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第33話 いきなりAクラス side:ルナ


「……ふにゅ」


 寝て、起きると全身が柔らかい感触に包まれていることが分かる。

 幸せを感じる。アリスを抱きしめながら、アルカナに抱きしめられる。アルカナは首筋を舐めてきたが面倒だったからそこは無視した。


「ふわ……ふぁ」


 あくびが出る。別にリミッターを元に戻してだるさを取り除いても良かったけど、なんとなくこのままにした。けだるい感覚とあたたかな感触が合わさって、もうこの町が滅ぶまでこうしててもいいかなと思えてくる。


「くぅ……んん……」


 アリスは力を抜いて全身を預けてくれる。アルカナはわしも構って、と主張するかのように無言で強く抱き締めてくる。

 どことは言わないけど、一か所が強く当たって――もっと強く抱きしめてくれてもいいのに、などと思ってしまう。


「ルナちゃん、起きてる?」


 コンコン、という音とともにエナの声が聞こえた。部屋の外からだ、どうやら彼女も起き出して来たらしい。非常時であるからこそ、眠らなければいざという時動けない。

 まあ、終末少女というものに睡眠など必要ないけれど。だから、これは彼らのためだ。寝不足で全滅する冒険者など吐いて捨てるほどいるのだから。


「今、起きたところだよ」

「すぐ来てくれる? 作戦会議よ」


「了解」


 布団を引っぺがして、ひっついてる二人ごと強引に体を起こす。この子たちが恋しいのは布団じゃなくて僕だから、無理やり行けばついてくる。


 服は昨日から同じ服だ、変えていない。少しフリルのついた可愛らしい戦闘用には思えない服――新城君の前では軍服を着たこともあったけれど、あれは厳めしいから。

 可愛らしくてもそれでもアーティファクトだ、甘く見てもらっては困る。汚れなど低級な攻撃が通用するわけがないし、終末少女はトイレなど行かないから臭いもない。ぱんと腕を振るだけでしわが伸びる。


「ねえ、ルナちゃん。昨日、あの後は……」

「ああ、レーベなら話がついたよ。君たちのほうは?」


「状況は把握したわ。あの人が言った通り、魔物の数は5000を超えていた。なぜ知っていたのかはわからないけど――」

「情報取集能力に関しては信用が置けそうだね。敵の内容は?」


「ほぼ下級ね。中級は私たちで相手できる程度の数よ。それ以上は感知できていないわ。いないのか、それとも産まれていないだけか」

「そう……ならば。この街の存亡を決めるのは、街の責任者の対応次第か。外部をうまく使う、なんて器量があるようには見えなかったがね。あれは乱世を率いる器ではないだろう」


「そう、なのよね。それにそもそも――街の内部でも、鍛冶組合との連絡がうまくいってないのよ」

「だろうね。残り時間は?」


「2日よ。もともと正確に予測できるようなものでもないけれど、これ以上の余裕はないわね」

「あっちの対応次第、と言いたいけど時間が足りないね」


「ええ、銃火器を壁の上に運び込む時間もないかも……」

「そっちは鍛冶組合の人と話さないとね。なんとかできないものかな?」


「もう暴走のことは話してあるんだけど、向こうの反応が薄いのよね。どこから行っても上の人間につながらないし、そうなると下は下で何も動けないのよ」

「どうしようもないね。こうなってくると二日あっても準備なんかできるのかどうか」


「そこまでは面倒見切れないけれど、できれば凌いでほしいところね。私たちも、そこまで面倒見切れるものじゃないから」

「そうだね」


 あまり見栄えのしない舞台かもしれない。守るべき住人たちは足の引っ張り合いで、このヒーロー達は正義感ぶるだけの算数もできない愚者じゃない。

 守ったからと言って彼らは感謝しない。それが現実で、後でこんなはずじゃなかったと嘆くやつは頭が足りないのだ。ゆえにこれは中編、何も関係ない人間が強大な敵の前に蹴散らされるだけのお話。敵の強大さを示す掌編に他ならない。



