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不死の勇者の後日談  作者: 歪
第一部 始まり
5/20

第四章 森と滝と

数日後。


コアが召喚した果物(くっそまずい)で食い繋いでいたアキラと魔王は木々が生い茂る、森の中にいた。

ようやく貫通した洞穴から出てきたのだった。


「光だ。久々の光だ。」


「こんなに嬉しいことはない・・・」


二人は感動のあまり天を仰いでいた。

精神が病みかけていたのが一気に浄化された気分だ。


『ではロード、周辺の探索を提案致します。』


尚コアは魔王をロード、アキラをマスターと呼ぶことにしたようだ。

現在コアは魔王が所有し、抱えている。


「うむ。そうだな。我達はあまりにも物を持たなすぎる。周辺の把握と食料調達は急務だ。」


「そうだねぇ」


アキラが相槌を打ってると、魔王は駆け出した。


「は、はや!?まぁコアも一緒だし平気か」


呆れながらも、魔王を追うことはせず、別の方向に歩き出した。

まずは魔王の言う通り、食料調達は必要だ。

耳をすませば水音が聞こえるので魚がとれるかもしれない。

思わず涎が出るが、飲み込み歩みを早めた。


そうそれよりもやりたいことがあった。



一方魔王は



「見よコアよ。草食竜の群だぞ。あちらにはフォレストン、陸海老までいるぞ!」


森を抜けた先の草が生い茂る丘、静かに流れる川、その先にある草原の光景を目の当たりにし、目を輝かせていた。

巨体を揺らしながら草を食べ続ける竜というか大きな蜥蜴の魔物。体に苔を蓄えた豚、川辺に見掛ける黄緑のザリガニ。

これらは豊かな土地に生息することが多い魔物たちである。


『あれはリーブルですね。流石は大陸の東端です。自然豊かだ。』


「は?」


草食竜に対してコメントするコアの言葉に先程とは一転して青ざめる魔王。




この世界は大小二つの大陸と点在する島により成り立っている。

人が頂点になり、生物が多く生息する大きな大陸。

それの四分の一の大きさで魔族が頂点になり魔物が多く生息する小さな大陸。


この小さな大陸は『魔大陸』と呼ばれ、魔力の影響を受けた希少鉱石が多い半面、山が多いので豊かな土地が少なかった。

東を除く西南北は標高3000メートルを越える山脈としてなっており、東側が唯一の海岸となる。

つまり東側とは魔大陸の出入り口なのだ。

が、魔大陸に攻めいった人間により現在東側は占拠されている。


「まさかと思うがここは人間達の領地の中なのか?」


『はい。ここから馬で三日ほどの位置に村、そこからさらに一週間ほどで海岸の都市がありますね』


「だいぶ近いではないか!」


魔王は涙目になりながら叫んだ。


『ダンジョンの獲物と言えば人間の冒険者です。むしろ好都合というものかと』


「い、いやいや、まだダンジョンともいえないだろ!」


魔王はそそくさと奥へと戻った。


万が一人間にバレるのは避けたいからだ。

そのまま森を探索していると赤い実を実らせた樹が群生している場所に着く。

林檎のような果実に血管のようなものが生えていたものだ。


「これは魔樹か。いくつかもいでいこう」


魔王は三つほどもぎ、ポケットに入れた。

上機嫌になりながら、鼻歌混じりにそのまま繁みを掻き分けその先の川に沿って登っていった。


そして滝壺にたどり着き、思わず立ち止まる。

見つけたのは滝壺の浅瀬で水浴びをする一人の全裸の女性。


魔王と目が合い、女性は顔を赤く染め、怒りを露にする。

女性は雷を帯電し、魔王を睨み付ける。

次の瞬間、魔王の足元が吹き飛び、体が宙に放り出された。


だが、魔王の顔は満足そうだった。


そして後に彼は語る。


その胸と尻は豊満であったと。


そしてメロン最高と。


そしてそして


「覗きとかマジサイテー!」


「わざとじゃないよ!?」


滝壺の水辺にて水浴びをしていたアキラは今は服を着込み、魔王を土下座させていた。


