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終末少女の黒幕ロールプレイ  作者: Red_stone
辺境国消滅編
302/361

第42話 幕間・略奪者どもの血闘


 この世界は異世界より流れついた”塔”が突き立ったことで、全てが枯れて滅び行く定めが決定された。ルナにすら止められないその定めを、原住民ごときが覆そうなど不可能である。

 ゆえに、その原住民たちは他から奪ってでも生きようとする。誰かから奪って今を生きようとも、未来には何もないことを知りもせずに。……ただ純粋に、より良き明日があると信じて。誰かの明日を奪いながら今を生きる。”今”だけを見つめて。


「……見つけた!」


 ハーピィの女王に叱られていた鳥人、王国の民を襲って日々を生きる黒翼共和国の軍人が押し殺した叫びを放つ。

 軍人が野盗と同じことをやるなど見下げ果てた。軍人未満の畜生だなどと思われるかもしれないが、食料の生産に多くの労働力が振り分けられていた時代、工場など存在しない時代には他人から奪って栄えることも軍事国家としての一つの在り方だった。

 まあ、その次の時代では他国から奴隷を連れてきて働かせることで生産量を上げていたし、更に時代が進めば工場生産による大量生産が正義となる。正義など、所詮は時代によって移り変わるものだ。

 ルナたちがこの世界の住民を”原住民”などと称するのはなんのことはない、ネットどころか文字すら貴族のものである世界では……それほどの差があるということだ。

 その彼らが、蛮人の原始人同士が争い合う。


「女王のお考えはよくわからないが……しかし、貴様らを生かしておけば更にお怒りになるのは確実だろう。ゆえに死んでもらうぞ、蛮族ども……!」


 彼は配下と共に眼下を睨みつける。その数にして50余名。未だ昼だが、夜では鳥人の目では何も見えないからまだ日が昇っている時間に攻めるしかない。

 そこに居るのは200をゆうに超える元王国兵達の集団。……夜明け団の鉄竜に恐れをなして逃げ出し、野盗となりはてて王国の村々を襲うようになったろくでなしどもだ。恐怖に支配され、心が砕けた彼らは刹那を生きる。今は昼であれど、酒と血に狂っていた。見張りすら立てちゃいない。


「……くはは! ああ、踊れ踊れェ! 面白い見世物だぜ!」

「くひゃはははは! ちんたらしてると死んじまうぜ!」


 げらげらと下卑た笑い声を上げながら、略奪のついでに捕らえた男にナイフを投げて遊んでいる。

 血を流しながら逃げる男は、やはり逃げきれずに刺されて崩れ落ちる。彼らは奪った酒を呑みながら指差して笑っている。


「行け! 奴らを殺し尽くせ! 我らが女王のために!」


 鳥人が命じた。配下の鳥人が空を駆ける。音もなく滑空し、背後から鋭いかぎ爪にて敵の喉首を掴んで切り裂く。

 開幕で十数人が致命傷を負った。


「くそが! 鳥どもが攻めてきやがった!」

「臆病どもが、俺たちを攻撃してきやがっただと!? 何の力もない村人とかを襲ってるんじゃねえのかよ!」

「てめえら! 出会え出会え! 鳥を斬り捨ててそこらへんで串刺しにしてやれぇ!」


 だが、敵の意気は軒昂。ぶっ殺せぶっ殺せと殺意が唱和する。まともに鎧を着ていない……が、必要な部分くらいはしっかりしている。

 あの鉄竜からは逃げ出した、強大な敵の前に希望はないことはよく知っている。だが、鳥ごときに負けるつもりはないし、そのために必要なことは欠かさない。背後の首は、あれだ。そもそも不意打ちだったし、それを防ぐために装甲を貼れば首が動かなくなる。仕方なかった。


