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不死の勇者の後日談  作者: 歪
第一部 始まり
8/20

第七章 勇者の闘い方

「えーと、ここ、だよね?」


クロノを連れ魔王達が待つ森へ帰ってきたアキラ。

アスラはまた仮面になっている。

馬車に揺られて3日の旅路だったが、そこに広がるはずの森林の風景は一変していた。

目の前には木々が切り倒され、切り株が並ぶ光景が広がり、森の範囲は明らかに後退していた。


「なにかあったんじゃないのか?」


「う、うーん。」


悩み、考えるアキラだが、どう考えてもわからない。

規模からして、小さな集落なら作れそうな程だ。

が、そのようなものは見えない。

主な輸送手段は馬車になるこの世界において大規模な伐採を行い、輸送するなんてことは基本的には行わないのでよりわからなかった。

一週間ほど留守にしただけなのにここまで変わるのは魔王がなにかやらかしたとしか思えなかった。


「とりあえず中へ向かおう。アスラ、もういいよ」


声をかけられたアスラもスライムの姿に戻り、一同は森へと進んだ。


「「キシャァァァァ!」」


入った瞬間であった。


五匹の石の斧を持ったアントが、木の上からアキラ目掛けて飛び降りてきたのだ。

「・・・蟲ごときが」


が、しかし。アキラが睨みを利かすと三匹は即座に逃げていった。

残った二匹は斧を振り上げ、襲いかかってくるが・・・


「はい終わり」


アキラは斧をそれぞれ掴むと、アント諸ともそれを上に投げた。

木を超え、空高くまで飛んでいったアント。

アキラはそれを落ちていくのを待たずして歩き出す。


「終わらせる前に言うなよ・・・」


思わずクロノが突っ込んだが、歩みは止まることはなかった。






しばらく歩くと地底湖への入り口の前で真っ白に燃え尽きているかのように気落ちしている魔王と遭遇した。

魔王はアキラに気づくと号泣しながらアキラの膝にすがり付く


「アキラぁぁぁ!」


「え、ちょ、なに?」


思わず困惑するアキラ、クロノはなおのこと訳がわからなかった。


「よかった!クイーンアントは言うこと聞かないし、レストは産卵したから動けないし、もう!」


「はぁ?」


魔王曰く、召喚したアントがクイーンになったのはいいものの、そいつは独立し、新たに産まれたアントを引き連れて森を占拠したそうだ。

人面樹は拉致られ、レストも卵を産み側から離れられず、太刀打ちできなかったらしい。

実質、魔王の言うことを聞くのはスライムたちのみ、そのスライムもアントたちよりも弱いのだ。

アキラはため息をつき、魔王の頭を撫でながら背後のクロノに声をかけた。


「悪いクロノ、ちょっと手伝って貰えるかな?」


「あ、あぁ」


ため息をつきながらアキラは魔王に道案内を任せ、アントクイーンの元に向かった。

アントクイーンは滝壺の裏に巣を作り籠っており、その周りを開拓しているようだ。

アキラたちがそこにつくとそこは外側と同じく木々が切り倒され、地面は平らに整地されている。

さらに丸太を建材としたログハウス、と呼ぶには小さくログキャビンと呼ぶのが適切そうな小屋が出来ていた。

が、アントの姿はない。


「留守?無用心だなぁ」


頭の上にいたアスラを摘まみ、魔王の頭に移しながら呟いた。


「というかアキラ、さっきから気になっていたのだけど、その子は?」


色々話を聞いていたクロノだが、目の前の子どもだけは理解不能だった。


「あ、うん。これ魔王の子。」


「リュウだ!そう呼ぶがいい!」


「え、そういう名前なの?」


