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151. ディアーナは失敗する

ディアーナが本宅に駆け込むと、シャーロットはベッドに横になっていた。

苦しむ様子もなく眠るように横たわるシャーロットの傍らには、蒼白のクロエと祖母の姿。そして枕元にアルが座っていた。


「おばあ様、クロエ。一体何があったの?」

「ディアーナ」


クロエはディアーナの姿を見て気が抜けたのか、ディアーナに抱きついた。そのまま肩に頭を乗せてすすり泣く。そんなクロエの頭を撫でながら、ディアーナは祖母を見たが首を振られた。


「本当に突然だったの。そろそろ会議も終わる頃だろうから離れまで行こうと席を立った時、崩れ落ちるように倒れてしまった。ご実家とレスホール公爵家には使いを送ったわ」


祖母が言うなら予兆は無かったのだろう。

クロエの身体を支えるようにしてシャーロットの側に寄ったディアーナは唇を噛んだ。

シャーロットの事は頭の片隅にあったが、健康なシャーロットが倒れる事が想像出来ず、あれはゲームだけの設定だと思っていた。もっと気をつけていれば回避出来たかもしれないと思うだけで悔しさが滲む。


「クロエ。貴女の執事精霊を使ってリアム様に連絡は出来る?」

「さっき連絡しましたわ。すぐに向かうと回答がありました」


クロエは鼻声で弱々しくはあるがはっきり告げた。

動揺するだけで何も出来ない貴族令嬢とは違うとディアーナは感心する。



10分もしない内にリアムと、何故かルーファスまで本宅へやってきた。

眠っているシャーロットを見たリアムは言葉も出ない程動揺した。真っ青になり震える手でシャーロットの手を握り、名を呼ぶ姿を見て胸が締め付けられた。


「何故シャーロットがこんな事に…」


絞り出すように告げたリアムの声が震えている。

何故シャーロットが倒れたのか。それも苦しむ様子もなく眠り姫のような症状はディアーナにも理解出来なかった。

ゲームの強制力だとしてもシャーロットを今の状況にしたところで、ディアーナの生命を奪う事は出来ない。


「ディアーナ。恐らく狙いは俺だ」


考えこんでいるディアーナの肩を抱くようにしたルーファスが言う。


「神殺しを考えている俺に対する警告」

「警告…?」

「リアムは俺にとって最も失いたく無い友人であり側近だ。このままだとリアムを失うと俺に警告してるのだと思う」


弾かれたようにディアーナはルーファスを見上げた。

淡々とした口調のルーファスの瞳だけが燃えるように赤い。


「俺は諦める事も失うつもりも無い。神が何をしようとも全て乗り越えれば良いだけだ」


ルーファスの強い意志はディアーナを抱く腕にも込められた。身体を寄せているせいかルーファスの全身が怒りで熱くなっているのが伝わってくる。


「シャーロットを助けたい。いえ、絶対に助ける。わたくしの大切なお友達でリアム様の愛する人だから」


この場でシャーロットを助けられる可能性があるのはディアーナだけだ。


ディアーナは膝をついて項垂れるリアムの隣に立つと、彼の握る手にそっと自分の手を重ねた。

リアムは弾かれたようにディアーナを見上げる。

ディアーナは微笑んでから自らも膝をついてリアムと目線を合わせた。


「リアム様。これからわたくしは聖魔法を使いシャーロットが戻るか試してみます」


リアムの目が大きく見開かれると「本当ですか?」と震える声で言う。


「…その為にはリアム様の生命を分けてもらう必要があります。リアム様がシャーロットに渡した"生命の欠片"。それを失うかもしれませんが宜しいですか?」

「構わない!それでシャーロットを救えるなら俺の生命だって…」


そこまで言ってリアムは側に立つルーファスを見上げた。

リアムに見つめられたルーファスは苦笑する。


「俺も同じだから否定しないが、せめて俺が死ぬまでは側に居て貰わないと困るな」

「ルーファス…」


ディアーナは二人の絆を見て口許を綻ばせた。


「シャーロットだけ生き延びてもリアム様が居なければ死んだ方が良かったと思うでしょうね。わたくしもそうですから」


ポンポンとリアムの手を軽く叩いてからディアーナは立ち上がる。


「アル。そこに居ると危ないかも知れない。少し離れていてね」


枕元に座るアルを撫でながら言うと耳をピョコと動かして立ち上がり、心配そうに見つめているクロエの元へ走って行った。

ディアーナはそれを見送ってからシャーロットの左手を取る。

その薬指にはリアムの瞳と同じ色の宝石が埋められていた。


「シャーロット。わたくしが必ず助けるから少しだけ我慢してね」


宝石部分を触れるようにディアーナはシャーロットの手を握ると目を閉じた。


(ゲームのシャーロットは確か呻き声をあげていた。だから今の状態とゲームの時とは違うかもしれない)


それでも試さない訳にはいかない。

まるで眠り姫のようなシャーロットを起こす方法をイメージする。


(確かあちらの世界では眠り姫みたいになる病気があった。でもシャーロットは違う気がする。むしろ強制的に眠りに落とされたような…)


双子の兄、琉偉がやっていたゲームの状態異常に眠りがあったが、あれは状態異常回復の魔法で解除していた。


(魔法の名前なんて思い出せない。とにかくその魔法を使っていた時の事を思い出そう)


ディアーナは僅かな記憶の中から状態異常回復の魔法の想像し、自分なりの解釈を加えて魔法を発動する。

シャーロットの身体が白く光り輝くと、その光はシャーロットの胸の辺りに吸い込まれるように集約されて消えた。


「シャーロット!!」


リアムがディアーナの隣から名を呼ぶが、シャーロットは何の反応も示さなかった。

ディアーナの魔法は確かに発動した。それなのに目を覚さないとなると、状態異常回復では改善出来ないという事だ。


「ディアーナ!シャーロットは治りましたの?!」


クロエの声にディアーナは首を振る。

アルを抱いた腕に力を込めたクロエは震えている。

リアムは両手で顔を覆って俯く。


「失敗した…。状態異常回復では治らない…」


何がいけなかったのか。自問自答しても答えが見つからず、ディアーナは唇を噛んで自らの両手を睨みつけた。

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