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終末少女の黒幕ロールプレイ  作者: Red_stone
サイドストーリーズ
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SS10話 反乱


 かつかつと靴音を立てながら、レーベは無人の廊下を歩く。もともと残る団員の数は少なく、それに対して居城であるアームズフォートは大きいからよく響く。

 だが、そういうことではない。人っ子一人いないのは、戒厳令が出されたからなのだった。誰も外に出るなという命令を下したのだ。


「おや、なぜここに居るのです?」

「あなたが出した戒厳令に、従う義理はありませんよ」


 そこにカレンが待っていた。

 そもそも戒厳令など出して、何をやるかと言えばルナの暗殺だろう。わざわざ知らせる真似はどうかと言う意見もあるだろうが、ルナは決闘に背を向けはしない。知らせてやれば、姉妹やアリスが戦闘に加わることはない。

 それは戦略としては間違っていない。そうすれば1対1で戦えたはずだった。けれど、カレンはそこに居る。ルナの命令ではなく、自分の意思で。


「繰り返しましょう、なぜです? カレンも、あの子の鼻を開かせてやるのは好きでしょう。それに、他人の挑戦を妨害など……馬に蹴られますよ」

「――それは勝つ気があればの話です」


 カレンが睨みつける。怒った……いや、ずっと怒っていたのだ。今この瞬間に感情を解放したにすぎない。

 対するレーベは、ふむんと顎に手を当ててはぐらかすような調子だ。


「もちろん、勝つ気でやっていますよ。ルナ・アーカイブスを倒す。人として生まれた者が、神を倒す――これ以上の挑戦など、この世にはありえないでしょう」

「挑戦に、なんの価値が? お忘れか。私たちは強いから魔物と戦ったのではなく、人類の未来のために戦った」


「……」

「勝てれば嬉しい、などという次元で戦ってはいなかった。不可能でも、何を犠牲にしても勝たなければならなかった。だからこそ、この挑戦に意味はなく――ただの言い訳でしかない」


「言い訳ですって?」


 ピクリとレーベが反応する。怒った、がそれは図星を突かれた反応だ。


「あなたは死にたいだけ。中断された翡翠と鋼の戦争、そこで死にきれなかったから今度こそ自らを終わりにしたい――そんな浅はかな目論見だ。けれど、あの方はそれでも殺すのでしょうね。戦うとはそういうことだと、あの方は思っている」

「……フ。クハハハハハ! であれば、どうだと言うのです!? 私が戦いを挑み、ルナが殺す。あの方が決めた道理であれば、団員として従わざるをえないではありませんか!」


「――いいえ。ここは通さない。あなたに挑ませなどしない」

「何の権利があって妨害すると?」


「あの方はいつも言っているでしょう? 好きにしろと」

「では、最初の問いに戻りましょう。何の理由で、お前は今そこに居る!?」


「ええ、確かに泣かせるのは好きですが……悲しませるのが好きという訳ではないのですよ。いけすかないお師匠様のために、あなたはここで止める! あの小さな手で、他ならぬあなたを殺させなどするものか」

「止まるものか。もう疲れたんですよ、休みたいんですよ。……なのに急かされる。ルナの権威を利用するために自らを幼い身体へと錬成変換した! この壊れかけの脆い身体は、立ち止まることさえできやしない! 私は!」


 二人、叫ぶ。両者ともに幹部、もっとも最強勢とは明確に格が落ちる。だが、レーベにはルナのゴミ箱から盗んで改造した兵器がある。

 使い捨ての、しかし慮外に強力な代物を大量に所持しているとカレンは知っている。対して己が持つのは一振りのオーバードウェポンのみ。伍するほどの威力を秘めているが、一つだけだ。


「手数では勝てない。時間をかけるほど不利。……ならば、一瞬で終わらせるまで」

「残念ですがカレン、あなたでは足りない。この身体は、神との決戦を望んでいる!」


 カレンは準備して待ち伏せしていた。黒い布が翻り、レーベの視界を埋める。ただの布ではなく、アーティファクトのなりそこない。だが、視界だけではなく魔力反応も攪乱するには十分だ。


「――」


 カレンが隠れ蓑の後ろから全力の一撃を放つ。オーバードウェポン『クラスタージェット・メガロブレイド』は加速する大剣。ジェットを噴射、一直線にレーベを狙う。


「やはり、あなたは素直すぎる」


 凄まじい爆発がアームズフォートそのものを揺らした。同士討ちでは終わらないと宣言した直後にこの自爆。2階層、3階層分が抉れて無骨な鉄骨を晒している。

 そんなことをすればアームズフォート自体が壊れて、世界の外側で藻屑と消える。というのは、実際はアームズフォートは部屋として活用しているだけで実際の圧力はアルカナが防いでいるから大丈夫だけど。


