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終末少女の黒幕ロールプレイ  作者: Red_stone
辺境国消滅編
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第34話 王国の牙


 鉄の竜が咆哮する。姉妹が揃ってポーズを取った。それはオッドアイ、紫色の瞳を誇るように、見せつけるように手を振った。

 玩具の扱いなどは適当だ。一方で、その紫色がよく映えるポーズの探求だけは欠かさなかった。なぜなら、紫色の瞳こそが彼女たちが誇れる唯一無二。ルナと同じ紫色の瞳こそが翡翠最高傑作のその証であるから。


「見くびるなよ。所詮、貴様らはハインリッヒ殿を卑劣な手で下したにすぎん」

「そして、マレクト殿に刻まれた傷がはっきりと見えている。そしてニードルも聞いた……同じように行かんぞ!」


 剣で指し示されたのは鉄竜の首元にはっきりと残る傷跡。緑色のクリスタル状のもので補修されているが、マレクトが、ハインリッヒの技を借りて作った痕がはっきりと見えている。

 まあ、そのハインリッヒ本人はあっさりと銃弾に殺されたのだが。……だが、死体を返却するにおいて血まみれではなくちゃんと洗浄して返した。それを遠目で見た兵が報告したのだから――毒か何かで殺された、と都合のいい勘違いをしても仕方ない。


 二人の戦士長が走る。その後ろにはそれぞれ5人。……そう、鉄竜を前にして数は意味がない。薙ぎ払いに羽根の一撃、数を頼みにすればその分兵が殺されるだけだ。

 ゆえの少数精鋭、メインで戦うのは12人。残りは援護、もしくは交代要員だ。


「卑劣? 蟻を潰すのに卑劣も何もないと思いますが……」

「しかし、銃は剣より強い。……素人に限った話ですが、素人の話ですから。ナインスも剣で相手してあげれば……」


「サファイア? 急かしたのは私達でしょう。どうこう言えた筋合いはないのでは」

「それもそうですね。そもそもルナ様のご厚意を無下にした者たちです。紙屑のように散るのがお似合いでした」


 サファイアが指を向ける。鉄竜が吠え、走りくる12人に向かってその鉄槌のごとき拳を振り下ろす。その超重量は彼らの着ている薄っぺらい鎧ごとひねりつぶすに十分な一撃である。


