150万PV記念 『愛してるゲーム』Withアリス
次の日。ルナはアリスの部屋に向かう。向かった先にはネグリジェ姿のアリスが居た。幼いその容姿と不釣り合いな恰好で、しかし天津爛漫な笑みで出迎える。
部屋に入ったルナも、豪奢なフリルのたっぷりついたゴスロリを脱ぎ捨ててネグリジェ姿になる。
「……待ってた。今日は、アリスの番だね」
「うん。……ふふ、たくさん呼んでくれてたからね」
ルナがくすりと笑う。ラインのようなもの、終末少女の有する機能の一つだ。終末少女とは、人間よりもよほどスマホの方が近い。
生まれたときから備わっているその機能を使用して、鬼電のごとくチャットを送り付けていたと言う訳だ。
「えへへ。こっちへ来て、ルナ様」
ふわりと笑ったアリスは、テディベアを抱きしめたままルナを手招きする。ルナも呼ばれるままとことこ歩いて行ってアリスの横、ベッドに腰かける。
「う……ん。そういえば、アリスの持ってるそれは、同じものと言って良いのかな?」
「……ん? 同じもの、って言い方がおかしいと思うよ。ルナ様だって、いつも同じ手を持ってる訳じゃないでしょ?」
「あは。そういえばそうだね。この身体も結局は魔術刻印で形作られた仮初のモノ。そのテディベアも同じだね、結局は魔力で編んだものだから」
「うん。……はい」
アリスはルナに持っていたテディベアを手渡す。そして次の瞬間にはイルカのぬいぐるみを持っている。それはアクセサリーにして武器、いくらでも増やせるのだ。
「ん――催促した訳じゃないんだけどな」
ルナは苦笑しながらテディベアを抱きしめる。それはふわふわと柔らかくて、それに温かい。ずっと抱きしめていたくなる心地だ。
「んーん。ルナ様、とてもかわいい」
「そう? えへへ。アリスもかわいいよ」
はにかんで笑う。
「ルナ様、いっしょ。……えへへ」
アリスもはにかんで、身を摺り寄せた。
「そういえば、アリスは愛されることを核に人格を形作ったという話をしたよ」
「ん。アリスは、ルナ様のことが好き。それ以外はどうでもいいの。一緒に居るだけで、アリスは幸せだよ」
「……ふふ。アルカナは愛すことだから、少し違うね。あの子は僕を甘やかすのが好きだけど、アリスはこうして一緒に居るのが良いんだね」
「そうだよ。……本当は、ルナ様にはアリスのことだけ考えて欲しいけど」
「プレイアデスは仲間に言葉を通じないのを厭い、無音ではない静寂を好んだ。コロナは、竜の終末少女として生まれ持った爪と牙ではなく、徒手空拳でのケンカに邁進する猪娘だ。……ミラはね、まあ――どうしてああなったのか分からないけど、被虐趣味を選んだ。痛みも苦痛も、終末少女にとっては意味のないもの。結局は生命とは呼べない、食欲もなければ身体が削れてもそれは魔力が削れただけ。肉体を持つ下等な次元特有の感覚だ。まあ、仲間にされることが前提だから構ってもらうのが嬉しいのかな? アーカイブスの名を得る者は、他にも……」
「――ルナ様」
にやにやと考察に沈むルナ。そういうことを考えるのが好きなのだが……アリスにとってはお気に召さないらしい。
ぷっくりと頬を膨らませて不満を表現している。
「……あ。どうしたの?」
「ルナ様、アリスと二人きりの時にアリス以外の女の話をしないで」
マズいな、という顔をする。そっとテディベアを横に置いてアリスの頭を撫でる。そのまま抱きしめる。
「あはは、ごめんね。アリスはこれが嫌いだったね」
「ん……でも、抱きしめてくれたから許してあげる。もっと、頭なでて」
アリスは膨らんだ頬が萎んで、むふんと満足そうな表情をしている。
「んー。アリスは良い匂いがするね。お日様の匂い」
すんすんと鼻を鳴らす。抱きしめたアリスの頭のてっぺんが丁度鼻先に来ている。アリスはくすぐったそうに身をよじってルナの肩口に鼻を埋める。
