私たち地球に降り立ちます
龍、それは絶対者の象徴。
銀河系の最奥、超新星エネルギー通称"世界核"が内包されている場所に二頭の龍がいた。
一頭はありとあらゆる物を想像し創造する。それは海や山、大陸などの物質だけに留まらず、非現象化されている事象や概念をも創り出す。その様はまさに"創造"と言ってもいいほどの理不尽である。
もう一頭はありとあらゆる物を破壊し破滅させる。それは純粋までに研ぎ澄まされた破壊エネルギーを内包しており、もしそれを相手に放ったとなればたちまち肉体や、それを構成する元素などは消滅し、魂やそれの最奥にある相手の存在ごと消してしまうだろう。
そんな性質や概念などが正反対な龍同士は闘い合うのかと思いきや、そんなものは関係ないというように、お互いに助け合いながら生活していた。それはひとえに彼女達がこの世界人気で本当に信頼しあえる実の姉妹同士だからできたことであろう。
そんなある日のことである。破壊と破滅を司る龍"バハムート"は散歩気分で銀河を遊覧していた。その時である彼女の目にある物が映り込んだ。
それは一つの惑星であった。澄んだ青と浮かぶ白、そして大きな大陸と小さな島々が所々に散らばっている星。それを見た彼女はその星の余りの綺麗さに感動して、思わず声を上げるほど見惚れていた。それは彼女からしたら数分という時間だったのだが、太陽暦に換算すると悠に数百年という時間が立っていた。
ハッとしたバハムートは実の姉にこの光景を見せたいがために散歩を止め、何光年とかかる家までの距離を一瞬と言える程の速度で駆け抜けていった。
想像と創造を司る龍"エルニア"は憂鬱であった。それはもう何もやる気が起きないほど憂鬱であった。では何故それほどまで憂鬱なのかというと、先程のことである。エルニアの実の妹バハムートが、散歩の途中で見つけた星に展開されていた隠蔽結界をブチ壊したのである。それも意図的ではなく自然にである。当然だがこれを展開していた者達には気づかれている。まあ、それだけならマシだったのである。隠蔽結界をまたエルニアが展開させればいいのだから。だが、今回はそうも行かない。いや、行けるのだがその後処理がめんどくさいのである。というわけでエルニアは凄く憂鬱なのである。
そんな時であるバハムートがエルニアの胸目掛けて飛んできたのである。エルニアは妹をそっと抱き寄せながら壊れ物を扱うように頭を撫でる。それに対してバハムートは姉のナデナデに頬をプクッとさせながらも、エルニアの服をぎゅっと掴んで姉の胸元に顔を擦り寄せる。エルニアは、そんな甘え下手な妹を愛おしく思いながら、これから起こる厄介事に内心で溜息をつくのであった。
〜
大きな円卓に二頭の龍と複数の人影が鎮座していた。龍は当然ながら、エルニアと、バハムートである。ならば人影の方は何か?と問われればこう答えるだろう。『神』と。そうして今、神々の会議が始まる。まず始めに議論に出されたことは、バハムートが壊した隠蔽結界に付いてである。当然だが、直せば終わりと言うものでも無い。それならそもそも会議等開かない。直した後の落とし前が必要などである。エルニアが座っている椅子の正面に座っている人影が喋る。
「やあ、エルニア。今回何で来てもらったのかは分かるよね?」
決して大きな声で話しているわけではないのにそこにいる全員に彼の声が聞こえた。それは何処か疲れているような諦感しているような声だった。そんな声にエルニアが返答する。
「あら?何処かお疲れの様だけどどうしたのかしら?まるで何処かのバカたちを説得したような時みたいよ?」
そんな声に所々から笑う声が聞こえてくる。その声にエルニアと話していた人影が目を向けると全員目をプイっと逸らす。それに人影は少し青筋を立てるが、咳払いをしてエルニアに再度話しかける。
「君たちは、前回の会議でもう一回同じ事を繰り返したら、地球で暮らしてもらうと僕たちと契約を結んだよね?そして君たちはまた破った。まあ今回のはしょうがないとは思うが契約は契約だ。君たち二人には地球で生活してもらうよ?いいね?」
そういう人影にエルニアはイタズラを思い付いた子供みたいな顔をすると、こういった。
「もし嫌だというと?」
その声に他の神々が揃って、エルニア達に自らの矛を向ける。それは決して覚悟無くして向けてはいけないものである。そうして人影は言葉を発する。
「その時は、僕らの命を持って君たちを封印する。いくら、君たちが世界の特異点でも、僕ら全員の魂を使えば僕らの魂が消滅するまでは動けないでしょ?」
その言葉に、エルニアは機嫌を良くするとうんうんと何かを考えながらバハムートに顔を向ける。
「ねぇ、バハムート?貴女は地球…この前見た星で暮らしてみたい?」
バハムートは、つまらない会議だったのか、姉の膝下でこっくりとしながらも姉の声は聞こえたのか、目をぐしぐしと手でぬぐいエルニアに向けて眠気を抑えながらも笑顔を浮かべ
「あぃ。」
と返事をする。その瞬間会議の隅々で何かに射貫かれる音が鳴り響いた。それは、ここにいる殆どの神がバハムートの笑顔に心臓を射抜かれた瞬間であった。エルニアも例に違わすその一人であり、バハムートをぎゅっと抱きしめる。そして、人影向かって言う。
「良かったわね。バハムートが住みたいって言ってくれて。もし嫌って言われたら貴方達が消滅してたわよ?」
そういうやいなや、エルニアはバハムートを抱きかかえて、会議を出ていく。それに続き人影は苦笑しながら、複数の神々と神界へと戻る。あとに残ったのは、バハムートの笑顔に心臓を射抜かれて悶ている神々だけであった。
〜
会議から数日が経ち、エルニア達の地球への引っ越しが完了した今日、エルニアとバハムートは地球の真上にいた。
「バハムート、準備はできたかしら?」
「うん!お姉ちゃん!」
そう満面の笑顔で答えるバハムートにエルニアは優しい目を向ける。
「そう、それとね地球では私たちの名前は地球では少し変だから地球にいる間は名前を変えましょう?」
バハムートは最初は何故そんなことをするのか分からなかったが、すぐ理解して分かったと返す。
「それじゃあ私の名前から。私の名前はヒイラギ、ヒイラギ・B・エルニア。バハムート、貴女の名前は?」
そうエルニアが、いやヒイラギがバハムートに声をかけると、バハムートも自分の番と理解したのか自分の新たな名前を言う。
「私の名前はアマネ!、アマネ・B・エルニア!」
新しい名前を嬉しそうに言うアマネにヒイラギは優しげな声で話す。
「アマネ?もう一度確認するよ?これから暮らすところでは嫌な事も沢山あると思うけど、それでもあそこで暮らしたい?」
そんなヒイラギの声にアマネは元気な、それでも確かな覚悟を持った声で返事をする。その声にヒイラギはうんうんと頷くと、アマネの手を引き地球への道を降下する。
この日、二頭の龍は地球へと降り立った。後にこの日を始まりの日として、地球全土で祝われる日となったのであった。