「いやなんでアキラが知らないんだよ。」


驚いているアキラに思わず突っ込むクロノ。


そう、魔王ことリュウはようやく自分の名前を告げたのだった。


「そんなことはどうでもいい。重要なことじゃない。」


「酷いぞ!?」


騒いでいたからだろう。滝を割って3mほどの巨大アリが現れた。

大きな腹部に三対の長い腕、大きな顎をカタカタ震わせながらアキラたちに向かっていく。


「でっかー」


「こ、こやつだアキラ!アントクイーンだ!」


アキラはアントクイーンに歩み寄る。


「やぁ」


手をあげて挨拶するアキラに対してアントクイーンは前腕を振り上げ、アキラ目掛けて降り下ろした。

衝撃と共に土埃が舞い、アキラの姿は隠れ、衝撃がリュウとアスラ、クロノを襲う。


「わぁ!」


「おっと!」


吹き飛ばされかけたリュウをクロノは掴み、引き寄せた。

クロノは耐えたが、ログキャビンは吹き飛んだ。

造りが弱かったのか、衝撃が強かったのか、はたまた両方か。

体験したクロノの反応からすればそれなりといった所だった。


「アキラは!?」


「ぎゃあああ!」


悲鳴と共に天を仰ぐアントクイーン

その腕はあらぬ方向に曲がり、空を見上げるその顎をアキラは跳び、蹴りあげた。


「弱いなクイーン!」


怯んだ相手の頬に回し蹴りを放つアキラ

その衝撃にクイーンは滝壺の水中へ叩き込まれた。


「か、完封したのか、体術だけで!?」


驚愕するクロノ。


決して弱くはないクイーン種を容易く倒したアキラはアントクイーンの腹に着地した。


「ヤメロ!」


一匹のアントがアキラの足に抱きつき、動きを押さえようとした。


「あ、あんた」


「りゅーう、解説」


『でしたら私が』


「いたのか・・・」


リュウが懐からコアを取り出すと、嬉々として話し始めた。


『言動から察するにそのアントとクイーンは番ですね。いくらクイーンといえ繁殖には種が必要ですから。』


「なーるほどね」


必死になってしがみつくアントを見てアキラは笑っていた。

つまり、妻をいたぶる暴漢から夫が助けに入った。そういう形になっている訳だ。


「命を張って愛するものを守るか、感動的だなぁ」


次の瞬間、笑みが消え、足を浮かせた。


「だが無意味だ」


そしてアントクイーンの腹を踏みつけた。


「ぎぃぃぃ!」


「ヤメロヤメロ!」


「おいおい、言うことが違うだろう?どうしたらいいか聞くべきじゃないのか?」


足からアントを引き剥がしながらアキラは告げた。


「我々が人間ごと「馬鹿なの?死ぬの?」助けてくださいお願いしますなんでもしますから」


足を再度振り上げ脅した瞬間、折れたアントクイーンだった。

そしてクロノは思った。


(魔物屈伏させたよこの人・・・)と


場所は変わり、白い世界。

空も地も果てまで白い世界で、ある男が腹を抱えて笑っていた。


「あははは!そうするのか!まさか魔物を脅すなんてね!」


アキラを転生させた神である。


「また覗いているのか?」


「あぁ、ハングドマン。アキラは見ていて飽きないよ。」


背後に現れた初老の男に声をかけられ、振り返らずに答えた。


男の視界にはアキラの姿はもちろん、何もない。


ただ白い空間があるだけなのだが、それでも見えているようだ。


「わからんな、お前がなにをしたいのか・・・」


「俺はね。彼女の行く先に興味があるんだ。彼女は帝という地位を手に入れ、勇者として人のために魔王を倒した。が、今度は人に仇を為すために人に駆逐されつつある魔物を率いるつもりでいる。彼女は強者に抗い、弱者に手を差し伸べる、まるで聖女じゃないか!?」