「行け! 奴らを殺し尽くせ!」

「死ねえ! 人間ども!」


 またも、鳥人が滑空する。だが――盾に阻まれた。何人かは盾を潜りぬけて傷を与えたが、致命傷にはほど遠い。

 そして、剣の反撃が来る。


「……死ぬのは貴様らだ! 王国軍を見くびるな!」

「真っ二つにしてくれる! 鳥どもォ! 【アースシェイカー】」


 そのかぎ爪を盾で受け止められて、一瞬動きが止まった鳥人が狙われる。王国軍の力はもともとがこの状況のために磨かれたものだ。

 空から襲い来る敵の動きを止め、そして敵を逃さず一息に叩き切るのが彼らの戦法。鉄竜にはそれほど効果を発揮しなかったのだが、それも当然。なぜなら、そのための力ではなかった。

 幾度となく繰り返し鍛錬したそれは違わず敵手の身体を真っ二つにしおおせた。とはいえ、転がった死体はわずかに4体ばかり。


「お……おのれ! 腐ろうと王国の兵か! 己が民を襲う軟弱ものが、ずいぶんと吠える!?」

「――黙れ! 貴様らなどにあの脅威が分かろうか!? かの鉄竜の暴威! 恐るべき化け物どもの巣、夜明け団の悼ましいまでの神威が! ああ、かのルナ・アーカイブス様こそがこの世界を滅ぼすために遣わされた神なのだ!」


 鳥人の軍団長が厳しく問いを投げかけるが、応えるのはきっちりと鎧を着こんだ男。明らかに上位者の立ち居振る舞いをしているため、鳥人たちは彼を避けていた。

 もちろん、名は体を表すと言うようにその鎧は飾りではない。逃げた者の中で最も地位の高い者、強者が軍団を率いている。


「な――馬鹿か!? 王を裏切り、国を捨て、悪戯に民を虐げる悪へと堕して……その上でかの悪童を信仰するか? 貴様ら、どれほど恥知らずだと言う!?」

「羊を育てることも、稲を撒くこともできずに血肉をすするしかない鳥がよく言う。空に突き立つ”塔”がルナ・アーカイブス様を呼んだ。全ては手遅れだ。絶望せよ、諦めよ。全ては終わっているのである」


 厳然と前を向く姿は僧侶のような神秘的な雰囲気さえある。鳥人の軍団長は確かに気圧されたのだ。

 そして、何か救いをと周りを見るが……


「頼りない……!」


 周りの兵はどうにかしてくれと言わんばかりの目で自分を見つめている。奴を倒してやろうなどという気概のある者が居ない。

 舌打ちして、作戦を切り替える。王国兵は空を飛ぶ鳥人を殺すため、盾で受け止め一息に切り殺す戦法を取った。だが、鳥人とてやられっぱなしではない。今までずっと戦争を続けてきたのだ。

 相手が対抗手段を生み出したのなら、こちらもそれに対する対抗手段を生み出す。人と人の戦いはいつでもイタチごっこだから。


「――魔法兵! 前に出よ、魔法で奴らを仕留めるのだ!」


 バ、と手を出し宣告する。


「はっ! 【ブリーズ・バレット】!」

「「「「【ブリーズ・バレット】!」」」」


 風の弾を射出する。


「ぬ――っ!?」

「ぐあっ! だが、こんなへっぴり弾でやられるか!」


 王国兵達は構えた盾で防ぐ。魔法技術そのものが発達していない。なにより、汚染されていない世界では魔力の絶対容量が少なすぎる。魔力の使用後の滓が瘴気になり、魔物になり果てる。魔物が居ない世界では、魔力も少ないという理屈。

