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第45話 照の契約 side:ルナ


 テル、この白露街の支配者であり美しいアルビノの少女が質素な部屋の中央で待っている。ルナはそこに呼び出された。


「存分に遊びまわっていた、と聞きますが」


 ずん、と効果音が聞こえてきそうなほどに威圧的な雰囲気を出している。

 むしろ華奢というよりも色白で病弱な……あんな小さな体で、ね。僕には通じないけど――うん、これは妖怪じみた、という冠詞がよく似合う。この女……まぎれもなく化け物だ。


「うん、色々と見させてもらったよ。中々に面白い街だね、ここは」


 けれど、化け物としての格なら僕が上だ。びびりなどしない、むしろ薄笑いを浮かべてやろう。”こんなものか、人間”――とね。


「あなたも――”面白い”人物なようで。広いようで狭いこの街、ご存知かと思いますが行動は把握させていただきました」

「え、やだ、恥ずかしいな。見通されちゃう?」


 頬を赤くしていやいやと首を振ってみた。……つきあってくれない。にこりともせずに冷たく言葉を返してくる。


「あなたは人付き合いというものを嫌っていますね」


 断定口調。でも――。


「そんなことはないよ、町の皆ともいろいろとお話をさせてもらったしね。けっこううまくいってると、僕としては思ってたけど」

「ええ、一度目は。でも、あなたは二度会おうとしなかったでしょう?」


「そりゃ、違うところを見に行きたかったから。何度も同じ人に会うのは非効率的だと思うけどな」

「いえ、それでは深い話など聞けません。それとも、あなたは会った人の名前を答えられるとでも言うのですか? あなたのような類の人間は、どうせ人の名前など覚えはしない。私とて、実験動物の一つとしか認識していない」


「……覚えてないなぁ。けれど、それは付き合いが浅いからだよ。それに、君のことだってちゃんと人間だと思ってるよ。ただ死んでそれで何も思わない、なんてこともないしね」


 うん、場所とかそういうので区別はつくけど、名前は聞いてなかったり忘れたり。でも、さすがの僕も何度か会えば覚えるさ。それに、この身には”思い出す”機能もある。


「あなたは表面上はうまくやれている。けれど、人と人とのつながりの本質を全くもってわかってなどいない。すべては表面上だけのこと。偽りの仮面を身にまとって、くるくると舞台を演じているのがあなた」

「それが? みんな、多かれ少なかれ仮面を被りながら生きているんじゃないかな。何も特別なことじゃない」


「あなたはすべてが仮面なのですよ。私のコレはもはや外れない。癒着して、これこそが私の素顔としか言えないものとなっている。ですが、あなたのそれはただの仮面だ。ええ、今まさに剥がれかけていますよ? でも……あなたの素顔、誰か見たことがあるのでしょうかね」


 ……ッ! 一瞬、笑顔が止まった。けれど、表情を作るのは得意だ。きっと、それは”前”から。


「そうだね。僕は本音で話していないところがある。けれど、君みたいに死に場所を求めているわけじゃないけどね」


 ぎくり、とテルの顔がこわばる。テルは相変わらず白装束を着ている。……それはおそらく死装束。いつ死のうとかまわないとの意思の現れ。いや、違うね。死ぬべき時を待っている。


「……よくへらへらと笑っていられますね。本当の意味で、他者と付き合うことなど知らないくせに」


 ニタ、と奈落のような笑みがルナに刻まれる。これすらも、演技でしかないがこんな表情を浮かべてみたくなったのは事実。丁寧に反撃してやろう。

 コミュニケーションなら人一倍とれる自信はある。……そいつをやり込める、というのもね。


「ばれてたの?」


 わざと明るく、ただの童女のような表情を。もっとも、こどもの話すような内容でもないけれど。


「ええ。大人がやれば不自然なそれですが、あなたのような子供の外見でやればそう違和感を抱かせることもない。そのような、人形のような恰好をしていればなおさら」

「なるほど、笑顔というのも大変だね。うまく作り笑いを浮かべていたと思たのだけど、まだまだ学ぶことがあるね。まあ、ものごとは得てして試行錯誤の繰り返しさ。次はうまくやるよ」


「この街を回り、何を調べていたのですか?」

「ちょっとしたことだよ。ああ、レンちゃんには話してないし、あの子はお世辞にも賢くないから、何か悟られたとか警戒する必要もない。そもそも悟ったところで明日には忘れてるさ」


