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第76話 痕なき傷のなめあい


 前哨戦が終わった後、ルナは部屋に引っ込んだ。

 他の戦闘メンバーは医務室へ叩き込まれた。外ではまだ戦いの余熱が冷めきっていない。まだ全員が帰投してから1時間も経っていない。熱はむしろ焦げるほどに高まりつつあり、まだ本番までには時間があるから疲れてしまうのではないか。そんな考えをできる余裕はルナにはない、今はまだ。


 仲の良い者たちは集まって浮かれている。さすがにアルコールを飲み出す馬鹿はいないが、それも警戒態勢が終了して勤務時間が終わるまで。

 まあ、しかし今は昼前だから時間があるのだが。


「……大丈夫?」


 ルナがアルカナに聞く。他のみんなは箱舟に帰ってもらった。数の暴力で圧殺したので、傷ついたのはアルカナだけだったから。

 もちろん、ルナは自分も魔術でずたずたにされたのはきれいすっぱり忘れている。実際にはダメージを食らったのはアルカナとルナである。


「ふふ、問題ない。ほら、な?」


 アルカナはぺろりと服をめくって真っ白なおなかをルナに見せてやる。そこは再生不可の法則を乗せた剣に貫かれた場所だ。ルナは顔を赤くして、でも目を離そうとはしない。

 二人ともベッドの上にいる。さらにここはルナの私室であり、団員は入ることはできない。というか、他の団員にはそこは避けられている場所だ。まあ、この三人は馬鹿でも百合っぽいと分かるのでそんなところに入る勇者はいない。さもありなんといったところだが、なんとも怪しい雰囲気が漂っている気配がしている。


「うう……ごめんね。でも、アルカナがかばうことなかったのに」


 二人きりの空間。誰かに邪魔されない場所で、二人は触れ合うほどに近いところにすわっている。ルナはごくりと唾をのんで。


「わしはルナちゃんが傷つく方が嫌じゃな。ほれ、触ってみるか? もう痕も残っておらぬよ」


 ルナはちょっとだけためらってから、おずおずと赤ん坊のような――つい1時間前に生まれた肌を触る。人間とは比べ物にならないすべすべとした肌。そもそも生きていく上でこうむるダメージなど彼女たちにはないのだ。人間とは違って。


「うん、残ってない……ね。よかった」


 顔を赤くして、まださすっている。明らかに傷跡を確かめる以外の目的で触っている。というか、ルナはアルカナと同じ方法で治したのだから、自分に傷跡がなければ彼女にもないのは当然である。


「ああ、そうじゃな。ルナちゃんの方はどうじゃ?」

「……僕?」


 こくりと首をかしげる。自分が傷を受けたなんてどうでもいいことは完全に忘れてしまっている。自分というものには無頓着。それはルナの仲間と部下にも共通する特徴だろうが。


「ルナちゃんとて傷を受けていたじゃろ? ほら、他の皆も怒ってあの塵屑どもを喜び勇んで血祭りにあげていたじゃろうが」

「え、そうなの。……ああ、そういえば僕も喰らってたね。あまり攻撃は喰らわないようにしておいた方がいいのかな? 皆、心配してくれるみたいだし」


 ふふ、と笑う。心配してもらえるのがうれしいといった様子。この幼女はそういうのに気づかない。自分と心配などというのが無縁だと思っている。

 ただ遠いものと――別に自分が完ぺきと思ってるわけでもないのに。もしかしたら、転生前にそういうのに触れてこなかったからか。


「ルナちゃんは戦場に突っ込む癖があるから、わしとしては気が気ではないんじゃがの」


 やれやれ、といった顔をする。

 アルカナとアリスには立ち位置に違いがある。例えば、コロナと組み手を――それこそ災厄ですら粉みじんにする威力で殴り合っているが、装備も本気なので傷もつかない遊びだ。そんな遊びをアルカナは保護者のごとく見ているが、アリスは見ない。

 ルナが殴られるのは見ていることさえ嫌なアリスと、ルナが楽しめるならそれでいいアルカナ。まあ、どっちも心の底からルナのことが好きなのだが。


「んー。でも、あれほどの傷をもらったことはないはずだよ。この世界の攻撃ならほとんど完全にアーティファクトで減衰できるし」

「ま、そこらへんはわかっておるよ。じゃがな、それでも心配じゃ」


 アルカナが手を伸ばす。この会話中もずっとルナはアルカナのお腹を撫でていたが、邪魔しないようにゆっくりと。そして、軽く肩を押す。


「……なぁに?」


 ルナは押し倒されるままベッドに寝転がる。手はベッドの上に投げ出されて、まるで――いかがわしいそれの直前のような雰囲気。


「ルナちゃんの玉のお肌に傷がないか、確認しなくてはの」


 ルナのひらひらの服をアルカナが手際よくはいでいく。几帳面にも衣服をたたんで横において。ルナは下着だけのあられもない姿になる。


「ぅん……あ……ね、アルカナ。優しくしてね?」


 ルナはもう力を抜いて、されるがままだ。


「くく、そうじゃの。優しく調べてあげる」

「ひゃ……んにゃ……っきゃん!」


 羽根のように優しく触れる。むしろくすぐったいような感覚がルナを襲う。耐えるようにベッドのシーツを握りしめる。


「うひ……ひひひ」


 などと怪しげな声を出しながら好き放題にルナの体を触る。ベビードールがはねて、ブラのしてない胸に汗が浮かぶ。びくびくと腰がはねる。


「ん……ふあ……あんっ」

「くく、ここがいいのか? ルナちゃん」


 ルナは顔を真っ赤にして目をつむって、アルカナは好色な笑みを浮かべている。一通り、以上にべたべたと触られて。


「ん……だめ……」


 ルナがそう言って、アルカナが反射的に手を離したすきにくるりと体勢を入れ替える。乱れに乱れて、裸に近い格好になって腹に上にちょこんと座る。


「ふふ。僕ばかりやられるのは不公平だよね?」

「なら、わしはどうされてしまうのかの?」


「じゃあ、まずは僕と同じ格好になろうか」


 服を脱がす。

 女同士とはいえ、慎重さがある。しかもアルカナはある程度強引に脱がしたのに、ルナの方は何だか変なところで遠慮するから時間がかかる。

 脱がせやすいように少し体勢を変えたり、ルナをのっけたまま腰を浮かしたりしても時間がかかる。


「けっこう、大変だったかな。アルカナ、おおきいもんね」


 この場合、身長を意味するだろうがルナはある一点を見つめている。


「ふふ。これもルナちゃんのだから好きにするといい」


 身に着けるものがパンティだけになっても恥ずかしがる様子はない。むしろ、それを見てるルナの方が恥ずかしがっている。まあ、目は離さないのだが。


「……んぅ」


 ルナは熱に浮かされたような眼でアルカナを見る。そして、アルカナはそれを妖艶な笑みで受け止める。


「おいで、ルナちゃん」


 そういって肩をつかんで、引き寄せる。


「……ちゅ」


 と、キスをして――そのまま。かぷかぷとじゃれあうみたいにキスを重ねて。


「……ねえ、アルカナ。アルカナは僕のこと、心配してくれたんだよね?」

「ああ。わしはルナちゃんのことしか見ておらぬよ」


「ふふ、ありがとうね」

「くふ、当然じゃよ。わしらは、終末少女であろ」


「うん、みんなでずっと一緒にいようね?」

「ああ――わしは永遠に御身(おんみ)のそばに」


 夜になるまで、ずっといちゃいちゃしていた。


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