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5万PV記念 『おさけ』


 アルカナが僕に惚れ薬を盛った後――うん、僕は怒ったよ? 無視したり、あの子と会わないようにしたり。けっして、恥ずかしいから逃げ出したんじゃない。うん。


「アリスはアルカナみたいなことしないよね?」


 と、何度目になるかわからない言葉を腕の中のアリスに言う。


「うん、だいじょうぶ。アリスは、そんなことしないよ」

「そうだよね。アリスだもんね。アルカナと違っていい子だもんね?」


「うん。アリスはルナ様のいいこだよ」


 ぐりぐりと頭を犬みたいにこすりつけてくる。……かわいい。


「ふみゅぅ。……やることないね」


 くて、とアリスを抱いたまま横になる。今日は最初からベッドの上だ。やましいことなんて何もしていない。まあ、起きてから夜になるまでそこから離れていないという意味では、やましいことはあったかもしれないが。


「あ……ルナ様。これ、のもう?」


 ごそごそと瓶を取り出す。ちなみに、刀とかと同じく無生物ならば取り込みは可能だ。人間ができるかどうかは保有魔力量によるけれど。


「……え」


 苦い記憶がよみがえる。恥ずかしくて逃げ回った記憶――ではなく、アルカナを叱りつけた記憶。二日もまともに顔を合わせないと、自殺しそうなほどに落ち込み始めたから許してあげたけど。これは惚れ薬……ではなく。


「これ……おさけ? こんなの、どこで」

「アルカナにもらった」


 平然と言う。僕が知るはずもないが、実はこれはアリスがアルカナから脅して奪い取ったものだったりする。


「ああ、あの子なら持ってても不思議でもないか」


 前世では別にアルコールは好きでもなかった。飲んで楽しい相手もいなかったし、酔ったところで己の平衡感覚が失われるだけだ。そんなものは、機会がなければ飲む理由もない。


「……おいしい?」


 アリスは小さな首をこくり、とかしげて言う。持ってきたのはアリスだけど、まあ飲んだことがあるはずもない。


「さて、実を言うと雰囲気次第じゃないかな?」

「じゃあ、きっとおいしいね」


「なんで?」

「ルナ様と、だから」


 ずるい、と口の中で言う。かわいすぎる。断れるはずがない。そもそも終末少女は毒を効くか効かせないか自分で選べる。酔えもするし、あとで無効化もできる。幼女でも飲酒が問題ないかと言えば、まったくもって問題ない。


