10. ディアーナは助力を乞う
ディアーナの口から全てを聞いたティターニアは激怒した。
側近達に向かってあれこれ言いつけているのを、ディアーナは呆気に取られて見つめていた。
「ティターニア様は国王が施行した法を、同じ国王が侵した事に怒っていらっしゃるのです」
祖母の侍女であるサラがディアーナに説明してくれた。
テキパキと指示を出す姿は譲位したとは思えない立派なものだ。
おばあ様の在位中なら、私も拐われなくて済むんじゃない?
あの国王には不安しかないけど、おばあ様なら万事解決出来そうな気がする。
まだお父さん位の年齢なんじゃないかな。
とても若く見えるし、本当に綺麗。
今のところ死亡確定だけど、もし生き延びる事が出来たら、おばあ様のように綺麗に歳を取りたいとディアーナはぼんやり考える。
「おばあ様は何故譲位されたのでしょう。まだ充分お若くて、威厳もおありなのに…」
侍女のサラなら知っているかと、ディアーナは率直に聞いてみた。
祖母が譲位した時ディアーナはまだ2歳だったが、側近達に引き留められ大変だったと聞いた。
引き留められたのに譲位した理由はなんだろう。
「私にもティターニア様の御心の内までは分かり兼ねる所もありますが『やり切った』と思われたからではないでしょうか」
「やり切った?」
「はい。ティターニア様は若くして即位され、ご自身の全てをセウェルスに捧げました。クルドヴルムと和平を結ぶだけでなく、国を豊かにする為に様々な改革に乗り出しました。その全てがひと段落し、残りの人生を穏やかに過ごされたいと…願われたのかも知れません」
「私の勝手な想像です」と、サラは口元に人差し指を当ててウインクした。
その様子にディアーナは笑ってしまった。
「ごめんなさいね、ディアーナ」
指示を出し終えた祖母がいそいそと戻ってきた。
その様子はセウェルス国民が憧れる貴婦人のそれではなく、どちらかと言えば瑠衣果の母に似ているとディアーナは思った。
祖母はディアーナの対面にある長椅子にゆっくりと腰掛けると、サラの耳元で何かを指示しているようだった。
サラは頷くと、ディアーナに礼をしてから部屋から退室した。
「ディアーナ、詠唱については何も学んでいないの?」
「城の図書館でおばあ様が改革する前と後の本は読みましたが、仕組みまでは良く分からなくて…」
教えて貰えないなら自分で学べば良いと図書館で関連資料を読み漁ったが、それは全て誰かに習うのが前提の内容であり、言葉が羅列しているだけにしか見えなかった。
祖母は少し考える仕草をしてからディアーナを真っ直ぐ見つめる。
「ディアーナ、貴女に目的はある?」
「目的?」
目的なら大いにある。
死にたくない、だから強くなりたい。
ディアーナは大きく頷いた。
「でしたら賢者シリルへ弟子入り出来ないか尋ねてみましょう」
ディアーナがここに来た目的。
賢者シリルを紹介して欲しいと祖母に助力を願う為だった。