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150. ディアーナは衝撃を受ける

『お姉様!今日もお綺麗です。ああっ、お会いしたかった』


魔法石で投影されたアナスタシアは触れる事が出来ないのにディアーナの顔を撫でるそぶりをみせた。

隣に座るルーファスは苦々しい顔をしているが邪魔する事なく見守っている。それもその筈、アナスタシアには見えないところ、会議に参加する面々が座るテーブルの下ではディアーナの手がしっかりと握られている。更に指を絡ませたりとディアーナの様子を楽しんでいるところもありタチが悪い。


「セウェルス王。セウェルスの状況を報告して貰えるだろうか」


アナスタシアは表情を改めると頷き、背後に控えるクリストファーを見上げた。


「クルドヴルム国王陛下。セウェルス聖騎士団第一部隊長クリストファー・ネヴァンより報告致します」


そう言ってクリストファーは一礼すると、セウェルスで発生した魔物討伐について説明を始めた。

セウェルスもクルドヴルムと同じような状況だったらしい。


「数だけが多く核まで辿り着く事が困難でしたので、私が単身乗り込み核を破壊して周りました」


核を破壊して周ったと言うが、そこには大量の魔物がいた筈だ。それをサラリと言ってのけるあたりクリストファーの実力が窺える。


(流石ゲームの主人公!チートはここにも居たわ!!)


ディアーナが素直に感心していると、手のひらを撫でる感覚に反射的に身体が震えた。

ルーファスは面白くなさそうな顔をして視線だけディアーナを見つめている。クリストファーの実力に感心しただけで嫉妬したのか、舐めとるような動きでルーファスの指が絡まっていた。

ジワジワと熱くなる身体にディアーナは一瞬の隙をついてルーファスの指から離れようとするが手を握られてしまうので離れる事が出来ずにいる。


(あーもうっ!!何で離してくれないの!!!)


「こちらは訓練と称して討伐に時間を掛けていたが、現れた魔物は同じようなものだな」


ディアーナの動揺をよそに、ルーファスは全く動じずに淡々と話をしていた。

そこからルーファスは伝説の武器を手に入れた事、それが揃った事で神を召喚出来る事を報告する。

その途端アナスタシアの表情がパッと輝いて、ディアーナに向けて満面の笑みを浮かべた。


「素晴らしいです!では場所を考えなくてはなりませんね。何が起こっても被害が少ない場所で召喚しましょう!」

「それなら巨大樹(私の家)はどうですか。谷の底にありますし、あの場所なら破壊されてもクルドヴルム、セウェルス双方に被害が出る事はないでしょう」


報告内容を黙って聞いていたシリルが手をあげた。

それにはセウェルスの面々だけでなく、ルーファス含むクルドヴルムの面々も驚いた。


「師匠。あの場所は師匠の思い出が詰まった大切な場所です。その場所を選択する訳にはいきません」

「思い出は私の心の中にあります。場所はまた作れば良い。それに一番最善だと思いますよ」


シリルは柔らかく微笑んでから目を閉じて、そっと胸に手を当てる。


「陛下。師匠の言う通りだ。あの場所以外に最適な場が思い浮かばない」


元帥の言葉にルーファスは溜息をついて背もたれに身体を預けた。


「サクルフの森に張った結界を解除してもらう事になります」

「それは勿論。皆さんを招き入れるのに迷いの森である必要はありませんから」


シリルの答えを聞いてから、アナスタシアにも確認する。


「私は構いません。構いませんが…お姉様はそれで宜しいですか?お姉様にとって賢者の家は、御実家と同じですから…」


ディアーナが過ごした時間を気に掛けているアナスタシアの優しさに胸が熱くなる。

ディアーナは正面に座るシリルを真っ直ぐ見つめた。

シリルの紫が"それで良い"と告げている。

ディアーナは目を閉じて俯き、一呼吸置いてからアナスタシアを見た。


「わたくしも構わないわ。家が無くなってしまっても、パパがいる場所が実家だもの。思い出はまたそこから作っていけばいいわ」


アナスタシアは眉を下げて微笑んでから「お姉様が言うなら私は反対する理由がありません」とシリルの案に同意した。


「サクルフの森には多くの騎士を連れていく訳には参りません。国の守りもあるので必要最低限の人数に致します」

「クルドヴルムもそのつもりだ」


そうしてルーファスとアナスタシアの間で決行日などが纏められていく。

上手くいくかどうか。それは祈るしかないが、少なくともディアーナがゲームの通りに死ぬのか、それとも生き延びるのか、その結論は出るだろう。


(生きたいけど、もし失敗したその時は…)


ディアーナは心残りになりそうな事を頭の中で挙げていく。

終わりが見えないくらいに挙がるそれに思わず苦笑してしまう。


(心残りがありすぎて、死ねと言われても死ねないわ)


そう考えて未だ繋がれている手を見つめた。


(何よりルーを残していけない)


ディアーナはこの温もりだけは離したくないと、ルーファスの手を握り返した。






◇ ◇ ◇ ◇


「そう言えばアルを見てないな」


会議が終わった後、思い出したかのようにルーファスが言ったのでディアーナは本宅に遊びに来ているクロエとシャーロットに預けている事を告げた。


「ああ、授業を休んだから届け物をしてくれたのか」


ルーファスの言う通り、王都を離れていたので提出物などが纏まった資料を届けに来てくれたのだ。

アルを紹介したら二人とも気に入ったのか会議中アルを預かってくれると提案してくれた。


「だからわたくしは行かないと。ルーはこのあと城に戻るでしょう」

「嫌だけどな。あそこでリアムが睨んでいるから仕方ない」


ルーファスは背後で早くしろとオーラを醸し出してるリアムをこっそり指差した。

ディアーナはルーファスの頬に軽く唇を触れてから「頑張ってね」と微笑む。ルーファスは嬉しそうに笑うと「また夜来る」と言って城に戻って行った。


「二人を待たせちゃったわ」


急いで本宅に向かおうとしたディアーナの耳に、リナとステラの叫び声が届く。

慌てて離れを飛び出したディアーナは、真っ青な顔で駆け寄ってくる二人を見て只事では無いと判断する。


「ディアーナ様!!」

「ディアーナ様!大変でございます!!!」


息を切らせてディアーナの元へ辿り着いた二人は、洗い呼吸のまま叫ぶように告げた。


「ご友人がっ!シャーロット様が突然お倒れになりました!!」


その報告に、ディアーナは背筋が凍るのを感じた。

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