「これをあげるから許してください!」


と言いながら魔王は先程ポケットに入れていた魔樹の実を差し出した。


「くっそまずい実じゃないか。」


それをみてあからさまに嫌な顔をする

アキラは以前それを食べたことがあったが、鉄臭い真っ赤な果汁が口の中に広がり吐き出したことを思い出していた。


「む。それは血抜きしてないからじゃないか?しなきゃ食べられたものじゃないらしいぞ」


「血抜き?果実を?てか血?」


そう聞くとアキラは魔樹の実を受け取った。

試しに半分に裂き、溢れ出た赤い果汁を水辺で洗い流してみる。

綺麗になるとそれは赤身の肉の塊のようになっていた。


「え、なにこれキモい」


「魔樹が実らせるのは肉の実なのだ。あれは魔物だからな。」


得意気に語る魔王。


「なら試しに焼いてみようか。」


そういうとアキラは実を持った手に雷を纏わせ、それで実を焼き始めた。

雷でこんがりと焼かれた実、アキラはそれにかじりついてみる


「・・・食えなくはない。煮込めばましになるかなぁ」


筋のようになかなかの歯応えのそれをガムのように噛みながらアキラは呟いた。確かに肉だ。

コアの召喚した果実よりはましな程度だが


「うん。これを地底湖の回りに繁殖出来ないかな。スライムたちに対してはいい食料になるんじゃないか?」


「む、そうか。その手があったな。スライムにとっては非常に良い栄養になるだろうから進化するかもな。コア、どうだ?」


『はい。今の状態なら日に二本召喚可能です。あとロード、マスターに先程怯えていたことを伝えた方がいいのでは?』


「なにそれ?」


コアの提案で話は変わり、魔王はアキラに人間の村が近いことを伝えた。


するとアキラは唸り始めた。


「うわー。まじかー。しばらくは地底湖の回りの開拓をしてたほうが良さそうだ。まだ人間にバレるのはまずいからね」


「騒ぎがなければ大丈夫と思うが、確かにそうだな」


アキラの言葉に魔王も賛同した。


二人は立ち上がり、ひとまず地底湖に戻ることにした。


ひとまずの方針も決まり、やることも決まった。


人間にバレることなく、生活環境の改善。これが最優先となるだろう。

それから数日間スライムの繁殖を眺めながら、魔樹の召喚を行い、地底湖で過ごしていた。

時折アキラは地上に出て水浴びや狩りを行っていたのだが、そんなときとんでもないものに出会った。


「あー、うん。アキラよ。」


「うん。言いたいことはわかるよ。」


滝壺に向かっていた二人はそこでエメラルド色のドラゴンが見かけた。

ドラゴンは水を飲み、休んでいるようだった。

「アキラよ。これはまずいぞ。このままではフォレストドラゴン討伐に人間たちがやってくるかもしれん」


「フォレストドラゴン?」


「あーうむ。確かドラゴン族の四王の嫁だったか。正月に絵葉書きてたな」


「意外とほのぼのしてるな・・・」


「魔族や上位の魔物は仲はいいぞ。争いこそ度々起こるがだいたいは御歳暮を送るような仲だ。」


そう会話しているとドラゴンは二人に気づき、顔をあげた。


『おや、ご子息様ではないか。まさか秋口の挨拶にお伺いした翌日に勇者に押し入られるとは思わなかったぞ。此度は大変だったな。』


「仲良すぎない?」


「戦乱さえなければほぼ毎日謁見と献上の品があったぞ。皆笑顔だった」


「僕、今罪悪感パないんだけど」


アキラは思わずひくついた笑いが浮かんでいた。

自分がいかなければ魔王たちは幸せだったのかもしれない。

もしかしたら対話による解決という方法もあったのかも、と思い始めていた。

が、魔王にそれが通じる訳はなくフォレストドラゴンと話を始めていた。


「フォレストドラゴンよ。何故君のような力のある魔物が何故このような場所におるのだ。」


『レストで構わぬよ。ご子息様。私は今身籠っていてな。子育ての場所に適度に弱い魔物が生息していて自然豊かな土地を探していたのだ。あとは良い洞穴でもあればよいのだがな』 