「ああ、起きていましたか。ルナ・アーカイブス様。申し訳ありませんが、少し手間を取らせていただいても?」


 レーベが話しかけてきた。


「何かな? あまり無意味なことはやりたくないけど」

「まあ、無意味ですがね。あなたのクラス認定のためにかませ犬を用意したので、さっさと倒していただきたいのですよ。外部の人間があまり横紙破りもできませんでしたので」


「ああ、そういうのもあったか。団の人間としては、必要かい? それ」

「あると便利ですね。基本的に我々は裏の人間なので、表には知っている人があまりいないのですよ。その分冒険者の方でAクラスの席を用意させていただきました。はったりは効きますよ?」


「そう、なら――さっさと済ませてしまおうか。お相手は?」

「【烈風】。ご存じのとおりAクラスとしては弱いにもほどがあります。しかし、いなくなったとしてもかまわないものとしてはこれ以上はないでしょう」


「やっぱり評価が散々だね」


 当然のように事件の顛末を知っていることにはツッコミはいれない。そいつは、この街で因縁をつけてきてエナにこてんぱんにされたやつだ。


「冒険者組合が発展するにあたり対人性能も評価されるようになりましたが――それは、団の意図とはずれています。ああいうのは、強力な魔物に対して相性が悪すぎる」

「見た感じ、人間が相手ならまだ伸びしろがあるようだけど」


「裏を返せば、あの性能では魔物相手に行き詰っている。そんなものに興味などありませんから」

「そもそも鍛えなおすのも面倒だね、あの性格だと」


 扉をくぐる。そこにあるのは冒険者組合備え付けの訓練場だ。だだっ広いスペースだけがある。建物の横に屋根を立てただけのスペースで、下は砂がむき出しになっている。


「――やっと来たか」


 仁王立ちで待っていたのは昨日のお笑い君、これでもAクラスということだ。あれだけ恥をかいておいて、翌日にこんな顔ができる面の厚さは褒めてあげてもいい。


「審判はそっちの人?」


 九竺の横に立っている印象の薄い人。次会う時には忘れていそうな。


「ええ、あれが次の組合長です。一言で言えば操り人形ですね。あれに”顔”としての役割を果たしてもらうことは難しい。まあ、その場しのぎです。この事態を乗り切ることができれば少しは貫禄がつくかもしれませんがね」

「……小さな町では仕方ないかもしれないけど、本当に人材がいないねえ」


 こっちでごちゃごちゃ言っていることが【烈風】には気に入らなかったみたいで、こっちを怒鳴ってくる。勝てると、本当に思っているのだろうか?

 こんな横紙破り、初めから台本は決まっているのが当然だ。彼本人に負けろと通告されていないのは、必要ないからに他ならない。万の一でも勝ち目があれば台本が用意されるに決まっている。


「……おい! 本当にそいつらに勝ったら俺をSクラスにしてくれるんだろうな!? 本来ならそんなガキども、相手にするまでもないが――今日は特別だ。相手してやるからさっさとかかってこい!」


 だん、と足を地面に叩きつけて負け犬が吠えたてる。

 

「いくら相談したって無駄だぞ! 俺が本当の実力を出せさえすれば、一対一なら【光明】にだって勝てるんだ。怪我する前に降参してもいいんだぞ。身の程知らずが町の外に出れば魔物の餌になるだけだからな――けけ」


 その顔は嫌らしい笑顔をたたえている。どうせ、Sクラスになったらと――捕らぬ狸の皮算用でもしているのだろう。こんな奴、考えることはどうせ酒池肉林くらいのものに違いない。


「こんな奴に魔力を使うのももったいない。さっさと終わらせてしまおうか……あれ?」


 一歩進んで刀を取り出すと、落としてしまう――演技をする。もちろん、わざと。


「おかしいな。えと――うん、いいね」


 利き手と逆の手で落ちた刀を拾って、刀を逆の手に回してぶんぶんと振り回す。レーベは目を細め、九竺とエナは苦笑い。新組合長はおろおろとするばかり。


「おい、組合長さんよ。さっさと始めろよ、早い分だけ俺がSクラスになるのが早くなるんだからよ」


 身の程知らずなガキだぜと言わんばかりな態度である。

 あれが本当にただ刃物の扱いに不慣れで取り落としてしまったものだと信じている。そもそも僕が本調子でないのにさえ気づいていない。まぬけ、としか言いようがない。


「は――はじめ!」


 組合長が合図を出した。言われるがまま。これが彼の処世術なのだろう。……なんともくだらない。言われたことをやるばかりで、考える力を育てていない。


「行くぜ! こんなところに来たことを、ママのおっぱいでもしゃぶりながら後悔するんだなァ」


 一直線に向かってくる。彼の戦術などまあ、こんなものだろう。ただの猪突猛進。


「そんなもの、いない」


 目には捉えきれない、魔力は使い切った。回復させていないし、そこまで身体能力はあげていない。

 それでも影さえ見れればそれで十分だった。パ、と手に持った砂を投げつけた。刀をわざと取り落としたときに拾っていた。こんなもの、ただの小細工ですらないイタズラに過ぎないだろう。見抜けない方がどうかしてる。


