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第23話 初めての町


 そして、1日足らずを疾走して別の街に足を踏み入れる。新幹線もかくやの速度であった。


「……着いたな。大丈夫か?」


 本当に強行軍だった。食事もトイレの時間もない。僕たちを九竺が心配するのもわかる。

 容姿は子供そのものだからね。でも、この程度で終末少女が疲労するわけがない。そして、誰も疲れた顔をしていないのだからふりをする必要もない。


「問題ないよ。これくらいならあと2日ぶっ続けでも」

「そいつは、うちのもんがついてこれねえなぁ」


 なるほど。九竺はついてこれるのか。他にも余裕そうな顔をしている。体力がなさそうなのは。


「ついた~。ごはん!」


 と、一番疲れている顔をしている絵奈利だろう。しかし、こいつは走っている最中も結構話しかけてきたからそれで疲れているだけな気がしなくもない。


「おいおい、その前にこいつらの冒険者登録をしておいた方がよくないか。換金もしておきたいしな」

「ああ。そういえば――こいつも換えられる?」


 魔石を見せた。

 僕の箱舟に積んであるのは魔核石だ、魔石ではない。だから、ティータニアとディラックに頼んで砕いて持ってきてもらった。

 特にコイツラには気取られることもなく達成できた。あの子たちもスニーキングミッションを楽しんでいた。


「……ッ! そいつは。いや」


 九竺は少し考える様子を見せた。……失敗したか? とはいえ、こんな――この世界基準では馬鹿げた装備をもっているならこの程度の大きさの魔石を持っていても不思議はないと思うのだが。……やはりもっと砕いた方が良かったか。

 だが、九挫は諸々の疑問を飲み込んで口を開く。


「換えられるぜ。そいつは倒したやつのものか?」

「うん? そうだよ」


 それ例外に何が――ああ、誰かから奪うという選択肢があったか。それを疑った? 僕たちに関係がありそうな組織、それも巨大な魔石を確保できるだけの力がある組織と言えば……ぜんっぜんわからない。

 なにせ、僕はこの国の政治機構すら知らないからね。


「……まあ、実力があれば問題ないだろ。さっさと組合に行くか」


 また勝手に納得した。

 これは、僕たちと相性の”いい”組織でもあるのか。でも、それならば、そこに僕らを預けてしまえばいいだけの話だった。

 ならば、元のところに戻すのをためらう事情がある? だとすれば、その組織は犯罪組織の類かと推測する。とはいえ、それだけの情報では憶測の域を出ない。極論、メガネをしていれば死刑という憲法があったとして、それから逃れるために集団を作れば犯罪組織に違いない。


 情報が欲しいな。僕が知っていることは、新城ごと箱舟を燃やそうとした当たり、この国もそうお優しいわけではないというくらいかな。


「なら、早く入ろうか。門の前で長々と雑談しているのもあれだし」


 前を見ると、殴れば壊れそうな土くれの壁がそびえている。

 こんな感想を思うあたり、終末少女の身体になれてきている。人間だったころなら、十分頼もしく思えただろう。

 ミサイルは防げなくとも、人間相手なら防げると。……煉瓦を支柱にして土壁を作り、鉄板で覆って防御力を上げているそれは容易には突破できないはずだ。実際に下級魔物であれば数百匹来ようが受け止められる程度の防壁であるのだ。


「……しかし、原始的な壁だな。魔術的素養、科学的素養にも欠ける未発達な世界か」


 聞こえないようにつぶやいた。

 九竺の装備はかなりのものだった。それだけにこの土壁のお粗末さは残念だった。

 この程度の文明レベルなら、観光にもあまり期待はできないかな? 目につくこと言ったら、昼間なのにやたら暗い。灰が散っている、ということくらいしかないが。

 ―― うん、つまらない。見るべきところがない。そう思っていたら。


「……くす」


 アルカナが前に出た。……は?


「ら~♪」


 鼻歌を歌いだす。


「La~LaLaLa」


 くるくると回る。とても……きれい。目を奪われる。こちらを見て、ふわりと笑う。


「……わ」


 一枚の絵画のよう。黒い灰が舞う中で、あの子だけが輝いている。私を見て、と。

 一日中そばにいたとはいえ、無言で走り続けてたまに魔物を倒すくらいだった。ちょっとしたお願いはしたけれど、少し寂しくなったのかな。

 さらにご機嫌で鼻歌を歌いながら舞い続ける。なめらかな銀髪を宙になびかせたアルカナから目が離せない。


「……天使様、みたい」


 そうつぶやくと、ぎゅっと腕をつねられた。そして、やわらかいものが押し付けられる。

 ふわふわとして、どこまでも沈み込んでいきそうなのに、少し行くと硬いものが当たる。……薄い胸、アリスの柔らかな身体。いけないことなのに、ずっとこのままでいたいと思ってしまう。


