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不死の勇者の後日談  作者: 歪
第一部 始まり
4/20

第三章 ダンジョンコア

「で、それはなんだい?それ」

先程は急いでいて聞きそびれていたが、どうにも結晶体が気になった勇者。


「・・・」


が、魔王は唖然としながら炎上している魔王城に釘付けになっており、勇者の問いに答えなかった。

その様子にため息をつくと、魔王の隣に座ってため息をつく。


・・・今後のことを思うだけで鬱々としてくる。


まずは衣食住の宛がないこと。

まぁ衣は今着てるし、まだ大丈夫だ。

だが、食住に関しては問題があった。


自分が死んでいることが現在唯一のアドバンテージな以上、人間の村にいくことは論外である。

かといって魔族の村もじきに人間によって蹂躙されるだろうし、そもそも勇者である自分は彼等の天敵だ。無理だろう。

食は野生の獣や魔物を狩ればなんとかなるが、あてにはならない。暦の上ではもうすぐ冬だ。雪が降れば冬眠する獣も多いだろうし、今からでは備蓄もままならない。


それに、だ。

ズボンにくくりつけていた金貨袋はもちろん、諸々の道具や武具まで持っていかれているため、論外なことですら出来ないのだ。


「なぁ魔王、僕は人間を滅ぼしたいから力を貸してくれないかなぁ」

「ていうかお前は誰なのだ!城は燃えているし、お父さんは死んでるし!もう訳がわからないよ!」


魔王の言葉に理解が追い付かず、きょとんとした勇者。

しばらくして声をあげて笑いながら答えた。


「あはは!それもそうだね。僕はアキラ・カミヤ。君の父親を殺した『不死の勇者』だよ!」


聞いた途端、不死の勇者という天敵に捕まっているという現実を知り魔王は絶望のあまり涙を流した。


そんな魔王を連れて魔王城から離れ、樹海の中、アキラは焚き火の前で魔王から奪った結晶体をつまみ上げ、眺めていた。


「ふーん。ダンジョンコア、ねぇ」


「うむ。超高密度の魔力の結晶体である。父上から授かるはずだった大事なものなのだ。だから返して」


「だめ」


一言で拒否された魔王はショボくれていた。

魔力とは、ある種の万能エネルギーである。

それと同時に汚染物質でもある。

魔力の溜まり場には本来の生物は生息できず、逝き絶えるか魔物へと変貌する。

逆に魔物にとっては非常に心地よく、食事の代わりにもなるため集まるのだ。


気体だったり固体だったり液体だったり、形状はさまざまだがそれらは地中深くに存在し地殻変動により地上に露出する時がある。

そこには魔物が集まるため天然のモンスターハウスやダンジョンが出来上がるのだ。

それの濃度が高い結晶体を持つのは流石は魔王といったところだろう。


その魔王は勇者から取り返すのは無理と判断し回収は諦めた。

 

