第八章 人の世の闇と裏と
白い大理石を用いた多くの綺麗な建物、威勢のいい声が飛び交い、それに引き寄せられる観光客たち。
「発展し過ぎじゃない?!」
「まーこれで完成から4ヶ月しか立ってないらしいからなー」
まさにアクアシティの大都市という風貌に思わず叫んだアキラ。
アスラが変身した仮面をつけた姿だが周りから怪しまれることはなかった。
「ここは主に異邦人や開拓者が住んでいるんだ。あとは住み処を持たない連中をここに連れてきたりしてな。」
「ふーん、となると誰かいても怪しくないのか」
アキラが感心していると、背後から声をかけられる。
「やーやーやー!お嬢ちゃん、お茶しなーい!?」
アキラとクロノが振り向くと、小太りの男とチャラい男がやってきて話しかけてきた。
話しているのは小太りの男である。
「お茶のお礼はその大きなメロンをひとなかひゅっ・・・」
途中まで話していたが、アキラに股を蹴りあげられ倒れ込む。
「おま!?」
「ウザイ」
アキラは吐き捨てるように言い放つと歩き出す。
「だからやめとけと・・・」
小太りの男を介抱するチャラい男
クロノはその二人を気にしていたが、アキラの後を急いで追うことにした。
「クロノ、ここは不快だな!」
「一度ナンパされたくらいでそう思わなくても・・・」
クロノがなだめていると、急にアキラはクロノの手を掴み路地に入り込んだ。
「え?」
「しっ」
人差し指を唇に当て、言葉を止めるアキラ。
その仕草に色気を感じたクロノは頬を赤らめていたが、アキラはそれを放置し陰から様子を伺っていた。
「なんでいるかなぁ」
憂鬱そうに呟くアキラに、クロノも気になり覗くと二人の男女が談笑しながら歩いているのが見えた。
一人はかつてのアキラの仲間の魔法使い。
そしてもう一人は勇者だった。
白く薄く鍛えられ、金と赤い鉱石で装飾された鎧を纏った金髪の男。背中にはバスタードソードを背負っていた。
アキラもクロノもよく知る人物だった。
「『運命』の勇者か」
「鋼の国の勇者だね。あいつは人の変装を見破るのが得意だったはず。あいつがいると表立って動けないや」
二人がアキラ達と違う方向にいくのを確認し、路地から出ていく。
「仕方ない、クロノ。君のギルドに転移して。また出会うのは良くない。バレる」
「それもそうだな」
珍しくも焦った様子のアキラに賛同し、クロノはアキラと共に転移した。
意識は途切れ、次の瞬間に景色は変わり、喫茶店のような場所にいた。
そこには長身だが、美人の女性がコップを磨いている。
「あらぁー。やっと帰ってきやがったわね」
「悪いなマリア、その後は?」
「貴方の後任は見つかったわよ?」
女性と会話するクロノ
対してアキラは目を点にして驚いていた。
なにせ、女性から聞こえた声は太く、男性のそれだったからだ。
「クロノさん?その人は?」
「彼女は協力者だ。」
クロノのその一言に納得したマリアは頷いていた。
「彼女に空き部屋を頼むよ。」
「任せて。」
用意に向かったのか、マリアはカウンターを飛び越え、階段を駆け登っていく。
しばらくはここを拠点に活動が出来そうだ。
「で、アキラはどうするつもりだ?」
「夜になったらちょっと動いてくるよ。宛はある」
クロノは首を傾げていたが、アキラは笑みを浮かべていた。
「なあに、目には目を、歯には歯を、商人には商人さ」
それからの夜、アキラは様々な酒場を回っていた。
探すのはここまでたどり着き、前祝いをしている連中である。
酒が入っているならポロリと持ってきた積み荷について漏らしているかも知れない。
とはいえ、店に入って何も頼まない訳にはいかず、アキラは一杯飲んでは店を変え、何度もはしごをするはめになった。
そして一週間後のその日の八軒目でようやく情報にありつけた。
「おや!嬢ちゃんじゃないか!?」
「あれ?あんたら」
以前アキラを村まで乗せていった商人の一団と遭遇したのだ。
アキラは彼らの席に呼ばれ、同席することになった。
「なんだこっちにきてたのかい。言ってくれれば乗せたのになぁ」
「僕も色々あるのさ。」
ため息をつくアキラ。
「しかしアクアシティで女の一人酒とは感心できんな。売られちまうよ」
「あぁ、そういやそろそろだっけ?魔族オークション。うちの商団にも案内状きてたな」
「あぁ、これな」
