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終末少女の黒幕ロールプレイ  作者: Red_stone
辺境国消滅編
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第37話 黒翼共和国の支配者


 そこは樹上の宮殿だった。木々を特殊な魔術を複合して育てることで、みごとな自然の宮殿が形作られている。それは一種の空間芸術、空を支配する種族に相応しい天空の城だ。

 それはまさにお伽話に聞く幻想に住む王の居場所であった。そこに座るのは、真白い翼をばさりと広げた妙齢の女性……それも、ただの女性ではない、その腕は羽根を覆われている。俗に言うハーピィだった。

 女王は匂い立つような色気を全身から発散させるような美貌。両の手でも掴み切れそうにないほどの乳房が惜しみなく晒されている。


「――申せ」


 まるで水着のような大胆な恰好をしたその女は、偉そうに配下を睨みつける。睨まれた先の鳥人達は酷く怯えた様子で答える。

 女王の爪は美しく透き通るような青色で、人などたやすく引き裂いてしまう。もっとも、強い生物とは魔力を取り入れたものである。”そう”なれば殺すのにわざわざ爪など使わない、魔術の一つで事足りる。


「は。”狩り”は成功しております。ベルナディア村、カスティエ村、そしてフェリシア街を襲い、食料を強奪して……」

「――それにしては、随分と持ち物が軽かったようであるな?」


 睨みつける。ハーピィの女王は獲物が少ないと怒っているのだ。

 狩りと称した人間の村々を襲って食料品や金品を強奪する行為は常のことだった。ハーピィと鳥人の住まう黒翼共和国は、牧畜と農業でのどかに生きるテンペスト王国の民から物資を奪って生きる見た目に似合う魔物のような国だった。


「それは、人間たちの貯めこんだ食料が今年は少なくて……」

「少ない? ではどうするつもりだ? 他から買おうにも食料は値上がりを続けているのだぞ?」


「え……それは……ええと……」

「ふん、貴様ごときに考えなどなかろうな。期待などしておらんかったがな……。しかし……フェリシア街ね。そこを襲う手筈であったか?」


「ひ……! それはですね。野盗団が……居まして迂回するためには……」

「野盗……だと? 見逃したのか? それは我らが恐れるようなものか? なぜ戦わない? 恐れをなしたか」


「い、いえ。ですが、奴らどうも王国の軍人のようでして。それも一つの部隊丸ごとが野盗に変じている事態。奴らの斬り下ろしの一撃を受ければ、我らとて危うく……」

「危うく? 死ぬと? お前はそれほどに弱かったと……」


 もはや殺気すら籠めて睨みつける。女王の機嫌は最初から大変悪かった。このままでは殺されてしまうと鳥人は顔を青くする。

 怒られる方としては意味が分からない。いつものように王国を襲って、強奪してきた。まあ、面倒ごとは避けたが。それで何が悪いのか、彼には分からない。


「……そ、その」

「もうよい。次は、逃げるな」


 ふい、と顔をそらした。青くなったその男はそそくさと退出していく。とりあえず、次の出撃では野盗崩れどもを潰してやると誓って。


 ――とはいえ、女王の判断は何も間違っていなかった。何も言っていないという大問題があるが。

 結局はパイの取り分の問題なのだ。

 閉塞しつつあるこの状況、食料品が高騰する今は他人を襲ってそれを得るしかないが……野盗が奪った分は全体のパイから消えるのだ。まあ、要は奪う者は自分たちだけでなければならないということ。




 そして、次はもう一人が足を踏み入れる。


 あの戦いでルビィが見逃した間者――空を飛ぶ鳥人が本国に報告に帰っていた。

 王国とは長年戦争を続けてきたが、鋼と翡翠の夜明け団の衝突を感知したのだが恐れをなして本国まで軍を退いていた。


「王国は……夜明け団の前に破れました。王は討ち死に、そして率いた軍も全滅しました。……奴らは、強すぎる……!」

「――その夜明け団とやらは機関刀(マシンブレイド)を破った……と?」


「はい。肌が粟立ち、焼けていくあの感覚。間違いなくドミネイ・ウラジミールは使っていました……!」

「……」


 女王はすんと表情を無くし、しばし考える。本質と言うものは地域などに左右されない。結局は機関刀の圧倒的な力で民を支配し、他国に対する絶対的な防御とするのが”国”というあり方だ。この女王も機関刀は持っている。