「で、勇者よ。どうするのだ?」


『私は非常にワクテカでございます。』






「・・・んん!?」

アキラでも魔王のでもない第三者の声が聞こえ首を傾げた。

成人女性のような落ち着いた雰囲気の声だ。

が、そのような声を発する人物はこの場にはいない。


『お探しのご様子ですが、貴方の手の中ですよ。』


「は?え?」


アキラはダンジョンコアを見る。


『改めまして、こんばんは。私はダンジョンコアでございます。ご子息様の教材でございます。』


「え、どゆこと?」


アキラは思わず魔王を見た。


「我はダンジョンコアを用いて人工のダンジョンを作るのだ。父上は我にダンジョンを通して魔王軍の運用を学ばせたかったのだ。」


『私は周囲の魔力を吸収し成長致します。状況から察するにお困りのご様子、つきましてはダンジョンを作ることをお勧め致します。』


「どうゆうこと?」


『察しろ♪』


「無茶いうな」


ダンジョンコアがいうには、コアがダンジョンに根付くと魔力を消費して召喚が行えるそうだ。


召喚といっても創造に非常に近いようで、多用は出来ないようだが。


が、この召喚、無機物も可能なのでダンジョンの中でも文明的な生活が送れるようだ。無論衣服の召喚も可能である。

そしてなにより洞窟を見つけコアを根付かせダンジョンにすればそこは住み処に出来る。

つまり衣と住の問題が解決するのである。



「よし、作ろうダンジョン!」


アキラからしてもこれはチャンスである


『では当初より予定していた地点へのジャンプを行います。魔王様よりご子息様への最初の拠点として思案されておりました地底湖へと向かいます。尚、出口はありません♪』


「はぁ!?」


「冗談じゃないぞ!?」


思わず立ち上がり声を張り上げるアキラと魔王

そんなところに放り出されるなんてとんでもない。


『拒否権はありません!』


そう聞こえた瞬間、視界が変わった。

焚き火の強い灯りは消え、淡い光が現れた。

周囲は壁、目の前には巨大な湖があった。

至るところに生えている苔が発する光により視界は確保できた。


「ちていこだー」


「って本当に出口無いし!」


『ああん』


魔王は棒読み、アキラは手の中のコアを地面へと叩き付けた。

その際の音と声に反応してか、湖が揺れた。

湖から這い出してくる液体。

ゼリー状の身体を持ち半透明なその奥に丸い物が見えた。


スライムである。


「わー、スライムだー」


「雑魚じゃん。・・・ん?」


スライムの出現は収まる様子はなかった。

十匹、二十匹とどんどん増えていく。


「いや多いよ!?」


アキラ、思わず突っ込んだ。『安心してください。彼等に敵対の意思はございません。』

コアの言う通り、現れたスライムたちはアキラ達を確認すると大半は湖へと戻り攻撃を仕掛けては来なかった。


残りも近くの苔を体内に取り込むだけだった。


「いや無関心になるのもどうなの!?魔王と勇者が来たんだよ!」


「それよりも出口のほうを考えるべきと我は思うのだが」


魔王に言われ、より絶望的な現状を再度認識したアキラ

地下なのは間違いはないが、深さはわからない。

適当に掘り進んだら水源に当たり、この場が水に満たされ溺死、なんてなるのは勘弁である。

そもそも素手で掘るのも嫌だ。


「魔王は何か案ないの?」


「うーむ。ストーンスライムが居ればなんとかなるのだが」


「なにそれ?」


魔王曰く、ストーンスライムとは本来液体状の身体を持つスライムが石を補食し、硬い岩石の身体を持つスライムのこととのこと。


それがいれば穴掘りも自在になり、さらに元々スライムは水場を察知するのでより安全に地上への出口を作ってくれるらしい。


「だがいくらスライムが雑食とはいっても食べ物ですらない石を食うなどゲテモノ食いもいいとこだ。勇者たるアキラが知らなくても無理はないほどに希少なの「要はスライムに石を食わせばいいんだろ」え?」


