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3万PV記念 『惚れ薬』

遅くなりましたが3万PV記念です。

番外編なので本編とはあまり関係ありません。


 とりあえず、やることもないので箱舟の図書館で僕らの設定が書かれたデータを眺めている。……最近、あまり一人でいることは少ないな、と思う。


「ルナちゃん、わしの部屋に来てもらえんかの」


 と、いきなり斜め前にウィンドウが現れ、アルカナがそう言った。やれやれ、僕の一人の時間は数分もないらしい。


「何の用? こっちじゃダメかな」


 特に何を読んでいる、というわけでもない。ただ眺めていただけだ。けれど、最近は忙しくて、急に暇になったものだから、反動でやる気が起きない。……歩くのが面倒くさい。


「むぅ、すまんがわしの部屋が一番都合がいいのじゃよ」


 少し考えて、そう言った。面倒だな、とちょっと思って。


「じゃ、アルカナが迎えに来て」


 冗談半分にそう言うと。


「うむ、わかった」


 と言うと、数秒後にはやってきた。


「……走ってきたの?」


 僕はジト目で尋ねた。なんともせわしないことだ。そんなに急いで――何かあったのかな? とは思うけど、事件があったらわからないはずがない。


「ああ、ではルナちゃんのわしの部屋に案内するとしよう」


 そ、とお姫様抱っこされる。


「……自分で歩けるよ」

「だめか?」


「だめじゃない、けど」


 少し恥ずかしい。いまさらと言えば今更なわけではあるが。


「なあ――ルナちゃんは毒薬を警戒する方かの?」

「……? そりゃ、気にするにきまってるでしょ。僕たちはこの世界では超高級品を身に着けているんだよ。アリスはともかく、アルカナならそこらへんはわかってることだと思ってたけど」


「いや、そりゃ、そうなんじゃが、の。ちょっとした疑問というやつじゃ」

「でも、基本的にこの世界ていどの毒物じゃ僕たちの身体に危害を加えられるほど強くないし、そもそも強くても身体を再構成すれば済む話だからね。そう気にすることもないけれど」


「ああ、その手があったか」

「くす。そうだよ、僕は小細工とか結構好きだからね。いろいろ考えるんだよ、弱い力で強い敵を倒す方法とかね」


「そりゃ、わしらはそんな考え方はせんな――」

「意味はあまりないしね。強い力を持ってるから、わざわざ考える必要なく叩き潰せる。僕のこれはただの趣味のようなものさ。でも、アルカナは僕の遊びによく付き合ってくれるね。能力も結構いたずらに使えるし、ね」


「ふふ。頼りにされるのはうれしいものよな――」


 そんな、益体もない話をしながらアルカナの部屋に到着する。30分くらいかかった。ゆっくり歩きすぎた、というのではなく数秒で来るアルカナが本気過ぎただけ。僕でも本当の意味で本気を出さないとそんなことできない。


「……わあ!」


 可愛いお部屋。どこで買ったのか、ぬいぐるみがたくさん置いてある。そして、大きな天蓋付きのベッドとそして……一画に怪しい雰囲気が漂っている。実験器具? というよりかは魔女の窯みたいなもの。

 そう言えば、アルカナの部屋には前に来た気がする。覚えてないけど――たぶん、様変わりしているはずだ。……きっと、いい変化なのだと思うけど。


「……で、なんで呼び出したのかな?」


 僕はベッドにおろしてもらって、なぜか差し出されたぬいぐるみを抱きしめる。柔らかい、けど――それは特に心には響かない。しょせんぬいぐるみはぬいぐるみだ。手持無沙汰なら抱きしめもするけど、それだけ。……アルカナは、鼻血を吹きそうな様子で僕のことを見つめている。


「……へ?」


 呆然自失。……僕、そんなにかわいらしいか? ルナというキャラをメイキングしたのは僕で、小さな子が好きだから、頭身を小さくしてできるだけかわいらしくなるように作った。……けれど、かわいらしさで言えばみんなのほうが上だと思う。どうせ、僕は元男だし。