「……飲もうか?」

「うん」


 ぱあ、と明るい笑顔を見せる。しかし、幼女がワイン? のビンを持っている――えらく犯罪的な光景だね。


「じゃ、前に買ったクッキーがあったから、それをおつまみにでも」


 体の中にしまってあったそれを取り出す。僕らの魔力保有量なら、こんなものなら無限に入る。


「ルナ様、アリスのへや、いこ」

「ん? そう。アリスがそうしたいなら」



「……ん? え???」


 アリスの部屋にはすごい光景が広がっていた。……夜景、街の光景だ。いや、この箱舟の下には荒野が広がっていたと思ったんだけど。


「まえ、ルナ様がアルカナと話してたの、きいてたよ。こういうところで、いっしょにおさけ、のむのがいいんだよね」


 少し、考えて――ええと、言ったような。言ってないような。まあ、アルカナ相手なら言ったかもだけど。僕は一々自分の発言を覚えておくほど几帳面じゃない。


「あは。びっくりしちゃったよ。うん、雰囲気が出ていいね」


 笑みを見せるアリスの姿はとても妖艶で――そして、犯罪的だ。こんな小さな子が見せるような表情じゃない。男を誘う食虫植物のような。


「アリスがそそぐね」


 ととと、と走って体面になるよう設置してあるテーブルに着く。そして、小さな腕を一生懸命伸ばしてビンを傾けるけど、届かない。


「アリス、こういうのは僕が杯を持つものだよ」


 僕もテーブルについて、置いてあったコップを掴む。


「うん、ありがと。そそぐね」


 ゆっくりと血のように赤いワインが注がれる。


「じゃ、アリスもね」


 交代して注いだ。アリスに杯を向ける。


「……?」

「乾杯、だよ。アリスもこうして」


 おずおずと僕の真似をして差し出した杯に合わせて、軽い音を立てる。


「……ふふ」


 思わず笑みが漏れる。可愛い彼女と一緒に、夜景を見ながらワインを煽る。夢が叶ったような、いけないことをしているような気分。


「どうしたの? アリス、いけないこと、した?」

「そんなことはないよ」


 笑って、それでワインを揺らしてからにおいをかぐ。……っつよ! アルコール臭が鼻に抜ける。これ、相当度数が高い。


「……んく」


 覚悟して、口を付ける。芳醇な香りが口いっぱいに広がる。そして、意外なほど甘い。まるでジュースみたいに。


「あ、おいしい」


 呟いた。うん、本当に。雰囲気だけじゃない。これ自体が味も飲みやすくていい感じ。……実はアルカナが魔術を用いてまで限界までアルコール濃度を高めつつ飲みやすくしたのだ。当然とも言える。もちろん、これも僕が知るはずもないこと。


「……おいしい」


 見れば、アリスも僕と同じように口を付けていた。かすかな笑みが浮かんでいる。とてもかわいらしいと思う。……いけない気分になるくらいに。


「ねえ、アリス? 僕は、皆と居れてうれしいよ。画面越しでしか会えなかったみんなと、今はこうして触れ合える。アリスは今の僕をどう思うのかな」


 水面に映った瞳が揺れる。僕がこの世界に来てから、間違いなく一番の時間を一緒に過ごしたのがアリス。


「……ルナ様はアリスたちにとって、なくてはならないもの。あなたがいるから、アリスたちはこうしてそんざいしてる。でも、アリスは今のルナ様がすき。……だいすき、だよ」


 ほほえんで、本当にうれしそうな笑顔を見せてくれる。この子のことは画面の向こう側から見ていたときから気に入っていた。でも、きっと……この感情は違う。僕は、この子のことが――


「僕も、好き……だよ。きっと、いけないことかもしれないけど――でも、僕はアリスといけないこと、したいな」


 ぺろ、と唇を舐める。さっきから、おさけが止まらない。入れた分はもうなくなった。恥ずかしくて、飲まなきゃ気がどうにかなってしまいそうで。けれど、アルコールが入ることで大胆になってしまう。自制が効かない。


「ルナ……様……」


 アリスが新しいのを注いでくれる。目はうるんで、そして僕のことをじっと見ている。瞳に映る僕の目が見返す。”本当にそんなことしていいと思ってる?”


