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126. 暴走王女

「ルーはモニカの事を知っていたの?」


向かい合った席に座っているルーファスは口元を綻ばせた。


「俺はある意味で当事者だったからな。父上が亡くならなければ、俺が王色や魔力を失わなければ大叔父上に恋する事も無かったろう。大叔父上が拒絶し、おばあ様も了解した。掌を返したように諦めろと言う周囲に彼女も承知したが、その想いを簡単に諦められる訳ない。ずっとその想いを秘めたまま幻術師団長として大叔父上の側に居たんだ」

「諦めろって…モニカの気持ちを何だと思ってるのよ。諦めなくてはいけないと考えながら好きな人の側に居るって辛過ぎるわ」

「ああ。彼女が笑顔を失う位に悩んでいた。……それで彼女は笑っていたか?」


ーーようやく私自身の気持ちを、私の口から元帥閣下にお伝えする事が出来ました。


そう言って心の澱が取れたように微笑んだカルステッド幻術師団長は、とても美しかった。


「うん。モニカの笑顔はとても綺麗で美しかったわ」

「そうか。それなら良かった」


ルーファスは微笑むと紅茶に口をつけた。

その様子をジッと見つめていたディアーナも、満足気な表情でティーカップを手に取った。







◇ ◇ ◇ ◇

オルサーク公爵家の家紋をつけた馬車が猛スピードで邸内に入ってくる。


(ああ、懐かしいなこの感じ)


昔と同じように轢き殺されるのでは?というスピードで近づいて来た馬車がディアーナ達の待つギリギリの距離で急停車するーーのを待たず扉が開くと、黄金色の髪を揺らしたアナスタシアが飛び出して来た。

その様子にディアーナは苦笑し、ルーファスは死んだ魚の眼でアナスタシアを見ている。祖母に元帥、レスホール宰相親子と車内に同乗してるであろうフランドル公爵の慌てた声が響く。


「お姉様!!!」


両手でを大きく広げたアナスタシアは脇目もふらずにディアーナに飛びついてきた。

アナスタシアの勢いでよろけたディアーナをルーファスが支えてくれる。


「久しぶりねアナスタシア。元気そうで何よりだわ」

「お姉様!お会いしたかった!!お話しが終わったら一緒に帰国しましょう。お姉様と離れるのは辛いもの」


アナスタシアの頬を包んで微笑むディアーナと、久しぶりに会う姉に抱きついているアナスタシア。

そんなアナスタシアを絶対零度の視線で見下ろしたルーファス。

祖母はおやおやと困ったように微笑み、元帥とレスホール公爵はアナスタシアの勢いに若干引き気味だ。


「王太子殿下!」

「アナ!」

「アナスタシア!また何やってるんだよ!」


馬車の中からフランドル公爵とクリストファー、そしてハリソンが降りてきた。

アナスタシアはプクリと頬を膨らませると渋々ディアーナを離してから、ルーファスに向き直る。


「お久しぶりでございます。クルドヴルム国王陛下。私の大切なお姉様をお預かり頂き感謝致します」

「お久しぶりですねセウェルス王太子。彼女は私の愛する人です。預かるなどと…お返しするつもりは全くありませんよ」


二人とも笑顔だが相変わらず目が笑っていない。

バチバチとした火花が見えるようだ。

どうして二人は仲良く出来ないのか、ディアーナは頭が痛くなりこめかみを押さえた。


「ベネット伯爵」


ルーファス達と挨拶を終えたフランドル公爵の声でディアーナは我にかえる。


「お久しゅうございます。フランドル公爵閣下」


そう言って、ディアーナはカーテシーする。

フランドル公爵は目を細めると穏やかな声で「幸せそうで何よりです」と言った。


「久しぶりだなディアーナ」

「久しぶり!ディアーナ」


久しぶりに会うクリストファーとハリソンにディアーナが破顔する。


「久しぶりね!会いたかったわ!!騎士団の皆は元気にしている?」

「皆元気だ。見習い達は突然いなくなったディアンに会いたがってたよ」

「俺は質問責めにされて大変だった」


クリストファーとハリソンを見上げながら笑顔で談笑していると、腰にルーファスの腕が回された。


「聖騎士団第一部隊長と、アルトワ伯爵だったね。遠路遥々よく来てくれた」


ルーファスはディアーナを自分に引き寄せてから口角を上げて笑うと、クリストファーとハリソンは低頭した。

最近あまり触れて来なかったルーファスから触れてくれるのが嬉しくて、ルーファスの袖口をキュッと掴む。

俯きがちに頬を染めて微笑むディアーナを見たハリソンは目を見開き、クリストファーはそんなハリソンを不安気に見つめた。


「ディアーナ。ここに留まっていては誰かに見られる可能性もある。客人を離れに案内しよう」


ルーファスの提案にディアーナが頷くと、アナスタシアはプリプリと肩を怒らせてディアーナの隣に並んでからその手を取った。


「お姉様。久しぶりにお会い出来たのだから手を繋いでもいい?」

「もちろんよアナスタシア。一緒に行きましょう」


ディアーナに見えないところで勝ち誇った顔をするアナスタシアと、憎々し気にアナスタシアを見るルーファス。

そんな二人の不穏な空気に気付かないディアーナ。


「ティアの孫娘は…いやセウェルス王太子は個性的だな」

「ローラン。義理とはいえ、貴方の孫娘でもあるのよ」


朗らかに笑う元帥に、窘める祖母。


「ベネット伯爵は益々お美しくなられた。クルドヴルム国王陛下のご寵愛が深いのでしょうな」

「それはもう。ところで…」


歩きながら密談を始める両国の宰相。


「あー…あの鈍感ディアーナが気持ちに気付いたかぁ…。痛いなぁ…」

「大丈夫か?あれ以上の事を見ても耐えられるか?」

「御心配無用です。あれ以上は無いかと」


ハリソンとクリストファー。そしてリアムが後から続く。


やがて離れが見えてくると、アナスタシアの瞳がキラキラと輝いた。


「とても可愛いわ!お姉様が召喚で建てたのでしょう!楽しみだわ!!」

「ふふっ、楽しみにしていて」


二人の仲睦まじい様子を眺めていたルーファスは溜息をつくと、ディアーナの腰に回した腕を解く。


「特別だ。部屋を見てまわりたいだろう。二人で先に行っておいで」

「あら?たまには優しい事を仰るのですね」

「私の気が変わらない内に行かれた方が良いですよ」


ルーファスは口元をひくつかせながら言うと、アナスタシアは「それもそうですね!」と納得し、ディアーナを引きずるようにして離れへ向かって行った。


「…相変わらず一ミリも変わって無いのが逆にすごいな」


ルーファスは呆れ顔で二人が去った方向を見つめた後、振り返る。


「フランドル公爵。貴殿に確認したい事がある」


声を掛けられたフランドル公爵はゆっくりと顎髭を撫でた。

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