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第73話 正義の味方・太陽善良


「――畜生……ッ!」


 男が砂漠を叩く。砂が舞う。女がその肩を優しくたたいた。

 ……見た目麗しい女が4人ついているという羨ましい野郎である。ちなみに、全員が見た目麗しい巨乳である。ルナのような幼女趣味はないらしい。


「善良は悪くないよ。悪いのは、みんな【翡翠の夜明け団】のせいだから」


 すごい押し付け具合だが、しかし砲弾をぶち込んで死山血河を築いたのは夜明け団なので間違ってはいない。もっとも秘密結社の最重要拠点に軍勢を率いて向かえば、そうなるのも当然と言えるがまあそれはそれとして。


「けど……! けど……! あいつら、悪魔どもめ」


 本気で悔いている。ように見える。仲間を助けられなかった、ごめんなさい――と。実際のところは自分の身を守るので精一杯、と言った感じだった。その様子に嘘はない。


「ふむ――あなたたちですか。しかし、これはどう考えればいいのでしょうね」


 現れたのは砂漠に場違いな外套を着た男だ。

 どことなくキザな雰囲気を漂わせて、砂漠だというのにそのフェドーラハットにすら、砂ぼこり一つついていない。きっちりと決まっているスーツも言うまでもなく。


「お前は……!」


 今気づいたかのように振り向く。5対1、数の上では優勢である。だが、それがなにか? 相手は魔人、数の上の有利など何の意味もないことは善良と呼ばれた男も分かっている。


「隙だらけで、どこから攻めていいものか逆に迷ってしまいます。それに、強化人間と言うのはどなたです? あの人の言うことには一人のはずですが――全員、普通人のように見えますね」


 とぼけたようなこの魔人は武器も持っていない。

 だが、それで警戒を解くことなどできるはずがない。この男がきらびやかな都市に居れば、むしろ埋もれてしまうかもしれない。けれど、ここは砂漠だ。……場違いにもほどがある。


「みんな、気を付けろ。あいつ、あんなんに見えても魔人――のはずだ」

「やれやれ、これでもれっきとした改造人間なのですが。それに、その言葉には悪意を感じますねえ」


「……来るぞ!」


 それぞれ武器を構えて向き合う。


「我々は技術を積み重ねて錬金の秘奥に至った。魔力に侵された魔物モドキといっしょにしてほしくはないのですよ!」


 ぐい、と何も持っていない腕を動かした。ザバ、と後ろから音がする。鋼色の牙が口を開ける。武器が砂漠の中を潜って奇襲してきた。


「――え?」


 そして、それが襲ったのは斯波区々という取り巻きの女の一人だった。今、そいつと向かい合っている善良ではない。

 向かい合っている敵を無視して、女から狙う……卑劣な戦術だった。


「貴様!」

「油断大敵。まず一匹」


 砂ほこりで薄汚れてはいるが、取り巻きの女たちはみな戦場には似つかわしくないほどに美しい。とりわけ、狙われたそいつは――むしろ深窓の令嬢、図書館にでもこもって本を読んでいるのが似合いそうな文学少女は美しいだけでなく”かわいらしい”。女としての妖艶さと庇護欲をかきたてられるような無邪気さが同居している。


「やめ……!」


 反射的にかばった細腕を食い破られた。とても武器など握ったことがあるようには見えない白く美しい腕が、砂漠に打ち捨てられて砂まみれになる。


「――む。殺せたと思ったのですが」

「貴様ァ! 相手は、この俺のはずだろうが」


 激高した善良が剣を振りかざす。技量などない素人の剣だった。ただ力任せに殴りつけるだけのそれは、しかし、その威力は強力だ。


「……はっ! 雑魚が――」


 斯波区々を襲った獣のアギトのような武器、その逆の鎖にはつながれた小刀がある。魔人はそれを暗器のように隠し持っていた。

 それすら使わずに顔面を蹴り飛ばす。強い武器も当たらなければ意味がない、善良の剣はかすりもしていない。


「善――」


 一番近い奴に小刀を飛ばす。胸に突き刺さり、反対側まで貫通する。


「おい、善良。煤? なに、倒れてんだ……?」


 鮮やかな手管に我を忘れ、立ち尽くすそいつの胸を鋼色のアギトが食い破り――


「終わりですね。我ら夜明け団に逆らう愚者ども――」


 最期の一人の心臓に向けて、強烈な蹴りを叩き込んだ。美しい女相手に遠慮の一つもありはしない。人間であれば完全に殺せた一撃だったし、その手ごたえもあった。


「さて、あの人に終了を告げないと――」

「待てよ」


「……」


 振り向いた。なぜ? と思う。確かにあの男は顔面を蹴りで凹ませた。殺し切れなかったかもしれないが、しかし意識を取り戻せる程度の手ごたえではなかったと疑問に思う。


「よくも、やってくれたな……! みんなを――」

「やれやれ、襲撃しに来てやり返されたら恨み言ですか。まったく、あなた方のやることはよくわからない。適当に意地張って、喧嘩を売り歩くのがあなた方の使命……生きる目的とでもいうのですかねぇ」