「舐めるなァ!」


 跳び、かわす。精鋭の12人だ、いくら凄まじい威容とは言え走って殴るテレフォンパンチをまともに受けたりはしない。鉄竜のことは聞いているのだ。


「せえい!」


 そして、鮮やかに反撃を。狙いすました一撃が鉄竜の胴体にちりばめられた緑のクリスタルを削る。


「やはり脆いな! 遺物か何か知らぬが、完全な修復は無理と見える!」

「ならば、狙うは一点……マレクト殿の残した喉元の傷!」


 それは”脆い”。そこを狙うのは首を刈るためにはもっとも有効な手段だろう。活路が見えたことで戦士たちは心を燃やす。

 もちろん、ルナの舞台装置の一つであり、技術力を示すものではないが。


「ふむ、気付かれましたか。まあ、隠しギミックではないので当然ですが……」

「しかし、簡単にさせると思いますか? 玩具とはいえルナ様がお作りになられたもの。役目とはいえ簡単に破壊などさせません」


 鉄竜は羽根を打ち下ろす。だが、相手の戦士も一流……少なくともこの世界の基準では。ゆえに焦って喰らうこともない。

 狙いこそ定めたが、囚われることなく退いて羽根の一撃をかわした。双方距離を取って仕切りなおしだ。


「忘れているようだな、我々は一人ではない!」

「やれ、魔法部隊よ!」


 そして、魔法が飛んでくる。王国には魔法の素養は少ない、だが王国を守護する戦士団にその人材が居ないはずがない。

 虎の子の魔法使いを連れてきた。その魔法は鉄竜にさえダメージを与える。


「チマチマと……! ルナ様は損傷にも味があるなどとおっしゃられましたが……!」

「やはり壊されるのも削られるのも不愉快ですね。あれらは魔法と呼ぶには不出来に過ぎますが……そちらから削っておきましょう」


 距離を取り、魔法を打ち込まれている。鉄竜は打ち込まれる魔法を無視してチャージを始めた。バチバチと雷が空中に放射される。

 ひとたび放たれれば、足の遅い魔法部隊は壊滅する。


「――あの攻撃か。……だが、まだだ」

「そう、まだ……。魔法部隊、攻撃を続けよ!」


 逃げることなく魔法を放つ。チャージの瞬間は隙だらけだ、逃げるなら今だが……しかし同時に攻撃するチャンスでもある。


「良い度胸をしていますね」

「そのブレスは蟻に耐えられるものではありませんよ」


 身体を削られ行く鉄竜。だが、チャージは刻々と進行する。そもそもいくら身体を削ろうと少しばかり体重が減るだけだ。首を斬るには至らない。


「ふん。我々が何の準備もしていないと思ったか?」

「さあ、雷を放つがいい。その時こそ竜の最期だ!」


 双子がちらりと二人の戦士長を見る。割と直線で進むのがバレバレの一撃であり、そして彼らは射線上から離れている。魔法部隊を撃つか、戦士長のどちらかを撃つか……


「まあ良いでしょう。まずは遠距離攻撃部隊から削ります」

「撃ち放て、【スローター・オブ・ザップ】」


 鉄竜が雷撃を解き放つ。容易に人を殺せるだけの電撃が走る。それは射線上の全てを焼き殺し、着弾点の魔法部隊を殲滅する――


「舐めるなと言ったはず!」

「古来より雷は人々を脅かしてきた。その雷を従える手段があるのだ!」


「「「「術式起動! 【ウォールオブダスト】」」」」」


 戦士が雷撃を防ごうと盾を掲げる。ただの盾であれば何の意味もない。電流を鉄素材だろうが、アースを繋ごうが鉄竜のブレスは魔法であるから地面には逃げない。

 ゆえに、魔法の雷を避けるには魔法の盾をもって。戦士達が己の魔力の全てを叩き込んで術式を起動する。


「――それで、防げるつもりですか?」

「ルナ様の御力から零れ落ちた塵にも劣るそれですが、しかし蟻に防げるものでもありません」


 雷撃は、空中に浮かぶ魔法陣を蹂躙して……


「「「おおおおおお!」」」


 盾を持つ戦士を雷撃が焼く。ぶすぶすと煙が立つが……しかし盾を握りしめて離さない。耐えるために雄たけびを上げる。

 倒れれば魔法部隊が全滅する。気合と根性、そして何よりも仲間を守るという気迫を乗せて。


「ふむ。なるほど、よくやるものです」

「まあ根性があるのは認めましょう。肉が焼けて一人でも盾を離せばその瞬間に全滅していました」


「……あ。が――」

「うう……」

「――」


 雷撃が終わる。放電が収束する。戦士たちがバタリバタリと倒れていく。


「守り切った。……などと言えますか? その有様で」

「完全な防御は不可能。殺せなかったとはいえ、戦線復帰は絶望的。そして玩具をこんな姿にしたあなたたちの戦線放棄は認めませんよ」


 鉄竜が一歩を踏み出す。魔法部隊の命こそ守られたが、痺れて動けない状況だ。ゆえに、叩き潰しておこうと。

 命さえ守っておけば見逃すなどと甘い目論見は断っておこうと残虐な笑みを浮かべている。


「私たちのことを忘れてもらっては困る!」

「そうだ、そこまで削ってくれたのだから!」


 二人の戦士長と10人の戦士が横から突撃する。


「……チ。ならば、まずはあなたたちの相手からしてあげましょう!」

「潰れたトマトのように血反吐をまき散らすがいい!」


 羽根を振り下ろす。4人、削れた。だが、その4人と引き換えに攻撃は止められた。仲間の死は覚悟の上と、生き残った仲間が首元を狙って斬撃を繰り出そうと竜に向かって歩を進める。


