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終末少女の黒幕ロールプレイ  作者: Red_stone
辺境国消滅編
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第38話 救いを求める者


 夜明け団は王に襲われ、そしてその戦士ごと撃退しそれを殲滅した。敵であるならば殺すことこそ礼儀、それが夜明け団の流儀であるがこれは違う。王が全力で暴れた結果、生きることさえおぼつかなくなった者達を介錯してやっただけのこと。

 夜明け団は間違った行為をしたなどとは思っていない。さっさと王を殺してしまえば、それは兵たちも助かったであろうが……そんな恨み言は聞くつもりがないのだ。


 だが、もちろん治安の悪化を招いた。状況の悪化を知りながらも何もできずにいた貴族たちは、元王国騎士団と黒翼共和国の略奪によりみるみるうちにぼろぼろになっていった。もちろんそこで犠牲となるのは力なき民である。

 抵抗しようにも、領主が持てる戦力には限りがある。具体的には王の率いていた精鋭もどきよりも2段か3段ほどランクが落ちる有様だ。だから敗走した元王国騎士団の前に呆気なく敗れ去る。

 武力がない、その当然の結果として王国の各地に存在する村々も襲われ、焼かれ……そのうちに王国の民すべてに絶望が蔓延した。

 もはや生きていくことさえもできない。子供だけは、なんて強がろうにも子供だけ残されて生きられるような世界ではなくなった。子供を思うなら、殺してやった方が慈悲だろう。


 ――それもこれも、世界的に状況が悪化したというのが原因だ。

 今までは奪われてもどうにかできるだけの蓄えは残されていた。死んでしまえばそこで終わりだからだ。二度、三度と奪うために生かさず殺さずというのは黒翼共和国内では徹底されたセオリーだ。

 だが、野盗に転じた元王国戦士軍がそのような理を知るはずもなく、そして黒翼共和国も家畜を生かすだけの余裕はない。少しでも多く奪わなければ女王に殺されてしまうのだ。

 そういうわけで、文字通りに根こそぎ奪われて男はもちろん女も子供も容赦なく殺された。

 もはや、ただただ絶望に沈むこと以外にできることはない。


 ――そこにルナが現れ、救って(引導を渡して)行く。子供だけは助けて、などと化け物には頼めない。飢えて死ぬか、クスリで恍惚とするうちに死ぬかの二択になる。……悩むだけの選択肢はなかった。

 それでも決断しきれない者は居て、取り残されるわけだが。まあ、そういう者たちも食べ物がなくて野垂れ死ぬか野盗もどきになるかの末路をたどる。

 そのような絶望的な状況下、ルナの救いを求める者は数限りない。のだが、今回は少し事情が違う様子だ。


「足が速いな。我々にコンタクトを取ろうとするか」


 時間は夜。人々を救う巡業を続けているのだ、夜は人間の真似事をして歩を止めて休む。ただし彼らはどこまで行っても戦士である。

 警戒すべき敵も居ないのに、歩哨など当てる様はもはや生態に近い。見張りも居ないのに休むなんて落ち着かない域にまで達している。常在戦場と言う悪癖だが、その悪癖でまさか魔導人形までは使えない。黒の軍服を来ている。


 今日の歩哨を担当していたのは鋼鉄の夜明け団、ペレフィス・レータとナレウド・レノーだった。

 確かに戦闘員の立場を与えられているが、それ以上の人物ではない。ネームドなどとは呼べない戦闘員AとBだった。


「うむ。あちらから来るなど、とんと見かけなかったが……いや、避けているのだったか」


 ペレフィスが夜明け団が野営をする場所に近づいてくる一団を見とがめる。そして、返答した方がナレウドだ。

 ツーマンセルは基本だ、ここが警戒地域であれば4人になっていただろう。2人であるのは敵などいないという傲慢ゆえだ。1人ならば、それはさすがにやらない方がマシだ。


「ああ、ルナ様にご説明いただいたからな。ルナ様の救いを求めているのは足を止めた者達。絶望に涙する気力すらもなく、ただ力なくうなだれる者達であると」

「そして、元気に移動するような者達はまだ希望がある。まだなんとかなると、希望があると思っているから足を止めない。……ゆえに僕の救いは必要ないさ、とおっしゃっていた」


「であれば、奴らは何を目的としているのだろうな。ナレウドよ」

「さてな、皆目見当も付かぬ。まだ元気があるのなら状況を変えるための研究か、それとも畑でも弄っていれば良いものを」


「だが、しかし……これは【紫彩の双祭祀】様方に直接報告すべきであろうか?」

「そこまでの必要はあるまい。すでに戦術ネットワークに報告を上げている。興味があるのなら自らお越しくださるだろう。我らで相手しておこう、ペレフィスよ」


「ふむ。……ナインスの奴の物真似か? あいつなら迷わずそうするだろうな。あの方々はルナ様を信仰するあまりに少々沸点が低くなっている。この世界の人間を相手にさせれば、何秒も我慢できずに首を刎ねてしまうだろうからな」

