表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
131/200

122. 渇望

「…ここは?」


目を覚ましたディアーナは見慣れない天蓋に疑問符を浮かべる。

視線を彷徨わせると見知らぬ部屋に寝かされている事が分かった。

窓の外は暗く夜だという事は分かったが、自分が何処に居るのか、何故寝ているのかすぐに理解出来ない。


(両団長が跪いて…それから)


「…気を失ったんだ」


声をした方を見ると、ルーファスがベッドの端に腰掛けてディアーナを見つめていた。


「気を失った?」

「あの二人がディアーナに忠誠を誓った後すぐに。…疲労だそうだ」

「…疲労?わたくしが?」


信じられないといった顔で起き上がろうとしたディアーナの額をルーファスの手が押し留める。


「駄目だ。素直に寝てろ。完全に回復するまでベッドから動くな」


額に置いた手を撫でるようにして髪の毛を梳くと、そのままディアーナの手を取った。


「心臓が止まるかと思った…」


目の前で意識を失ったディアーナに動揺し、周囲を驚かせた事をディアーナは知らない。

騎士団が全員無事だったら事後処理は元帥達に任せていた。しかし怪我人や犠牲者が出た中でディアーナ一人の為に離れる訳にはいかない。断腸の思いで事後処理が終わるまでその場に留まり、先程帰城したばかりだ。


ルーファスはディアーナの手を離すと、ディアーナに覆い被さるようにする。

怒りにも似た赤い瞳がディアーナをジッと見つめている。


「…ごめんなさい」


両腕をルーファスの首に回して引き寄せると、そのままルーファスを抱きしめた。


模擬試合からの魔物退治。

カラドボルグを所持した事で多少回復しても、死を覚悟した魔物との戦いはディアーナ自身が想像する以上に体力を消耗していた。


(目の前で気を失ったらルーが驚かない訳無いのに)


息が掛かるくらいの距離にルーファスの顔がある。

赤の瞳が憤りと不安に揺れているのがディアーナからも良く分かった。


「心配掛けてごめんね。今度から気をつけるわ」

「その台詞、カルステッド侯爵とクラースにも言ったらしいな。あの二人から何て言われたか覚えて無いのか?」

「……ルーも同じ事を言うの?」

「……」


互いに見つめあってから、ルーファスは小さく息を吐いた。


「言っても止まらないのは知ってる。だからその時は必ず俺もついて行く。あの時も今日も…本当に怖かった…」


幼い頃は山賊に、今日また魔物に殺されそうになったディアーナを思い出しているのだろう。

苦しそうに顔を歪めたルーファスに、ディアーナは少しだけ顔を起こすとその唇に口付けた。


「約束するわ。その時はルーも一緒に居てね」


ルーファスは驚きに目を見開くと、今度は実感が湧いてきたのか顔が赤くなっていく。


「…俺がどれだけ我慢してると思って…」


ルーファスは呟いてから大きく溜息をつくと、ディアーナの絡まる腕から逃れようと身体を起こす動作をする。


ディアーナが自分の気持ちを告げてからルーファスはディアーナに触れる機会が少なくなった。以前は四六時中隙をみてはディアーナに触れてきた最近のルーファスが何故かよそよそしい。


「…側にいて」


ディアーナはルーファスを真っ直ぐ見つめながら願うと、ルーファスはビクリと震えて固まる。

それから色々な感情が溢れた瞳を彷徨わせると苦し気に眉を顰めた。


「側に居るから…離して」

「っごめんね、嫌だよね」


ディアーナは慌ててルーファスを解放する。

やはり今迄のルーファスではない。いつも触れ合える距離に居たのに急に離れてしまったような、少しだけ心が沈むのをのを感じた。

ルーファスは起き上がると真っ赤な顔を覆う。


「違うんだ。俺はいつだってディアーナに触れていたい。だがディアーナがクルドヴルムの王族として承認されてから我慢がきかないんだ」

「我慢?」


ルーファスは自らの熱を吐き出すような長い息をはくと、両手をおろしてから横になっているディアーナに視線だけ送る。


「…ディアーナの全部が欲しくて仕方ない。あれ以上触れると我慢出来なくなる」


ルーファスの言葉の意味を理解したディアーナの顔が羞恥で耳まで真っ赤に染まった。


ーー俺に彼女が居たら色んな事したいよ。瑠衣果はそいつと出来る?


唐突に双子の兄、琉偉の言葉が蘇る。


(あの時は琉偉が言ってる事が分からなかったけど…)


「…いいのに」


林檎のような顔をしながらポツリと呟いた。

ルーファスは目を見開いてディアーナを凝視する。

ディアーナの言葉が理解出来ない。理解出来ているが、現実味が湧かないのか絶句している。


「ルーならいいのに」


今、琉偉に同じ事を聞かれたら「もちろん」と答えただろう。

双子の片割れに、心配ばかりしていた兄達に心から愛する人が出来た事を報告したいと、ディアーナは懐かしい家族を想って目を細めた。


「っつ……!!!」


ルーファスは信じられないと片手で自らの口を塞いだ。動揺のあまり膝の上に置いた手が力いっぱい握り締められている事に気づいていない。


「…正式に迎えるまでは絶対に駄目だ。一度ディアーナの全部を知ってしまったらもう抑えが効かない。俺達はまだ婚約もしていないっ、妻に迎えるまではディアーナの為にも絶対駄目だっ!」


最後は自分に言い聞かせるようにルーファスは唇を噛む。

ルーファスの想いを知ったディアーナは瞬くとゆるゆると微笑んだ。

欲よりもディアーナの名誉を取るとルーファスは言った。

当人達の気持ちは良くても、いまの立場では何かあった際にディアーナの醜聞となる可能性がある。

ディアーナが公に認められるまで節度ある付き合いをしようとルーファスは決めていた。


「分かった。でもルーがわたくしを想ってくれているように、わたくしもルーを愛しているわ。貴方が苦しむくらいなら名誉なんて簡単に捨ててしまえる事を覚えておいてね」

「だからそうやって煽るな。いいか、今だけだ。妻に迎えた暁には嫌だと泣いて嫌がっても離さないからな」


泣いて嫌がる事をルーファスがするわけが無いとディアーナは確信している。

それでも苦し紛れに言うルーファスが可愛くて、愛おしくて、沈んだディアーナの感情が一気に温まるのを感じた。


「うん。正式にルーの妻になったら、その時はわたくしを離さないでね」


ディアーナの鈍感力かつ破壊力抜群の言葉は、ルーファスの葛藤を更に深めるのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