5万PV記念 『おさけ』の後日談
「……ッ痛!」
頭に走った痛みで目が覚める。頭を金づちで叩かれているような感覚。……これ
「二日酔い……まさか、終末少女になってまで、そんなものになるなんて、ね――」
僕は人間よりも強度が高いはずなのに、どれだけあの酒は度数が高かったんだ。そう考えて、一度頭をリセットしようと思って、手に触れた柔らかい感触に昨日のことを思い出す。
「――あ」
さあ、と血の気が引いた。
「あう……あ……ああ……あああ」
昨日のこと。……アリスに、あんなことを。キスどころか最後は、口移しをしようとまで。やばい。あんな幼い子に何をしたんだ、僕は。酒に酔って、気が大きくなって好き放題してしまった。
「くぅ……ううん」
アリスがかわいい寝息を立てる。手がアリスのおなかの上に乗っかったまま。そうか、柔らかい感触はおなかかと思って。
「……あ、アリス――」
唇がやけになまめかしく見える。……吸いつきたくなる。
「って、また何を考えているんだ、僕は!?」
また、こんな。汚らわしい欲望を。そもそも、アリスをはじめとして終末少女は僕に逆らえない。本能に刻み込まれているのか、そもそもプログラムに刻まれた制限なのかは知らない。けれど、あの子たちは僕に逆らうということを知らない。命じれば、なんだってするだろう。そして、己が何をしているか知るほどに彼女たちは大人じゃない。無垢な子供のまま、どんな汚いことでもそうと知らずにやってしまう。
「だからって、こんな子に、そういうことをしていいというわけでも――」
ぎゅ、と手が握られた。……寝相?
「……アリス。ね、アリス。昨日、アリスはどう思った?」
さらさらの髪を撫でる。そう言えば、昨日はさらに酷いことしようとして、そのまま寝てしまったはず。キス、はやってしまったけど――口内を蹂躙してはいない。セーフ、なわけがないけれど。アリスが僕をここに運んで、そして、いっしょに寝ている。……それを命令はしていない。……けど。
「アリス。……アリスはどうしたい? 僕に、どうされたい? ねえ――」
柔らかなくちびるを指でなぞる。ぞぞぞ、と背中にいけない快感が走る。めちゃくちゃにしてしまいたくなる。
「……ルナ様。いっしょ」
寝言? アリスは僕の手をつかんで離さない。
「そっか。アリスは僕と一緒にいたいんだ。そう、思ってくれるんだ」
僕は、引き寄せられるようにアリスに覆いかぶさって、その小さな唇に口づけようとして――わずかに、我にかえって。
「……ッ!?」
肩を掴まれた。ぐい、と引っ張られる。柔らかい感触を感じて、そこだけが世界のすべてのような気がして。……固まってしまう。
「……ッ!? ッッン!? あ……ん……ふわ」
動けない。アリスの顔がすごく近い。目は閉じてる。でも、僕は自分の目を閉じることすらできなくて。目の前いっぱいに広がったアリスの顔。……頬を染めてる。
「くぅ……んん」
力が抜ける。押し倒すみたいにのしかかってしまう。肩の手は弱々しく、けれど僕をさらに引き寄せようとする。
「ひあ……あふ……くふぅ」
アリスの腕が僕を抱きしめる。……起きていた。そもそも終末少女は寝ない。そういうふりをしているだけ。
「くちゅ……ルナ様。ルナ様ぁ……」
ぐい、と引っ張られて位置を逆転される。僕がアリスにのしかかられる格好。親に甘える雛みたいに何度も口づけを繰り返す。
「……あ、だめ。アリス――そんなにやられたら、僕……」
僕は何か言おうとして、それも無視してアリスに口づけされる。
「ルナ様……アリスはルナ様とずっといっしょに――」
熱に浮かされたような表情で僕の唇をむさぼる。片時も離れたくないとばかりに、力を込めて――
「っあ。痛――」
「あ、ルナ様。ごめんなさい。アリス――」