 とはいえ、相手も相手なら、同じ土俵で相手をしているのだから。完全に通じないというわけでもない。


「ぐおっ!」

「ぎゃあっ!」


 うまく防げたのと、防ぎ切れずに喰らってしまったもの。逃げようとして風弾を背中に喰らって転倒したものもいる。

 兵士の中にも優劣がある。劣っている方では、対処しきれない。


「は――無様だな、死ねえ!」

「おらあ!」


 そして、防ぎきるのに失敗した者たちはかぎ爪の餌食になる。盾で受け止められなければ、喉首を切り裂いてそのまま上空に舞い上がる。


「……このお!」

「馬鹿が、届くかよ!」


 仲間を狙っているのを利用して、急所にかぎ爪を立てた瞬間に切り捨てようと襲い掛かるものの、鳥人はひらりとかわす。

 やはり、盾で受け止めて一瞬の隙を作らなければ鳥人は殺せない。空を自由に舞う彼らの方が有利なのだ。

 ……もっとも、数の上では50余名vs脱落者が出ていても300名近く。勝負の行方はまだ分からない。


「――くっ。やれ、魔法部隊たち!」

「は……そんなもんで死ぬようなボケはこっちからぶっ殺してやるよぉ!」


 そして、その戦争は泥沼にはまり込む。


 なぜなら、どちらも致命にまでは踏み込めない。王国軍の方は空を飛べないため、相手を待つしかない。だが、鳥人も相手の領域にまで踏み込まなければ致命は与えられないのだ。

 牽制で崩して相手を殺す……そんな戦法を取っているが、それでは300余名を屠るなど気の遠く、それ以前に実力に勝る者達はその戦法では殺せない。


 予定調和のごとく、石投げみたいな戦争を続けている。


「……」


 王国軍の主は鳥人を睨みつける。やつらが降りてこなければ殺せないが、しかし距離を取っての攻撃で殺されてやるほど甘くはない。

 降りてくる時を虎視眈々と狙っている。


「……」


 鳥人達の主は、むしろ敵よりも味方を睨みつけている。相手の喉笛まで迫らなければ殺せない。しかし、それは自らの命を危険に晒すことであり、まあ中々出来ることではないことは分かる。だが、実際に出来ていないのはどういうことか。

