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157. ディアーナは神を召喚する

アルの一件があって神の召喚が早まり一週間後に決まった。

ディアーナは学園を休み、毎日待ち続けたがアルが帰ってくる事は無かった。

そして気付けば神の召喚を行う前日。

ディアーナは巨大樹にある自分の部屋に泊まる事に決めた。


「クルドヴルムからは俺と近衛隊隊長のクラース。竜騎士団長のエイセル公爵、そして近衛隊、竜騎士団の一部が同席する」


ルーファスの説明にディアーナとシリルは頷いた。

元帥は宰相と王都を守る為に居残り組になったらしい。最後まで一緒に行くと言って聞かない元帥に、エイセル竜騎士団長は「引退間際の御大には無理ですよ」とバッサリ言い切ったそうだ。

ルーファスは楽しそうに教えてくれたが、そう言い切れるだけの実力がエイセル竜騎士団長にあると知り、何とも言いがたい気持ちになる。


「セウェルスからはアナスタシアとクリストファー、ネヴァン公爵と聖騎士団が同席すると聞いたわ」

「アナスタシア嬢の婚約者殿が居ればアナスタシア嬢は大丈夫だな」


穏やかに言うルーファスにディアーナは微笑む。

クリストファーはゲームの主人公だ。全く心配はないだろう。


「ディアーナは俺が護るから安心していい」


ラスボスのルーファスはニヤリと笑う。

ディアーナも強いが、必要ないと言うと怒られそうなので感謝の言葉を述べて頷いた。


「ディアーナは泊まりますがルーはどうしますか?貴方の部屋はそのままにしているから使えますよ」


リビングにやってきたシリルが声を掛けると、少し悩む素振りをしてから「泊まる」と頷いた。


「今日は昔みたいにノアの手料理を三人で囲みたいです」


シリルは微笑むと、背後に控えていたノアに指示を出した。


「明日、ここは消滅するかも知れない。それでも思い出は残り続けます。今日は二人の好物を沢山作ってもらいましょうね」


ディアーナとルーファスは笑顔で頷いた。







ディアーナはテラスに続くガラス戸を開けて、満天の星を見上げた。

いつもならテラスを走り回るアルの姿が見られるのに、今は一人だ。

ディアーナは自らを抱きしめるように両腕を交差すると、少しだけ前屈みになる。


「…怖い、のかな?…怖くて当然よね。わたくしの為に国が動いた。わたくしの為に、また誰か犠牲になるかもしれない。全て上手くいくなんて、楽観視は出来ないわ」


身震いしたディアーナの背中に温もりが伝わると、ディアーナの身体ごとすっぽりとルーファスの腕が包み込んだ。


「ノックをしたが返事がなかったので勝手に入ってしまった。…怖いのか?」


ディアーナは耳元で囁かれる声にピクリと震えると、首を縦に振る事で答える。


「確かに全て上手くいくなんて楽観視は出来ない。だが今回の件はディアーナの為だけでは無い。国を守る為に両国の国王が決定した事だ。何があってもディアーナの責任では無い」


ディアーナは顔だけをルーファスに向けた。

赤く濡れた瞳が静かにディアーナを見つめている。

その瞳を見ているだけで、ディアーナは心が落ち着くのを感じた。

僅かに身動ぎしてルーファスに向き直ると、その胸に顔を埋める。


「絶対に怪我をしないでね。わたくしを妻に迎えるのでしょう」


頭上からルーファスが小さく笑うのが聞こえた。


「怪我をするのも駄目なのはハードルが高いが…分かった。その代わり、ご褒美をもらうからな」

「ご褒美?」

「全部終わってディアーナを迎えた後のご褒美」


それだけ言うとディアーナの耳元にそっと顔を寄せて囁いた。途端にボンと音を立てて全身が真っ赤に染まる。ルーファスは気にする様子もなく、楽し気に微笑みながらディアーナの背中を指でなぞった。


「返事は?」

「……善処します」


ディアーナはルーファス触れる先が熱を帯びたように熱くなるのを感じ、益々顔が赤くなる。

ルーファスはその表情に満足すると、ディアーナの額にそっと口付けした。





◇ ◇ ◇ ◇


「私、同衾は許してませんよ」


アナスタシアは開口一番、ルーファスを指差した。

ルーファスは腕組みしながら苦笑する。


「残念ながら昨日はお互いの部屋で寝たよ」

「き、昨日は?一体何の事ですか?!」

「ルーにアナスタシア!皆が見ています。二人共遊びでは無いのよ」


緊張感の無い二人の会話に割り込んだディアーナは二人を交互に睨んだ。

途端に二人は口をつぐんで表情を改める。


「陛下、ディアーナ様。準備が整いました」


当初予定の無かったリアムから声が掛かる。

今朝になって絶対同席すると宰相を説き伏せて参加したのだ。

ルーファスは頷いてから巨大樹の前にある敷地に立つシリルを見た。


「構いません。呼びなさい」


シリルの返事を聞いたルーファスは目を閉じる。


「来い、ラグナ」


ルーファスが呟くとの併せて真っ赤に輝く魔法陣が現れた。魔法陣が輝きを増すと、咆哮をあげながら巨大な黒龍が出現する。周りは初めて見る大きさ、また漆黒に輝く竜の姿を見て息を呑んだ。


『久しぶりだな。其方は全く変わらない』


ラグナを見上げるシリルに言う。


「貴方は変わりましたね。一瞬誰だか分かりませんでした」


シリルはゆっくり微笑んだ。

聖王と竜王の邂逅。シリルは竜王と会う事を禁じられている。何も感じさせない穏やかな表情だが、想像を絶する痛みに耐えているのだろう。


「ラグナ。師匠と共に俺達のフォローを頼む」

『承知した』


ディアーナの手を取ったルーファスは、皆が見守る中グングニルとフラッゼイを。ディアーナはカラドボルグとカルンウェナンを具現化させる。


「伝説の武器と呼ばれる其方達の力で創造神の召喚を」

「わたくし達の世界を、あなた達を創造した神の召喚を」


ルーファスとディアーナが同時に告げると、伝説の武器が輝き始めた。やがてその光は天を貫く。

ピクリとラグナが天を見上げ、シリルも忌々し気な表情で同じ動作をした。

天を貫いた光の中から一つの影が映る。

ディアーナは思わず一歩足を踏み出すが、ルーファスの手に止められた。


『ああ、折角隠れんぼをしていたのに見つかってしまった』


光が収束した場所に浮かぶ一体の小動物。

ディアーナは涙を浮かべてその名を呼んだ。


「アル!!!探したのよっ!どうして居なくなってしまったの?!」


言葉を話す事に驚いたが、それ以上にアルと会えた事が勝る。

ディアーナが泣いているのを見て、アルは大きな目を細めた。


『泣かないでディアーナ。僕は君の涙に弱いんだ』


アルの言葉に目を見開いたディアーナの手を強く握ったルーファスは低く告げた。


「俺達は神を召喚した。召喚したのに現れたのはアルだ。…つまり神は身体を持たない?」

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