「それも間違いではないと思うが。しかし、ルナ様の懐の深さはそれほど浅くないのもまた事実。あのお方はどこまでも考え深く、慈悲深いお方であるが……我々はそうではない。わざわざ不快な事実を直接報告することもあるまい」


「我らで片を付けるか。それが良さそうだな」

「ああ、ルナ様の御裁可を仰ぐ必要のないことは我らの方で処理しておかねばな」


 話し終わった二人は近づく一団に向かって歩を進める。どすんどすんと重苦しい軍靴の音が響く。

 鋼であるのだから、彼らは肉体の一部を機械に変えている。鎧を着ていなくても、見た目からして異形とわかるいでたちであった。つまり、まあ――相手される方は普通に怖い。


「……おお、あなた方が翠鉄の夜明け団の方々ですか!?」


 そして、汗ばんだ初老の男性が走ってきた。太っている、とは少し厳しい見方か。戦士であればその肉体の緩み具合は一目瞭然だが、十分衣服で隠れる程度の太り方だ。特に運動もしていない村長様と言った感じ。

 ただ、体力はあるのだろう。今まで普通に歩いていたが、夜明け団に追いつくなど普通ではない。なんせ、こいつらみたいに元気に動き回る一団を避けて行動していたのだから。


「そうだ。私は翠鉄の夜明け団の戦闘員ペレフィス・レータ。そして、こいつはナレウド・レノーだ」

「どうも。わざわざこんな場所にまで何用で?」


 戦士だからそっけない、といった感じで接する。

 そもそもこの二人は営業みたいに人と付き合うような職業ではない。ただ、厄介ごとだから関わらないように……みたいな雰囲気を出すのも二人は苦手だった。

 ゆえに相手の村長は、自分が雑に相手をされているのにも気付かない。


「ええ、ええ! それはそれは語るも涙、聞くも涙な話でして! 我々は筆舌に尽くしがたい酷い目にあってしまったのですよ!」


 彼は流暢にしゃべくりだす。二人の冷めた視線などに気付かずに。


「それもこれも、王国の兵士が弱いからなのですよ。我々力なき民から酷く税金を搾り取っておいて、有事の際には何の役にも立たない! 王国を守る3つの騎士団は黒翼のハルピュイア猛禽騎士団をも打倒せるなどと謡いながら、実際は位の低い鳥人どもを相手にするだけ!」


「ええ、ええ。『アースシェイカー』の一撃は逃げることも許さず上から奴らを一刀両断する、などと言ってはいますがね。彼らが猛禽騎士団と戦ったことなど一度もないのですよ。そのような有様で我ら慎ましく生きる農民を守るなどとうそぶいておったのですが……それがどうでしょう!?」


「奴らは攻勢を増し、無力な農民たちから全てを取り上げていきました。以前は来年まで食いつなげる程度には残されていたものですが、今回は根こそぎ全てを奪い去られましたよ。もう我々には食べるものさえもないのです。こんなことになっても王国は何もしてくれません」


「――そこで、あなた方の噂を聞いたのです! 無力な民を助けて回る神の使い! 我々はたとえようもないほどの酷い目に会いました。しかし、試練の後は神から助けがあるのは当然でしょう? あなた方なら私たちを助けてくれると思って、長い道のりをやっとの思いでここまで来たのです!」


 悲劇に……いや、自分に酔ったような口調でそこまで話し切った。二人が止めようとしないのをいいことに全て話してしまったが……しかし、二人の目は冷めたものだ。


「……ふむ、そちらの事情は分かった。ルナ様のお言葉が聞きたいなら夜明けまで待て。しかし、待ちきれないというのなら今からでも問題ない。葉なら預かったものがある」


 ペレフィスが赤黒く明滅する葉を差し出す。明らかに毒と分かるそれは、3日間の恍惚と引き換えに命を失う麻薬だった。


「いえ、それは違います。神は自死を良しとはしておりません。罪深い行為ですよ、それは」


 彼は、差し出された葉を手ごと払う。はらはらと葉が舞い、二人の目が細くなる。殺気が滲みだすが、まあ彼はただの農民……地主のような立場だが戦に鼻は利かない。殺気なんてものには気付かない。


「――では、何用で参られたか? ルナ様のご慈悲を賜る必要がないのであれば、ここまで来る意味などあるまい」

「いえ。いえいえいえ……あるではないですか。あなた方のご支援を賜っている村が。クスリなどではない。食べ物も、住める家ももらって何不自由なく生きている村が!」


「ああ、勘違いしているな。あれはサーラという少女に与えられたものだ。それだけの価値があると、認められたゆえの対価である。彼女は慈悲にすがって頂いているだけではない。……お前に何ができると言うのだ」

