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不死の勇者の後日談  作者: 歪
第一部 始まり
3/20

第二章 終わって始まる

なんてことで終わることはなく、勇者は目を覚ました。

身体を起こし、辺りを見渡す。


あるのは魔王の死体のみ。


「生きて、いや、生き返った、のか・・・?」


自らが生き返ったことに信じられない勇者。

『不死の勇者』という通り名を持つ自らの能力は理解している。


死をトリガーに超再生が起きる不死能力。


頭を吹き飛ばされても、心臓を吹き飛ばされても、死ぬことが出来ない。

神により祝福として渡された呪い。

使用期限は魔王の命が尽きるまでだった。

自分が生き返ることこそ、魔王がいる証明。

が、魔王は今ここでその命が尽きて倒れている。


「あれ、本当に『僕たちの戦いはこれからだ!』だったのか」


勇者はそう呟き能力の矛盾に悩んでいたが、しばらく茫然としていたが突然顔を歪めて笑い始めた。


「あははははは!」


勇者は壊れたように笑っていた。


「痛かったなぁ。ゼル、スズカ、アルガ。痛い、痛い、痛い。心が、心がね。痛いよ。ふふ。壊れそうなくらいに痛いなぁ。これはもう仕返しするしかないよね。神様に遣わされた勇者を裏切るなんて、ダメだよね。壊してもいいよね。うん。」


独りで話し続け、なにかを決心した勇者は立ち上がり、辺りを探し始めた。


「魔王城なんだし、なんかないかなー。」


意味もなく辺りを破壊しながら歩き回る勇者。

玉座を蹴り飛ばし破壊すると、隠し階段を見つけた。


「ほう」


勇者は嬉しそうに笑うとその階段を降りていった。

躊躇なく進んだのだが、中々終わりが見えず、勇者は若干後悔し、戻ろうかと思い始めていた。

先程いたフロアは階段を何度も駆け上がった先の魔王城の最上階に位置するだろう。

正確に数えた訳ではないが登った段数と同じくらいは降りた気がした。

そしてその倍は降りたと思う頃、ようやく階段の終わりにたどり着いた。

そこにあった鉄製の扉を勇者は蹴り飛ばした。


一撃で歪み、留め具が壊れた扉はその向こう側の本棚に突き刺さった。


「ひぃ!?」


「は?」


勇者は悲鳴と共に目の前に現れた部屋の内装を見て困惑していた。

その部屋は所謂書斎であった。

壁一面に中身がみっちり詰まった本棚が並び、中央には机と椅子があり、小さな幼子がしがみついていた。

勇者が察するに勉学に励んでいた彼の真後ろを勇者が蹴り飛ばした扉が通過したようだ。

完全に怯えられてしまっている。


「君は誰だい?」


勇者が問うと少年は泣きながら答えた。


「わ、我は魔王「はぁ!?」ごめんなさいごめんなさい!殺さないでぇ!!!」


が、途中で叫んだ勇者の声に遮られた上に号泣し、命乞いを始めた。


「くくく、あはは!そうかそうか、そういうことか!」


対して勇者は実に嬉しそうに高笑いをあげていた。

自らがまだ不死であることの理由も推測できた。

恐らくは魔王という存在があの倒した奴からこの小さな幼子に写ったのだろう、もしくは元々本来の魔王はこの幼子だったのだろう。

今頃、人は魔王と勇者を葬ったと思っているであろうが結局は両者ともに生存。用済みにされたが、何も片付いてなかったのだ。

あまりにも滑稽すぎて勇者は笑いが止まらなかった。

しばらくして泣いていた魔王がきょとんとしているのに気づくと勇者は彼を右手で抱き上げ抱えた。

人として生きるために捨てるはずだった不死の力。

新たな目的のためにはまだ必要だ。

他に魔王がいるという確証がない以上、彼の保護は能力の維持のためには必要だった。


「君は僕のものだ。いいね?」


「い、いやだ!」


「拒否権があるとでも?余程死にたいようだね」


魔王が拒否の言葉を口にする途端、勇者は殺意を込め目を細めて睨み付けた。

ついでとばかりに己の身体に押し付け、腕と体で圧迫し動かないように威圧する。

効果はあったようで魔王は赤面し顔を背けた。


(赤面するほど、己の無力を恥じるくらいはするのか。まぁ暴れるよりはましかな)

勇者は魔王の反応に納得しながらも、階段を登っていった。


「お父さん!?」


先ほど勇者が戦っていたフロアに戻ると勇者が倒した骸に叫ぶ魔王。

その件について勇者は問いただしたいところだったが、今はそれどころではないようだ。


部屋の至るところから火の手が上がっており、熱が襲いかかってきている。


「あいつら、火までつけるかね!?」


かつての仲間のせいと決めつけ憤慨する勇者。

城にいた魔物は全て皆殺しにしてきたのだから他にする奴はいない。

よってそれしか考え付かなかった。

火の手はだいぶ強いのだろう。すぐに魔王は弱り、勇者も肌が焼かれるのを感じていた。


「このままはまずいね」


勇者はすぐさま、まだ無事なカーテンを剥ぎ取り、魔王を包んだ。

これで多少、直接的な熱は遮断できるはずだ。


「ま、待ってほしい。あれを!」


「は?」


包まれながらも骸から浮かび上がってきた八方形の結晶体を指差す魔王。

先程まではなかったはずだ。


「なんだかわからないが・・・!」


勇者は結晶体を掴み、魔王に渡すと、急ぎ脱出へとうつった。


赤く燃え盛る城、窓という窓から炎が吹き出し、城主が集めたであろう、調度品も灰へと消えていく。

異常な熱気の中、布にくるまれた魔王を抱えた勇者は鋼鉄の扉を蹴破り、城の外へと飛び出した。

短く、乱雑に切られた髪は先が焦げ、戦闘時の出血は青い簡素な生地の服の大部分を赤黒く染めていたが、その熱気によりもう乾いてしまった。


勇者は布ごと魔王を地面に叩きつけると布の中から痛みを訴える声が発せられた。


「ああ、あ」


魔王は燃え盛っている城を見て涙を流し始めた。

嗚咽を上げ、泣き出す。


「うるさいなぁ。絶望的なのは僕もだし、こっちだって泣きたいつーの」

「お前のせいだ!勇者!」


魔王は泣きながら悲鳴のように叫んだ。


勇者はふと皮のズボンにあるはずの荷物を確かめるが、そんなものはない。

服以外のものはない。


その服も胸の中心に穴が開き、素肌が覗いていた。

指先でそれを触り、忌々しげに呟いた。


「まさか、人間に、仲間に裏切られるなんてね。」


勇者の目には城の火が反射するばかりではなく、その奥底で恨みの炎が燃え上がっていた。


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