第零章 Last Battle
魔の大陸。
その中心にそびえている巨大な城から轟音が鳴り響いていた。
人類種の宿敵にして、魔族と呼ばれる人ならざる人種
魔王ルシフェル
人類種の十倍はあろうかという巨体、黒く輝くおぞましいながらも美しい六対の翼、三対の腕、二対の脚、八ツ俣に別れた蛇のような尾、そしてドラゴンを思わせる爬虫類のそれのような顔。
目の前の『敵』を見るなり、尾の蛇を向かわせる。
『敵』はまず一撃をその白銀の盾で防ぐも、背後に回られた一撃により天上まで吹き飛ばされ、四匹の蛇により四肢をかじられ引き千切られる。
が、その瞬間より千切られたはずの両腕、ないはずのそれを魔王に向け、雷を放った。
雷は両腕をかじった蛇の頭を吹き飛ばし、白銀の剣、そして盾を宙へ飛ばさせる。
「こい!」
『敵』がそう叫ぶと剣と盾は持ち主の元へと飛来し、その手の内へと戻る。
「はぁぁぁぁぁッ!」
叫びと共にそいつは全身に雷撃を纏い始めた。
雷撃は徐々に増し、魔王は嬉しそうに笑う。
「そうか、ようやく使う気になったか!勇者!」
何度殺しても死なない目の前の勇者。
人の神に祝福され、人の王に選ばれた存在。
中でも目の前のそれは異質である。
何度殺しても殺す度に万全の姿に戻る、瞳の奥が暗く淀んだ勇者は幾度も自らの雷撃を武具に貯めていた。
神に魔王への戦いを強要された憐れな存在。
魔王を倒さぬ限り、即座に命を与えられる、祝福という名の呪い。
絶望しても終われない。
魔王討伐という偉業を以て人類に認めて貰えるか、呪いをその生を終えるのか。
「勇者よ!その一撃を以てして我を撃ち倒すか!」
その問いに言葉ではなく、胸への剣が、そしてそれを介して放たれた雷撃が返ってきた。
内側なら焼かれる初めて感じる激痛。
思わず天を仰ぐと口からその雷撃が漏れ、天井を貫き、空を掛けて遥か向こうの月の表面を打ち砕いた。
どれほど溜め込み、ここまで収束させたのか
「見事・・・!最後に良きものを見せて貰った!」
魔王は自らの胸に剣を突き立てた勇者を見つつ、ゆっくりと後ろに倒れながら意識を手放した。