16. ディアーナは兄弟子と会う
そこはゲームの世界みたいに幻想的な景色だとディアーナは思い、ゲームだからね!と心の中で突っ込んだ。
シリルに連れられてきた賢者の家はゲームで見たのと同じ。谷の底に一本の巨大樹が生えており、周りには小川が流れている。遠くには滝だろうか。僅かではあるが水が落ちる音が聞こえていた。
映像とは違い草木の爽やかな匂いや、優しく撫でる風が心地良い。
実際にみると本当に綺麗。
ディアーナは口を開けながら四方八方を興味津々に眺め、シリルはその様子を微笑みながら見つめている。
「今日からここが君の家だよ、ディアーナ」
「はい!よろしくお願いします」
「ふふっ、良い返事だね」
ディアーナとシリルは見つめ合って笑いあう。
同じ白銀色の髪に紫色の瞳。シリルの瞳は光の加減で赤や青に変化するように見えるが、それ以外はディアーナと同じ色彩なので遠目には親子に見えなくもない。近付くと超絶美形の兄と、歳の離れた兄に比べ残念な妹になってしまうのだが…。
「おかしいですね。ルーが待ってる筈だったんだけど…」
シリルがキョロキョロと辺りを見渡した。
ルーって何だろう。動物かしら?と、ディアーナが首を傾げると、巨大樹の幹にある扉が開いた。
巨大樹のおうちってファンタジーだとディアーナが喜んでいると、扉の中からひとりの少年が姿を現す。
シリルは少年に向かい手を振ると呼び掛けた。
「ルー!彼女が昨日話したディアーナだよ。今日からルーの妹弟子になるから面倒をみてあげてね」
ルーと呼ばれた少年は、ディアーナより僅かに年上に見える。目を覆い隠す程の長さがある黒髪のせいで表情は窺えない。魔法使いのような長いローブを身に纏っているルーは口元に笑みを浮かべる訳でもなく、ぼんやりと立っている。
「はじめましてディアーナと申します。よろしくお願いします!」
ディアーナは頭を下げたが、ルーは「…よろしく」と呟くように言うと、部屋の中へ引っ込んでしまった。
なにあれ⁈初対面なのに礼儀がなってないじゃない!
ディアーナは呆気にとられる。
やれやれといった風に腰に手を当てて溜息をつくシリル。
「ルーは人見知りでね…。昔はよく笑う子だったんだけど、1年前に両親を亡くしてからすっかり心を閉ざしてしまったんだ…」
だから大目にみてあげてとディアーナに言う。
まだ小さいのに両親を亡くした衝撃は計り知れないだろう。瑠衣果の事で家族が悲しんでいるのは想像できる。だが家族を失う悲しみはディアーナには分からない。だから安易に可哀想とはいえない。
でも、少しでも笑えるようになって欲しい。
それはルーに対する憐れみなのか、瑠衣果を失った家族に対する願いなのか。おそらくその両方だろう。
「パパ。自己満足ですが、わたくしはルー様に笑って欲しいです」
ディアーナはシリルに向かって宣言した。
シリルはディアーナの頭を撫でながら悲しげに微笑み
「ありがとうディアーナ。きっと亡くなったルーの両親もそう願っているでしょう」
そうして空を見上げた。