 

 まあ、いい。とどめを刺せばいいだけだと結論して。


「させるか……! 区々も薫子も煤も東湖も――絶対に殺させやしない。俺が守る。皆も、世界も――ッ!」

「ふふ。愚かですねえ。全員とは言いませんが、すでに一人か二人は死んで……なッ!」


 立ち上がる、4人とも。血を流しながら、それでもなお――死んではいない。どころか、両腕を失った斯波区々が回復魔術でそれぞれの傷を回復してしまう。

 回復魔法では、死人を生き返らせるなどできないはずなのに。


「やるぞ、みんなァ!」


 それぞれの科白(セリフ)で応え、魔人に向かってくる。理解不能だ。なぜ向かってくる? なぜ立ち向かえる? そんな疑問をイディオティックは得て。


「思えば、人間との交戦は初めてです。無意識に手加減してしまったというのがオチでしょう。ならば、次は手加減などしない!」


 真正面から5人を叩き潰した。

 銀の牙と小刀を鎖で結んだアーティファクト『クロスルーン』の本領を発揮させたのだ。生きているように動く牙、そして鍛え上げた五体でもって急所をぶち抜いた。

 そう。今度こそ、確実に殺したはずだった。


「それで……勝ったと思うなよ――」


 それでも立ち上がる。気配が強くなる。


「……ッ!」


 なんだ、こいつら――そう思って。


「俺たちは諦めてない!」

「ふざけるな! お前たちはもう……倒しただろうが!」


 なおも立ち向かってくる5人を叩き潰した。だが、ああ。なぜだ? 強くなっている。こちらに対応した、ということではありえない。虚と実を織り交ぜた魔人の攻撃にこいつらは全く対応できていないのに。


「……まだだ!」

「なんだ、こいつら――ッ!?」


 まるで、戦いの中で成長しているような。そう思って。とはいえ、技術ではない。それは訓練して得るものだ。”強力になっている”、しかも全員が。殺したはずなのに起き上がってくるのも能力のうちか? だが、これは――どんな能力だ……?


「お前たちみたいなのがいるからァッ!」


 また、立ち上がる。回復魔法を使う女は何度も念入りに殺した手ごたえがあった、のに。なにかヤバイ。こいつは確実に殺さなければ、と思うが実際には何度も殺している。

 そのためには心臓を抉って捨てる。いや、それでも殺せないだろう。ならば。


「……頭をもらいます!」


 トップスピードを出した。決して奴らには捉えることもできないはずの早さだった。最初の攻撃の速度についてこられなかったのだ。

 未だ破られぬルーンクロスの連携攻撃を破られた時のための切り札。対応できるはずがない。


「調子に――乗るなァ!」


 合わせた。今、初めて見たはずのこの速度に喰らいついてつばぜりあう。


「馬鹿……な……」


 一瞬、呆ける。このイディオティックはルナの教育を受けている。痛みだろうが異常事態だろうが、考えることをやめるなと教育されているはずの彼の動きが止まる。呆然と、素人のように。


「ただついてきただけの”おとも”だなんて、思わないでくれる!? 【炎刀一閃】」


 その腕を来栖煤が焼き斬る。


「散々蹴っ飛ばしてくれたお礼を上げる! 【ウォーターバスター】」


 その魔術が、イディオティックの腹を文字通りに潰して抉る。攻撃を受けた腹は、左に三割ほどしか残らなかった。彼はぐらりと上半身だけが傾いて。


「どいて、善良。跡形もなく吹っ飛ばす! 【サイクロン・ブラスター】」


 伊藤東湖の極大魔術の詠唱が完了した。全てを切り刻む風が分子レベルにまでずたずたにする。魔人の身体と言えど、死を免れない損傷だった。


「――やったか!?」


 仲間の魔術をかわすために飛びのいた善良が叫んだ。




 この段階で彼の能力を推測できる人はなかなかいないと思います。最上クラスのチートで、もちろん前話の4人と同様に使いこなせていません。

 ちなみに、ルナがあげた自動ポーションは不具合で使えなくなっている状況です。回復できませんね。ピンチです。


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