生きてくれていれば、幸せならそれでいい」


ディアーナは顔をあげると、涙に濡れている琉偉と目が合う。ディアーナにとっては瑠衣果の記憶が蘇ってから7年振りの邂逅だ。

瑠衣果と二人、よく戯れあって両親や兄達に仲が良すぎると揶揄われたのを思い出す。


『二人とも久しぶりの再会でしょう。どうする?家族を選ぶなら瑠衣果として戻してあげる』


アルが口を挟むと嫌そうな顔をしてからディアーナを見た。


「あいつは何?俺…あいつ苦手だ」

「琉偉が初対面なのに嫌うの珍しいね」

「…そうでも無いよ。……あと、彼は……」


アルの言葉を無視して琉偉はルーファスを見つめて質問する。


「彼…もしかしてルーファス?」


琉偉の言葉にディアーナは驚いて口を開けた。

二人でやった思い出のゲームだが、プレイしたのは二人が中学生の頃で覚えている筈ないと思っていたからだ。


ルーファスは瑠衣果の家族と知って柔らかい笑みを浮かべる。

ピクリと琉偉の身体が揺れると、ディアーナを抱き締める腕に力を込めた。


「ルーファス・ロイ・クルドヴルムです。貴方の話は()()()から良く聞いていました」


ルーファスは琉偉の正面に立つと手を差し出した。

琉偉もその手を握り返すが、残った手はディアーナを抱きしめたままだ。


「白須琉偉です。ゲームのキャラクターと話すって不思議な感覚だ」

「ああ、俺はラスボスらしいですね」


ルーファスと琉偉はディアーナの頭の上で取り留めない会話を交わしている。

アルはぷくりと頬を膨らませると、両手で拳を作って二人の会話に割り込んだ。


『ねえっ!さっきから僕を無視しないでよ。瑠衣果は元の世界に戻るの?戻らないの?』


会話していた二人の視線がディアーナに集中した。


「ディアーナ。俺はお前の死を望んでいない」


穏やかに笑うルーファスに泣きそうなディアーナを見て琉偉は眉を顰める。

アルから何も聞かされていない琉偉にとってルーファスの言葉の意味を理解しかねていた。


「瑠衣果。状況を説明してくれる?ここは夢のようで夢では無い事は分かってる。だけど何故瑠衣果が…ディアーナ?が、死ぬんだ?」

「琉偉。()はあの時死んで、ゲームのキャラクターに転生したの。ゲームは私達の世界とは違う…異世界で辿るはずだった運命。それを私が記憶を取り戻したから運命が捻れて…」

「瑠衣果の事だから猪突猛進で突き進んだな。それで運命を修正しようとされてるの?」


理解が早すぎる琉偉に、ディアーナだけでなくルーファスも目を丸くする。

当の琉偉は苦笑すると、未だ腕の中に居るディアーナの髪を指先でくるくると弄った。


「瑠衣果の考えが分かるだけだよ。それで諸悪の根源はそいつなんだな」


見つめられたアルは心外だとそっぽを向いてからチラリと視線だけで琉偉を見た。


『僕はディアーナが、瑠衣果が欲しいの。ディアーナの命は留めておけないから瑠衣果の世界で生涯を終えた時に魂を捕まえに行く事にしたんだ。別の箱庭の魂は還らないから永遠に僕と一緒だ』

「…何だそれ。お前の利己的な考えで瑠衣果の命を縛り付けるのかよ。頭おかしいのか?」


琉偉の口から飛び出した暴言にアルは眉を吊り上げた。

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