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127. 質問

ルーファスの気配が変わった事にクリストファーとハリソンが気付くと、さりげなくフランドル公爵を挟むようにして立つ。


「何なりと。クルドヴルム国王陛下」


フランドル公爵は慌てる様子もなく、ゆっくり頭を下げた。


「質問は二つ。ベネット伯爵は間違いなく臣籍降下の儀式を終えたのか?」

「滞りなく終えてございます」


フランドル公爵は顔をあげ何を考えているのか読めない笑顔を貼り付けて答える。


「ではもう一つ。()殿()()()()()()()()()()()()?」


ルーファスの質問にフランドル公爵の眉が僅かに震えた。


「……クルドヴルム国王陛下は面白い事を仰る。……知っている、いえ…その可能性を考えている、という表現が正しいでしょう」


フランドル公爵の返答に反応したのは元帥だ。

口元を押さえるようにして考え込んでいる。


「お二人共何を仰っているのかしら。真実とは何です?フランドル公爵」


祖母は元帥の様子をチラリと見つつ、フランドル公爵に尋ねた。

フランドル公爵は無言で祖母に頭を下げると、ルーファスに向けて話し始めた。


「王太子殿下とベネット伯爵を先に行かせたのは、この話を聞かせない為ですか」

「ベネット伯爵は知っている。…王太子に伝えるかどうかは貴国の判断だ」

「…息子と婚約者を此処に残したのも理由があったのですな」

「次期宰相に王配だ。彼等には知る権利がある」


フランドル公爵は顎髭を撫でると祖母に向き合う。

話を察した元帥の腕が祖母の腰を支えるように伸ばされた。


「ティターニア先王陛下。これは前宰相オスカー様より聞いた話でございます」

「オスカーが?何を言ったのです」

「あくまでも可能性と前置きした上で、オスカー様は誰一人儀式を通過出来ないのは真実の王が生まれていないのではないか。セウェルスの王色は黄金色では無いのではないか。……その色は賢者が持つ白銀色ではないかと、私に話されました」


祖母は驚愕のあまり声を失い、膝から力が抜けてよろめきそうになるのを元帥に支えられた。


「……師匠(せんせい)が?何故突然そのような事を?オスカーが何故わたくしではなく貴方に?」

「それは何とも…。始めは些細な出来事だったと申しておりました。ティターニア先王陛下が即位前に起こした奇跡。これは賢者の力が働いておりましたが、王族が持つ聖魔法に近いと。疑惑に変わったのは国王陛下の儀式が失敗した際、ティターニア先王陛下は"誰一人成功した事が無い"と仰られた時だそうです」

「…ディアーナが真実の王だと?」

「ベネット伯爵の色彩は賢者に良く似ていらっしゃると、オスカー様はその様に申しておりました」


祖母は震える手で元帥の服を掴むと、そのまま元帥を見上げた。


「ローラン、貴方はオスカーから聞いていた?師匠(せんせい)から聞いて知っていたの?」

「いや、聞いていない。聞いていないが…昔、聖剣を手にした時に聖王が得意とするのが雷魔法と聞いてから、その可能性があるとは考えていた」


「… セシリオス・ルイ・セウェルス」


聖王の名を告げたルーファスに全員の視線が集まる。

ルーファスは表情を変えないまま続けた。


「師匠…賢者シリルの名だ。彼は初代聖王であり、永遠の刻を生きる者。ディアーナはセウェルス聖王の娘。セウェルスの正統な継承者」


それにはフランドル公爵も驚いたのか目を見開く。

レスホール公爵とクリストファーにハリソンは唖然としている。


「もう一度聞こう、フランドル公爵。()()()()()は臣籍降下したのか?彼女は未だ儀式の詳細を忘れていない」


フランドル公爵はルーファスを真っ直ぐ見た後、深々と低頭した。


「間違いなく儀式は終えてございます」


断言されたルーファスはディアーナ達が去った方向をチラリと見ながら、薄く笑う。


「貴殿の言葉を信じるとすれば、ディアーナが記憶を無くさないのは継承者だからか。セウェルスとクルドヴルム双方の記憶を持つ者は初めてかも知れないな」

「?ベネット伯爵がクルドヴルムの記憶を持つとは?」

「ディアーナの両親はセウェルス国王夫妻だが、血の親は聖王だ。私は既に聖王の承認を得ている」


ルーファスの言葉にリアム以外の全員が絶句した。


「既に彼女は王妃の資格を持っている。さて、フランドル公爵。セウェルスはどうする?」

「……建国より千年。真実を受け入れられる国民がおりましょうか」


ルーファスは冷たく微笑んでから腕を組んだ。


「貴国の事に干渉するつもりは無い。だが一点において、私は待つ事が嫌いだとお伝えしておこう」


それは脅しだった。

ディアーナがルーファスに嫁ぐのに障害となったのは"王色"。ディアーナの色が真の王色だと知れば重鎮達は反対する要素が見つからないだろう。

それをせずにいたのはセウェルスを慮った事に他ならない。

セウェルスが真実を国民に明かすか、それとも秘するか、正直ルーファスには些事だ。

だかセウェルスの真実を知る者として、セウェルス国王の承認に時間を掛けるならば、ディアーナを王妃とする為の手段は選ばない。

周りに居た者全員がルーファスの言外に告げた事を理解する。


「…ルーファス様。どうしてわたくしに真実を伝えたのです。わたくしが真実を知ればディアーナを国王に据えるとは思わなかったのですか?」


祖母の質問にルーファスは表情を和らげた。


「大叔母上も大方予想していらしたのでは無いですか?その上でディアーナを私に託してくれた」


聖王がシリルだった事は驚いただろうが、かつてディアーナに儀式の真実を告げた事などから何かしら思う事はあったのだろう。

祖母は眉を下げて微笑んだ。


「セウェルスが偽王の支配する国だったとは信じたくなかった。偽王だと言って弑した兄と、わたくしは何も違わない事実から目を背けていたのかもしれない」

「それは違います。セウェルスの黄金色は聖王妃が持つ色。聖王が愛した色だ。大叔母上は間違いなく聖王の血統であり、偽王ではありません。師匠に聞けば答えてくれると思いますよ。何故セウェルスの王族が黄金色になったのかを。…正直、聞いたら殴りたくなるかもしれません」


黄金色の真実が、愛する人の色を持った子供が欲しかったから、なんて馬鹿げた理由だと知ったら祖母は呆れるのではないか。

シリルの様子を想像するとおかしくなって、ルーファスは微笑した。

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