「ね、アリス? いけないゲーム、しようか」


 ドキドキと、胸が高鳴る。こんな、小さな子をだますようなこと――やっちゃいけないのに。でも、アリスの濡れた唇がひどく妖艶に見えて――吸いつきたくなる。


「ゲーム。僕がクッキーをくわえるから、アリスは反対側から食べて。くちびるが触れたら、”失敗”だよ」

「うん。……がんばる、ね」


 アリスも顔を赤くしてる。この子だって、唇を合わせることがどういうことかはわかってる。でも、きっと、その先は、知らない。


「はい」


 唇に軽くくわえて、差し出した。


「……はむ」


 無限に思えるかのような時間。アリスの小さな顔が、近づいて大きくなってくる。


「かぷかぷ」


 少しづつ、クッキーが小さくなってくる。


「……」


 声が出せない。いけないことさせてるから、やめなきゃいけない。でも、やめさせるなんてできない。


「……はむ」


 ぎりぎり。触れそうなほどに近い。


「あ……アリス」


 目と目が合う。こんな、近くで見るのは初めて。瞳が、近すぎて――まるで吸い込まれそう。


「あ……」


 僕、少し動いちゃった。唇が一瞬だけ、触れた。


「あ……だめ……アリス」


 ぱっと離れて口をおさえる。きっと、僕は今、顔が真っ赤になってる。アリスは、少し顔が赤くて、でも、少しうれしそう。


「あの……ルナ様。……しっぱい……しちゃったね」

「うん、失敗。僕のせいだね」


「ううん。あのね……もういっかい。……しよ?」


 今度はアリスがくわえて、唇を僕に差し出す。


「失敗……失敗、だから――もう一回。うん、もう一回しないと、ね。失敗……しちゃったんだから」


 心臓が潰れそう。そろそろと、アリスくわえたクッキーに口をつける。


「……んむ」


 すごく――近い。これ、僕から近づいていくの? でも、うん、そうだよね。アリスがしてくれたんだから、僕も、しなくちゃーー


「――ッ!」


 だめ。なに、コレ。顔が熱い。アリス、こんなことをやってたの? わけがわからなくなる。……だめになる。


「あ……アリ……ス……」


 吐息が漏れる。クッキーがボロボロと崩れ落ちる。荒い息が聞こえる……僕の? クッキーがしけてる。それで、さらに崩れやすくなって。


「ふ……くぅ……!」


 少しだけ、口を進めた。……味なんて、わかるわけない。ううん、とっても甘い。甘さ控えめの、ナッツ入りクッキーのはずなのに。


「はぁ……うう……ん」


 さっくりとした感触のいいクッキー。だと、思ったんだけど、べちゃべちゃだ。……僕はどれだけくわえていたの。何十分も経った気もするし、数秒程度の気もする。


「……ひゃう」


 アリスと目が合った。この子も顔を赤くして、照れて恥ずかしげに笑いながら――僕を待ってる。


「うう……はぁ……はぁ……きゅぅぅ」


 また、近づいた。近づいてるのは僕? それとも、アリス? 頭がゆだってタコになる。でも、少しだけクッキーは食べた。


「あ……あむ……はむ」


 引き寄せられるように、少しづつクッキーを食べていく。クッキーが僕の口の中に消えるごとにアリスの顔が近くなる。


「あ……あふ……んく……」


 近くなって。近くなって。近くなって。このまま、キス……しちゃおうかな。なんて、熱に浮かされた思考で考えて。


「……っ!」


 唇が触れた。……触れたところが熱い。これで――二度目。


「……アリス?」

「また、しっぱい。だね」


 真っ赤な顔で笑うアリス。でも、さっきのは僕は、動いてない。動いてないと思う。アリスは口の中に残ったクッキーをもぐもぐ食べている。……今の、アリスが……?


「失敗、だよ」


 僕も、きっと笑ってる。アリスと――キスして。ゲームっていいわけで、アリスの小さなくちびるに口づけて。


「もういっかい?」


「うん、もう一回」


 僕はまた、アリスとキスをする。焦らすみたいに時間をかけて近づいて、小鳥がついばむようなキスを。


「しっぱい……え?」

「どうしたの? ……あ、なくなっちゃったね」


 20枚はあったはずのクッキーが消えている。……そんなに、キスしちゃった。……アリスと。


「なくなっちゃった、ね。ルナ様――まだ、おさけはのこってる、よ」

「……お酒」


 ごくり、とつばを飲み込む。いやいや。そこまでやったら、どうなるかわからない。今のこれでも十分アウトなのに、お酒で――なんて。


「アリスは、いいよ? ルナ様がしたいことなら、なんでも」

「あ……アリス。でも、ホントはいけないことだよ? さっきのだって、いけないゲーム。アリスみたいな小さな子に……」


「ルナ様はそんなこと、きにしなくていいよ。なんでも、していいよ。アリスもなんでもするから。……なんでもして」


 アリスの目が僕を見つめる。なんだってできる。させてくれる。言えば、どんなことでもしてくれるだろう。……もっともっと、いけないことでも。


「……だめだよ。ホント、いけないこと」


 そんなこと言いながら、僕の手はアリスを掴んでいる。引き寄せて――


「ん」


 アリスは目をつぶる。されるがままに。


「……は……ん……んぅ」


 熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。……アツイ。


「――きゅう」


 僕は気絶、した。……この身体はあまり回ったアルコールには強くないみたいだ。



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