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159. ディアーナは運命を呪う

ルーファスはディアーナの肩を掴んでいた手を離すと、その手をアルの額に向けた。

口元が僅かに動くとその手の先に魔法陣が展開される。

それに呼応するように黙ったままであったシリルの腕が天に伸ばされると暗雲が立ち込め、ラグナが首をもたげ咆哮し、空に無数の魔法陣が展開された。


「竜の召喚魔法陣?!」


エイセル竜騎士団長含む竜騎士団員が驚いて空を見上げた。


「ディアーナ様!」


リアムが駆け寄りルーファスの側に立つディアーナの腕を引いた。

訳が分からず腕を引いたリアムを見上げたところで、アナスタシアの隣に立つクリストファーが剣を手に取り駆け出した。


その瞬間、彼らがする事を悟ったディアーナはリアムの手を解こうともがくが、両手で抱き抱えるように押さえられてしまい動く事が出来ない。


「やめて!やめてっっ!!アルを殺さないでっ!」


ディアーナは頭を振るようにして必死で叫ぶと、溢れた涙が宙を舞った。

クリストファーはディアーナを見ることなくアルに向けて剣を振りかぶり、その瞬間ルーファスの召喚、シリルの魔法、ラグナに召喚された竜の炎息がアルに向けて放たれた。

ルーファスの手はアルの身体を掴んだままだ。

クリストファーも危険だが、シリルの魔法と竜の炎息は確実にルーファスの立つ場所も攻撃範囲に含まれていた。

ディアーナはゾッとして渾身の力を込めてリアムの腕の中から逃れようとする。


「駄目ですっ!ルーファスを信じて下さい!」


リアムはディアーナが出す以上の力で押さえ込んだ。


次の瞬間ルーファスが立つ位置が竜の放った炎に包まれた。焼け焦げる匂いが辺りを充満して鼻をつく。

セウェルス聖騎士団、クルドヴルム竜騎士団がディアーナ達の前に立ち塞がって障壁を生成した。


「お姉様。ルーファス様を信じて。私もクリストファーを信じてますから!」


涙に濡れた目でアナスタシアを見ると、両手を握り合わせて真っ直ぐクリストファーの向かった先を見つめている。その指は真っ白に変色する程にきつく握り締められていた。


やがてシリルの放った魔法と竜の炎が消えると、その先に剣を構えるクリストファーの姿が見えた。

そして攻撃の中心に立つルーファスは、所々服が焼け焦げながらもその場に立ったままだ。

だがその手にはアルの姿が無い。


「ルー!!」

「クリス!」


ディアーナとアナスタシアが同時に叫ぶと、クリストファーは爽やかな笑顔を見せ、ルーファスは顔だけ振り返り困った顔で笑う。

それを見ていたリアムがようやく力を緩めると、ディアーナはルーファスに駆け寄ってその身体を抱きしめた。


「なんて無茶をするのっ!!どうしてまた黙っていたの?」

「黙っていた訳じゃなくて、思いつきだから言えなかった」


ディアーナが怒鳴るのを宥めようとディアーナの顔を包みこむ。

ディアーナは両手が解放されたルーファスを見て、ルーファスの周囲に視線を送った。


「アルは?アルはどこなの?」


最悪の事態を想定したディアーナは言いながら身体中の血が引く感覚に襲われる。

まさかアルの身体ごと消滅させたのでは無いか。

そう思うだけで身体が震えるのを感じた。


「アルの身体は…ほら、あそこだ」


毛が一部焦げているが、アルの身体はクリストファーが手に持っていた。しかし先程からピクリともアルが動かない。


「アルの肉体はもう死んでいるのだろ。俺達が試したのはアルの身体に危険を与える事で、アルの中にある神をアルから分離させる事だ」

「視線だけで指示された時は驚いたけどな。クルドヴルム王は我が女王陛下より人使いが荒い」


苦笑したクリストファーがディアーナの頭をポンポンと撫でる。途端にルーファスは眉をしかめてクリストファーを睨みつけた。


「旧知の仲とはいえ気安く彼女に触れないで欲しい」


ムツリとした顔でルーファスが言うのを、キョトンとして聴いていたクリストファーは「ああ!」と、何かに気付いたようにアルの体をルーファスに渡して、ルーファスとディアーナに向かい低頭した。


「これは失礼致しました。クルドヴルム国王陛下。ディアーナ王女殿下」


王女ではないとツッコミたかったが、流石にこの場ではマズイと口をつぐむ。

クリストファーはもう一度笑顔になると、アナスタシアの待つ場所へ去って行った。

ディアーナはルーファスからアルの身体を受け取りそっと抱きしめる。

まるで生きているような温もりが伝わるが、アルの身体は動かないままだ。

腕の中で眠るようにしているアルの姿にディアーナの涙が降り注ぐ。


「わたくしの側に居てくれたのに。いつも一緒だったのに。全部嘘だったの…?」


ポツリと呟いたディアーナの肩にルーファスの手が置かれた。


「それは(あいつ)に聞いてみないと分からない。だがディアーナと一緒に居たアルは間違いなく幸せそうだった。運命の歪みを修正しなくてはならない役目はあったが、ディアーナと過ごした時間は嘘じゃないと思う」


そう言ってルーファスは振り返る。

シリルとラグナが見つめる先に、金色に輝く光の玉が浮いていた。


『僕がその身体から引き摺り出されるなんて思わなかった。流石だね、ルーファス』


金色の光が点滅しながら言葉を放つ。


『ラスボスと主人公の共闘かぁ。計画しないでそれが出来るなんて褒めてあげるよ』

「お褒めに預かり光栄だ。そのまま全てを諦めてくれれば助かるが…そうはいかないな」


ルーファスは側に刺さったグングニルを手に取り、光に向けて矛先を向ける。


『それは僕が作ったものだ。それで僕は殺せない』

「どうかな?やってみなければ分からない」


ルーファスの手がディアーナの肩から腰に回された。

金色の光は何かを考えているのか、ふわりふわりと揺れている。


「ディアーナ。カラドボルグを師匠に預けられるか?」


ディアーナは頷いてからカラドボルグに向けて願うと、カラドボルグがシリルの手に収まった。

カラドボルグを手にしたシリルが何かを語り掛けているがディアーナ達には届かない。


「ルー、これから何をするつもりなの?」


ディアーナの問いにルーファスは微笑んだ。


「俺はディアーナを愛しているよ。それと同じくらい国を護る責任がある。話し合いで解決するとは思っていなかったが、あれは運命に縛られているから、このまま話をしても平行線だ」


ルーファスの顔が近付き、ディアーナの唇に軽く触れると小さく言った。


「俺が神の世界に行って全てを終わらせてくる」


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