男の一人が封筒を取り出し、机の上に置く。
「いくら魔族でも奴隷はいかんよなー・・・ってどうした嬢ちゃん!?」
「ふぐっ、ぅぅ・・・」
話をしていたらいきなり泣き始めたアキラに困惑する商人たち。
「ようやく、情報にありつけたから」
いままで何も成果を上げられずにどうやら若干心が折れかかっていたようだ。
が、聞いた途端に商人たちの顔が険しくなる。
「オークションのか?まさか使う気か?」
「まさか、潰すんだよ」
そう聞くと商人たちは安堵する。
「そうか、よかった。俺達は奴隷というものを快く思ってないんでな。というのも」
商人たちは懐からカードを取り出した。
それはピンク色でアキラの素顔が印刷されていた。
「俺たちゃアキラファンクラブ会員だからな!」
思わず固まり、頬がひくつくアキラ。
なにせその顔、風呂上がりの時のようで髪は濡れていて頬は赤く染まっていた。
「勇者であり雷帝であるアキラ様、その優しくも強く厳しいお心と、抜群な体型に魅了された男は多くてな。世界各地にファンクラブ会員がいるんだ。一部過激派は盗撮写真集やら薄い本やらを出しているが、それはいけない。当然許可等取ってないのだからな!」
「ある意味信仰に近いようなものだ。うん。そんな訳で我々は勇者様が無くそうとしていた奴隷を、いくら魔族相手でも認めるわけにはいかないのだ。」
「そ、そっかー!ならこれもらっていいかな?潰してくるから!」
「「おう!」」
アキラは招待状を貰うとそそくさとその場を後にした。
その後、彼等はアキラの話題で盛り上がっていたようだ。
酒場から出たアキラはこう心に決めた。
「本部見つけたら壊そう。うん。」
招待状に寄れば地下水道に会場はあるらしく、アキラは路地にあるマンホールを抉じ開け、中へと入るアキラ。
「ぎゅぴ!?」
「アスラ、耐えなさい」
様々な生活排水が混ざり合った悪臭にアスラは悲鳴をあげ、アキラも顔を歪めていた。
「ほんと、この街はどうなっているんだか」
巨大な迷宮のようなイメージを思わせる空間が広がっていた。
迷ったら上をぶち抜けばいいか、と割りきり進み始めた。
「・・・どうやら馬鹿どもが近いみたいだね。」
声が聞こえ、そちらへと向かうアキラ。
広い空間に出ると、多くの檻が見えてきた。
中にはエルフやドラゴニュートの男女がいた。
が、皆若く、人間でいうなら十代にしか見えなかった。
「見張りはいないか。なら今のうちに開放してしまうか」
物影から様子を伺うアキラ。
が、背後から気配を感じて振り向く。
見えたのは白銀に輝く見事な日本刀。
脳天から切り裂こうと迫るそれをアキラは刀身を掴み受けとめた。
「おい、邪魔するんじゃねぇ」
それを降り下ろした男は黒服にグラサンをかけていた。
(ヤのつくお兄さん!?なんで!?)
思わずアキラは困惑した。
そう、その男の格好はアキラにその職業を連想させるには十分だった。
日本刀と黒服、まぁ背広になるだろうか。
この世界の衣類は鞣した革や布によるものが多く、シンプルで簡単なデザインの物が殆どである。
少なくともアキラの記憶にはそのような凝った物、みたことがなかった。
王族貴族ならともかく、一般的に損傷しやすい服は消耗品なのだ。
特に戦いにおいてはよく破ける。
おそらくこいつは
「あんた、この世界の住人じゃないな・・・」
「だったらどうした!?台無しにされちゃ困るんだよ。」
先の言動からこの男は主催者側かも知れないと思ったアキラは刀身を掴む手に力を込めた。
アキラの異常な握力に耐えきれず、砕け、中程から折れる日本刀。
後ろに飛び退き追撃を警戒するが、男からの攻撃はなかった。
折れた刀身を見つめ、震えている。
武器を破壊されたことによる怒りか嘆きか、少なくとも恐れではないようだが
「俺の、俺の、」
「なんだ?」
アキラが首を傾げていると男は叫んだ。
「俺の茎一文字がぁぁぁあ!」
その叫びは反響し、辺り一面に響いた。
「菊じゃないの!?」
アキラが思わず突っ込みを入れていると、男の背後から新たな男が寄ってきていた。
グラサンに黒服という服装こそ同じなのだが、スキンヘッドで筋肉隆々であった。
その男は拳を振り上げ、喚いている男の頭に降り下ろした。
その一撃で気絶したその男を担ぎ上げ、アキラのほうを見ていた。
(えええええ!?)