「ルナ様も良い匂い。甘い、お菓子の匂い」
おかしそうに、くすぐったそうに身をよじるアリス。けれど、恥ずかしがる様子はない。小さな子供のように天真爛漫に振舞っている。
「……あは。匂いを嗅がれるのは少し恥ずかしいかな」
逆にルナの方は僅かに赤面している。アリスの前ではお姉さんのような顔を見せる。
「えへへ。気持ちいいね」
「わ。あは……アリス、重いよ?」
ぐいぐいと鼻を突っ込んできて、ルナは押し倒されてしまう。
「この香り、ルナ様が作るお菓子の匂い? みんなにクッキーと紅茶を振舞うの、ルナ様好きだよね」
「……うん、そうだね。僕は、何かを作るのが好きなのかも」
「でも、この香りは、今はアリスだけのものだよ」
「ん……アリスをこうできるのも、僕だけだね」
ベッドの上で、小さな二人がぎゅうぎゅうと抱き合う。ただ好きだから、純粋に身体を押し付け合って。
――密着する。
「……」
「……」
何分かそのまま抱き合って……唐突にアリスが首を上げる。
「そうだ、ルナ様。〈愛してるゲーム〉しよう?」
「……う。そうだ、アルカナが知ってるんだから、アリスも知ってるよねえ」
身を起こすと、もうアリスがルナを押し倒した状態だ。いつのまにかテディベアとイルカのぬいぐるみはルナの頭を挟む位置にあって……逃げ場がない。
「――ルナ様、愛してる」
そして、そのまますぐにゲームを始めてしまうアリス。ただ純粋に慕う小鳥のような笑顔。
アルカナの情熱と色欲をどろどろに煮込んだような”それ”ともまた違う。
「愛してる、アリス」
ルナも、ふわりと笑みを浮かべて返す。この、純粋無垢で天使のようなこの子を愛している。
プラトニックな純愛をどこまでも求めるような、ふわふわな女の子だ。
本来のアリスはただ愛されていれば満足する子だ。
まあ、変なことをやっているのを知ればアルカナに対抗心を燃やしてアイツだけズルいと求めてくるけれど。
「綺麗な紫色の瞳。優しくアリスを見てくれる瞳が大好き。……愛してる」
「影のない金色の瞳。僕のことを一心に見つめてくれる瞳が大好きだよ。……愛してる」
アリスはルナを押し倒したまま愛を囁く。その純粋な瞳でルナを見つめて、心の底からの想いをこぼす。
ルナも、逃げ場もないその状況を幸せそうに受け止めながら返していく。
「綺麗で細い、けれど力強い指。アリスを撫でてくれる手が大好きだよ。……愛してる」
「人形を抱く腕。けれど、抱きしめてもらうときにはぬいぐるみをどこかにやってしまうね。そういうところも好きだよ。……愛してる」
「自信満々で、断固として決断を進める。でも、ルナ様は本当は臆病なのを知ってる。作劇を進めるために、そういう風に見られるように頑張ってるよね。……愛してる」
「……あう。そりゃ、知ってるよね。えへへ、照れちゃうな。でも、後ろでアリスが見ていてくれるから、僕は頑張れるんだよ」
照れて言葉に詰まったルナ。僕の負けだね、と舌を出す。
けれど、アリスは構わずに先を続ける。ずっと、押し倒した状態で上からルナの瞳を見下ろす。濡れた瞳でルナの目を覗き込みながら、決して逃がさないと言うようにルナの身体を抱きしめる。
「その小さな胸で、でもアリスを抱きしめてくれる胸はとても温かいの。……愛してる」
「え? まだ続けるの? ああ、うん。アリスは純粋だね。愛してるよ」
そのまま続けてルナを逃がす様子もないアリス。ルナは観念して、愛してるゲームを続ける。
アリスの顔は少しづつ、少しづつ降りてくる。
「――」
ずっとずっと、睦み合って……語り合う。3度を数えるころにはキスをして、もう一度始めから。
好きな場所など、いくらでもある。むしろ――愛しているのだから、その人の全てが好きになる。アリスはいくらキスしても足りないと、ゲームをやめる様子は一行に見えない。