「……ふむ、ただの村娘にできることなら私ならばいかようにでもなりましょうが。……しかし、それは正道にもとる行為です。神はかく語れり。与えられた者は、人に与えねばならない――と」


「ならば、できるかどうか見てやろうか」

「……は? あなた、私の言うことを聞いていましたか?」


 交渉は決裂した。いや、この男が度胸を見せればまだ希望があるが、それは無理だろう。ペレフィスが一歩を踏み出す、その一瞬に後方から影が飛び出した。彼と一緒にさ迷っていた多数の村人の一人に紛れていた。

 だが、ナイフを持っている。村人ではありえないほどに速い。そもそもそのナイフも村人などが持っているはずのない、立派な代物だ。一直線に神輿の下まで走って行く。


「ああ、スパイはお前か」


 ナレウドが造作もなく追いついてその肩を掴み、まるでボールみたく元の方向に投げ飛ばす。

 このまま隠れていても好機など訪れないが、しかしその判断は早計に過ぎた。ただ突進するだけで、団員の虚を突くなど不可能。村人に紛れて近づいて暗殺……しかし、当の村人もけんもほろろに扱われてはルナに近づくどころではなかった。


「……あ。ぎゃ! ぎ――」


 掴んで投げる、それだけで肩が砕かれた。二度三度と地面を転がった。それで全身を打って起き上がることもできない。

 彼にできるのはもう……ただ苦痛に喘いでうずくまるだけ。一端のスパイでも、この程度のレベルでしかなかった。


「どうした? ただ肩が砕けただけだろう。起き上がらないのか」

「王国にはもはやスパイを放つような余裕はない、貴族とて同様。近くにあるのは翼持つ者の国だったか? しかし、お前には羽根がないな」


「だが、この高速移動は王国のものではないな。あれは空を飛ぶ鳥人が降りて来た時に殺し切るために上から叩き切るための技法……求められるのは持久力ではなく瞬発力」

「確かに明らかに長い間走り回る動きはむしろ飛ぶための武術体系だろうな。まあ、聞けば分かる話か」


 特に動揺もせずスパイを対処した二人に対し、村長らしき彼はわなわなと怒りに身を震わしている。

 それはそうだろう。助けを求めに来たのに、仲間だったはずの男がなぜかナイフを持って走り出したのだ。何か俺に恨みがあるのかと言いたくもなる。別に利用しただけの話だが。


「な……なぜだ、カッテウ。お前は、我々がここまで来るために随分と助けてくれたじゃないか……!」


 その目は、もはや射殺しそうなまでの怨嗟で燃えている。全身で裏切られた屈辱と怒りを発散している。まあ、こういう人物は下だと思っていた相手に反抗されると意味不明なまでに切れるものだ。


「ああ、元々の仲間ではないか」

「当然だな。利用しただけだろう。……助けを求めに来た一団、それを隠れ蓑として近づいた。狙いはルナ様の暗殺だな、愚かなことだ」


 冷めた目で見る二人は冷静に状況を観察している。どうぞご勝手に、と言わんばかりの態度だった。


「お前……! お前!」


 村長が掴みかかろうとしたその時、後方から投げられた拳大の石がそのスパイに当たる。ぎゃっと悲鳴を上げてスパイはうずくまる。


「カッテウ。お前、信じてたのに!」

「俺たちを利用してたんだ!」

「鳥の奴隷めが!」


 口々に罵詈雑言が放たれ、更には次々と石が投げられていく。団員に投げられたダメージは深く、立って逃げられない。

 石に全身を打たれて赤黒く染まっていく。


「あー」

「いや……ま、しゃあない」


 鋼の二人はその様子を黙って眺める。止められないことはなかった。ただまあ、止めたところでルナは褒めてくれない。だからやる気がなかった。

 スパイの撃退はそりゃあ手柄になる。しかし、だからといって背後関係を暴いてもルナに活用する気がない。だからそっちは特に褒めもしないのは分かり切っている。


「……そういえば、お前ら。そこの男に仲間は居なかったか?」


 ナレウドが素朴な疑問を放つ。スパイをリンチしてた村人達は錆びたような動きで振り返り……他の者に狙いを定めた。

 仲間として同時に潜入したスパイが居る。あの一言でバレた。


「――ッチ。ここで死ぬわけにはいかん、応戦するしか」

「だが、夜明け団は……!」


 先のスパイがあっけなく撲殺されたのは、すでに動けなくなっていたから。だが、こちらはバレたからと言って死んでやる道理もない。

 殺そうと向かってくるなら殺すまで。どうせ同じ国の人間でもないのだと、ナイフを握る。


 粗末な農具や石ころを持って襲ってくる多数の農民たちと、残り二人のスパイの殺し合いに発展する。集団心理と追い詰められた窮鼠が絶望的に噛み合って、惨劇が幕明けた。


「……まあ、生き残った奴には葉を配るか」


 鋼の二人は静観することにした。


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[一言] 早速王国周辺が絶望状態になってる~
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