「未熟。首元を狙うより、手足を封じることを考えなさい」

「でなれば、こうなる」


 左の鉄の拳が更に2人を殴り飛ばした。目じりに涙を浮かべながらも、残った戦士は更に首元を狙って一歩を踏み込む。


「左腕は使用済、けれど」

「まだ右腕がある」


 そいつらを右の腕が叩く。すさまじい重量とパワーの前に一命をとりとめたとしても戦線復帰は不可能だ。


「隙が出来たぞ!」


 だが、残った戦士長の一人が隙間を縫うように突きを喉元に叩きつける。だが。


「だから何だと? そこは急所ではありませんよ」

「そして、隙ができたのはあなたです」


 攻撃を受ける前に首をわずかに動かしていた。それだけで脆い箇所には当たらなくなった。そればかりか、攻撃直後の硬直を狙われて。


「危ない!」


 戦士の一人が己の命を犠牲に、彼を突き飛ばして攻撃範囲から外した。


「ここだ! この一瞬を……!」


 だが、戦士長はもう一人居る。双子が瞠目した隙を狙うが。


「別に、予想以上ではありません」

「強敵に勝つため、己の命を捨てても仲間に託す。珍しいことではありませんね」


 双子は続かない攻撃などしない。羽根、腕、足、噛みつき――攻撃後の硬直を狙うのは、自分達がアルカナに対して披露した戦法だ。

 鉄竜が身体ごと回転して彼を蹴り飛ばす。


「――が! ああ……!」


 吹き飛ぶ、が……立ち上がる。連続攻撃で力を籠められていなかった。双子自身が力をふるえるならともかく、玩具では飛ばすのが精一杯。

 隙であるのは間違いなかった。予想済でも、無理筋の動きだったから当たりが浅くまだ動ける。


「まだだ……! 俺たちは、王国はまだ終わっていない! 我らの誇りにかけて、我が国の領土を侵す死神などに負けはしない……!」

「……そうだ! 巨大な竜などなにするものぞ! 諦めなどしない。マレクト殿の遺志を無駄にはしない。必ず倒す!」


 戦士長の二人が立ち上がり、後方から死んだのと同じ数の兵が合流する。これが策。双子は見ているだけの後方部隊を攻撃しない。それはマレクト戦の様子から明らかだ。


「ルールの穴を突くのであればルール自体を無視してしまうことは認められていますが」

「まあ、やめておきましょう。それは、彼らの健闘を認める行為にもなりえるのですから」


「ええ。あの程度では、敵ではない」

「そして、戦士長とやら。その程度の技量ではトイ・リザードの喉元を切り裂くなど出来ない。……傷跡を狙うのであれば、ことさらに」


 双子は見下した眼で12人の戦士を見る。未だ魔法部隊は復帰不可能、だが遊んでいれば目を覚ますだろう。


「皆の者、覚悟はいいか? 奴を倒す、必ずだ!」

「オド、ケエル……そしてマレクトの全ての力を結集する!」


 12人が足を踏み出す。全力で、全速で――例え死のうとも。


「破れかぶれでは通じない。ただ、魔法の傷跡ばかりでは見栄えがよくありませんか」

「警戒する必要も感じませんね。ルナ様を退屈させるわけにも参りません。多少は強引に突き進みましょうか」


 そして、鉄竜もまた全力で12人を襲う。さきほどの攻防は隙を作らないように努めてきた。細かく操作したために攻撃力を犠牲にした。

 だが、大雑把に大胆に――殲滅速度を上げる。その方が、みどころができるだろう。


「本気になったか? いや、これは……」

「痺れを切らした、と見るのが正解か。舐めるなよ……!」


 ぶん殴る腕が降ってくる。警戒をやめた鉄竜の暴威は凄まじい。隙の無さは殲滅速度とトレードオフだ。

 腕が、羽根が走るたびに誰かが死ぬ。そして、後方から戦線に参加する。20人も殺せば、もう戦力としての格が落ちはじめた。トップ陣とそれ以下では技量が落ちるのだ。


「ぐ……! 凄まじい圧力。攻撃が届かん……!」

「だが、皆の犠牲は無駄にはしない……!」


 我先にと突っ込む戦士たち。それを戦士長は一歩引いて見ている。そうするしかないのだ、自分で突っ込めばすぐに殺されてしまうから。

 マレクトならば多少は攻防を成立させた。だが、彼らが考えなしにそこに足を踏み入れれば死ぬだけだ。


「さて……何人犠牲になりますか?」

「しかし、一匹ずつ潰すのも飽きました。これ以上は蛇足でしょう」


「ならば、戦士長を狙いますか」

「そうですね。やりましょうか」