その言葉にガッツポーズする魔王。このままレストに住み着いて貰えたら戦力増強になるだろう。

追い出して一悶着あるより、共に地底湖に住んでもらった方が穏便に事が運ぶ。


一石二鳥になるのだ。


「ならばレストよ。我々の地底湖に来てはどうだ?こんなところでは人間の標的になるしな」


『ほう。それは是非ともお願いしたい。』


ここでようやくアキラが我に返り、口を挟んだ。


「いや待った。あの地底湖への入り口はスライムたちがようやく開けたサイズで大人一人が通れる程度だよ。とてもドラゴンが通過できるサイズじゃないよ」


『ならばこうしよう。』


レストはそういうと突然閃光に包まれた。


そしてそれが収まるとそこにいたのは一人の女性。


緑髪を長いポニーテールでまとめ、これまた緑の着物を着ている。

がそれよりも特筆すべきはその胸部。

大玉のスイカが入っているように見えるそれに思わず魔王は鼻から血液を吹き出していた。


「・・・マセガキ」


その様子にアキラは頭を抑えながら呆れていた。


「ははは!男の子はそれくらいが当たり前だ。」


その言葉に期待に満ちた眼差しでレストを見上げる魔王だが


「ま、不快には違いないがな」


バッサリ切り捨てられた。


「ま、これで行けるだろう」


「う、うん。そうだね。」



地面に座り込み、のの字を書き始めた魔王を引き摺り地底湖に戻ってきた。


ちょうどコアがアスラの上に乗り、足代わりにしながら魔樹の召喚をしていた。


「コア、新しい居候だよ」


「ほう、ダンジョンコアか。魔樹もあるし、ヒカリゴケで明るい。実にいい場所だな。」


辺りを見渡して誉めるレスト。


「けどレストが来てくれてよかった。少し単独行動したかったしね」 


「出掛けるの?」


「うん。村に行って情報収集にね。で、コア。服と顔を隠す物を出して貰えるかな」


『服はいけますが、隠す物ですか。』


コアが輝くとアキラの前に綺麗で丈夫な青い服を出した。


それと般若面である。





般若面である。


「「「ないわー」」」


『なん、だと』


アキラ、レスト、アスラに否定され、困惑するコア


どうやら冗談ではなく、真意で出したようだ。


「般若とか、余計な警戒されるだろ」


「うむ。何故それをチョイスしたし」


「ないわー。・・・ないわー」


アキラ、レスト、アスラの順にコアを非難していく。


『ならどうします?』


「なんかもっとこー、素朴なのできないの?」


アキラの問いにコアに代わり、アスラが答えた。


「あ、ならこんなのどうかな?」


そういうとアスラは身体を変え、額なら目の下まで覆い隠す仮面へと変貌した。


「あ、いいじゃんいいじゃん。こういうのでいいんだよ」


「どやぁ」


アキラに拾い上げられ、誉められるとそう言いった。


そしてアキラは綺麗な服に着替えアスラの仮面を取り付け、以前狩って干していたフォレストンの皮を折り畳み持った。


「じゃちょっといってくる。レスト、魔王をよろしくね」


「うむ。任された。」


うなずくレスト、地にのの字を書く魔王を後にし地底湖、そして森から出ていった。

しばらく歩くと整備された街道までたどり着き、そして馬車に出会い、乗せてもらうことが出来た。

近隣の村をめぐる商人の一団らしく、アキラは彼等にフォレストンの皮を売却し、多少の銀貨を得た。


そして最寄りの村まで彼等と共に行くことになった。

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