歩み 〜自分のペース〜
自衛隊にはスキー訓練ってのがあるんだ。
楽しそう?
甘いね。
滑るスキーじゃないんだ。
"走る"スキーなんだよ。
ただ走るだけじゃない。
背嚢って言ってでっかい軍用リュックがあるんだけど、その中に10キロの重りを入れるんだ。
イメージは米袋1つ分、もしくはミカンの入った段ボール1つ分ってとこかな。
それを背負って雪山を約6キロメートル走るんだ。
……ゲロ吐いたんだ。
新隊員の時。
この訓練で。
3ヶ月もやるからな。
この訓練。
辛くて辛くて今でも嫌いだよ。
この訓練。
でも、オレはこの訓練は何かの縮図だと思うんだ。
その話をしよう。
このスキー訓練は雪山での救助を想定した訓練なんだけど、実際のところ、ただの競技なんだ。
"かけっこ"と同じなんだ。
誰が一番速いか。
それを競うんだ。
オレはいつまでたっても速くならなくてね。
先輩達の罵声をかなり浴びたよ。
……モラハラ、パワハラの嵐。
でも愛がある。
速くなってほしいから、頑張ってほしいから、強くなってほしいから、悔しさをバネにしてほしいから言うんだよな。
一般のモラハラ、パワハラとは少し違うんだな。
そこが自衛隊の良いところ。
冬の山は寒くてね。
しかも雪が凍っていると、全然前に進まないんだ。
一生終わらない気がして絶望感が襲うんだ。
でも先輩達は、スイスイと走って行って、とても速いんだ。
……そして、通りすがり際にモラハラとパワハラ(笑)。
『どけ!カス!』とか『やる気あんのかボケ!』とか『死ね!』とか『ざこ隊員!』とか。
オレは心の中で何度も"うるせえ"と思ったよ。
息切れと目眩と吐き気の中、そんな罵声が聞こえてくるんだ。
よくやってたと思うよ(笑)。
昔は、ストックを尻に刺されて、流血したこともあったらしいよ。
それに比べたらマシかな。
……とまあ自衛隊スキーの説明はこんな感じにしておこうか。
本題に移ろう。
とまあ、とにかく距離が長い、期間が長いこの訓練。
オレは"人生を現している"と思うんだ。
なんでかって?
……君は人生が長く感じる事はないかい?
そして、辛いときもないかい?
楽しい時もないかい?
人が言うことに何か感じる時もないかい?
他にも色々感じるだろうけど……。
スキーもそうだよ。
とにかく長い。
走るのは辛い。
下り道は楽しい。
寒い時もあれば暑い時もある。
先輩に色々言われて、悲しくなったり、逆に奮起したり。
……誉められたら嬉しかったり……。
どこか人生に似ていると思わないかい?
先輩達は速く走れるけど、その分ケガをしたり、ゴール直前で疲労でぶっ倒れたり……。
でも結果は残せる。
遅い人は、タイムは伸ばせないけど、確実性がある。
諦めなければゴールには着くって事さ。
しかも体力は温存しているから、ケガをすることもないし、倒れる事もない。
その代わり、結果は残せない。
一般の世界だってそうだろ?
出世とかしてる人って、ミスった時、バッシングされていないか?
再起不能な位。
その分、バッシングされるまでは結果を残して出世してる。
普通のサラリーマンとかは、コツコツ積み上げていくだろ?
今自分が出来る事をひたすらコツコツと。
その分出世は出来ないんだけど。
どこか……スキー訓練に似ていると思わないかい?
結局のところ、オレは遅くていいと思っているんだ。
先輩に何言われようが、"諦めず、ゴールまでたどり着けば勝ち"だろ?
人生ってのは諦めない事が重要だと思うんだ。
人から何言われようが、自分の仕事がどうだろうがな。
諦めずコツコツ続けて行けば、絶対いいことがある。
しかも、自分のペースをまもる事で長生きも出来ると思うんだ。
無理はいけないからな。
まとめると、オレの中ではな?
人間は自分のペースで生きて良い。
最後までやりきることが大事。
人の言うことに耳を貸さず自分を貫け。
……この3つをスキー訓練から学びとったんだ。
いつみさんだっけ?
おたくはどっちの人間かな?
人生はとばして生きて行きたいかい?
それとも、自分のペースで生きて行きたいかい?
どちらを選択するにしても、後悔のないようにな。
それじゃあね。
その自衛官の人はまた、リフトに乗って登っていった。
爽やかな笑顔だった。
彼は自分の人生をマイペースに生きている。
人生それで良いのだ。
現在続けていることは諦めない事。
人に何言われようが自分の考えは変えないこと。
人には人それぞれ生き方がある。
それを教えてくれた。
……ちなみに作者はマイペースに生きていたい。
仕事して、ゲームして、小説書いて、マンガ読んで……。
仕事が中心の人生なんて嫌だ!
(現実逃避?)