ぱ、と体を離して顔を蒼くする。ふるふると震えて、親に怒られる子供みたいに。
「アリス。気にしなくてもいいよ。でも、とりあえず離してくれる?」
「うん、ルナ様」
「えっと、どいてくれると嬉しいかな?」
「……あ、うん。わかりました」
そ、と体を動かした。その顔があまりにも悲しそうで。
「アリス……アリスは――ずっと僕と一緒だよね?」
アリスの手を握る。
「うん」
にこ、とほほ笑んだ。それ以降は、事件も起きずただ一緒にいた。
そして――今は頭を冷やすために箱舟の外に出ている。
「あーあ。やらかしちゃったなあ」
見渡す限りの荒野。今の僕の気分にはふさわしいと言える。色々とやらかしてしまった。まあ、僕たちには申し訳なく思うような親なんていないわけだが。そもそも、生まれてから死ぬまであの姿だ。幼かろうと、それは姿だけ。
「そう考えれば、別に問題ない気も……そんなわけないか」
あの子たちの情緒は未発達だ。そもそも――まだ感情が目覚めてさえいない子もいるほどに。そんな子たちを立場を利用して好き勝手にするなんて、それはきっと許されないことだと思う。
「お悩みのようじゃな、ルナちゃん」
後ろから抱き締められた。何度もやられたから、さすがにもう慣れた。まあ、嬉しくないわけはないけれど。
「……ああ、アルカナか。ううん、これは僕が自分で始末を付けなきゃいけない問題だから」
いくらこの子が情緒の発達が著しいといっても、それでも――この子はまだ子ども。人格設定として、知識は多くダウンロードされていても、それはただの知識だ。経験ではない。
「それでも、ルナちゃんが悲しそうなのは、わしはいやじゃよ」
「アルカナは、どこまで理解してる? 喜び、怒り、悲しみ、楽しさ――どこまで知った? それとも、さらにその先もわかるかな。そう、世界と自分との関係も」
「喜び、怒り、悲しみ、楽しさ。われらの全てはルナちゃんのものじゃ。それ以外は知らないし、知る必要もない」
「そっか」
やっぱり、人を殺すことについても――何も思わない。邪魔な雑草を抜くように殺すだけ。知識を有してはいても、感情は未だに幼児レベル。
「なあ、どうすればルナちゃんは悲しまなくなる?」
「悲しみとはちょっと違うかな。それに、それ自体はそう忌避することでもないよ。喜びばかりじゃ、面白くないからね」
「……アリス、か」
「へ? あの子がどうし――きゃ」
いきなり手を掴まれて押し倒された。
「アリス。アリス。アリス。アリスばかり。ご主人はアリスばかりにかまう。ご主人はそんなにアリスが好きか? アリスのことばかり考えて。わしとて、ここにいるのに」
ご主人。前の呼び方。そう言えば、不自然だからやめてと言って、それからはルナちゃんと呼んでくれていた。僕としてはそっちの呼び方の方が好きだった。
「ま。待って、ねえ……アルカナ」
地面に押し付けられる。別に背中が痛くなるほどやわじゃないけれど。――動けない。しっかり組み伏せられて微動だにできない。別に、力技で抜けられないわけでもないけど。
「待たん。ご主人。ご主人はアリスと何をした? アリスに何をした?」
顔が近い。唇が触れ合いそうなほど。アルカナの欲情したかのような瞳が僕をとらえて離さない。
「え? そ、それは――」
「わしではダメか? アリスでないとダメか。わしとは、そういうことをしたくはないのか」
「そんな。別に、そういうわけでもないけど」
「わしの気持ちが迷惑なら、いっそ本体を砕いてくれ。ご主人の能力ならば、ここからでもわしの本体を壊せるはず。こんな気持ち、前は知らんかった。でもな、もう以前には戻れん。この気持ちをなかったことにもできん」
「アルカナ……だめ」
「こんな風に暴走してしまう。本当にだめなら、止めて。わしは、もう――止められん」
ぽたぽた、と涙が落ちる。