「……なぜ、そのような人間があなたの監視役に?」

「それもお見通しか。ま、こちらは当然だけど。団は今、人手が惜しい時期だよ。だから、あの子でも使わざるを得ない。……知らないの?」


「知りませんね。それに興味もない。我々にとっては〈外〉がどうなろうが関係のないこと――」

「うん、僕が調べていたのはまさにそれだ。君らは何をしたいんだい? 外との関係を拒絶してまで、何を狙っているのか。僕はそれを知りたい」


「このような壁に囲まれた街の目的なんて、陳腐なものですよ。ただ存続させたい、命をつなげていきたい。それだけです」


 初めて、一瞬でも視線がちらりとそれた。


「それは違う」


 ルナはニタリと笑みを浮かべる。さあ、謎解きと絶望の時間を始めよう。


「この街はあと100年も持たない。いや、街の体裁が崩れるまではもはや20年もかからないだろうね」

「なぜ、そのようなことを? この街は安定しているはずです。それは、実際の様子を観察したあなたがよく分かっていることだ」


「安定しているさ。安定して滅びの道に向かっている。他から住民を迎え入れない限り、ここは緩やかな滅亡の道をたどるのさ。20年は長いぜ。青年が老人になってくたばってしまう」

「根拠は?」


「中心部から外れると人の住んでいない地域がある。それに、この町の住民の身体が元々弱いうえに病気がちだ。病院の数が多すぎるよ? これじゃ、中に入って少し調べればわかる。そして、健康なよその住民を大量に入れたら今度はそっちに主導権を握られて、数で押しつぶされる。詰んでるよ、この街は」

「そんなことはありえない。白露街はこのままよそものを受け入れることなく、そして病弱であろうとも繁栄していく――そう、言えば?」


「そんな言い方する時点で認めたようなものさ。君たちは別に白露街を千年王国(ミレニアム)にするつもりなんかない。目的を果たせた時点でどうなろうが構わないと思っている。でなけりゃ、どうして君は死にたがっているんだい?」


 自信をもって断言した。この街の作り、そして敷かれた法の仕組みすらもそう言っている。すなわち、決行の時期までもてばそれでいい。

 制限時間があって、その後なら壊れてかまわない。そういうやり方だ。


「……やはり、そういうところですね。人間の機微を分かっていない」


 なのに、照はそうつぶやくのみ。僕の見解は合っているはずだ。……少し、気にいらないので突ついてみる。


「で、さ。君たちはどうしたいの? 推測にも限度があるんだよね。君の強さの性質から言って、何か倒したいんでしょ? それ、何さ」

「見抜かれましたか?」


「当然。もしかしたら君は僕を倒せるかもね。そのくらい莫大で深淵で悼ましいまでの異能力を、君という身に育て上げた。……けれど、使えるのは一回きりだ。使えば壊れる”天然もの”は大変だね」


 それでも、力を制限した僕の話だけど。

 けれど、それでもとんでもないことだ。だって、”槍”まで使ったら光明の皆と1対5でやっても傷を負う気すらしないのだから。そして、テルはアーティファクトなしでそれを達成できる。恐ろしいまでの力、それこそゲームで言えば裏要素の一つに数えられるほどの異能。


「あなたのような人工物に言われたくはありません」


 感情を映す瞳が、どろりと濁った。13代目――歴代の妄執が生んだ奇跡の子。悪意の器。その小さな体には飽和した悪意と殺意しか詰まっていない。

 具現した悪夢、穢れた血が生んだ悪魔。飢き果てるほどの闇。……病み。


「まったく、どうすればそこまで血を濃くできるのやら。強化のために改造を繰り返す僕らもあれだけど、近親相姦を繰り返してなお家を保たせるなんて正気じゃないよ。君だって20まで持たないのに」

「……私に兄弟はいません。あなたの期待するようなことは何一つありませんよ」


「そっちは別に期待してない。代々続く近親相姦が君の代で終わろうとどうでもいいことだ。僕が興味あるのは――君らが戦おうとしている”敵”のことだ」

「誤魔化されてはくれませんか。ですが、あなたに話す気はありません」


「そんなこと言わないでよ。あ、話は変わるけど」

「……?」


「ここ、地下に大きな魔方陣があるよね? あれ、何かな。起動してないから、見つけるのには結構骨が折れたよ」


 実際には話を変えるはずなんてないけどね。


「……ッ!」


 テルはギリリ、と歯をかみしめる。悪鬼のような形相で僕を睨み付けてくる。絞め殺したいと主張するかのように手が震えている。

 ……けれど無理。それをするだけの力を発揮すれば君は己の巨大すぎる力に憑り殺される。1回使えば終わる力を僕に使うわけにはいかないのだろう?