 起こるとしたら、先のような金品の強奪といった小競り合いだけだ。機関刀同士の衝突……戦争などありえない。

 ――現代世界で例えれば、それは核。核の絶対的な力によって大国は安定し、互いに全面戦争などは起こさない。しかし、今や核は破られた。安全神話が崩壊した。


 攻略された? 馬鹿な……と、女王は思う。それができていれば、女王は王国など滅ぼして人間を奴隷にしていた。機関刀の撃ち合い、そのようなこと。最初から無理だと諦めていたことだった。そんな相手と戦う……などと。


「奴らが使うのは4体の鉄の竜、そして巨大な剣です。もしや、あれは新たな機関刀であるのかもしれませぬ……!」

「竜と……剣? それはどのようなものだった?」


「竜は大したことなぞありません。いえ、機関刀でなければ倒せない、そのような代物でありましたが。王国の機関刀の前にはあっけなく破れました。女王に敵う様な相手ではありません。ですが、奴らの持つ機関刀……あれは、すさまじい速さで敵を八つ裂きにしました。焔の尾を引く高速の剣……あのように強力な……!」

「ふん……我が”風”の機関刀の速度をも上回るとでも言いたいのか、お前は?」


 女王が彼を睨みつける。


「ひ……! そ、そんなことはありませぬ。女王の風は速すぎて目にも止まらぬでしょう。……ですが、奴らの使う剣であってもそれは同じ……!」

「ふん。情けないな、まあ貴様らの能力であればその程度か。奴らの顔は覚えたか?」


「……い、いえ。それが」

「それが? 二人や三人の顔も覚えておらぬほどの不出来な頭ならば、要らぬか?」


「申し訳ございません! 奴らの顔を見れるほど近づけませんでした! 今までの報告も遠くから伺い知っただけのこと。私の行ける限界の高さまで上がっておりました。……けれど、おそらくは見逃されたものかと」

「見逃された? 目が合ったとかそういう話か? 勘違いではないのか」


「いえ。私の方がそこまで見えません。ですが、奴らは私の方を見ていました。竜を操る姉妹……! 奴らこそが夜明け団、ルナ・アーカイブスの片腕に違いありません!」

「……ふん。言い訳など不要、見て帰ってくる程度のおつかいすらできないものなど不要である」


「え……? ひ……!」


 冷たい目を向けられたその男は、その雰囲気に愕然として……次の瞬間に命が狙われていることに気付く。きびすを返して走り去ろうとする。……生き残るために。だが。


「あまりにも鈍い。その様で、よく生きていられたものだ。……まあ、もう死んだがな」


 パチンと指を鳴らした。その瞬間に、男は何かに頭を殴られて死んだ。その何かとは風、機関刀を使わずとも魔術の一つ程度ならば使える。

 そして、機関刀を起動させればその威力は何十倍程度には収まらない。


「……あらあら、また殺してしまったの。気が立っているのではなくて? お母様」


 その惨劇の間に、優雅に若いハーピィが入ってくる。母と言うだけあって血のつながりを感じさせる美しさだ。見事なプロポーションに多少の幼さが混じったアンバランスな美を、やはり水着で惜しげもなく晒している。


「ふむ、セイッティアか。何用だ?」


 ころりと態度を変える。鳥人よりハーピィの方が美しく、彼女はハーピィをかわいがる傾向がある。まあ、百合と言う訳ではないけども。


「お客様よ、夜明け団のことで相談があるのですって。……私のところの部隊じゃ敵いそうもないわね」


 ころころと笑う彼女。若い男ならコロリと行きそうなあでやかな仕草だが、瞳の奥には剣呑な光が宿っている。


「ご紹介にあずかりました、ネメシス帝国のバルティエ・レミレフです。翠鉄の夜明け団の専横には、あなた方も困っているのではないかと思いましてね」


 人好きのするような笑顔でいけしゃあしゃあと話している男、その耳は尖っている。普通の人間ではありえない特徴をもったその男を一言で表すならエルフだ。

 まあ、別に葉っぱだの質素な獣の革だの着ているわけではない。金属の鎧を身に着けた立派な戦士達だった。彼の後には仲間が5人付いてきていた。


「――ネメシス帝国? 島国の田舎国家が何の用じゃ? 大陸中心での戦いには加われず、しかし無駄に力を磨いている一族であったかな」

「これは異なことを。大陸中心で覇を唱えるような力がないのは黒翼共和国の方では? テンペスト王国などと言う長閑な田舎を突つくことでしか生きる糧を得られないような……」


