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105. 誓約の儀式

(思い出した!思い出した!!ラスボス戦でルーファスはドラゴンに変化したんじゃない。瀕死のルーファスは最後の願いを叫び、その身をドラゴンに()()()()()()!!)


ドラゴンに喰われるのはあまりにグロテスクなので、ドラゴンに変化したような映像にしたのだろう。

クルドヴルムの継承者を決める"誓約の儀式"の黒竜。

それがゲームで最後に戦うドラゴンだった。





「ディアーナがクルドヴルムの王族として認められた?」


ルーファスは青い顔をして唖然としながら呟いた。

ディアーナは状況が理解出来ず、ニコニコしながら見守るシリルに助けを求める。


「ルーが"王妃にする"と言って、私が"承諾"しました」


先程の会話でクルドヴルム国王が王妃に望み、()が承諾した事で、ディアーナはクルドヴルムの王族に連なる事になったと言っているのだ。

クルドヴルムの重鎮にも生みの親であるセウェルス国王にも承認されていないのに、こんな簡単な仕組みで良いのかとディアーナは目を白黒させる。


「ふふっ、不思議ですか?ルイカの世界も親の承諾が必要なのでしょう?昔お話してくれましたね」


ディアーナは言い返す気力も無くなり、まだ青い顔をしたルーファスの背をさすった。


「ルー?大丈夫??」

「…ディアーナ、竜の姿は見えた?」

「うん。…ゲームで最後に戦う相手だった」

「…ああ…昔俺に変身するか聞いたあれか。…黒竜はラグナと言う。ラグナも師匠と同じこの世界に囚われた存在だ」


青い顔のままディアーナに教えた後、ルーファスはシリルを見つめた。


「師匠。…クルドヴルムはラグナが居ないと駄目ですか?」

「駄目かと言われれば、駄目では無いでしょう。現にセウェルスの儀式も形ばかりのものです。ですがクルドヴルムの場合はラグナに庇護されている部分が強い。クルドヴルムは竜騎士団を無くすかもしれませんよ」


シリルの答えに身体を強張らせたルーファスは、溜息をつく。


「ラグナは竜の王だ。王なのに永い時をクルドヴルムに縛られています。俺は解放すべきだと思う。だが竜の召喚が出来ない可能性があるならば…」

「縛られているのは国王も同じです。あれはラグナと妹が望んだ事。二人の子供達を見守っているのです」


ディアーナは首を傾げた。

ラグナはクルドヴルム国王を護る為にこの世界に残っているのか。二人の子供達とは一体何の事だろう。


「竜は不思議な生き物でね。高位になればその姿を変える事が出来ます。妹とラグナは夫婦でした」

「「………え?」」


ルーファスとディアーナが同時に言ったのを見て、穏やかに笑う。


「ルーだってその血を強く引いてますよ。ローランも含めクルドヴルムの王族は皆そう…。愛する人への想いが人一倍強いのは竜の性です。あぁ、王家の血は他の家門にも繋がっているのに、色濃く出るのは直系だけですね」


ディアーナは絶句した。

クルドヴルムに愛妻家が多いのは知っていたが、それが竜の影響だとは思いもよらなかった。


「他に質問がありますか?もう深夜です。二人とも明日が大変でしょう」

「…最後にもし分かるなら教えて下さい。ディアーナはまだ王族ですか?」

「先程お伝えした通り、ディアーナがセウェルスの継承者です。継承者故に儀式の記憶は失いません。臣籍降下の儀式は…分かりません」

「分からない?師匠が??」

「前例が無いものは分かりません。ディアーナは継承者と知らなかったのでそれを放棄していない。その状態で儀式を行ってもどちらが優先されるのか分かりません」


分からないのであれば、フランドル公爵の策略か判断がつかない。ディアーナ自身はフランドル公爵がそのような事をするとは信じたくなかった。

ルーファスは白黒ハッキリしない以上、フランドル公爵の真意を探る必要があると考えているのだろう。

今、シリルから明確な答えが得られない以上、悩んでも仕方ないと頭を振る。

そしてもうひとつ気になる事をディアーナは口にした。


「…パパ、私からもいい?禁忌って痛いのでしょう。それって何なの?」


シリルは瞬きをすると「しまったな…」と呟く。

ディアーナはシリルから視線を外さずジッと見つめていると、シリルは観念したように手をあげた。


「…驚かないで下さいね。パパはディアーナに気持ち悪いなんて言われたら生きていけませんからね」


ブツブツ言いながら立ち上がったシリルは、その場で服のボタンを外しはじめた。そして長いローブのような服を脱ぐと、シリルの上半身が(あらわ)になる。


「パパ…。それって…」


シリルの引き締まった上半身を覆うように真っ黒な、返り血にも見える痕が刻まれている。


「これが魔王の返り血であり呪いです。魔王の血は毒ですから痛みがある。禁忌を犯すとその痛みが増す。それだけです」


簡単に言ってのけるシリルにディアーナは絶句した。


「…なんで…王城に行く事が禁忌なの?」

「セウェルスは今も私が王だから、クルドヴルムはラグナが私を知っているから…と、まあ簡単な理由みたいです。私が正統な王だと知れるのは神にとっても望ましい事では無いのでしょうね」


ディアーナは無言で立ち上がると勢いよくシリルの側にまわり込み、シリルに抱きついた。


「痛みってどの位?いつも痛いの?それなのにいつも来てくれたの?何でっ!!」


ポロポロと泣き出したディアーナの顔を包み込んだシリルは優しく微笑んだ。


「不老不死の私にとって痛みは私が人である証。禁忌を犯した痛みは、それ以上に犯す価値があるものです。私にとって貴女に会える事、貴女の笑顔を見る事は、その痛み以上の価値がある。弟子達の事もそう。ですから気にする必要はありません」

「ふざけるな!!気にするななんてっ…尊敬する師匠に無理をさせていたんだっ!気にしない方がおかしい!!!」


眉を下げてディアーナに語りかけるシリルにルーファスは激昂した。

シリルはキョトンとしてから、目を細めて笑った。


「ああ、どうしよう。嬉しくて泣きそうです」


それ以上言葉にならないのだろう。シリルは無言でディアーナの頬を撫でるようになぞった。


「…パパ。産みの親は居るけど、ここまで沢山の愛情を注いで育ててくれたのはパパよ。()()()()()のお父様はパパだけ。大好きよ!わたくしのお父様」


ディアーナの泣いている頬に、ポタリと水滴が落ちた。

続いてパタパタと水滴がディアーナの頬を打ち始める。


「…ルーもディアーナも嬉しい事ばかり言って…本当に困った子供達です」


シリルの紫色が潤み、その目から涙が溢れている。


「ったく!もっと早く言ってれば良かったんだ!」


まだ憤っているルーファスに苦笑したディアーナは、シリルを強く抱きしめた。

シリルは不老不死でいつも遺される側。

遺す側が出来る事はひとつだけ。




「いつかわたくし達がパパを遺していく事になっても…わたくしとルーの子供達が、またその子供達が、ずっとパパと一緒に居るわ」


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