「……アルカナ。そんなに、悩んでたの?」
力を抜く。アルカナが壊れないように、けれど入れていた抵抗できるくらいの力を消す。
「ご主人。……好き。好きじゃ。でも――」
そっか。感情は子供でも、身体は大人か。少し、届いていないとは思うけど。それでも、この子は自分で選べたんだ。
「アルカナは、”愛”ってわかるかな?」
「ご主人? 知っておるよ、この気持ちが愛じゃ。ご主人の全てが欲しい。気持ちも、唇も、身体の全部。心の全部。すべて、わしのものにしてしまいたい」
震える瞳。自分を受け入れてもらえるかわからない不安。そして、完全に終末少女としてのおのれの領分を越えてしまったことに対する恐れ。
「そっか、アルカナは僕よりも大人だね」
体を少し起こして、アルカナのくちびるに、自身のそれで触れた。
「あ。……ご主人」
「欲しかったのは、それ? 僕も好きだよ、アルカナ。愛は知らないけど。でもね、僕は皆のことが大好きだよ。ここにいるみんなが、ね」
だから、好きにしていいよ。とアルカナにすべてを明け渡した。
「それでも、よいよ。こうしてくれるなら」
体を摺り寄せてくる。体は僕の方が小さいからすっぽり覆われるような形になっちゃうけど。
「アルカナは、そうなったんだ。なら、きっともう変わらないね」
情緒の発達。僕が思ってたのよりもずっと早い。それでも、大人とは程遠いけど。けれど、きっと僕だって大人じゃない。前世では、身体は大人になっていたけど。
「……くふふ。ルナちゃん」
「ひゃあ!」
服の中に手が入ってきた。
「ふふ。……すべすべ」
「きゃ、ちょっと! 変なところさすらないで。……ひあ! な、舐めないでよぉ」
「ひひ。ここか? ここがええんか?」
「アルカナ。さっきとはテンションが違い過ぎでしょ!? ああ、もう――変なところなめるな!」
「え~」
ぶーたれる。その間にも変なところを触ってくる。
「ああ、もう。そんなアルカナはこうしてやる」
力技で体勢を変えて、馬乗りになる。そこから唇を奪う。
「~~ッ!!」
アルカナは動きを止めて、目を閉じる。
「んちゅ。……くちゅ」
可愛いところもあるんだな、と思ってそのまま押し付けてくちびるの柔らかさを堪能する。
「ひゃ!」
なにか、ぬるりとした感触を唇に感じて、その隙に舌が侵入してくる。
「……む! くぅ……アルカナ、だめ」
背筋がぞくぞくする。肌が泡立って、頭が沸騰しそうになる。なにこれ、こんなに気持ちいいもの――僕は知らない。
「くちゅ……ん……んん……あ」
口の中をたっぷりと蹂躙されて、唇を放す。……唾液の糸が垂れて、アルカナの口の中に吸い込まれる。
「すご……かった」
「ふふ。ルナちゃんの口はおいしいな?」
「んん!?」
今度はアルカナから。腕を背中に回されてぎゅっと抱きしめられて、そのままキスされる。
「ん~。んん! ンンン!」
口を閉じると、舌で歯茎を嘗め回されてしまう。
「……は。んく」
ぐるりと回転されて、今度は僕が押し倒される格好。たぶん、若い女の子が幼女を押し倒すような危ない光景になってる。
「くちゅ。……ん」
唾液が、唇から垂れて、もったいないなと思って口を開くと大量の唾液が流し込まれる。溺れそう。
「……ん! んんん。ずちゅ。くちゅ」
それを飲み込んで、そしてまた口内を蹂躙される。舌を丁寧に舐められて、口の裏までなめられる。対抗して、舌をアルカナに差し込むと逆に舌の根元までなめられる。
「ふわ! ……あ」
唇が離れる。名残惜しいような、もう限界なような。
「はぁ……はぁ……んく」
口内に残ったアルカナの唾液を全部飲み干して、超至近距離で見つめあう。
「……えへ」
「にへ」
笑いあう。なんだか、気持ちがつながった気がした。そのあとは、ずっと抱きしめあっていた。