 戦士として、帝国の人間としても誇りを持っている。嘲るような言葉に対してきっちりと言い返して見せた。

 そしてもちろん、女王としては客人の不遜な態度など許せるはずもなく。


「ほう? 狩りは我らの生きる術。たかがエルフごときが空に生きる者を愚弄するか?」


 また、指を鳴らす。鳥人の男を殺した魔術が、そいつの仲間に直撃する。


「――ッ! 別に、愚弄したつもりなどありませんよ。仲良くしましょう? でなければ、夜明け団に虐げられるのみなのですから」


 腕を伸ばして仲間をかばった。そして、彼はその攻撃に耐えた。ぽたぽたと、避けた皮膚から血が滴り落ちるがすぐに止まる。


「……回復機能、だと? もしや、それは機関刀の――」


 女王は瞠目する。刻んだ傷はそれなりに深い。血が滴り落ちるほどのダメージが、一朝一夕で回復することはないはずなのに。

 ……機関刀の所有者を除いて。彼らは強力な力を持つがゆえに魔力で己の身体を治癒できる。


「さて。ですが、我らネメシス帝国が所有するそれは一本だけではないとだけ申しておきましょう」

「機関刀の使い手か……! そして、もしや……領域に耐える力を持つものを集めた部隊の噂は聞いておるぞ。――確か、影の……」


「ええ。我らこそ影の部隊――【シャドウ・アーツ】。ネメシス帝国の裏で動く最凶の部隊。お分かりいただけますかね? 翠鉄の夜明け団とは、もはやそれだけの脅威になったのです。そう、”世界の敵”にね」

「世界の敵、か。随分と買いかぶったものだ。だが、王国を降し焔の機関刀を手に入れた今や――それだけの存在になったということか」


「いえ、彼らは機関刀など要らないようですね。まだあなたは事態を軽く見ておられるようだ」

「……どういうことじゃ?」


 睨みつける女王に対して、彼は一つの刀を投げて床に突き立てる。


「王国の機関刀、それは差し上げましょう、ただ一本で相手にできるような存在ではない。……なぜ我々が持っているのか疑問でしょうが、それは彼らが捨てて行ったからですよ。我々は墓標のように王の傍らに突き立ててあったそれを持ち去ったまで」

「……馬鹿な」


 今度こそ女王は本当に愕然とした。機関刀、それは国を支配するに足る圧倒的な力だ。扱いに難があることは多いとはいえ、捨てられるような力ではない。

 それを漁夫の利にせよ得たのなら、それは必ずや自分のものにするはず。だが、それがここにある矛盾。夜明け団の底知れなさを感じざるを得ない。――それは、このネメシス帝国も同じはず。


「疑問ですか? しかし、我らとしても王国の機関刀は容易には扱えない。そして、エレメントとして焔に相性が良いのは風でしょう。夜明け団とは、それだけの相手なのだとご自覚いただきたい」

「しかし、解せぬな。もともと我ら黒翼共和国は空の民。夜明け団がどれほど強かろうが関係ない。地に足を付けるケダモノなど、我らを滅ぼす脅威足りえぬ」


「それこそ愚問です。彼らは空を飛ぶ移動手段を持っています。今すぐにでもここに来て皆殺しにできるのですよ。やっていないのは、彼らは救う(殺す)ことに夢中で、共和国などに興味がないから……ただそれだけのことです」

「――なんじゃと? 我らを……空を支配する我らを舐めたか? その夜明け団とやらは」


「少なくとも、敵とすら思っていないでしょう。敵対に値する相手だと思っていない。目の前でうるさく飛ぶなら叩き潰す、例えるならハエ程度の存在としか思ってはおらぬでしょうな」

「……なるほど、それは許せぬな。どれ、まずは我が国の暗部に相手させるか、騎士団を出す必要があるかどうか、品定めしてくれようではないか」


「ハルピュイア猛禽騎士団を動かさないので? それでは機関刀を譲渡する甲斐がないというものですが」

「我が手に渡った以上、もはや私のもの。私のものを奪うのなら、殺すぞ? ……まあ、安心せよ。小手調べじゃ。それで終わりならそれまで。じゃが、もしも暗部を打倒すようならば騎士団を動かそう」


「ご配慮、痛み入ります。それでは、我々はこれで失礼します。夜明け団について、続報があったらまた来ますよ」

「……うむ。よきにはからえ」


 男は帰って行く。ハーピィの国は断崖に囲まれた天然の城壁、羽根持たぬ者にとっての地獄だが……まあなんてことはない。

 夜明け団のアームズフォートを登ることに比べれば児戯に等しいのだから。


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