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第26話 食べさせあいっこ side:ルナ


 やれやれ、エナも苦労ごとをしょい込む性格だね。と、僕は苦笑してしまう。

 あんなのまともに相手してあげても疲れるだけなのに。結局、喧嘩を吹っかけてきた挙句に返り討ちでのされた彼を診療所まで運び込んであげていた。


 1、2時間ほどかかったかな。

 たかだかすぐそこのお店に行くまでにそれだけかかるとは僕も思わなかった。イベントがあったし、街中で人外じみた運動性能を見せるわけにはいかなかったとはいえ、ね。

 普通に歩いている住人は前の世界の人間とそう変わらない速度で歩いていた。基準(スタンダード)は前の世界とそう変わらないらしい。


「で、やっとたどりついたお店がここ?」


 うん、女の子女の子していて入りにくい。

 いや、そうでもないか。男だったころは絶対入れなかったようなファンシーなお食事処だ。彼女でもいれば別だったのかもしれない。

 まあ、そんなものできる気配すらもなかったのだが。今は僕自身が幼女になるとは因果なものだ。


 ぎゅ、とアリスとつないだ手に力を込めた。こんな子と一緒なら、とても楽しかったのだろうな。と思って、でも――今はこちらが現実。自分がかわいい少女になって、愛らしい幼女ときれいな少女を侍らせている。手放したくない。

 たぶん、僕はここにいるためならなんだってする。なぜなら、元の世界に帰りたくないと心の底から思っているのだから。


「……こういうところ、初めて?」

「そうだね。……初めて、かな。エナはよく来るの?」


「ええ、おいしいスイーツを出してくれる人気店なの」

「へぇ」


 やはり、文明レベルが中世レベルではない。

 甘いものなんて、中世の街角では気軽に食べられたものでもないだろう。特に、薄いガラスで作られたワイングラスにきれいに飾り付けられた色とりどりのパフェなど望むべくもないはずだ。

 食品サンプルなんて、いつの時代からあるものだったかな。手軽に和・洋・中華と多くのメニューを楽しめるのは大量に作って大量に捨てる、機械テクノロジーの発達以降の話だろう。


「僕も甘いものは好きだよ。で、表口から入らないの?」

「いや、そっちだと目立つから。一応有名人で、常連だからいろいろと気を使ってもらえるのよ」


 裏口から入ると個室に案内された。

 ここならどれだけいちゃついても問題なさそうだ。アリスもアルカナも、何しても嬉しがるばかりだから一線を越えないか心配になる。今の僕は女の子の身の上だけど。でも、距離が近すぎるから離そうとしても、そうすると今度は構ってもらいたがる――かわいらしいことこの上ない。


「……あれ、メニューは?」

「品物が来た時にもらえばいいわ。食べたいものはなんでも追加していいのよ、このくらいなら別に全然払えるし」


 注文じたい、した様子がないのだが。と思っていると。


「……うわ」


 扉が開いた、と思ったらどんどんスイーツが入ってくる。アルカナの手を握りながら、アリスの頭を撫でていたけど10秒くらいしか経ってな――箱舟にアクセスして時計を確認すると10分が経っていた。

 僕が色ボケして時間経つのを忘れてただけか。それにしても、エナどれだけ頼んでるの。……これだけの物量が10分で来るとか早いね。チェーン店かな?


「うふ。来た来た」


 彼女は怪しい笑みを浮かべている。

 まるで危ない薬でも決めるかのような表情だ。……待てよ、砂糖は白い粉。パンケーキにかかっている白い粉はどう考えたって砂糖だろう。白い粉を前に危ない表情をしている。しかも、その白い粉には依存性があったはず。と、考えれば――怪しいことこの上ない。


「いただきます」


 と言うが速いか大量に並べられたスイーツがどんどん消えていく。お上品に、しかし高速に消費していくその顔は幸せに満ち溢れている。


「どうしたの? 好きなの食べていいのよ。もう私が食べちゃったんなら店員さんに頼めばいいわ。すぐお代わりを持ってきてくれると思うわよ」


 という間に大きなパフェが三つ空になった。


「ああ、うん」


 呆気にとられて、まあエナが太ったって僕には関係ないよね、と手近にあったプリンをとって食べる。


「あ、おいしい」


 うん、さすがにコ○ビニのプリンとは一味違う感じだ。

 それと、僕の女の子の体が甘いものを求めているような気分になったのは気のせいかな。そもそも、僕の身体には食事自体必要ないから甘いものを求める理由もない。


「……?」


 アリスは首をかしげている。

 何してるの? という顔だ。アリスは食べ物を食べた経験自体がないわけか。あれ、そういえば僕がこの世界に転生して初めて食べたものがこれだ。

 いや、食料アイテムはゲーム中にもあったぞ。強化アイテムとして、ではあるが。

 なのに、僕は水すら口にしていないのに気づかず3日も過ごしてきたのか。僕ってもしかして……まぬけ? 


「甘くておいしいよ。はい、あーん」


 まあ、いいや。この際あこがれていたことをやろう。こんなにかわいい子にあーんで食べさせるなんて、もう死んでもいいや。


「……え、と。あー……ん」


 よくわかっていない顔のまま、口を開けた。僕はそこにスプーンにのせたプリンを突っ込む。もしかして、間接キス? ……顔が赤くならないように注意しながら、僕は僕でそっとプリンをすくって食べた。


「……」


 アルカナがむむむ、とほおを膨らませて、わしは? わしは? と言いたげな目で僕を見ている。つんつん、とちいさく足をつついている。あ、だめだ。かわいすぎていじわるしたくなっちゃった。


「アリス、次は何食べたい?」


 ぱく、ともう一口食べてスプーンからなめとる。残りはあと一口。


「ルナ様が好きなものでいいよ」


 そういう答えが一番困るんだけど。……つんつんとつつく速度が速くなった。そうとう焦れてるらしく、ほおをぷくっと膨らませている。子供っぽくて、この子は僕を萌え殺す気だろうか。


「はい、アルカナ。あーん」


 とてもうれしそうに食べた。スプーンを引き抜こうとして


「……?」


 引き抜けない。……なめ回している。


「アルカナ、離して。もう一回やってあげるから」


 ぬけた。とりあえずまだ溶けていないアイスクリームを手にとって、ここでこのまますくって差し出せばどんな顔をするかと気になったけど――


「……はむ」


 自分で食べた。うん、おいしい。……人にあげる前に味は確かめておかなきゃね? うん、間接キスなんてのは――うん。女の子どうしだから、気にすることじゃないよね。


「はい、あーん」


 アルカナに差し出す。ぱくん、と食べた。かわいらしい歯が見えた。こうしてると小動物を餌付けしているみたい。そうしていると横から視線を感じる。アリスがほおを膨らませている。


「……はい」


 かわいいな、なんて思いながら今度はアリスの相手をする。また横からつんつんされて。


「はい、あーん」


 と、アルカナがスプーンを差し出してくる。食べた。……やばい。今最高に幸せを感じている。


「仲が良いのね、あなたたち」


 と、絵奈利はジト目ですごいスピードでスイーツを消費しながらつぶやくのであった。彼女は彼女で、もう机の上の半分以上の皿を空にした。

 そんなこんなで――僕はアリスとアルカナに餌付けした。この子たちが最後までスプーンを持ってなかったことは、まあどうでもいいよね。


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