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第18話 初めての黒幕:参入編 side:ルナ


 村から少し離れたところでルナは観戦している。手を叩いて喜んでいる。


「すごい!」


 そこで戦いを眺めている。目をキラキラさせて「わあ」とか「おおー」とか言っている。まるでヒーローショーを観戦する子供である。

 彼女は、いやこの世界に来る前の彼はもともとここまで子供っぽくはなかったはずである。というか、暗くてネガティブだった。こんな開けた場所で騒ぐなどありえない。


 ちなみに、この姿は他の皆に監視されている。

 皆、ルナのことが心配なのだ。耐えきれずにルナの隣までアリスとアルカナが来ているが、まだまだ箱舟との距離は終末少女にとっては至近距離。跳べば着ける。

 その距離で見守る面々の感想はおおよそ一つ。はしゃぐルナ様はかわいいな、だ。


 実は萌えキャラ扱いされているルナだった。


「あの人たち、息が合ってる。お互いを信用して、安心して背を預けてる。それだけじゃない、絶望的な戦力差の中、希望を諦めずに戦っている。ああ、なんて美しいんだろう。絶望の中でなお、その希望は輝いている」


 ほう、とため息をつく。と、その感激の表情に影が落ちる。


「……でも、このままだとじり貧だ。これはどうしようもないよ、勇気とかの問題じゃない。あの人たちに勝ち目などありえない。どんなに諦めなかったところで、その踏破に意味はない。あの鎧を砕けない以上は順当に嬲られ、力尽きて殺されて希望は尽きる」


 それは、とてもつまらないよねえ。と呟いた。


「もったいない、ね――。うん、とても、とっても……もったいない。こんなにも輝やかしい希望が、ただ絶望の泥に埋もれて消えていくだけなんて。戦闘開始からもう3分経ったかな? 僕が予言した3分は覆された。希望を持ち続けるか、絶望に染まるか。それでも結果は変わらない。そんなストーリー、面白くもなんともない」


 僕はあまりこの世界に干渉する気はなかった。

 なんか凄い力を持った凡人が、その力と都合のいい運の良さで世界をいいように変える。それはきっと救いがない話だと思う。

 そんな絶望的なご都合主義に踊らされるくらいなら、僕はとっとと死んだほうがマシだとさえ思ってしまう。


 運が良ければ、そのすごい人にゴマをすればなんだってできる。してもらえる。それ以外なんて、ただの背景。そいつを引き立てるだけのモブに他ならない。

 そこにあるのは主人公かそうでないかの線引きだけ。僕は、ゴマすりなんて嫌だから。


 だから、世界を変えたりなんてしない。

 僕は自分の頭がいいと思ってるわけではない。そもそも頭の良さなど関係なく、未来なんてものは主人公にとって都合よく動いてくれるのがお約束だ。


 干渉せず、ただ終末少女の皆の相手をしてあげながら時間が過ぎていけばいいと思っていた。物語に登場しない背景ですらないモブの一人で良かった。


「でも、やっぱりヤメにする」


 あれだけの漢気を見せられた。けれど、それを発揮するべき舞台はない。すりつぶされ、消えていく。泥の中に輝きは埋もれてしまう。それは……とても残念だ。

 そんなことは許せないと思うから。


「うん。この世界に干渉するべきではないとの方針に間違いはない。それは僕の勝手な思い込みで、僕自身は自分の判断が正しいものだなんて思ってない」


 で、あるならば状況に合わせて前言撤回も問題ない。信念は一貫してあるべきだ。だが、方策は柔軟でなければ”よく生きる”など不可能だろう。

 撤回してはいけないのは、この場合は前言よりも信念に他ならない。


「そう、だって――こんな不完全な脚本など。神様が描いたのかは知らないけれど、こんな山も谷もない真っ逆さまに落ちるだけの展開なんてのは三流以下の素人未満のそしりを免れまい。僕はそんな脚本なんて認めない。稚拙ながら、この僕が絵図を描いてあげよう」


 決めた。世界の本来の姿どうたらはどうでもよろしい。好きに関わって、好きに歪めよう。こんなつまらない世界、ぶっ壊れたところで構わない。

 いや、壊れるのが決まっているからつまらないのだ。どうせ最悪が運命づけられているなら、ぐちゃぐちゃにゆがめて見せよう。


「アルカナ。少しお願いがあるんだけどいいかな?」


 僕のそばに降り立っていたアリスとアルカナに振り向いて、有無を言わせぬ口調でそう言った。


「なんじゃ? 断るなどせんぞ」

「うん、僕に『劣化保護結界レッサープロテクション』をかけてくれるかな?」


「は? ご主人、あそこに行く気かの。じゃがな、どうしてそんな魔法をかける必要があるのじゃ。レッサー程度では意味などないぞ」


「だめ、ルナ様あぶない」

「危ないことなんてないよ、アリス。アルカナの結界が壊されたら帰ってくるから。そういえば、アルカナはスキル以外の魔術は使えるの?」


「使えるぞ。ただ、服に魔法陣を仕込ませてもらわんと多少の時間が要るがな。というか、スキルというのも便宜的な呼び方じゃな。実際は高速発動できるようにあらかじめ仕込んだ魔術でしかないからの」


 なるほど。そういう形でゲームとの帳尻を合わせるのか。とはいえ、それはアルカナのやり方でしかない。

 魔法使いの他に超能力者がいる。道具を使う者も居る。やり方は千差万別だが、発動に1秒もかけていたら終末少女の戦いでは使えない。だから瞬間的な発動を可能にし、それをスキルと呼び変えた。

 やり方はどうであれ、たどり着く最終系は同じと言うわけだ。


「じゃあ、問題ない」

「いや、意味もないがな? ご主人の素の防御力のほうがよほど高いぞ。せめて上級ではないと。いや、それでもかすり傷くらいしかしのげぬぞ。やれというならやるが」


「ただの舞台装置だよ。壊れてもらわなきゃ困る。それにアリス、君もわかるでしょ。ここに危険なんて何もない。何かあれば君が来てもいいから」


 すがりつくアリスの頭を撫でてやる。そうさ、どうせあの程度の炎では火傷もしないのだ。一点に収束させても同じこと。というか、そもそもあの鈍さならいくらでも割って入れるだろうに。


「……アルカナ」

「いや、説得を任せんでもらえるかな。だいたい、わしはご主人の考えを分かっとらんよ。のう、何する気じゃ?」


「ちょっと舞台を見れるように演出してあげようと思って。ほら、アルカナ早くかけて」

「うむ、では3秒ほど待っとくれ」


「はいはい」


 アリスをぎゅっと抱きしめて、ぽんぽんと頭をたたいてから離す。一応は納得してくれたようで、しぶしぶとうなづいてくれた。


「じゃ、行ってくるね」


 ルナはうきうきと足を踏み出した。



 ルナちゃんは黒幕なので人類に無条件の肩入れはしません。


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