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第24話 冒険者組合でいちゃつく。 side:ルナ 


 さあ、いよいよ冒険者組合だ。

 とはいえ魔力感知してみても僕らに匹敵するような人材どころか、九竺レベルにも達している人材がいない。

 ……けれど重要なのは魔力じゃない。英雄に求められるのは気質だ。足りないものは武器でも改造でもなんなりと補えばいいのだから。まだ気落ちする段階じゃない。

 さて、僕の眼鏡にかなう人間はいるかな? と期待に胸を膨らませる。


「入るぞ」


 ぎぎ……と木の扉を押し開いて入る九竺についていく。


「ふふん」


 僕は別に緊張などしない。この世界の雑魚なんかを恐れる理由はどこにもない。

 しけた雰囲気だな、と感じる。これくらいの年の子であれば気押されもするのだろうが、鉄の武器なんかを持ってる奴などに何かができるものか。


 そんな風に余裕だった僕だが、しかし影口をざわざわと囁かれるとハエ共を叩き潰したくなってくる。わざわざ聞こえる程度の、しかしはっきりとは聞こえない雑音。集中して聞き取れば言葉はわかるが、聞く価値はない。

 ああ、もう――見どころのありそうな奴が一人もいない、とほぞを噛む。アーティファクトを見て実力差を理解してなお突っかかってくるはねっ返りが居てもよさそうなのに。

 これは期待外れだ。がっかりだ。


「……ルナ様」


 少し顔をゆがめてしまったのを気が付かれた。アリスがちょこんとかわいく服の裾を引っ張る。美少女……というには一人は幼すぎるが、うらやましい光景には違いあるまい。ため息が聞こえてきた。

 うっとりとしたため息はアルカナを見てのことかもしれない。アリスの幼子らしい行為に口元を緩める危険な奴もいる。もっとも、アリスの後に続くことは「こわいよ」などではなく「殲滅してもいい?」との恐ろしい言葉だろうが。


 まあ、大抵の視線は「ガキは出てけ」みたいな感じである。……どうやら一般的な冒険者というのはこんなにわかりやすくアーティファクトを身に着けていても気づかないものらしい。

 この灰の舞う街の中、ひらひらした服に灰がついていないのは明らかに異常なのに。確かにアルカナは綺麗で、アリスはこの上なく愛らしいけど――それで頭がいっぱいになっては冒険者に向いていない。


「ねえ、エナ。ここにいるやつらって全員D級なのかな?」


 わざと聞こえるように言ってやった。

 文句あるなら直接言ってみろ。どうせ無理だろうが。僕の言葉だが、僕にとってはこいつらが一般人と見分けがつかないのも事実だった。

 いや、着ているものとかそもそも武器を持っているかいないかで判別はつくけれど、逆に言えば保有魔力量に大した違いはない。


「ちょっと、そんなこと言ったらだめだよルナちゃん。アーティファクトを持ってるのは名のある冒険者だけなんだよ? あなたみたいな子は特別なんだよ、いろんな意味で」

「そうかな? 才能が足りなければ努力で、武器がなまくらならば思慮で補う他にない。一番頭がいいのは別のやり方で勝負を仕掛けることだけど、今更鍛冶師などになれと言ったところでそんなことをアレらがするわけがない。くだを巻いて酒をあおるのが関の山だ」


「それは違うよ、あの人たちだって役に立っているんだから。ルナちゃん、あなたはその子たちにするみたいに他の人にやさしくできないの?」

「できないよ? 仲間や家族には優しくするし、他の人は知ったことじゃない。人間として当然のことでしょう。皆に優しくしてるなんて恥知らずにも言える人は自らの行いをはき違えているのさ。彼らが助けるのはいつだってお友達で、それを皆とやらに含めてしまうのさ。一方で、助けてもらう時にはお友達以外もまとめて皆と言うのだから下らない」


「……そう」


 絵奈利は目を伏せる。


 確かに正論とは真逆の言葉で、幼女が口にするような言葉じゃない。けれど、これが僕にとっての真実。どうせ――世界が変わったところで人間が変わりはしない。人間は人間、他の者ではありえない以上は元の世界の心理学を応用できる。

