第14話 【災厄】の魔物 side:ルナ
「――昨日は楽しかったな」
で、今日はお仕事だ。というか、一昨日から昨日までずっと鬼ごっこをやってるとか、我ながら能天気にもほどがあると呆れてしまうけれど。
コロナとプレイアデスまで加わってハチャメチャでエクストリームな鬼ごっこになっていたが、それはいい。楽しい思い出だ。
それはそれとして。招いた奴らの処遇をどうするかを決めねばならなかった。まあ、おうちに返してもいいと思っているのだけど……記憶を覗いてこの箱舟の様子を確認されたら厄介だ。
そこまでの魔法はなくても真実を確かめる魔法はあるかもしれない。もしくはウソ発見器の魔導具版か。それを考えるとこのまま開放するのも少し都合が悪い。
「言葉だけでは嘘ついてるとしか思われないだろうが――ファンタジーだ、真実を確かめる方法なんていくらでもある。そも、魔法のない現実でも相手が2,3人いれば方法はあるしね」
念を入れるなら殺す以外の選択肢がない。
大体、彼らは何らかの魔導具を体の中に入れている。一昨日、あの隊長さんが死んだときに魔導波が確認された。監視もなく放っておくほど僕は馬鹿じゃないさ。
あらゆるカメラ、センサで彼らの行動を記録していた。いや、別に特別に警戒態勢をしていたわけじゃない。ノーマルな状態でもやってることだけどね。
「……昨日も?」
ログをたどっていくと同質の魔導波の履歴があった。隊長さんが死んだときとは少し違う魔導波。映像を見ると、睡眠状態に落とした彼らは自殺していた。
「そこまで現実はつらいかね」
僕が使った妖精は幸せな夢を見せるという能力を持っている。
もちろんオンラインゲーム時代にはただのフレーバーテキストだった。実際には攻撃したら覚める行動停止状態というだけなのだ。
しかし――あれだけだらしない顔で寝こけていたのだ。どんな幸せな夢だったのやら。
「ま、僕には必要ないけど」
今のこの状況こそが僕にとっての幸せな夢に他ならない。
かわいい子たちを従えて、最強の力を持っている。うん、覚めたら自殺したくなるイタさだね。恥ずかしさという意味でも、そして味気ない現実という意味でも。
「なら、それでもいいか」
あの人たちが死んだら死んだでしょうがないよね、僕悪くないしとひとりごちる。現実で僕がどうなろうとも、もうどうでもいいや。
ルナは気づかないが、独り言は現実世界にいたときから引き継いでいる癖である。そして、他の子もそれを真似しはじめると言う有様。ルナは一人でぶつぶつと呟き続ける。
「当たり前だけど新城君は残ってるね。他には5人ほど。多いのかな? 少ないのかな? 生き残ったのは2割くらい。さて、彼らはどうするんだろうね」
そいつらの生き死には僕には関わりのないこと。
でも、聞いてみたい。僕は愛とか勇気とかが大好きだ。もちろん、現実では創作物のそれでしかなかった。戦争もない世界で、現実にそれを発揮するどんな機会がある?
いや、彼女もいない僕にだけなかったのかもしれないけど。けれど、あの夢を見て生き残っているのなら、それは勇気ある”しるし”と言える。実際、10人以上死んでいるのだから。他は逃げて墜落死した。
「……むぐ」
足を迎賓館に向けるとつん、と血の香りが漂ってきた。そして、顔が青くなる。
「やっべえ。客人が中にいるのに掃除なんて余計だと思ってたけど、死体だらけだ」
臭いとれるかな。でも、落ちなかったら建て直せばいいか。魔核石はいくらでも余っている。ああ、いや。それ以前に客人の精神状態も考慮しなくちゃいけないか。……二日間そのままだ。
「とりあえずは、掃除かな。いや、聞いてからのほうがいいか?」
放送で呼びかけても反応がなかったので勝手に掃除させてもらった。もちろんやったのは魔導人形だ。僕が自分でやるわけがない。
ル〇バ君、役に立つね。人型、というかつるんとしたデフォルメ人間みたいなやつだけど。
作業が終わるのを待ってから扉を開ける。
「やあ、ずいぶんと意気消沈しているようだね」
声をかけると、彼はのろのろと顔を上げた。
「ええ。すみませんね。多少、ショックなことがあったので。……ところで、彼らの死体はどうなったのかお聞きしても?」
え? 知らない。なんてことを声に出せるわけがない。魔導人形にやらせたから……たぶん焼却炉行き、かな。
「持ち帰る?」
「いえ、ドッグタグはここにあるので。できれば、彼らの遺体はあまり粗雑な扱いをしないでやっていただきたい」
それはまとめて焼いたうえでその辺に散布するなと言ってるのかな? まあ、めんどいけど指示出して成分分析して遺骨をまとめておこうか。ごみ自体が少ないから多分できる……といいな。
「それは要求?」
「とんでもない。我々はそんなことできる立場にありませんから」
ずっと床を見ている。心が折れたか?
