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告白  作者: 金魚
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告白A

久しぶりに投稿します。誤字脱字ありましたら教えてください。

会社の飲み会で酔っ払った上司がよく「人生の3つの坂道」の話をした。結婚式のスピーチでよくある「3つの~」である。


「人生には3つの坂道がある。一つは上り坂、つまり何をやってもうまくいく時。一つは下り坂、不調に陥って何をやっても思い通りにならない時。そして最後の坂は…「まさか」の坂だ!思いもよらない事が起きる。上り坂、下り坂は運にもよるが、「まさか」だけはピンチにもチャンスにも変えられる。「まさか」が来たときは……」

こちらも酔っているのでうろ覚えである。それに、平凡で平坦な人生を好んで歩んできた僕には「まさか」なんて坂が来るとは思ってもみなかった。


しかし、いま実際に僕の前には第3の坂、「まさか」が立ちふさがっている。


会社のデスク。珍しくひとりで残業している中。同じ職場の同僚の “男” に告白されるという形で…。


まず自己紹介をしよう。「まさか」の時は、状況の整理が大事だと。確かくだんの上司も言っていた気がする。


僕は、仲島なかじま 裕樹ひろき 30歳 独身 会社員。


同じ名前の人には申し訳ないが、平凡を地で行く名前だと思っている。ひろきをゆうきと間違われる事くらいしか話題の無い名前だ。名前だけではない、顔も平凡である。いわゆる醤油顔というには醤油に失礼な薄口な醤油顔である。もし、指名手配をされた場合、全国から何百件と連絡が来るような、いや、むしろ特徴がなくて捜査には困難を極めるような顔立ちである。

性格も地味中の地味で、趣味はアリの巣観察。一度、付き合った女の子にその話をしたら、「狂気を感じる」と言われてからは誰にも言ってはいない。

僕は僕の知る限り僕でしかないはずなので、良い所をあげるとすれば “健康” と “そこそこの収入がある” 位である。どちらも保険会社の方に言わせればプラスのポイントらしいが、モテるポイントとしてはあまり有効ではないことを知っている。

まして、同じ会社に勤める同期である彼にとってはまったくセールスポイントにはならないだろう。


では、彼の話をしよう。


今現在、僕の目の前で真剣な表情で告白というものをしてきた彼である。

あろうことかこの僕に、「好きだ。付き合ってくれ」と言ってきた彼である。


「付き合ってくれ」だけだったら「どこに」という定番のボケをかますこともできたのに。

先に「好きです」をつけられてしまったら言い逃れ?することもできない。


彼の名前は、たちばな 宗一郎そういちろう 30歳 独身 会社員。


同じ会社の同期であり、営業課一のさわやかボーイ(笑)である。

いや決してバカにしているわけではない。30男にボーイってどうなのかと思わないでもないが、彼の容姿を説明するにあたっては、これほどはまっている言葉はない。

総務の女性達に言わせると「レモンのはちみつ漬け」が似合うとか、「週末はテニスしています」とか「スポーツ」と「白いポロシャツ」が似合う容姿だそうだ。あと、「笑った時の目元と口元のしわが可愛い」とか。給湯室の声は廊下まで良く通る。まあ、僕がいたからと言って彼女たちの話が中断される事は、まず無いのだが。


話が逸れてしまったが、彼は誰がどう見ても「モテる」容姿である。顔がすごく整っているというわけではないのだが、男である僕から見ても男前だと思う。


容姿だけではない、性格も…悔しいがいいヤツだ。仕事で何度救われたかわからん。そして、それをさり気なくやってのける。恩着せがましさを感じさせない。こんな奴がこの世にいたのかと、最初は慄いたものだ。


