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118. 予感

ごっそりと魔力が抜け落ちる感覚に襲われてディアーナは膝をついた。

身体を支えきれずに両手を地面についてからゼイゼイと荒い息を吐く。


「ディアーナ様!」


駆け寄ってきたクラースがディアーナの身体を支えてくれた。


「クラース様はご無事ですか?怪我などなさってませんか?」


フラフラの身体を支えられながら立ち上がったディアーナはクラースに笑い掛ける。

クラースは唇を噛むと「失礼致します」と言ってディアーナを抱き上げた。


「私の心配よりもご自分を心配して下さい!」


クラースの叱責にディアーナは苦笑した。

ひとりで立ち上がれない程に疲弊しているディアーナを心底心配してくれる気持ちが嬉しい。


「ふふっ、そうですね。今度から気を付けます」

「気を付けます、ではなく"致しません"です。…本当に無理をなさる」


クラースに抱かれたままサクルフの森を出ると、カルステッド幻術師団長が駆け寄ってきた。

一緒にいた通信用の精霊から状況を確認したのだろう。


「貴女は敵を消滅し、我々に奇跡の力を示された」


カルステッド幻術師団長の声は穏やかだ。

クラースの腕に抱かれたディアーナは小さく微笑む。


「良かった。皆無事に王都へ戻れそうですね」

「……貴女に何かあれば悲しむ者が多くおります」

「クラース様にも叱られました。まさかこんなに魔力が必要だとは思わなくて…次から気をつけます」


まだ気をつけるだけかとクラースは眉を顰め、カルステッド幻術師団長は途端に無表情になる。


「気をつけるだけでは変わりません。絶対になさらないで下さい」


ピシャリとカルステッド幻術師団長は指摘した。

ディアーナはキョトンとしてからゆるゆると表情を和らげるとクラースとカルステッド幻術師団長を交互に見てから満面の笑みを浮かべた。


「分かりました。そうならないよう努力します」


クラースとカルステッド幻術師団長は、全く分かっていないと眉間の皺を深め、二人からの無言の圧にディアーナは肩をすくめる。


「ごめんなさい。もうしませ…」


全身が粟立つような感覚に襲われたディアーナは言い終わる前に口を閉じた。


サクルフの森や周囲を見渡すが、特におかしな点は無い。

それでも何かがおかしいとディアーナはクラースの腕を借りながら立ち上がり目を閉じるが、疲労のせいで周囲の気配を上手く捉える事が出来ない。


心臓が激しいくらいに脈打ち、寒気もする。

自分を抱きしめるようにしたディアーナをクラースが心配そうな表情で覗き込んだ。


「ディアーナ様?」

「何か嫌な予感がするのです。クラース様は感じませんか?」

「特に何も…。核も消えましたし、見たところ何か起こっている訳では無さそうです。きっとお疲れなのでしょう」


先程の戦いで神経が過敏になっているのだろうか。

それでも震えが止まらないのは、体調を崩したのかもしれない。


「…いえ、ベネット伯爵の仰る通りです。精霊達の様子がおかしい」


カルステッド幻術師団長は固い声で呟いた。

通信用の精霊を何体か飛ばしているのか、その精霊からの情報に違和感を覚えているようだ。


「元帥閣下に報告を致します。ベネット伯爵もお疲れでしょうから、まずは閣下の元へ戻りましょう」


ディアーナは頷くと、まだふらつく身体を奮い起こして元帥の元へ急ぐ。

ザワザワとした異物が頭の中を這い回るようだ。











◇ ◇ ◇ ◇


「魔物…?」


アナスタシアは耳慣れない言葉に眉を顰めた。

突然現れた賢者の執事を名乗る精霊が静かにアナスタシアを見つめている。


「魔物は古の戦いで滅亡したと聞いています。その魔物が現れた事を報告するなら父が適任でしょう。それを何故私に?」

「ディアーナ様の信頼する王太子殿下に報告するよう主人より命を受けております」


執事精霊ノアは淡々とした口調で続けた。


「クルドヴルムにも魔物が現れました。セウェルスにも同じ時刻に現れております。クルドヴルムはディアーナ様が、セウェルスは主人が対処しましたが、また現れる可能性が高いと主人は申しております」


ディアーナの名が出た事でアナスタシアはノアに掴みかかるように前のめりになる。


「お姉様は?お姉様はご無事なの?!」

「大分疲弊されたようですがディアーナ様はご無事でございます」


アナスタシアはホッと息を吐いて、近くにあった長椅子に腰掛けた。


「……ノア、と言ったかしら。貴女の御主人に感謝を。……そして受け取ったとお伝え頂ける?」


アナスタシアの言葉にノアは深々と低頭する。

「承知いたしました」と告げたノアは姿を消した。


「……お姉様……。クルドヴルムで無茶していないかしら…」


ディアーナが信頼している賢者が言うことだから間違いは無いだろう。

魔物なんて本でしか読んだ事が無く、現れたといっても実感が湧かない。

それよりも姉が無茶をしていないか、クルドヴルムで幸せにやっているか、そちらの方がアナスタシアには気になってしまう。


「…聖騎士団をサクルフの森近くに配備しないと…。まずはフランドル公爵とネヴァン騎士団長に報告を…」


アナスタシアの頭から国王への報告が抜けていた。

父親ではあるが恐らく今回の事態には対処出来ない。ならば自分が動いた方が早いと、アナスタシアは側に控える侍女に指示を出した。


「場合によってはクルドヴルムとも協力する必要があるかもしれないわ。…あの人に会うのは嫌だけど、お姉様にも会えるかもしれないから…うん、我慢しましょう」


アナスタシアは独り言のように言ってから長椅子に置いてあるクッションを手に取り、ポカポカと叩き始めた。

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