説明を受けていたアキラは笑顔で近くのスライムと拳大の石を掴んだ。

その様子に魔王は嫌な予感を感じていた。


「なにをする気だ。おいまさか!」


魔王が問いかけた瞬間だった。


アキラは石をスライムに叩きつけるが如く押し込んだ。


「ピュァァァァアアアア!?」


全身を激しく動かし、悲鳴をあげるスライム。


「どーした!僕の石が食えないっての!?」


「いやだから本来食わないぞ!?鬼か!」


しばらくして気絶したのか、石を体内に入れたままぐったりしたスライムが地面に放置されていた。

身体が薄汚れたように茶色になっている。


『進化始まりましたね。あと先程の拷問により他のスライムが勇者の傘下に加わりました。』


「え?」


言われて湖のほうを見るとスライムたちが身体を地面に擦り付けていた。

土下座しているように見えなくもない。


『スライム、アクアスライム、そして先程から進化しつつあるストーンスライムが今の傘下です。指示を出せば従いますよ。』


「そう、ならスライム達、地上への道を作ってくれ。」


「「ぴー!」」


スライム達は一斉に鳴くと、あちらこちらと飛び跳ね始めていた。


「・・・僕らは少し寝るか。そう言えば夜だったし」


「地面でか。仕方ないか」


魔王はため息をつきながら寝転がり、身体を丸めて瞳を閉じた。

対してアキラは壁に背を預け、座った状態で睡眠の体勢を取る。


そしてこれならのことを考えながら睡眠についた。



翌日、かどうかはわからないがアキラが目覚めるとスライムが五匹、目の前にいた。

四匹はアキラもよく知るただのスライムだが、一匹だけ透明度が高くほんの少し青く見える。

それに比べると他のスライムはより青く濁っているように思えた。


『なるほど、唯一のアクアスライムである彼がここのリーダーだったようですね。あなたに話があるようですよ。』


「なんかもう色々聞きたいんだけど後回しにするよ。で、なに?」


「ピーピーピー!ピーピーピー!ピーピーピーピーピーピーピ!」


「なに言ってるかわからないから」


「ぴゅーぃ・・・」


「なにこれかわいい」


しょんぼりとして縮こまるアクアスライムに思わず萌えているが、このままでは話が進まないとコアが通訳をした


『魔王ルシフェル様討伐の件、同族より聞き及んでいます。もちろん人間達の様子もです。死んだとされる不死の勇者たるあなた、そして魔王様のご子息様が我々の前に現れたのもなにかの縁。トップのあなたに自分の名をつけて頂きたく存じます。つきましては我が群共々あなたをマスターと認め、全身全霊をかけて仕えさせて頂く所存です。』


「待って!三三七拍子の鳴き声にそこまで意味込められていたの!?」


流石に我慢ならなかったのか、驚きを込めて叫んでいたアキラだった。


『で、どうします?』


だが、突っ込みは流された。


「う、うーん。いやどうなるの?」


『ダンジョンコアを介しての名付けは一種の魔術、並びに契約となります。場合にもよりますが上位の魔物へと進化することもありますね。ただ単に強化されるというだけもありますが。デメリットとしてはその結果、マスターより強くなり反逆される場合もあることですね。』


コアの説明に納得するアキラ。


魔王を倒したアキラにとってはそんなデメリットはないも同然だった。


「いいよ。名前を与えよう。『アスラ』なんてどうかな?」


「ありがとうマスター!」


「・・・とりあえずもう強化されたみたいだね」


いきなり少年とも少女ともわからない中性的な声でしゃべり始めたアクアスライムことアスラに苦笑しつつも立ち上がるアキラ。


「さてと、なにか食事になりそうなものを探さないとね。あまり期待出来ないけど」


辺りを再度見渡しても一部奥行きが増えている以外にやはり苔と湖、スライムしか見当たらなかった。


奥行きのほうは岩のようなスライム、恐らくは完全に変化したストーンスライムが跳ねているのが見えるため彼?が頑張った結果だろう。


『ふふふ、それについては私からも提案がございます。というかまずはお願いがあるのですが』


「なにさ」


『土に半身埋まってる状態から出してください、お願い致します!マスターと認めますから!』


地面に叩きつけられて以降、ずっと半分埋まっていたコアの悲痛な叫びが木霊した。


「認めたくないの?」


『当たり前です!我等の魔王様を討った敵なんですよ!それを所有者(マスター)と認めるなど、悔しいです!』


問いを投げたアスラに本音をぶつけるコア。


そんなコアをアキラは表情を浮かべることなく持ち上げた。


アキラにとってはコアの言い分もわかるのだが、正直どうでもいいことだった。人と魔に二分された世界で双方から敵意を持たれる存在なのだから。


それを暴露されたとしてもなにか変わるわけでもない。



「はい、これでコアは僕をマスターだと認め、味方になった。でいいよね。」


『え、あ、はい』


言葉と共に向けられた笑みにコアは思わず戸惑っていた。


攻撃的な笑みとか目の奥底が笑っていないとかではなく、純粋に嬉しそうに笑っているのだ。


言動から味方が増えたことが嬉しいのだろう。


あ、と言いそうになりながらコアは気づいた。


この勇者も結局は人なのだと。



人は群れを為す生き物で、孤独では生きていけない。


そもそも生き物である以上番を求めるのは必要であり、コミュニケーションが必要不可欠なのだ。


が、この勇者は同族に疎まれている。孤独なのだ。


だから他種族とはいえ群れることが出来る味方が出来たことが嬉しいのだ。と。







「我、蚊帳の外だ。」


起きて気がついたら感動的な場面らしきものに遭遇した魔王。


ボソリと1人寂しく呟いた。

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