「あ!……がア!」


 動きが止まる。顔を抑えて苦悶する。目に砂が入ったら痛いのはわかるけど、敵の前でそれはないよ。だから君は弱いんだ。

 対人性能でAクラスに上りはしたけど、冒険者というものは本来人と戦うものではない。目つぶしの対策など取らない。


「はい、終わり」


 彼の大事なところを殴ると、股間を抑えてうずくまった。その首の横に刀を当てて。


「審判」

「は。ル――ルナ・アーカイブス様の勝利です」

「もっとスマートに勝利していただけませんか? 三人の相手をしてもらうつもりだったので、ここで折れてもらっても困るのですが」


「ああ、それは済まなかったねレーベ。次はアルカナ、君は消耗してもないし首筋に剣を突き付ければ、終わりでいいよ。回復魔術もかけてあげて」

「了解じゃよ。で、ほれ――立てるか? 下らんデモンストレーションでも、ルナちゃんの望みでな。やらねばならん」


「ぐ……ぐぐぐ」


 立ち上がる。涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔を袖で乱暴に拭う。


「今のは何かの間違いだ。そう――油断したんだ。しかも、そのガキ目つぶしなんて卑怯な真似を――あれさえなければ勝てた。俺が負けるはずないのに」


 ぶつぶつとつぶやく。ありえない、と現実を否定する顔。ただの悪夢だとでも言わんばかりの。そして、アルカナを見ると下卑た笑みを浮かべる。……潰しておけばよかったかな。


「で、やるのか? やらんのか」


 アルカナはただ面倒くさそうにしている。奴のよこしまな思いに気づいているのか――いや、あの子はただの的がどんな顔をしていようが気にする性格じゃなかった。

 僕の仲間はみんな人間に対してそんな感じだ。人間扱いしていない、と言われるかもしれないけれどむしろ僕たちは神族……こっちが人間じゃない。


「やってやらあ!」


 彼が叫んだ、瞬間――消えた。ように組合長には見えた。もちろん、他の面々にはあくびの出るような速度でしかなかったが。


「危ないぞ?」


 そして次の瞬間には、アルカナはのこぎりを数段凶悪にしたかのような外見の剣、牙が十も重なっているかのようなそれを彼の背後から首筋にあてている。


「……え」


 状況が分からない、という顔。何が起こったかというと簡単、後ろに回ってでかい剣を首筋に当てながらついていっただけ。もちろん、手元が狂っていれば彼の首筋にブスリだ。


「あー、と。これで終わりでいいんかの?」


 表情は余裕そうだ。じっさい、赤子の首をひねるようなものだ。手間取る方がおかしい。


「あ、はい。アルカナ・アーカイブス様の勝利です」


 組合長は現実を理解を放棄して淡々と仕事を進めているようだ。


「次はアリス」

「……あああああああ!」


 発狂した彼はアリスに腕一本で大地に組み伏せられた。もちろん、勝利はアリスのもの。たかがAクラス崩れに負けるような身体能力を設定していない。そこまで手加減させてかわいい顔に傷が入るのも嫌だから。


「さて、これでいいかな? レーベ」

「十分です。あれでも下級相手なら、そこそこの活躍をしてくれますので。彼の五体が無事に済んで一安心といったところですか。戦力は貴重ですから」


「精神のほうは無事でもないみたいだけど?」

「彼は女癖が悪いそうで。5人の恋人を捨てて逃げられるものなら、とっくにそうしているでしょう」


 へー、あんなのに恋人が。……ふぅん。特にうらやましいとは思わないけど、ちょっとびっくり。


「報告です!」


 ん? 若い男が息を切らしてやってきた。


「鍛冶組合から返信が。今日の15時から会合を開くそうです」


 やっと――とはいえ、遅いね。


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