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109. 野外授業2

「元帥閣下よりベネット伯爵をお護りするよう指示されましたので、本日明日は私が護衛致します」


カルステッド幻術師団長は淡々とディアーナ達に告げる。

結構ですとは言えない雰囲気に、ディアーナは笑顔を張り付けた。

ルーファスだけでなく本当の孫娘のように愛情を注いでくれる元帥が居たと、ここでようやく隊長クラスだけでなく団長自ら護衛につく理由に気付く。


「カルステッド師団長。一生徒に団長自ら護衛につく理由が判りかねます」


カルステッド侯爵に問うフレディの声は困惑の色を隠せていない。


そう。元帥も団長自ら護れとは言っていない。

その証拠に騎士団からは隊長のクラースだけが護衛についたのだ。


「幻術師団の人員は然程多くございません。今年は参加者が多い。限りある人員で最大限効果を得る為には私が護衛するのが一番です」


カルステッド幻術師団長は事務的に言うと、ディアーナ達から見えない位置に立っていた女子生徒に声を掛けた。

女子生徒の姿を確認し、フレディとディアーナは顔を見合わせる。

ディアーナは視線だけで「知っていたの?」と確認するが、フレディの顔が引きつる様子から知らなかったようだ。


「幻術科のサンドラ・ヴァリアンです。よろしくお願いします」


そう言ったサンドラから殺気混じりの視線が注がれた。


各役割は3年生と2年生で数名の構成で1チームとなる。

学園に身分差は無いのにこれは明らかに身分を意識したものであり、尚且つ波乱しか感じられない組み合わせだ。

先が思いやられると、ディアーナは笑顔のまま目だけをそっと伏せた。






見廻りといっても、クルドヴルム王都とシリルの住むサクルフの森に程近い場所なので安全でやる事も無い。

本当であればフレディやクラースと楽しく会話しながら見廻り出来た筈なのに、カルステッド幻術師団長とサンドラが居るため終始無言の時間が流れている。


無言で歩いていたが、カルステッド幻術師団長がサクルフの森を見つめて動かなくなったため一行は足を止めた。

クラースが「カルステッド師団長?」と声を掛けてもカルステッド幻術師団長の耳には入っていないようで答えは無かった。

感情が抜け落ちたような表情でサクルフの森を見つめているカルステッド幻術師団長に、何と声を掛けて良いか分からずディアーナとフレディは顔を見合わせる。


「ベネット伯爵。貴女は賢者の弟子だと伺いました」


ディアーナが賢者の弟子だと知らなかったフレディとサンドラは弾かれたようにディアーナを見た。

二人の視線を感じながらも、笑顔のまま肯定したディアーナにカルステッド幻術師団長の言葉が続く。


「貴女はどうやって賢者の弟子になれたのですか?」


カルステッド幻術師団長が何を聞きたいのかディアーナは分からず、対外的な微笑みを浮かべる。


「賢者シリルは目的を尋ねられます。わたくしは正直に答えただけです」


カルステッド幻術師団長の顔がサクルフの森からディアーナに向けられた。

だが感情が抜け落ちたような表情は変わらず、その瞳にも色が無い。


「……正直に。…そうですか…」


それだけ言うと、また歩き始めた。


(かえって気になるんですけど)


ディアーナはそう思いながらも微笑みを浮かべたまま後に続く。

隣に並んだフレディは「規格外なのが理解出来た」と、納得したように頷いた。


ディアーナは苦笑してから前を歩くカルステッド幻術師団長を見つめる。

ルーファスが言った"気持ちに寄り添え"が、先程の質問にあるとすれば、彼女は何を考えているのか。

そもそも寄り添う事なんて出来るのか。

いくら考えても答えは見つからず、ディアーナは迷いを振り切るように頭を振った。


「陛下とは賢者の元で出会いましたの?」


歩調を早めてディアーナの隣に立ったサンドラからの質問にディアーナは微笑みながら頷く。

カルステッド幻術師団長の事で頭がいっぱいのディアーナに、サンドラの事まで考える余裕は正直無い。


「色無しのディアーナ先輩がどうやって陛下を籠絡したのか気になっていましたが、陛下は幼い頃に出会った先輩を哀れに思っていらっしゃったのね」


ディアーナは一瞬何を言っているのか分からず何度か瞬いた。

ルーファスから魔力と王色が無くなった事をサンドラは知らないのか。アナスタシアと同い年なのだから、公爵家であれば知っているものだと思っていた。

だがサンドラの表情を見る限り知っていたように見えない。


「わたくし分別はありますの。わたくしが王妃になったとしても側室としてなら認めてあげますわ」


呆気にとられるディアーナの横で大きな溜息が聞こえた。

溜息の主、フレディは頭を押さえながらサンドラを視線だけで威圧する。


「ヴァリアン君。今の発言は許容出来るものではない。執行部会長としても、クルドヴルム公爵家としてもだ」

「??フレディ様はおかしな事を仰るのね。公爵家の一員だからこそ色無しを受け入れる事は出来ませんのに」

「君は実力ではなく色だけで判断するのか?それこそおかしな話だ。それに王妃候補筆頭は君では無い」

「それはっ…。ですがきっとクロエ様は辞退されます。そうしたら次はわたくしです」


サンドラは自分が正しいと信じて疑わない。

清々しい程に色無しに対する差別が明確だ。

フレディもそれを感じているのか、何を言っても無駄だと眉を顰めている。

今ディアーナが何を言っても彼女の気持ちを変えるのには時間が掛かるだろう。

言わせておくべきか、それとも反論すべきか。

反論する場合は確実に精神が消耗する。だが言わせたままなのも性に合わない。

初日の数時間で離れに帰りたくなったディアーナは、一瞬目を閉じてからサンドラの顔を見つめた。


「ヴァリアン公爵令嬢」


口を開きかけたディアーナを遮ったのはカルステッド幻術師団長だ。


「その方は義理とはいえ元帥閣下の孫にあたる方。そして陛下が唯一ご寵愛されるセウェルスの姫君です。立場を弁えなさい」


まさかカルステッド幻術師団長からディアーナを擁護する言葉が出てくるとは思わなかった。

サンドラも想定外の相手から指摘された事で、羞恥に顔を赤らめている。


「我が国の者がご無礼を致しました」


そう言って低頭したカルステッド幻術師団長をディアーナは黙って見つめた。




(……ああこの人は……)



ディアーナの事を認めていないのだと、理解した。


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