 統計にて人間の行動の原因と結果を推論する。心理学とて科学だ。


「そら、勘違いの馬鹿が来たぞ」


 ぬうっと、大男が姿を現した。もちろんそいつに気配を消すだけの能などない。どこかのテーブルで酒をカッ食らっていただけだ。

 安物の匂いをふりまきながらテーブルの間をぬって、よっこらとやってきた。


「嬢ちゃん、ここはガキの来る場所じゃあねえぜ。その姉ちゃんを置いてママのところでミルクでももらってな」


 カッコつけたつもりなのだろう。近くのテーブルに手を置いて、胸を張ってすごんでいる。

 最もルナにとっては「へんなかっこう、くすくす」としか思わない。そして姉ちゃんとはアルカナのことだろう。胸を嘗め回すように凝視している。いやらしい奴だ。


「なら、大人の真似事らしく賭けでもしようか。なに、安心してくれよ――運を試すんでも知能を試すんでもないさ」


 うん、からまれて叩きのめすなんてテンプレ過ぎて面白くない。ここは腕力を見せるべき場面だけど、少し趣向を凝らしてあげよう。


「君が勝ったら、これを上げよう」


 とん、とテーブルの右側に金貨を置く。そして、肘を置いてくいくいと手招きする。僕の持ち物だから、この世界のものじゃない。

 換金できるかなと思ってポケットに放り込んでおいたものの一つ。金貨を集めてクエストに出発というイベントの余りだが、今考えればどこに金貨を払っていたのだろうか。

 とにもかくにも黄金には変わりない。


「……おお」


 その男の目の色が変わる。やはり金は価値があるらしい。けどね、パフォーマンスというものはニンジンだけじゃ盛り上がらない。


「そして、負けたら”これ”だ」


 とん、と先端がとがった棒を机の反対側に刺す。暗器の一種で手裏剣に近い使い方をする武器。つまり腕相撲に負ければ刺さる、見たとおりだ。


「……てめ」


 一瞬、うろたえる。負けたらズブリ、どんな馬鹿でもわかる自明のこと。勝てば金、負ければ少し痛い。しかし、少し経つと相手はいやらしい笑みを浮かべた。


「いいぜ、やろうか。ついでに賭けにゃそっちの姉ちゃんも付けてくれよ。ありえねえが、万が一でも俺が負けたらその棒切れを飲み込んでもいいぜ。おもろい大道芸だろ? ぎゃはは」


 ニタニタとした笑み。……低能の考えそうなことくらいわかる。僕が手を振り下ろしたら自分の手にも刺さる。だから負けるわけがない、と。 


「降参はありかな?」


 この問いは僕から。


「いんや、なしだ」


 僕の口から言うのはエンターテイメントに欠けるからね。これは僕が言わせただけだ。この程度の馬鹿の考えなら手に取るようにわかる。

 自分で自分の手にナイフぶっ刺すような馬鹿はいないと。本当にそうなら、そんな賭けするとでも?


「さて」


 がっしりとお互いの手をつかむ。……脂ぎっててやだなあ、と感想を抱く。一拍おいた後、力が加わる。


「……お?」


 別にずるをした、というわけでもないのだろう。驚いてその汚らしく大ぶりな手を握りつぶしそうになったが、それもこらえた。単純に、腕相撲くらいはポピュラーでこの辺では用意ができたらすぐに始めるローカルルールだっただけの話。


「……あ? ぐっ……この――」


 相手の男が顔が赤くなる。全力を込めているのになぜ動かない、といった表情。ここらへんで周りの反応も変わる。はやし立てる調子だったのが静まっていく。なんだあれ、おかしいぞ。と。


「ああ。そういえば、始めの合図を決めてなかったね?」

「へ? ……っひ」


 顔色が赤から青へと変わる。自らの運命を悟ったのだろう。必死に手を放そうとしている。すでにひじはテーブルの上を離れているが――逃がしてあげない。


「合図は始めでいいよね? 行くよ、は~」


 自らの行く先を悟った男は狂乱する。わけのわからないことをわめきながら、必死に手を外そうとしているさまは笑えてくる。

 なぜか周りは静まり返ってしまって、こいつの荒い呼吸がよく聞こえる。


「じ~」


 その男は指を剥がしにかかった。でも、無駄だよ。もう片方の手で僕の指の一本をつまんで引っ張っても、外れやしないのさ。顔が蒼くなってまるで紙のよう。面白い見世物だとけらけら笑う。


「わ、悪かった。俺が悪かった! あんたたちには金輪際関わらないと約束する! もう新人の女にちょっかいをかけないと誓う! だから――」

「め」


 だん、とテーブルにそいつの手をたたきつけた。


「っが! あぐ――」


 手を押さえて転げまわる。けれど、そこに鮮血の跡はない。


「……エナ」


 彼女がやった。酒場、いや冒険者組合でナイフを出すのはNGだろうが――どうせ僕たち以外には見えていない。テーブルに刺した暗器は半ばほどで切断されていた。


「……むう」


 と、僕そっちのけで一番機嫌が悪そうにしているのはアリスだ。僕の邪魔をした絵奈利を、殺していいのかなという目で見ている。


「アリス、僕は怒ってないよ。アルカナ、変な人についていくのはダメだからね?」


 かわいらしくウインクした。とりあえずこれはこの話は終わらせてしまおう。まだうめき声をあげている男はにらみつけて追い払った。別に潰してもいないのに女々しい奴。


「……ふふ」


 アルカナはだしぬけに僕を抱きしめる。


「なに?」


 胸が背中に当たって押しつぶされる。柔らかな感触が伝わってくる。にやけ顔をならないようにするのは少し大変。でも、何度抱きしめられても少し顔が赤くなるのは止められない。


「いやいや、わしを守ってくれたんじゃろ。うれしかったぞ」


 ぎゅうとさらに力を籠められる。キスしそうな距離。本当にうれしそうで、無垢な少女のような純粋な笑顔に僕は見とれてしまう。


「べ、べつにあいつがうざかっただけで――」


 大体、あんなのは束になってこようとアルカナの敵じゃない。なのに、そんなに嬉しそうにされると……照れる。

 実際、アルカナは全て分かっている。大切に思ってくれてそういう行動を取ったというのがアルカナにとっては何よりもうれしいことなのだが。


「そう言わんでくれよ、本当にうれしかったのじゃぞ。……お礼、じゃ」


 ちゅ、とほおに口づけられた。


「ひゃ……にゃ。あう……!」


 今度こそ本当に顔が真っ赤になった。抱きしめられるままにアルカナの体の柔らかさを感じる。何も考えられない。頭が幸せでショートしてしまう。


「ちょ――なにしてんの!?」


 絵奈利の声が聞こえたけど、何を言っているのかはわからない。あう……やわらかい。どうして女の子の身体ってこんなにあったかくってやわっこいのだろう。


「目の毒なんてもんじゃ――」


 がしがしと頭をかくと。


「九竺、私はこの子たち連れて外に行ってくるわ! そっちで話し進めといて」


 と言って、アルカナごと僕を抱え、アリスの手を引っ張って外に連れ出した。


 残された九竺はというと。


「お、おう」


 と、あっけにとられるしかなかった。


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