「気になるよねえ。ああいう魔方陣は見た目からじゃ、どういう効果があるかわからないものも多い。結界系であることはわかったけど、じゃあ何の目的かは僕にはわからない。一番手っ取り早いのは起動させてみることだよね」


 もっとも、そんなことをすれば魔法陣のほうが無事では済まない。恒常的に発動させる方法もあるけれど、あれはたぶん違う。言い方は悪いけど使い捨てのはずだ、これは勘。


「ねえ、教えてくれない? そうしないと、僕なにをするかわからないなぁ」


 わざとらしく、無邪気にかわいらしげにお願いした。


「……ッチ」


 舌打ちとともに湯呑が来た。投げられたそれを首をかしげてかわすと、次の瞬間にはお茶請けの前に置かれていたはずのフォークが目の前に迫って。


「きゃ!」


 それを手で弾く。粉々になって散弾のように散った破片が机やら床をぶち抜いた。僕が砕いたんじゃなくて、とてつもない力で投げられたからそうなった。……能力の使い方がうまい。

 わずかに発動させただけ――でも、腕がちぎれ飛ぶと思ったんだけどな。たぶん、明日筋肉痛になるくらいか。うまくやったものだね、テル。


「どうしても知りたいと? 私たちの願いを踏みにじってさえ、あなたは興味の赴くままに我々の城を踏み荒らして……!」

「そう悪いことばかりでもないんじゃない? 協力できるかもよ」


 けらけらと笑ってやる。”君たち血族が築いてきた歴史なんて僕にとっては塵芥に過ぎない”とでも嘲笑うように。


「もう、いいです。話します。我ら一族の目的、どれだけの時間をかけようと打倒すると誓った敵、それは【災厄】の一体、【喰らい尽くすモノ】だ。ご存じで?」


 ……諦めた? いや、なにか考えがあるね。彼女の眼に背筋がぞくりとするような暗い炎が映っている。


「【災厄】なら会ったことがあるよ。あれのお仲間ね。また、とんでもないものに復讐を誓ったものだ」

「……ッ! 会って、生き残ったと?」


「そうだよ、でも君たちは殺すつもりなんでしょ……あの絶望を。なら、生き残ったくらいはそう驚くことじゃない。ま、取り逃がしたのは痛かったけどね」

「ええ、我々は全てを奪われた。あらゆる希望を砕かれた。ゆえに倒す、殺す。たとえ、それが生きながらに亡霊の理を歩くことだとしても諦めはしない。もはや統治していた王国の名すら忘れた。街並みを忘れた。光を忘れた。ここにあるのは白露のように儚く意味のない生であろうとも――血に刻まれたあの怨嗟の声は今も聞こえている」


「古の王国の生き残りか。もしかしなくても君たちが王族だったんだね。こんな、箱の中で延々と怨嗟の声を上げ続けてきたわけか。……感動的だね?」

「だからこそ、あれを倒すのは我々でなければならない。邪魔をするというのなら、貴様も――」


 ぎりぎりと空気が張り詰める。すさまじい密度の殺気、そして【災厄】に伍するほどの気配だ。これは、レンを連れてこなかったのは別の意味でも正解だったかもしれない。


「そうすれば君は死ぬね。確実に」

「そのまま魔法陣を起動させるだけです」


「ああ、やっぱり、地下の魔法陣は【災厄】を呼び寄せるためか。けど、選んで呼びつけるのは難しいはずだぜ。だから、まだ起動させてないんでしょ? やらないんじゃなくて、できないんだ」

「……嫌になるくらいに目ざといですね、アナタ」


「そう褒めないでよ。……提案だ。賭けをしないかな」

「あなたは私の負けにベットするというわけですか」


「そっちにベットしてもつまらないでしょう? 僕は自分が負けることを期待しておくよ。賭け金はこの街。そして、入場金は13代分の怨念。この僕が【喰らい尽くすモノ】……ベルゼブブを目覚めさせてあげよう。今はみんなお休み中だからね、一匹だけ起こすのは無理筋じゃない。そこから後は”君の”賭けだ。街の魔法陣がきちんと動けば、そして君がちゃんとできれば君たちの勝ちだ」

「負けたら全てを失うということですね。まあ、当然のことですが――その程度でいいのならいくらでもくれてやりましょう。最後に勝つのは必ず私たちなのだから」


「思い切りがいいね。じゃあ、僕は3日後にベルゼブブを開放するとしよう。楽しみにしてるよ、13代分の怨嗟の結果が無為ではなかったと、この僕に教えてくれるのをね」


 席を立つ。殺気が心地いい。舞台は僕が作ってやろう。だから、最後まで踊って見せてね――復讐者(アベンジャー)。その時を、僕は楽しみに待っている。


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