さしたる欠点も見つからない。今この場で言うのならば、 “趣味が悪い” というくらいか。


思考の海に沈んで溺れそうな僕の目の前に、大きな手がひらひらと動いている。

この場には、ふたりしかいないのだから必然的にこの手は彼の手だろう。「大きい手だなあ」と、まだぼんやりと考えている僕の正面で今度はパチンと指が鳴った。

指パッチンなんて久しぶりに見た。些細な衝撃であるが、僕を現実に引き戻すには十分だった。


「仲島。大丈夫か?」


「ああ、すまない。びっくりして…」


「まあそうだろう。突然こんなこと言われたら普通戸惑うよな。気持ち悪いと言われてもしょうがないと思っている」


沈痛な表情で下を向く橘にどう声をかけたらいいのか迷う。彼が言っている「突然で戸惑う」という言葉は当たっている。確かに僕は今突然の事に“戸惑い” “困惑している”。だからと言って “気持ち悪い” と思っているのかと言われると、僕の返事は「そうでもない」だ。

この第3の坂「まさか」は僕には衝撃的過ぎて、 “冷静に状況を整理する” という所まで思考が追い付いていないのだ。

「そんなことない」と強く言えるほど、僕は今の事態を把握できていないし、まして「気持ち悪い」というには相手がいいヤツ過ぎる。

しかし、告白してきた相手をそのまま放置するとはいただけない。30にもなった男がすることではない。


「すまん。告白してくれたのに放置して」


「いいんだ。こちらこそ突然ですまない。どうしても伝えたくて。フラれるのはわかっているんだ。僕の事なんとも思っていないこともわかっている」


「なんとも思っていない事はないけど…いいヤツだと思っているよ」


「…そうか。ありがとう」


橘は泣き出しそうな顔で笑った。まあ、確かに告白した相手に「いい人ね」と言われたら少しショックかもしれない。同年代の男の泣き顔なんてなかなか見ることはない。酔っ払って泣き上戸になる奴はいるが、これでは僕がいじめているみたいではないか。


「とりあえず状況を整理させてくれ」


「ああ。かまわない」


「橘は僕のことが好きなのか?」


「…ああ」


気まずそうな橘の返事に、自分が放った言葉に恥ずかしくなる。


「それで、付き合いたいと」


「…ああ。だから、一思いに振ってくれ」


なんでコイツはこんなに返事を急ぐのだ。ただ僕は状況を把握しようとしているだけなのに。


「まあ、落ち着け。僕は今まで橘を恋愛の対象として見たことがない」


「ああ。そうだよな…。ごめん。時間を取らせた…」


立ち去ろうとする橘の腕を思わずつかみ引き留めた。


「待て!落ち着けって!結論を勝手にだすな。今までって言ったんだ!今までって」


確かに僕は今まで橘を恋愛対象として見たことはない。だってそうだろう、今までの恋愛対象は女性だったし、同性をそういう目で見たことがない。僕は、平凡で平坦な人生を歩んできた自信がある。同性と付き合うという概念自体が僕の中にはなかった。知識としてはもちろん存在するが、どこか遠い世界の話で、自分に置き換えたことがない。今目の前に、橘がいて、僕に好きだと告白して、初めてその存在に気づいたようなものだ。だから少し待ってほしい。


そんなことを、しどろもどろになりながらも、どうにかこうにか橘に伝えた。

橘は呆然としながら、「わかった」と言ってくれた。


しかし、いつまでも彼を待たせるわけにもいかない。彼との今後を考えるにあたり、僕は圧倒的に彼の事を知らないし、判断材料が乏しい。

そう僕が言うと、橘は「では、もっと俺のことを知ってくれ」と笑った。


総務の女性が言っていた「笑った時の目元と口元のしわが可愛い」という言葉が何となくわかるような気がした。


こうして僕たちは、 “お互いを知る” という事を始めた。

僕が “彼を知る” だけではフェアじゃないだろう。彼だって会社以外での僕を知らないはずだ。知っていったら彼の方から「あの告白はなかったことに」となるかもしれない。


僕は彼を “親切な同僚” から “恋愛対象になるかもしれない同僚” に切り替えて見ていきたいと思う。そこから “恋愛対象” と “恋人” とシフトチェンジするかどうかはわからない。もしかしたら “仲の良い友人” になるかもしれない。


それでも、今まで知っていた彼との関係が変わっていくのを少し楽しみに思う僕がいる。


読んで頂きありがとうございます。

次は告白B(橘視点)です。

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