12. ディアーナは告げる
私ディアーナ、10歳。違う、中身は18歳。
そう、身体は子供。中身は普通の女子大生だ。
超絶美麗イケメンの腕の中でお姫様抱っこされてる状況に、平静でいられる人が居れば教えて欲しい。
家族を見てたからイケメン耐性はある方だけど、これは度を超えてる。
固まっているディアーナをニコニコ見ているシリル。
それを見ていた祖母であるティターニアは困ったように溜息をついた。
「師匠、彼女はディアーナ。セウェルス第一王女です」
祖母がディアーナを紹介した。
「やあディアーナ。私は賢者シリル。賢者の弟子になりたいのはディアーナかな?」
「お、お会い出来て光栄です。ディアーナ・ヴェド・セウェルスと申します」
最初つかえたが、後はスラスラ名前が出てきた。
教育の賜物だと、ディアーナは恨み辛みが残る教師達を少し見直してやった。
シリルはディアーナの瞳をじっと見た後、不思議そうに首を傾げた。
「少し不思議な感じがする子だね。同じだけど違うような…」
瑠衣果の存在に気付いたのだろうかとディアーナは瞠目する。
シリルはディアーナの瞳を見つめたまま「ふたりにしてくれませんか?」と祖母に向けて依頼した。
依頼された祖母は仕方なさそうに肩を竦めると、護衛や侍女達と一緒に退室していった。
そして部屋に残ったのはシリルと、シリルにお姫様抱っこされたままのディアーナのみ。
シリルは少し名残惜しそうにディアーナを床へ下ろすと、手を引きながらディアーナを窓の近くへ誘導する。
丁度太陽が真上にあるため、窓の外からは眩しいくらいの陽が部屋に差し込んでいた。
「いい天気だ」とシリルは独り言のように呟いた。
「私はね、ディアーナ。弟子をとる時に必ず聞く事があります。『弟子入りの儀式』とも呼ばれているようですが、私にも責任がありますからね。通過儀礼のようなものだと思って下さい」
これは賢者シリルの弟子入りイベントで聞いた台詞だ。
ディアーナはゴクリと唾を飲み込むと、シリルの言葉を待つ。
シリルはディアーナから手を離すと、ディアーナを見下ろしながら今度は感情をのせない静かな声で尋ねた。
「賢者シリルを求める目的は?」
「死にたくないからです!」
間髪入れずに力強く答えるディアーナ。
力を入れすぎたのか両手は握り拳が作られている。
シリルは僅かに目を見開くと「死にたくない?」とディアーナの言葉を繰り返した。
瑠衣果の記憶がある事も、全部伝えた方が良いのかもしれない。
何しろゲームの選択肢は黒歴史も全部正直に伝えるだったから。
ディアーナは決意するとシリルに向かって一歩足を踏み出した。
先程までの超絶美麗イケメンパニックは治り、今は落ち着いている。イケメンより死にたくないという気持ちが勝ったらしい。
だからディアーナはシリルを真っ直ぐ見つめ、口を開いた。
「賢者シリル様。わたくしには前世の記憶があるのです」