 どおん、と爆発のような音がする。凄まじい踏み込みが地を揺るがした。一歩引いた戦士長二人の下へ鉄竜が到達する。


「窮地か! だが、これは……」

「死中に活を見出すことこそ、戦士の本懐……!」


 それは考えなしの攻撃と同義。鉄竜が己の喉元に迫った恐怖を飲み下せば、窮地は一転してチャンスに変わる。

 大ジャンプで自ら足を封じた。風を切って進んだ羽根は、この一瞬だけは打ち下ろせない。自らをぺしゃんこに叩き潰す腕、これさえどうにかできれば最大のチャンスが来る。


「身をかがめて喉元を狙うのは見せてもらいました」

「ゆえにハエのように叩き潰して上げましょう。もはや回避は不可能、防御したところで……足を止めれば玩具の重量の前に砕け散るのみ」


「かわせねば勝てぬ。……ならば、かわす!」

「空から来る相手を、どれだけ相手にしてきたと思っている!?」


 喝破する。無論、姉妹が知るはずもない。オドとケエルは黒翼共和国と戦い続けてきた。有翼種の支配する国から国民を守るなら、対空中は必須だ。

 打ち下ろす攻撃は奴らの十八番であるのだから。ゆえに当然二人もそれへの経験がある。


「……なに?」

「かわした? まさか」


 その経験は血となり肉となっている。しゃがんでかわす、というのが伏線になった。マレクトがそのように回避して喉元に剣戟を入れた。

 だが今度はそれでかわされないようにと殴り下ろす攻撃にしてみたら、二人に対処しやすい攻撃だった。これこそまさに、戦士長3人の連携である。


「この一瞬! この一瞬こそが最期の好機!」

「応! これで倒せずして……何が戦士長だ! 行くぞ、オド……マレクト!」


 オドの戦士長が寸分たがわずマレクトの遺した傷跡をぶちぬく。クリスタルはバラバラと崩壊し、鉄が悲鳴を上げる。

 そしてケエルの戦士長が上から叩き下ろす。王国の戦士が最も得意とする攻撃力に偏重した一撃だ。

 上下から挟みこむ一撃で、マレクトの成し遂げられなかった首の切断を狙うのだ。


「まさか、攻撃が届いた? 油断、した……!」

「ですが、あなたたちごときにトイ・リザードの首を斬れはしない。……ルビィ!」


「ええ、ニードルデバイス・ポイントネ……いえ、ポイントショルダー!」


 首元のそれはマレクトに使った。再使用は、できない。ならばと肩のそこから射出しようとするが。


「させるかぁ!」

「やらせは……しない!」


 他の戦士が身を呈してかばう。鎧ごと貫いて何人も殺すだけの威力はない。血反吐を吐いて転がるが、だが戦士長達にその攻撃は届かない。

 他のポイントは肩より遠い。意味がない。


「チ……ですが、そう簡単には……!」


 ならと腕を伸ばすが――


「今、ここでええええええ!」

「貴様を倒す! 落ォちィろォおおおお!」


 二人の戦士長は全てを力を一気に開放する。自らの身体が砕けても構わないとばかりに雄たけびを上げて……

 首の一点、とてつもなく厚い装甲の真ん中にゴムのような感触がある。それを断つのだ。


「まさか……」

「……まさか!」


 双子の見ている前で、首が切り落とされる。バツン、と音がしてバラバラと首だけでなく鉄竜の装甲すべてがばらばらに分解する。

 黒い鉄、鎧のようなそれが何十枚も地に転がって沈黙した。鉄の竜の終焉だ。


「これは……紐で吊っていた……のか? こうまでバラバラに……だが、あの竜を倒した!」

「もはや貴様らに対抗する手段はない! 降参し、王国に跪くがいい!」


 二人の戦士長は立ち上がり、勝利を宣言した。


「……降伏? 【翠鉄の夜明け団】が、王国ごときに?」

「あまりにも思いあがったその思考……! どこまで付け上げれば気が済むのか」


「ふん、その竜こそ貴様らの頼む守り神か何かだろう。今は無残に転がっているがな」

「それらも鋳溶かして、王国の秘術にて鋼に変えてしまおう。今は、武器はどれだけあっても困ることはない」


「ルナ様のお作りになったこれ(玩具)を鋳溶かすと? あまりにも不敬。聞き逃せる言葉ではない」

「いくらルナ様がご寛大であられても、私たちまで完全無欠ではない。あなた方に相応しい結末を与えましょう」


 憎々し気に呟く姉妹。この結末が気に食わないと、全身から放たれる怒気が言っている。ルビィが一つの魔法陣を、サファイアが両手で二つの魔法陣を生み出した。


「……なっ!? 馬鹿な、アレは」