「君はどうするつもりだい? ずっと、ここで床を見て暮らすつもりかな」
「……そんなこと」
こちらを見ないが、さらに顔をそらした。ああ、やだな。そういうジメジメしたの。この男はそんなの関係なく、やることやるかっこいい奴だと思ったのに。
何かないかな、とログに目を通すと強力な魔力反応が近くにあった。
もちろん強力なんて言ってもこの世界基準の”強力”でしかない。それでも、イベクエの初級ザコくらいの力はあるか。ちゃんとした武装を持ち出さなければ素手で一撃は無理かな。
スキルを使えばまとめてどうとでもできるけど。
「ああ、いいね」
――うん、これは都合がいい。そう、まさに勇者の復活的イベントだ。
僕は大好きだよ。一度くじけた人間が、脅威にさらさる人々を助けるために立ち上がる。勇気をもって敵に立ち向かう姿は身震いするほどに感動的だ。
「…………」
うろんげな視線を感じる。うん、そりゃ宙を見つめてうなづいてりゃ変人に見えるかもしれないけどね。
「近くの村が襲われている。いや、これは襲われようとしているというべきかな」
新城がはっとして、僕を見た。
うん、おびえっぱなしはよくない。きっと、いろいろとごちゃごちゃ考えているんだろうね。でも、僕の思惑は物見遊山だから気にしない方がいいよ?
「あの村には君より強い人間がいる。いや、遠目で見て人間の村だから人間って言ってるだけで、そいつも異形かもしれないけどね。ま、それはどちらでもいい。今、敵は雲の上にいることだけが事実だ。力を貯めているのか、もしくは雷でも落とす気かな? まあ、まだ準備には時間がかかるということは確実だね」
ここで口を止める。ぶつぶつと呟いているのを盗み聞きすると、どうやら信じてくれたらしい。
うん、確かに僕には偽る意味もない。この危機を演出する意味は、うん。実はあるんだ。でも、偶然だよ。偶然があったから利用しているだけに過ぎない。
「僕はどうするべきだと?」
「逃げるべきなんじゃない?」
と、答えてやった。もちろん、新城君ならそんなことはしない。君の勇気を信じているとも。
「それは――」
「あそこに行ったって、君は無駄死にだ。そんなちっぽけな力に、粗末な武器ではね。見てごらんよ、彼らのほうがよほど強そうだ」
探査しているとちょっと強い魔力反応を発見したから見せてあげた。
そこに映ったのはこれこそ冒険者、という風情の男たちだ。持っている武器にしたって、どう考えても柄に入らないだろみたいな大きくて美しい武器。まあ、僕の持ってるのに比べると玩具だが。
「あれは……A級冒険者のグループ”光明”か」
「ふーん。そう言うんだ。まあ、彼らなら――3分かな」
「3分、とは?」
「そのくらいなら生きられるんじゃない? 適当言ってるだけだけど。スペックから言って、あの敵を相手にしては時間稼ぎにしかならないのだから」
「では、ここにも?」
「うん? うん……ああ、あれが僕たちのところに来るかってことか。それはないんじゃないかな。迷彩かけっぱなしだから認識すらできまいよ」
「なら……」
「君が死地に赴く理由はない。ああ、村人なら僕は助けないよ。そして、君が助ける理由も……ないんじゃないかな。それとも、知り合いがいたりするのかな」
「まさか、そんなことはありませんよ」
「なら、このまま見ていようか。あの冒険者が何分持つか、かけてみるかい? さっき言った手前、僕は3分にかけるよ」
「……」
考えている。いや、踏ん切りがつかないのか。僕にはわかる。この男の目には腐った世界を憎む灯が灯っている。それで、見捨てるなどということができるわけがない。
「どうしたの? それとも、特等席で見たいのかな。仮に君がアレに巻き込まれても責任を取る気はないけれど、それでいいなら連れて行ってあげるよ」
「……ッ!」
がつん、と殴られたような顔をした。すぐにちらり、と周囲の仲間たちの顔を伺う。
そういえば、忘れていたとルナは自戒する。新城だけでなく、他の奴らもここにいるのだ。5人ばかり。まあ、僕の知ったことではないか。
ぼそぼそと話し始めた。……なんというか、意外。かな。
結構乗り気だね、生き残りたちも。いや、だから阿片の夢から帰ってこられたのか。うがった見方をするなら死にたがりの自暴自棄ではあるけれど。
それが人を助けるものというのであれば、悪くない。
「……僕たちを連れて行ってもらえるだろうか。もちろんそのまま置いて行ってくれて構わない」
決意を込めた眼差しで僕を見つめる。……いいねえ。まっすぐな目だ。
「いいよ。では、行こうか。心配せずとも安全運転でいくさ。酔ってしまったらその気にもなれんだろう」
10割り増しくらいにのろいスピードで送り届けて別れた。その頃には、もう――村全体に火柱が上がっている。
状況はすでに動いている。さあ、魅せてもらおうか……新城くん。