「まあ、別にいいけどね。僕を呼びたかっただけならそれで」


 ぬいぐるみを抱きしめたまま、ベッドに寝転がる。アルカナと二人、ベッドでごろごろするというのも楽しそうだ。


「あ、いや。違うんじゃ。そのな――」


 珍しくまごまごしている。視線があっちこっちと落ち着かず、さまよって……なんだか迷子のこどものようで愛らしい。


「……? 立ってないで、こっちにおいでよ」


 手招きすると、怒られた子供みたいにびくっとして。


「いやいや。ほんとに違うのじゃよ。ちゃんと、呼び出した用事は、あってじゃなあ」


 なにか、言い訳するみたいな調子。


「そう? アルカナがそんなためらうようなことがあったなんてね」

「む。ああ、いや――そのな、これを飲んでもらおうかと思ってじゃな、その……」


 そういって、おずおずと差し出してきたのは紫色の液体。


「……なにそれ。魔力も感じるけど」


 とりあえず、体を起こして受け取る。どう見ても、おいしそうには思えない。


「ダメか?」

「ん~。まあ、毒見役くらいならやってあげてもいいけどね」


 ぐい、と飲み干す。


「うん、まずいね。ところで、これ何のお薬?」


 僕はこくりと首をかしげる。実のところ、ルナは他人を疑ってかかる性格だ。けれど、仲間である終末少女だけは別。疑うことなんてできない。心から信用しきっている。人は人で、終末少女は終末少女。最初から別種であるのだ。たった12人しかいない同類。だから、なにかされるなんて想像できない。


「ああ。うむ――飲んでくれたから言うがの。実は……それは惚れ薬なんじゃよ」

「……え?」


 思考が止まった。なんだそれ――しかも、薬の影響を切り離そうとも思えない。……すでに効力が発動してる。いくら僕でも、影響を殺そうと思わなければ殺せない。動悸が強くなる。心臓がバクバク言って破裂しそう。


「……あ」


 顔が熱くなる。……アルカナのことを見ていられない。恥ずかしくて仕方ない。二人きりで、それもここはアルカナの部屋。いい香りがふわりと漂ってきた気がする。身体が――硬直する。近寄りたいのにできない。かといって、離れるなんてことはイヤ。


「ごめんなさい、ルナちゃん。いけないことだって、わかってるけど――」


 アルカナが悲しそうな顔をする。そんな顔をさせたのが僕だとわかって、それ凄く嫌でしょうがない。かっと、自分を殺してしまいたい衝動が沸き上がる。


「アルカナは、悪くないよ」


 でも、声を出すのも恥ずかしくて。ぽつりとつぶやくしかできない自分が惨めで。


「……っうう。しおらしいルナちゃんも新鮮で……こう、いけない気分になってくる。の」


 近づいてくる。びくりと身をすくませて、でも自分から離れるなんて絶対にできないけど、でもでもこっちから近づくのも恥ずかしくて。


「あ……アルカナ?」


 上目遣いに見上げる。と、とてもうれしそうにしているのが見える。相変わらず、直視はできないけれど。


「……っひう」


 隣に座って、指を握られた。顔が真っ赤になる。全神経がそこに集中して、感触がやけに頭に響く。柔らかな指。温かい指。頭をガンガン金づちで叩かれているような衝撃が走る。


「……嫌われては、いないようじゃの」


 アルカナが安心したようにつぶやく。そんなの、当たり前のことなのに。僕が見捨てられることはあっても、僕がアルカナを嫌いになるはずなんかない。そういう風に思ってしまうようになっている。

 実際のところ、薬の効果に”ここ”までの効能はない。ただ、もとからあった感情に加算された分おかしくなってしまっただけだ。


「あ……あのね、アルカナ。聞いてほしいことがあるの」


 そもそも、ルナは力を得て過激な性格になっているだけで、もともとは臆病で引きこもりな性格だった。嫌われてもどうにかできる力と、仲間がいるから滅茶苦茶な行動にも出てしまえた。


「ふふ。じゃあ、聞かせてもらおうかの」


 そっと、這わせた指を僕の指に絡ませてくる。抵抗なんてするわけがないけど、こっちから握りしめる、なんてこともできない。こんな風に好きな人が隣にいても、自分から行動するなんてできやしない。

 ぎゅう、と余った片手でぬいぐるみを抱きしめる。こんなふうに、大切なものを目の前にしたとき、ルナはどうしようもなくなってしまう。


「アルカナのこと――ね。嫌いじゃないよ、ホントだよ。僕はアルカナのこと、す……す――ふみゅ」


 言えない。万が一、拒絶されたらと思うと恐ろしくてその先が言えない。そんなこと万が一にもないくても、億に一つはあるかもしれない。アルカナだって、もしかしたら頭の弱い僕をからかっているだけかもしれない。なんて、思ってしまうのがイヤ。


「なあ、ルナちゃん」


 絡んだ指が恋人つなぎになる。しっかりつながって離れないように。きゅ、とアルカナから力が込められる。


「……?」


 顔が近づく。


「こういうこと――ルナちゃんは嫌いか?」


 もっと、もっと……唇が触れるまで。


「……っ!」


 ぎゅっと、目をつむって――柔らかい感触がして。


「――きゅう」


 僕は気絶した。



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