「あんな歪んだ存在の聖女、いてたまるか」


「神(俺)の恩籠を受けているんだから歪んでいても聖女さ」


ハングドマンの否定に笑って返す男。


男を忌々しく睨み付けながらハングドマンは呟いた。


「そもそも己の欲望のために人生を奪い、彼女の運命と未来を奪ったのはお前だろうに」


男には聞こえなかったか、それとも振りか、ともかく返答はなかった。


























「キリキリはたらけー!」


「「イエス、ボス!」」


リュウの叫びに呼応し返すアントたち。


クイーンごと一族を屈伏させられたアントたちはリュウの指示の元、滝壺とそこを源流とした小川に添って集落を作成していた。

その様子を眺めていたアキラはクロノが持ってきた地図に目を移す。

この地図によりようやくこの辺りの全容が判明したのだ。

広がる平野と山の境に存在するこの森は脇に街道があるものの、人里からは離れているようだ。

元々人が住んでいない大陸なのでこんなものなのだろうとは思うがまだ準備中のこちらとしてはまだバレにくいので助かる。

アキラの言うことを聞くのはスライム、アントぐらいで、あとは気ままに暮らす野生の魔物と人面樹くらいである。


戦力にならない。


「環境整備と戦力増強が必要かぁ。」


思わずため息をつくアキラ。

そんなアキラの目の前にクロノが現れた。

転移で来たのだろう、突然現れたのだ。


「アキラ、もし数日空くのならばアクアシティに来てもらえないか?仕事を頼みたいんだ。」


「内容は?」


「治安維持というところか。あるオークションを潰したいんだが、表立って動けなくてな」


「は?よくわからないんだけど」


はっきりといわないクロノに苛立つアキラ。

当のクロノも言いづらいのか、しばらく唸っていた。


「・・・魔族のオークションがあるんだ。」


「は!?」


クロノ曰く、アクアシティにマークしていた奴隷商人や誘拐犯が集まりつつあるらしい。

アクアシティが籍を置いている『青の国』では奴隷に関しての法は無く、こちらの大陸で最も大きなアクアシティでは奴隷を扱う非公式のオークションが開催されているらしい。

こういう予兆の度にクロノが非公認組織を利用して潰していたのだが・・・



「バレて動けなくなった。」


オークション利用者の領主や大臣に難癖つけられたらしい。

いくら独自の権限があるとはいえ、国と戦争状態になりかねないとなると動けない。


「で、僕か。」


「うん。アクアシティに連れていくから頼めないかな?」


「まぁいいけど、僕に任せたらそんな連中、再起不能なまでに潰すよ?」


アキラからしたらそのような連中、雷帝時代から潰してきたのにまだいたことに驚きだった。

いやただ単に成りを潜め、アキラがいなくなるのを待っていたのかもしれない。

つまり彼等もアキラの死に関与していたのかもしれないと思うと思わず笑みを浮かべて考えてしまう。

まずは彼らから始末しよう、と


「恐いからまるで獲物を葬る狩人みたいな笑みを浮かべないでくれ、マジで」


「えー」 


怯えるクロノにアキラは頬を膨らませ不満を露にしていた。


「あ、そうだ。クロノ。今回オークションってどれくらいの国が関与してるの?予想くらいあるんでしょ」


「『魔術』と『鋼』、『青』だな。ここらの悪徳貴族や領主が多い。この三国は元々奴隷に関する法が無いから当然だが。あとはどこの国かはわからないが特殊機関の連中がいるらしいな。あとは『黄』の軍人らしいのもいるようだ。」


「は?『黄』まで?」


アキラは困惑していた。

先に名前のあがった三国は政策や国の特色上、まだ奴隷に関する法がない。他の国は人権や奴隷禁止の法がある

が、黄に関しては法こそ無いが奴隷を推奨している国なのだ。

労働力以外の資源が乏しいその国は売ることはあっても買うことはない。奪うのならともかく。

そもそもその国の人間が外に出ているのが疑問だった。


「いつ鎖国を解いたの?」


「いや、相も変わらずのはずだ。けど黄の国にしかいない民族を見かけたという話が出ているんだ。」


「・・・だから軍人、か」


黄の国は軍事国家であり、ある民族、王族が中心となっている。

周辺の国への侵略も行うため、国境沿いを回りの国が軍を配置し、睨みを聞かせている。

現在は輸出入はもちろん、出入国すら禁じられた鎖国状態のはずなのだ。


「不穏過ぎるね。」

アキラも勇者として一度だけ訪れたことがあるからそこまでは知っているものの、今のあの国を推測するには情報が足りなかった。

が、あの黄の国が動いているのならこの一件、世界情勢を変えるような事態かも知れない。

なにしろ全国の共通の敵である魔王はもういないのだから、互いに協力し合う理由ももうないのだ。


「魔術、鋼、青、黄の関与は確実。問題はこれらの国に繋がりがあるかだけど」


「魔術と鋼は君の仲間の出身国だろう」


「それ以外で」


クロノは唸りながら悩んでいたが、その後ふと思い出し声をあげた。


「確か魔術と鋼と青は先日互いに技術提供しての軍艦の作成を表明してたな、とても関係あるとは思えないが」


「なら改めて情報を集めるしかないか。しかし軍艦か」


どうにも思考の奥でひっかかりを覚えたが、遠出の前にやることを済ませようと歩き出すアキラ。


「どこへいくんだ?」


「いない間にまた反乱されても面倒だからね、ちょっとアント一族をシメ・・・念を押してくる」


「・・・そっか」


クロノはその姿を見送りながら合掌した。


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