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152. ディアーナは心の叫びを聞く

(シャーロットは状態異常じゃないから魔法が効かない。病気でも無く、状態異常でも無いなら…)


ジワリと背中に冷たい汗が伝った。

他に方法があるのか。そんなものは無いのではないか。ディアーナにも初めての事で焦りが生まれる。


「ディアーナ」


頭上から声がして、ディアーナの手にルーファスの手が添えられた。

その手と背中越しに感じられるルーファスの気配にディアーナは力が抜けるのを感じ、大きく息を吐く。


「あの時を思い出せディアーナ。ディアーナの魔法は願いだ。その願いが奇跡を起こす」


祖母の生命を救ったあの時、ディアーナは祖母と元帥の幸せをただ願った。願いが形になって奇跡を起こしたのだ。

ルーファスに励まされたディアーナは大きく頷くと、もう一度目を閉じる。


(願うのはシャーロットの幸せ。優しく穏やかで、可愛らしいシャーロットが笑顔でいる未来)


ーーーもうやめてっっ!!


頭の中に悲鳴が響きディアーナは顔をあげた。


「まさか…」


ディアーナはもう一度目を閉じてシャーロットの幸せを願う。


ーーー嫌っ!私に見せないでっっ!!


バチリと目を見開くとディアーナはベッドの上に乗り上げてシャーロットを見下ろす。


(この声はシャーロットだ!なら眠っている原因は)


ディアーナはベッドの脇に立つルーファスを見つめた。


「ルー。後をお願いできる?」


出来るだけ心配させないように微笑むと、ルーファスは眉をひそめた。様子がおかしいと察したのだろう。


「ディアーナ。何を考えている?」

「ディアーナ様?」


ルーファスとリアムが言うので、もう一度微笑んだディアーナはシャーロットの額に自らの額を合わせて呟く。


「シャーロットを迎えに行ってくる」


目を閉じたディアーナはただ願う。

今泣いている友人の元に連れて行けと、シャーロットを救いたいと。

その気持ちが通じたのかディアーナの身体が黄金色に輝きはじめた。

部屋中を包み込む程に輝きが増し、ルーファス達は目を開けていられなくなる。

光が収まりようやく視界が戻ってきたルーファス達は、シャーロットの身体にもたれ掛かるようにして目を閉じたディアーナの姿があった。








◇ ◇ ◇ ◇


ディアーナが目を覚ますと、そこには煌びやかな建物が建ち並んでいた。キラキラとした宝石が天井から下がり、薄い布を纏った女性達が囁き合いながらディアーナの横を通り過ぎていく。

彼女達の進む先には貴族と思われる男性の姿。

周りを見渡すと、そこには男性と仲睦まじく会話する女性達が見える。


「ここは…娼館?」


行った事は無いが、以前クロエがどのような場所だったか教えてくれた事がある。

この景色はクロエが話してくれた場所に類似していた。


「シャーロットはどこ?探さないと」


先程聞いた叫びが、誰かにシャーロットが襲われているものだったら。

そこまで考えてディアーナは違和感に襲われた。


「見せないで?」


口元に手を持ってきて考え込んだ後、ディアーナは駆け出した。


「リアム様の大馬鹿!!戻ったら引っ叩いてやる!」


ディアーナは周りの目を気にする事なく、シャーロットの名を叫んだ。

目の前にある階段を駆け上がると個室が並んでいる。


(シャーロットの声、気持ちに集中しろ!!)


いつか言っていた"心はここにあると信じている"の言葉。

信じているのだろう。確かにディアーナから見てもリアムはシャーロットを愛しているのが分かる。

だが愛しているから何だというのだ。愛していれば他の女に触れていいのか。そんな訳あるかとディアーナは憤る。


「自分の心を殺してまでリアム様を受け入れる事ないじゃない!」


ディアーナが全身全霊の力を込めてシャーロットの名を叫ぶと、「ディアーナ?」とか細い声が個室から聞こえた。

ディアーナは全力で声のした個室の前に駆けつけると、その扉を勢いよく開け放った。


「シャーロット!」


目の前にフワフワした綿菓子のような少女と違い、泣きすぎてボロボロになって座り込んでいるシャーロットが居た。

ディアーナはシャーロットに駆け寄って力いっぱい抱きしめると、シャーロットの瞳から大粒の涙が溢れ落ちる。


「やめてと言ったのに…私の前で見せないでって言ったのにやめてくれないの」


ディアーナはシャーロットを抱きしめた先に見えた光景にディアーナは全身が泡立つ。

そこには娼婦の身体に寄り添いながら何かを囁いているリアムの姿があった。


「シャーロット。貴女の気持ちを教えて?ここでは我慢しなくていい。誰も何も聞いていないから」


シャーロットはボロボロ泣きながらディアーナを見上げると、細腕を何度もディアーナの胸に叩きつける。

それはまるで駄々っ子のようであり、行き場の無い怒りをぶつけているようでもあった。


「リアムは私だけを愛しているって言うのにどうして愛を囁くの?!唇だけは私だけのものだって約束したのにどうしてその唇で触れるの?どうして私の本当の気持ちに気付いてくれないの?」


その声は次第にか細くなっていく。

叩いていた腕は止み、今はディアーナの胸の辺りをギュッと握り締めている。


「お父様もそうだったから私は貴族の男性は皆愛人を持つ者だって思っていた。だからリアムが娼館の話をした時、許してあげないといけないって思ったの…」


シャーロットは握りしめていた手を離してディアーナを抱きしめ嗚咽する。


「どうしてかな…私が子供だから?大人になれば、諦めれば…こんな風に気持ちが惑わされる事は無くなるのかな?」


ディアーナは力の限りシャーロットを抱きしめた。

なんて声を掛けたらいいのか分からない。

それでも今言えるのはひとつだけだ。


「シャーロット。ここは現実じゃない。シャーロットの創り出した世界なの。だから現実に戻ってリアム様と話をしてみよう?シャーロットの気持ち。良い事も悪い事も全部」

「…ここが私の創り出した世界?」

「そうよ。現実のリアム様はシャーロットの帰りを待ってる。シャーロットが助かるなら自分の生命も惜しくないって言っていたわ」

「……リアムが?」


シャーロットは泣きながら何度も瞬いた。


「でも戻り方が分からない。リアムと話したくても、戻れないなら意味は無いわ」


ディアーナはシャーロットに微笑んだ。


「命懸けで貴女を助けたいと思っている。その証拠を見せてもらいましょう!」

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