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158. ディアーナは神と対峙する

『ようやく分かったの?僕を呼ぼうとしても僕には実体が無いから無理だよ。君たちが計画した事は全て無駄だったね』


アルはクツクツ笑いながら宙に浮かんで揺れている。


『神の力を侮ってはいけないよ』

「ーーその神とやらが魔王ひとり倒せずに我々に頼って来たのを忘れたのか?」


嘲るような声にアルはそちらを向いた。

シリルは今迄見た事の無い冷たい瞳でアルを見つめている。


「神の力が聞いて呆れる。お前は今も昔も何の力も持たない愚か者に過ぎない」


ピクリとアルの耳が揺れた。


『君は相変わらず僕を怒らせるのが得意だね。本当に何度も消してやろうと考えたよ』

「私の中にある呪いがお前を食い尽くしても良ければ好きにすればいい」

『…そうなるか試してみようか』

「アルやめてっ!」


ディアーナはルーファスの手を解いてシリルとアルの間に立った。

アルはピクリと耳を動かすとディアーナに向き直る。


「アルはわたくしを手に入れたいの?」

『うん』

「わたくしは何の力もないただの人間。だからわたくしを手に入れても何の得にもならない。それなのにどうして?」

『ディアーナ。僕はディアーナが大切なんだ。だから悲しみも苦しみもない僕の世界に連れて行きたい。それの何がいけないの?』

「だからって魔物を出現させたり、大切な人を操ったり、皆を傷付ける必要はないでしょう?わたくしは苦しくても悲しくてもこの世界が好き。だからここで生きて行きたいの」

『うーん。魔物はね、ディアーナを殺す為じゃない。運命を修正する為。僕は運命を見守っているから歪みを修正しなくちゃいけない。ああ、だけどディアーナが死ぬのは運命だよ。だからせめて僕の世界に連れてこようと思ったんだ』


魔物の出現は神が設定した運命を修正する為、だがディアーナが死ぬ事は運命で決められている。

死にたくなくて、生きていたくて、運命に争うために沢山努力を重ねたのに、神は"運命"の一言で片付けようと言うのか。

ディアーナは目の前に浮かぶ大切なアルと、その中に在る残酷な存在に対して怒りを何処にぶつければ良いか分からず、泣きながら唇を噛んだ。


「お姉様は死なないわ!死なせたりしないっ!!アル、あなたお姉様とずっと一緒だったでしょう?!それなのにどうしてお姉様を連れていこうとするの?」


ディアーナの様子を見たアナスタシアが抗議した。

怒りのせいか顔に赤みが増しており、握りしめた拳がブルブルと震えている。

アルはつまらなそうに溜息をつくと、ふさふさの尻尾をパタパタと振った。


『どうして僕の気持ちが分からないのかな?ディアーナは死ぬのに、死なせないなんて…どうやったら出来るの?』

「簡単だ。お前を消滅させればいい」


ルーファスが静かに告げたのを聞き、アルは大きな瞳を更に大きくする。

ルーファスは無表情のまま、ゆっくりとアルに近づいていく。


『僕は君の事が嫌いじゃない。この世界に絶望した優しい少年が、竜を解放する為に戦争を起こして国ごと滅ぼそうとするなんて…とても悲しくて、そしてとても……』


ニタリとアルは笑った。


『ーーー哀れで楽しい』


ルーファスはアルの言っている事が理解出来ず眉をひそめる。

側に控えていたリアムやエイセル竜騎士団長も何を言っているのかとアルを睨みつけた。


只一人。ディアーナだけがアルの言っている言葉の意味に気付いて顔色を失っている。


(アルはエルガバル英雄伝説を知ってるの?!)


ルーファスが戦争を起こすのはゲームの中だけだ。

実際のルーファスはディアーナとの約束通り、戦争を回避してくれた。

だからアルが言っているのは、エルガバル英雄伝説のルーファスでしかない。

アルが何故その事を知っているのか、知らないのであればどうやって気づいたのか。色々な可能性が湧き上がり、ディアーナの思考を奪っていく。


くいと、ディアーナの手が掴まれた事で我に返った。

見ればいつの間にか隣に立つルーファスがディアーナの手を握っている。


「ゲームの俺は最低じゃないか?目的を達成する為に国を滅ぼすなんてアホだ」


僅かな時間でルーファスはアルが言っている事がゲームの話である事に気づいたようだ。

特に動揺する様子もなくルーファスはアルを見つめた。


「お前の言ってるそれと、俺は別の人間だ。お前を楽しませる事が出来なくて残念だが俺は幸せだ。俺にはお前が哀れに見えて仕方ない。お前の目的はなんだ?さっきから話を聞いているとディアーナの命では無いように思う」

『何を言ってるの?僕はディアーナの事が好きだから、僕の世界に連れて行きたいって言ってるじゃないか』


アルは不機嫌そうな声で告げた後、ゆらりと揺れる。


「違う。お前は"運命"だと言った。お前はそれに逆らう事が出来ない。お前はディアーナの命ではなく、ディアーナが死ぬ運命を見届けたいと言っているように聞こえる」


そう言ってルーファスはディアーナの肩を抱いた。


「神は運命を変えられない。動き出した歯車を止める事が出来ないのと同じだ」


ルーファスは勝ち誇った顔で笑った。

肩を抱かれながらアルを見上げたディアーナはルーファスの言いたい事が分かり目を見開いた。


「それを変えられるのはこの世界に生きる人間だ。俺が運命を変える事が出来たように、ディアーナの運命もまた変える事が出来る」

『……運命は変えられない。僕がそう定めたから。君の運命だって変わらない』


そう言ったアルがくるりと反転したところに、ルーファスの手が伸びてその身体を掴みあげた。


「実体が無いならその先に在るお前を消滅させればいい。運命の一言でディアーナの死を願うお前はアルじゃない。あいつは腹が立つ動物だが、ディアーナを傷付ける真似はしない」

『なっ……』


片手で締め付けられたアルは苦しそうに呻く。

ルーファスの手は緩められる事なく少しずつ力を強めていった。


「別に実体があるとも思っていない。師匠が神の話をするのにその姿について触れた事が無かった。それはお前が姿を現す事が無かったのか、それとも出来なかったのか。…後者だと分かって良かったよ」


ルーファスは燃えるように赤く染まる瞳でアルの先にある存在を睨みつけた。



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