困惑するしかないアキラ。
服装からして男二人は仲間と思ったが、違ったのだろうか。
担いだ男はアキラに手招きをしている。
従うか悩んでいたが、少なくとも彼はアキラを助けた形になっている。
ここは従うほうが良さそうだ、とアキラは判断した。
男に頷くと、先導していく男についていく。
下水道を歩き、マンホールから出て路地を歩いていく。
そしてある宿屋に入っていった。
この間、会話はない。
相手のことが把握できず、何者なのかがわからない。
ただ・・・
宿屋に入ってすぐに目につく黒服の若者たち。
そこから判断するに只者ではないのはわかった。
アキラはある一室に案内された。
そこには白髭を蓄えた老人がおり、入ってきたアキラを睨んでいた。
「ゴウ、なんだそいつは。それに何故ヤスは気を失っている。」
「ヤス、監視場所でこの娘と対峙し叫んでた。で、奴らにバレた。」
「馬鹿野郎が」
ゴウと呼ばれたスキンヘッドの男の報告を聞いた老人は舌打ちしていた。
ここでアキラは察した。
バレたと話をしたということはオークション主催者連中と敵対していて彼等も自分と同じ目的なのではないかと。
「で、嬢ちゃんは何故ヤスと対峙していたんだ」
「いや、あの奴隷を解放しようとしたらその人が、ねぇ」
アキラがそう告げると老人は目を丸くして驚いていた。
「正気か?魔族だぞ!?」
「そうだよ?だからこそ僕が助けるのにふさわしい。」
アキラが発した言葉に思案し、しばらく沈黙する老人。
「嬢ちゃん、ほいほいゴウについてきたみたいだが、儂らが主催者側とは思わなかったのか?もしそうなら敵陣のど真ん中だぞ」
「だとしても僕が死ぬことはない。なんなら証明しようか?」
「しなくていい。そもそも嬢ちゃんと敵対する必要はないしな」
アキラが込めた殺意を察した老人は冷や汗が出た
少なくともこの嬢ちゃんはまともではないともわかった。ならば、と老人は話し始めた。
「嬢ちゃん、今しばらく待ってほしい。儂らはオークションを利用する輩の排除が目的なのだ。始まらないことには儂らは困る。それにだ。今すぐに奴隷を解放しても輸送手段もあるまい。なにも知らない一般人からしたら街中にいきなり魔族が現れたと知ったらどうなるか、一斉に殲滅に向かうだろう。」
「む」
「そうなれば全滅だ。それは望まぬのだろう。さすれば儂らと協力せぬか?アクアシティからの脱出は支援してやる。」
「わかったよ」
アキラは提案を受け入れることにした。
確かに一人では無理があった。
「では開始時刻になったら会場に来てほしい。」
老人にそう言われ、共闘を約束したアキラは彼等と別れた。
「という訳で共闘することになったよ」
「どうしてそうなる!?」
ギルドに戻り、その事をクロノに伝えると頭を抱えていた。
「まぁいいじゃん。なんとかなりそうなんだしさ」
「いくらなんでも単身突っ込まないでくれ!」
嘆くクロノだが、同時にアキラのすごさを改めて実感した。
オークションの招待状を手に入れ、しかも自分が協力を要請していた組織にたどり着いたのだ。
そうとうな強運なのか、諜報能力が高いのかはわからないが
「しかし荒川組にアフターケアまでやらせるとは恐ろしいな」
「荒川組?」
首を傾げているアキラに思わず呆れるクロノ
「まさか相手の名前も知らないのか?」
「そういや互いに名乗ってなかった」
「だがまぁ黒服に日本刀なんて風貌の連中は他にいないから間違いはないだろ。荒川組は全員がこの世界で蘇った転移者だ。全員本物のヤクザだぞ。」
それを聞いたアキラは青ざめ、声が震えた。
「マ、マジ?」
「場合によってはその場で撃ち殺されてたかもな。どんな会話したんだよ」
「殺気込めて脅した・・・」
「んなっ」
思わず唖然とするクロノ
よくも何事もなく済んだ、という感心よりなんで何事もなく済んだという疑問が浮かんだ。
「なんで僕、何もされなかったんだろう」
どうやらアキラも同じ考えに至ったようだ。
因みに
「帰して、よかったので?」
「こんなところで戦闘したら部屋が傷つくだろうが」
アキラが退室したあとにこんな会話があったそうな