149. ディアーナは伝説の武器を手に入れる
カルンウェナンはカラドボルグに悪態をついてから、ディアーナとルーファスの元へやってきた。
"神が魔物を生み出したと言いましたね。我らは神が創造した武器。神の望む行いを止める事は出来ません"
彼らの力が無ければ結界をつくれても維持が出来ないと知り、ルーファスは唇を噛んだ。
ディアーナはカラドボルグを見てからカルンウェナンを見つめる。
「カルンウェナン。わたくしはカラドボルグを使い魔物を消滅させました。カルンウェナンの仰る通りなら魔物を消滅させる事は出来なかった筈です」
"神の望む行いでも例外はあります。それは所有者の生命を守る事は最優先される事"
カラドボルグが魔物を消滅出来たのは所有者であるディアーナを守るためだった。つまり魔物の発生に対しては何も出来ないが、所有者を守る為なら使用出来るという事だ。
カルンウェナンはそこで言葉を止めた。
"カラドボルグ。ここからは其方の役目です"
カルンウェナンの指示通り、剣なのに落ち込んでいる様子のカラドボルグがディアーナの前にやってきた。
"我らは神の行いを止める事は出来ない。代わりに出来る事は、神をこの世界に降臨させる事です"
カラドボルグの言葉にディアーナとルーファスは顔を見合わせた。
「それは本当かカラドボルグ」
"真実だ。我らが揃えばの話なので伝えてはいなかった"
真実なら結界以上の効果がある。
上手く運べばディアーナの運命から解放する事が出来るとルーファスは鼓動が早まるのを感じた。
"聖王の御子。獣王の子が忠誠を誓うならば、我も貴女に力を貸しましょう"
カルンウェナンがディアーナに向けて言う。
残るは妖王の武器フラッゼイのみだ。
"さて聖王の御子は我の力を欲しているようじゃが、其方達と妖王には繋がりがないからのう。力を貸す必要性を感じぬ"
ディアーナの視線を感じたフラッゼイは淡々と告げた。
"フラッゼイ。本当にそれで良いのですか?"
"構わぬ。繋がりが無い者には力を貸せぬ。其方とて獣王の子が忠誠を誓った事が無ければ我と同じ結論だったろう"
真実だったのかカルンウェナンは黙ってしまう。
フラッゼイの協力が無ければ神を召喚する事は出来ない。ここまで来て引き下がる訳にはいかなかった。
「フラッゼイ。繋がりならあるだろう」
ルーファスはそう言って一歩フラッゼイに近付いた。
フラッゼイは不思議そうに浮いているが、それはディアーナも同様だ。
アールヴ妖王国とは血の繋がりを持たない。それを繋がりがあると断言出来るのが不思議だった。
だがルーファスの目には迷いが無く、むしろ自信に満ちている。
「確かに我らとは血の繋がりが無い。だが最も強い繋がりを持つ者が居るだろう」
ディアーナはハッとしてルーファスを見上げた。
血を除いた繋がりなら確かにある。
「妖王が生命を預けて共に戦った仲間だ。聖王セシリオスと妖王の繋がりを否定する事は出来ないだろう。そして私が救いたいのは妖王達が救った世界と、盟友の娘だ。力を貸してくれ、フラッゼイ!」
ルーファスの言葉にフラッゼイは沈黙する。
そして細剣の刀身が溶けるように歪むと、その姿を弓に変えた。
"フラッゼイは変化する武器です"
カラドボルグがそう教えてくれる。
弓の形になったフラッゼイは小さく笑った。その声は次第に大きくなり、やがて空洞内に響き渡り反響した。
"確かになあ。妖王は誰より平和を愛した。仲間達を愛した。妖王が存命ならば…力を貸したであろうな"
ひとしきり笑ったフラッゼイはポツリと呟く。
"良かろう。久しぶりにセシリオスの顔を拝みに行ってやろう。我が王はセシリオスを気に入っておったからの"
フラッゼイの言葉にルーファスはディアーナを見て微笑んだ。
これで一歩どころか大きく前進した事になる。
ディアーナも嬉しくなってルーファスに笑いかけると、ルーファスは両腕を伸ばしてディアーナを抱きかかえた。
「ディアーナ。王都に戻ったらセウェルスに連絡だ。師匠にも伝えなくてはな!」
余程嬉しいのかルーファスの声が弾んでいる。
(脇役王女が生き残る道。ルーファスと共に生きる道。これが全部、全部上手くいけば…)
正直神を殺さなくてもいい。
勿論ディアーナの設定や、シリルの事、魔物の事など言ってやりたい事が多々ある。許せない事だってあるが、かつては世界を護る為に尽力したのだ。
言って分からない事は無い、そう信じたかった。
"そう全てが上手くいくとは思えんのだ。我らが力を貸したとしても神の前では余りにも無力じゃから…"
小さく呟いたフラッゼイにカルンウェナンも頷くように刀身を縦に振った。
"そうでしょうね。ですが…かつて我らの主人達も成し遂げました。強大な力に抗い打ち勝った。我らはただ信じてやればいい"
"そうじゃな…。今我らが懸念したとて彼らは前に進むだろうの"
フラッゼイとカルンウェナンは小さく揺れた。
◇ ◇ ◇ ◇
「ああ、懐かしいですね」
シリルは昔を思い出したのか目を細めた。
王都に戻る最中、巨大樹に立ち寄ったディアーナ達はシリルに伝説の武器達の力を借りれた事、神を召喚する方法を手に入れた事を報告した。
召喚方法にはシリルも驚いていたが「今思い返せば、私達が武器を持って揃った時にしか神の声は聞こえませんでしたね」と、納得した。
「これで奴を引き摺り出す事が出来ます。この後どうするかを城に戻ってからアナスタシア嬢とも調整しようと思います。勿論師匠にも参加してもらいますよ」
「なら離れが良いわ。パパにも負担が少ないし、あそこなら安全でしょう」
シリルは二人の言葉に頷いてから、フラッゼイをそっと撫でてやる。
「また会えて嬉しいですよ」
"我もじゃ。其方を見ると主人を思い出す。本当に仲の良かった光景が思い出されるよ"
シリルは少しだけ涙を堪えるように顔を歪めると、そっと目を閉じて微笑んだ。
「いつかまた…私に死が訪れる事があれば…彼と語り合いたいですね」