「げほっ。ごほっ。――私はドーピング済です。この程度では死にません。それに、ルナの元に立てさえすれば状態はどうでも」


 埋まった瓦礫から小さな手足を突き出して這い上がる。まだ動ける――が、自爆のダメージは確かに身体に刻まれていた。


「やはり。自暴自棄、ゆえに読みやすいのですよ……あなたのやり口は。普段のあなたであれば本命と隠しルート、そしてお遊びも用意していたでしょうに」


 這い上がったレーベの元にカレンが跳び下りてきた。


「……カレン!? 馬鹿な、ドーピングしてもいないのに耐えられるはずがない!」

「ええ、私はただ隠れていただけです。クラスタージェットをぶん投げて、ね」


 レーベが爆薬を使うなど団員の誰もが知っている。そして、今の精神状態であれば考えなしにぶちまけることもカレンには予想できた。


「――ッ! あの攪乱は、それを悟らせぬため」

「抜き打ち勝負で勝てると思い上がってはいませんよ。あなたはどんな手段でも使って翡翠の夜明け団を生き残らせてきた。ええ、ただ戦うだけの魔人とは大違い……だからこそ本当の勝負はここからだ」


「……フフ。面白くなってきた、と言えれば良かったのですがね。もう私は、煩わしさしか感じないようです。――そこをどきなさい、カレン」

「今さら、命令が通るとお思いで?」


「……ジャアッ!」


 跳ぶ。凄まじい速度だ、どうせ死ぬのだからと施したドーピング。レーベの幼女化は強化のためではなかったけれど。ドーピングで増したその力は、パワーとスピードでカレンを凌駕する。

 壁を掴んで己を射出、砲弾のように突っ込んで殴りに行く。いつもの彼女と反した野獣のような戦い方。


「けれど、ただの力任せにルナ様の弟子が負ける訳には!」


 カレンはその威力をかろうじて逸らす。

 武術、柔術に類する技術で抑えられる前にレーベは脱出。あるいは考えるのも面倒になったのかもしれないが。


「クハッ。結局は、強い奴には敵わない! 弱者が強者に勝つことは、ない!」

「ええ、だからこそ認めない。私が弱者であるなどと!」


 カレンは迫る拳を手のひらで叩く。ぶん、と風を削る音を立てながら拳が通過していった。間髪入れずに下から蹴り足が伸びる。腕を振り体勢を変えてかわした。それでも髪の毛が数本飛ばされた。

 劣勢、だからと逃げるのは団員ではない。命を賭して挑むことこそ誉れ、死中に活を見出すことこそ本領。


「いつまで持つ!? 弱者の戦法が! ルナが教えたのはそんなことですか!」

「アハッ! ええ、こんなことですとも……!」


 カレンが組みつきに行こうとしてもレーベはとびずさって逃れる。そこから壁を蹴り、とんでもない方向から殴りに来るのだ。

 だが、昔のルナの教え方などいくつも戦い方を変えながらぶん殴るというものだった。それに対抗する戦術を自分で編み出せということだ。中でも”強力なステータスで殴る”、それは【災厄】の戦闘法でもあるのだから習熟は当然だ。


「それがどこまで持つ!?」

「勝つまで!」


 レーベは背後から蹴りかかった。が、カレンはわずかに首を逸らして回避する。次の瞬間には別の角度から拳を繰り出されている。それを、丁寧に一つ一つ手のひらでさばいていく。当たれば即座に戦闘不能になる一撃を。

 また、レーベがとびずさって離れた。


「――面倒!」


 バ、と掲げた手には刀が握られている。異空間の格納場所から武器を取り出すくらいはレーベにもできる。そして、それを投げる。


「チィッ!」


 カレンが弾かれたように身体を跳ね上げた。頬から血が流れる、一瞬でも対応が遅れていれば頭を射貫かれていた。それは投擲武器として改造した刀。ルナがいくつも作った試作品の一つ。

 カレンの背中には冷や汗が流れる。さっきのは偶然知っている武器だったから対応できた。だが、知らないものにまでは……


「シィッ!」

「くっ。おお!」


 上から来る脳天を狙った突きを避ける。攻撃がかすりでもすればと放った拳、だが瞬間的にそれが間違いだったと知る。

 寒い。震える。次のおもちゃは、冷気で凍てつかせる刀だ。反撃など考えずに逃げなければならなかった。


「知らなければ、対応も何もないでしょう。まだおもちゃはいくつかあります」

「おのれ……!」


 レーベは拳をぶんと振るう。バックハンドに近いがただの力任せのその攻撃を、冷気で不調を起こした身体はさばけない。


「が……は――」


 ぐしゃりと内臓を潰された感覚とともに、身体を飛ばされた。カレンは意識を保つこともできず、瓦礫の中に叩きつけられた。


「やっと終わり、と思いたかったですが」


 勝利を得たレーベはニコリともせず、一つの場所を睨みつける。そこから人影が出てくる。


「なるほど、本気と言う訳か。ならば――この俺が止めてやろう。カレンが逃した手柄を、この俺がな!」

「……ルート」


 ルナへの道は、まだ遠い。



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