「アレは、竜を召喚するのに使った……!?」


「ええ、その通り」

「絶望なさい、虫けらども」


 更に3体の竜が姿を表した。マレクトの刻んだ傷跡などない、完全体である。


「そして、それだけではない」

「倒したなどと言う不遜な勘違いを正してあげましょう」


 ルビィが指を鳴らす。転がっていた遺骸が光を放つ。いや、放っているのは遺骸の中身、頭、胴体、手足の先に光る機械が収められている。バラバラになったからこそ分かる。

 竜は外側だけの鎧、その空洞に紐を通して吊っている絡繰り人形に過ぎなかった。そして、紐が結ばれるのは各部の機械だ。その機械、頭と胴体から糸が伸びて絡まり合いロープとなる。次は手足へ続く。

 引き結べば――首が少し短くなっただけの鉄竜が復活した。


「……嘘だ。こんなこと、ありえるはずない。――倒した、のに」

「マレクト殿と、我ら二人の力を合わせて首を断った……無意味だった?」


 戦士長達は二人そろって力なく肩を落とす。目を覚ましつつある魔法部隊も、もはや立ち上がる気力はなく。そして、他の者も何人かが逃げ出した。


「裁きを受けよ」

「雷の脅威をその目に焼き付けなさい」


 そのうちの二体がチャージを開始。そして、他の二体がそれを守る完璧な布陣だ。

 そもそも戦士長ですら焦って突撃すればチャージする竜に殴り殺されるのだから、二体がフォローの体勢をとったことであらゆる希望が消えうせた。


「……誇りある王国の戦士は諦めない!」

「翠鉄の夜明け団、首魁――ルナ・アーカイブスを直接討つ!」


 二人は立てる戦士だけ連れて神輿を狙う。その中にルナが居るはずだから。ボスさえ倒せば総崩れになると信じて。だが、忘れている。

 最初からそれをしなかったのは、夜明け団の持つ食料生産技術を我が物にしたかったからという事情が一つ。

 そして、それなりの強さを持つ者が居れば容易に足止めされてしまう。その隙に鉄竜に後方から殴り殺されるという”貧弱さ”も理由であったのに。


 そして、真実はもっと残酷だ。神輿を囲む彼らはルナの認めた護衛部隊、翡翠にしろ鋼にしろオペレーターなどに負ける間抜けはいないのだ。

 付け加えるなら、真面目に趣味に打ち込むナインスであればトイ・リザードくらい剣一本で倒せる。そのくらいの戦力差がある。鉄竜は、ただの玩具に過ぎないのだ。


「あくびの出る鈍さね」

「チャージは取り消しもできるけど、わざわざするまでもないから残したおいたのがわからなかったのでしょうね」


 フォロー体勢に入っていた鉄竜が、神輿に向かう戦士たちを背後から強襲する。


「……ッ! やはり来るか」

「だが、諦めぬと誓った以上は……!」


 二人の戦士長は自らに向かう鉄竜を目にとらえる。あれで駄目なら鉄竜の打倒は難しい。ならばと選んだ本陣強襲だが。

 ……やはり倒したと思っていた竜の復活で心が折れていた。しかも、3匹も追加されたのだから。いくら心を誤魔化そうとも剣も判断も鈍る。


「なぜ無為と分かっていてもそうするのか」

「最期まで立ち向かった自分でありたいのでしょう。死に場所を求める気持ちは、あの人たちとおなじかもしれませんね」


「なるほど、分からない話ではない。では、派手に幕を引いてあげましょう」

「――ええ。戦いにしか居場所がない戦士へ、盛大な餞を」


 竜が雄たけびを上げて口を開ける。凶悪な牙が並ぶその顎を二人に向けて――


「来るなら……来い!」

「返り討ちにしてやろう!」


 威勢の良い言葉とともに最大限の力を籠めて口の中に技を放つ。だが、やはり言葉とは裏腹にその技は精彩を欠いて。


「さようなら」

「彼らもまた、共に送りましょう。【スローター・オブ・ザップ】」


 その一撃は牙の一本すらも折れず、二人は噛み砕かれた。そして、神輿に向けて魔法を放とうとしていた魔法部隊は竜のブレスに飲み込まれた。


「告げます。王国に忠誠を誓った戦士なら向かってきなさい」

「逃げるなら追いません。惨めな生き恥を晒すがいい」


 戦士団の潰走、そして残敵の掃討が始まった。


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[一言] ボスを倒したと思ったら只の雑魚敵だったやーつ
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