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154. ディアーナは否定する

翌朝。

身支度を終えて本宅へ向かおうとした時、シャーロットが離れを訪れた。

招き入れたディアーナは明るい様子のシャーロットを見て安堵の息をこぼす。

シャーロットは小首を傾げてから申し訳なさそうに眉を下げて笑った。


「助けに来てくれてありがとう。ディアーナが来てくれた後から心がスッキリしてとても幸せな気分なの。それこそリアムと婚約破棄しても良いかなと思うくらい」


ふふっと笑いながら言うシャーロットだが、伯爵家から高位貴族である公爵家に婚約破棄は願えない。

シャーロットはディアーナの表情から何を考えているのか察したらしく、両手を目の前に突き出してから手を重ねると「うーん」と背伸びする仕草をした。


「私が戻った後、リアムの触れていた手がとても気持ち悪くて拒絶しちゃったの。リアムの驚いた顔、その後の悲しそうな顔が怖くてクロエに助けを求めたわ」


シャーロットはその後の事を思い出して小さく笑う。


「そしたら陛下がリアムの胸倉を掴んで殴って…"自分の行いが招いた結果に動揺するな"って怒鳴りつけたわ」


それからシャーロットは目を伏せて自嘲した。


「それは私も一緒。リアムの娼館通いを許可したのは私。それなのに何も言わないまま拒絶するのはフェアじゃない。だからディアーナが言ってくれたように我慢していた気持ちをぶつけて、それから決めようと思った」


ディアーナはハッとして目を見開く。

昨日ルーファスが殴ったと言っていたが、目的はシャーロットとリアムに話し合いの場を設ける為だと気付いた。


「陛下とクロエ達は部屋を出て行って、私とリアムだけが残された。そこで私は初めてリアムに本当の気持ちを伝えたの。娼館に行って欲しくない、このまま娼館通いを続けるなら私以外の人を伴侶にして欲しいって」


ディアーナはシャーロットの話を黙って聞いていた。

話をする事で自分の気持ちを確認しているのだろうと思う。


「…リアムは絶対に嫌だって言ったの。私が離れるくらいなら二度と娼館通いはしない、私を悲しませたり苦しませたりする事はしない。だから信じて欲しいって…泣いていたわ」


なら初めから行かなければいいのにとディアーナは強く思う。娼館通いは熱を冷ますためらしいが、ルーファスの様な人も居るのだ。リアムにだって出来ない訳が無い。シャーロットに対する誓いが、よくドラマで見た浮気男の常套句のようにも聞こえてしまう。


「リアムから離れた私と、離れない私。どちらが幸せか、私らしく在れるかと考えた時に答えが出なかった。その気持ちを正直に伝えたら、リアムはそれで良いと言ったの」


ふわりと髪を揺らしてディアーナに笑い掛けたシャーロットは穏やかな顔をしている。


「話し合いの結果は、様子見…かな?」


リアムの行動を見て決断する事に決まったそうだ。

二人がそれで良いならディアーナに言える事は無い。


「シャーロットが幸せと思える道を、わたくしは全力で応援するわ」


ディアーナが微笑むとシャーロットは柔らかい笑顔を浮かべた。


「ところでシャーロット。突然意識を失ったと聞いたけど、何か予兆とかキッカケはあったの?」


ディアーナはシャーロットが倒れた時の状況が気になり質問した。

シャーロットの健康状態は問題ない筈だ。

であれば何かしらの原因があった以外考えられない。ルーファスは自分に原因があると言っていたがそれも不思議だとディアーナは思う。


「あの時は…クロエ達と紅茶の話をしていて…そう、アルを膝に乗せていたわ。アルの背中を撫でていたらだんだん眠くなって…」


シャーロットは思い出すようにポツリポツリと語り始めた。


「そしたら声が聞こえたの。君の心を救ってあげる…って言っていたと思うわ。そのあたりから意識が無いの」

「声がしたの?」

「ええ。大人…ではないわ。少年のような声」


シャーロットの世界には子供は居なかった。

子供のような声とは誰の事なんだろう。ディアーナは首を傾げて、拳を口元まで持って考えるような仕草をする。


「アルがフワフワした毛並みだから気持ち良くなってしまったのかもしれないわ。声だってきっと気のせいよ」


シャーロットは慌てて手を振るが、ディアーナはそのまま動かない。


「アルは何処に行ったのかしら?ここに来れば会えると思ったのだけど…ディアーナ?」


名を呼ばれたディアーナはハッとして顔をあげる。

何も聞いていなかったのか目を見開いてシャーロットを見つめていた。


「ごめんなさい。何かしら?」

「アルは何処かな?昨日ずっと側に居てくれたからお礼をしたくて」

「ああ、アルならわたくしの部屋に居ると思うわ」


そう言ってディアーナは拳を握りしめた。


(そんな訳ないじゃない。アルはずっと側に居て守ってくれていたもの)


頭の中に浮かんだ疑惑を否定するようにディアーナは首を振る。


(シャーロットが倒れたのはアルを抱いていた時。サクルフの森に魔物が現れたのはアルがサクルフの森に居た時)


それでも止められない思考に、それがディアーナが求めていない方向へ進んでいく事にディアーナ自身驚き、そして全身の血が引いていくのを感じた。


(アナスタシアが豹変した時もアルが側にいた)


単なる偶然。アナスタシアとは何度も会っている。

サクルフの森も庭のようにして遊んでいる。

そもそも山脈の麓にある森には行っていない。


ディアーナは落ち着けと言い聞かせ、胸に手を当てて大きく息を吐いた。

単なる偶然だと思っているのに、そう思えない気持ちもある。


「部屋に行きましょう」


気持ちを確かめる為にもアルに会わないと。

ディアーナはシャーロットを連れて自室に向かった。

扉を開いた先に広がる部屋にアルの姿が無い。


「アル?どこに居るの?」


ディアーナは声を掛けるが鳴き声もしなければ、その気配も感じない。


「お散歩にでたのかしら?」


シャーロットがキョロキョロ部屋を見渡しながら言うが、部屋の扉は閉まっていてアルの力では開かない筈だ。


「ディアーナ?…顔色が悪いわ。きっと私の為に無理をさせちゃったのね…。アルに会えなかったのは残念だけど、今日はもう帰るわ。また改めてお礼に伺うね」


心配そうに両手でディアーナの顔を包みこんだシャーロットは、励ますように微笑んだ。

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