 魔法部隊の援護に紛れて行かせたいのだが……しかし、配下の彼らは行かない。無論、体勢の崩れた相手には積極的に行くので何とも叱りづらいところではあるのだが。


 しかし、すぐに殺せず、だが殺されもしない睨み合いのような時間が来る。魔法の弾丸は散発的になり、それでは敵の体勢も崩せない。


「さて、どうした? 弾幕が薄くなって来たな。魔力切れか?」

「く――行け、お前たち! 奴らを血祭りにあげろ!」


 鳥人たちの主は威勢が良い。もっとも……それは威勢だけだ。最初の一回目から彼は降下していない。

 ずっと上空で指示を出している。真っ先に自分が突っ込んで死ぬのは指揮官失格……とはいえ、ならばと上で安穏としていれば今度は部下がついてこない。

 どうしようもなく、戦端が硬直する。上で飛んでいる鳥人たち、下で睨みつける剣士達。これは――疲れた頃に鳥人が撤退するような、ある種の予定調和であるのだが。


 その調和がいきなり破られた。強大な魔力とともに、すさまじいまでの威厳の持ち主が降りてくれる。


「――貴様ら、軟弱者め。いつから我が軍は敵を前にお見合いを続ける臆病者になり下がったのか」


 ハーピィの女王が配下の娘とともに舞い降りた。


「ほう。初めてお目見えする。私は――」

「要らぬ」


 兜の奥で口角を上げた野盗の主は、しかしハーピィの女王ににべもなくあしらわれて憮然とする。

 屈辱だった。そして、その雪辱を果たそうと剣を握る。強いのは分かる。だが、夜明け団には遠く及ばないならば恐怖する理由もないと。


「何だと?」

「人間の名などどうでもよい、聞くつもりもないわ。そして、軍をこの程度の代物に貶めたお前も――消えよ」


「お、お待ちください。女王さ……」

「黙るがいい」


 指先一つ動かすことなく彼は切り刻まれて墜落した。血と肉が草木の消えた荒野に赤い染みを作った。


「なるほど。これはこれは。だが、まあ……彼らに比べれば足元にも及ぶまい。あの鉄竜の暴威に比べればな」

「……不快な。あの玩具と我を同列に語るか?」


「ああ、お手並み拝見と行かせてもらおう」

「――」


 剣をかつぎ、恐るべき速さで駆け出す。その瞬発力こそが『アースシェイカー』の証、一瞬で近づき、一息で叩き切る。すべてそのためだけに鍛え上げた身体。


「さあ、貴様の力を見せろ!」


 彼女に近づき、剣を上げたその瞬間に彼は文字通りにはじけ飛んだ。風の魔術、魔法部隊のそれとはわけが違うそれが一瞬で原型も残らないほどに消し飛ばしてしまった。


「……む、いかんな。今日は試運転に来たと言うのに」

「お母さま、一人くらい居なくても変わらないでしょう。ここに居る野盗ども、奴らを殺し尽くすのが……」


「うむ、兵どもにはその程度のこともできぬから私自ら来たのだ。レスティアよ、奴らにその焔を見せてやるがよい」

「はい。『炎天烈覇』よ、その焔をお母さまに捧げなさい!」


 傍付きの娘が手に持つ機関刀を起動する。それは起動に莫大な魔力を要し、さらに使用するにも相性が必要な上で強大な負荷を強いる。

 相性が低くては、起動に足る魔力を持っていたとしてもぜいぜいと喘ぎ、目の前もまともに見えない……今の彼女が晒すような有様になる。


「――では、私も起動しよう。激しい風で、世界の全てを押し流してしまえ『風天哮臥』」


 そして、女王もまたその機関刀を開陳する。機関刀は『領域』を疑似的に模したもの、二つあれば喰らい合うのだが――従者は自らの領域と焔を保つのに集中する。

 王国が使ったときに一瞬で砕け散ったのは『領域』のレベルが違いすぎたからだ。主従のレベル差は、まだ耐えられる範囲だったということ。それだけではただのライター代わりだが、しかしそれはライター程度の火力ではない。


「……くっ。はぁ。……はぁ……!」


 従者は目をつむり、ただ焔を絞り出すことに集中する。そうしなければ即座に死に至るほどの負荷がかかっている。

 一秒ごとに寿命が削られていくほどの消耗だった。


「さあ、娘の焔を喰らって産声を上げよ【トルネレイン・フラムヴェルム】!」


 そして、女王が自らの機関刀を振るう。それは威力を十全に発揮する”国を支配する力”、ただの軍人ごときでは決して届かない力であるのだ。

 その嵐が、焔を飲み込みさらに強大化して襲い掛かる。


「っひ!」

「うわああああ!」


 その絶望的なまでの力は鉄竜を思い起こす。いや、確実にそれ以上だと確信して――士気は崩壊した。

 散り散りに逃げ出そうとするが、強烈な向かい風が吹いてきて走れない。逃げれずに、けれどどうしても逃げようとあがく中でその焔にて一瞬で焼き尽くされる。


「ふむ。こうすれば使えぬ機関刀もまあ役には立つか。そら、逃げ惑え王国の軍人ども。叫び声を上げ、ブタのように死んで行け。それが貴様らにお似合いだと知るがいい」


 女王が剣を振るごとに死者が量産されていく。誰も逃げられない虐殺の光景を、鳥人たちは上空から見下ろす。

 その蹂躙に爽快感などない。女王の癇癪次第でその力が自らに向けて振るわれるのだと……ただ震えていた。


「はははははは! ああ、クリムノートの間抜けどもめ。どうせ風の民である我らには扱いきれぬと思ってよこしたのであろうがな。こうすれば上手く利用してやれる。夜明け団とやらを倒したなら、次は貴様らを血祭りに上げてくれようではないか!」


 笑う女王。だが、その隣では従者が死にかけていた。もっとも、女王にとってはどうでもいいことだ。代わりなど、いくらでもいるのだから。


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