「アリス。君も少しだけ寂しくなったの?」

「そうじゃないもん」


 少し頬を膨らませている。……嫉妬かな。とても愛らしい。


「アリスばかりずるいぞ?」


 ぎゅっと、もう片方の腕を握られる。こっちはずぶずぶと沈み込んでいく柔らかさだ。大きな胸が当たって、埋もれそうになる。

 ……鼻血が出そうだ。そんな情けないこと、身体を無理やり操作してでもさせないけど。


 そして、向こうではこっちに関係なく話が進んでいる。いや、話をしているのは九竺だけで他は僕らのことをほほえましそうに見ていたが。


「……あ、あなたは」


 そちらの方を見ると、門番がすごいものでも見たかのような顔をしている。【光明】はえらく有名なチームらしい。顔を輝かせて、サインでもねだりそうな顔だ。


「チーム【光明】と冒険者志望の人間だ。入れてくれるか?」

「は、はい! もちろんです」


 そいつが扉を開けようとするのを九竺は声をかけて止める。


「おいおい、来訪目的を聞かないでいいのか?」

「あ。す、すみません」


「目的は装備の修繕、こっちの嬢ちゃん達は冒険者への登録だ。滞在期間は1週間ほどを予定している。それと、そっちを使わんでも横で十分だろ」

「はい。承りました。こちらへどうぞ」


 でかい門の横の扉に案内された。確かにそっちの方が効率的だし、高々8人のために開けていられないのだろうけど。ちょっと風情に欠ける。

 防備のためにあるものだから、風情なんかを意識なんてしていられないんだろうけど。


 そう、なにせ近くから見れば壁にはかなりの傷が入っている。

 意味するのは襲撃があったということだ。それも、傷跡程度なら補修もされないほどの高頻度で。

 使えなくなったら鉄板ごと取り替えるスタイルと見える。効率的だね。でも相手は……人間じゃないね。爆発物の跡がない。爪や顎でひっかかれたような傷跡しかない。

 つまり、この世界では低級の魔物が大量に沸いて襲ってくるらしい。


「……おい、あれ【光明】じゃねえか?」

「すげえ、生で見ちまったぜ」

「おいおい、俺なんてあの人たちと話したことあるんだぜ」

「「すげえ」」


 みたいなガヤが裏から聞こえてくる。

 九竺にこの反応を返すあたり、冒険者の地位はかなり高いようだ。冒険者全般なのか高レベル冒険者が対象なのかはわからないが。

 とりあえず九竺に従っておけば嫌な思いはしないかな? 


 この子たちに抱き着かれていて不幸だなどとあるわけないが。うん、とても柔らかい。こんな幸せは他にないと思う。


「あれが冒険者組合だ」


 九竺が指差したのはかなり立派な建物だ。他の建物と比べるとランクが三つほど違う。一般な家屋は木組み、それもタイプは数種類しかない。

 しかし、その建物もよく見ると合板で作られていることが分かる。そこそこの技術力はあるらしい。……というか、産業革命はすでに起きている。”家”ほど大きいものを量産に成功している。中世の技術力じゃない。もっと、高度な文明がある。


 あの村にはそんなものは……まあ、あったのかもしれないけど中まで詳しく見たわけじゃなかったからなあ。

 ただ――そうなるとこの国の政治モデルが気になってくる。後進国によくある中央集権で、内需がどうなろうと気にしないタイプかな。中心都市だけで全部がそろうから、他の村々がどうなろうと国家そのものにダメージは入らない。

 それが、打ち捨てられたようなあの村には文明を感じられなかった理由であるのだろうさ。


「……聞くの後にしようかと思ったけど、今聞いておくよ。この灰、なに?」


 そう、空から黒い灰が降ってきている。

 排出元は明らかに工場と思わしき建物の煙突から。……間違っても体にいいものではなかろう。というか、僕としてはスモッグを思い出す。それは環境保護という概念が生まれる前の、工場によって生み出された汚染に他ならない。

 装備の力で弾かれているのを見ると、明らかに攻撃とみなされているのが分かる。明らかに毒の類だった。一夕一朝なら問題なかろうが、こんな場所に住み続ければ。


「まあ――確かに吸わない方がいいかもな。アーティファクトが自動に弾いてくれるが――俺たちのはヤバイな。わかってちゃあいたんだが、浄化作用が完全じゃねえ。それでも、この灰は体にいいもんじゃなくても、こいつのおかげで人類は生きていける。なくしていいもんでもないのさ……さっさと入んぞ」


 九竺は中に入ってしまった。……ふぅん、これが人類を守っている、ね。解析してみるとわずかに魔力を隠す効果があるようだ。完璧どころか、応急処置と言ったレベルだが。これで人類を守るなど――不完全に過ぎる。


 まあ、そのあたりは自覚はあって、けれど仕方ないことだから話題に上げさせたくはない。そういうことらしい。

 先の見えた破滅……珍しい話じゃない。現実の世界でも化石燃料、原発といくらでも例はある。そして、人類はその対策に予算を費やさなかった――それが歴史というものだ。


「やれやれだね。人類の未来は暗そうだ」


 けれど、暗いからこそ輝く未来はある。

 うん、僕にとっての”未来”は明るい。面白くなりそうだ。勇気は絶望の中でこそ光を発するものだから。

 うす暗闇では光もあいまいになってしまう。絶滅の足音が聞こえてくる闇がひたひたと音もなく迫ってくる。……こういうのが一番怖く、つまらない。気が付いた時には手遅れだ。

 そんなことはさせない。火をつけてでも、危険を知らせてあげるよ人類ども。周りを囲う壁に不完全なステルス、そんなものであの【災厄】から人々を守り切れるわけがないのだから。

 ルナはひっそりとほくそ笑んだ。


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