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終末少女の黒幕ロールプレイ  作者: Red_stone
辺境国消滅編
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第33話 王国の猛攻


 王国が放ったマレクトの軍はアダマント姉妹の操る玩具に負けて潰走した。そして、王の下にまで帰ってきた。

 ルナは追手など放たず、そして敵国である黒翼共和国は歴史上の度重なる襲撃にも関わらず今だけは大人しかった。……まあ、翡翠と鋼鉄のぶつかり合いを感じたのだから引き籠るさ。むしろテンペスト王国が魔導系に疎すぎた。


 そうこうして無事に帰ってきた彼。……いや、彼らは。


「――王よ。『マレクト』の戦士軍……87名が帰還致しました」


 千を超えるマレクトの戦士軍、それが今や100名にも届かない有様になっていた。更に言えば、ハインリッヒの遺体すら持ち帰れなかった。その惨状は言い表しようがないだろう。


「……お前は、フレンヒト家の人間だったか」


 風が吹き抜ける草原の中、王は重厚な椅子に座っている。皆は機嫌の悪い王を恐れてひれ伏しているからよく見える。

 ……変わらない曇天、気の滅入る報告。とはいえ、ここは威圧するのは間違ってはいない。悪い報告を聞くのにへらへらしていれば、上としては失格だから。


「覚えていてくださりましたか。ですが、申し訳ありません。マレクト様は討ち死にされ、我々も逃げるのに精一杯で……帰ってこれたのは」


 額を地面にこすりつけ、土がつくまで謝罪する。

 これほどの大失態はない。いや、夜明け団なんていう強大な敵を相手にしたことがないのだから仕方ないのだが。

 だが、相手が強いからと敗北が許されるわけではない。


「――話せ」


 王の怒りに震える声が静かに耳を打つ。誰もが恐れ、ひれ伏した。


「は。我々は王の命令の下、ハインリッヒ・ダークニス様が会ったとされる鋼鉄の夜明け団を排除するためにマルルーシャ村へと向かいました。そして、我らが村へたどり着く前に奴らが姿を表したのです」


 顔を伏せたまま様子を伺おうと思うが、伝わってくるのは怒気だけだ。怯えながら続ける。


「奴らは集団でもって現れました。数十……百にも届かんばかりの化け物の軍勢。そこに居たのは、異形どもと二人の少女……少女達が進み出ました。そして、ハインリッヒ様の遺体を晒したのです」

「……それは、どこにある?」


「――ひ! 申し訳ございません。敵は異様に強力な力を持ち……遺体を持ち帰ることなどとても叶わず。……こうして、逃げ帰るのが……精一杯の有様で」

「――」


「その、二人の少女は巨大な鉄の怪物を召喚しました。あれは、御伽噺に聞く竜の姿でした。その鉄は剣を通さず、その爪は我らの鎧をあっけなく引き裂きました。中でもその咆哮は数十人を一度に殺すほどの雷撃を放ちます。ただ、マレクト様だけは拮抗し、首を切り落とせそうなところまで行ったのですが……」


「何か、飛び道具で……身体を貫かれてお亡くなりに。その時点で兵たちは狂乱に陥り、戦闘の続行は不可能になりました。私は、逃れた兵をまとめて……逃げ延び、ここまで……」

「もう良い」


 王はそれ以上口を開くことを許さない。


「――ッ!」

「なんたる脆弱さ。倒せぬばかりか逃げるなど……そうだな、フレンヒトなど居なかった。我が王国の兵に弱卒など居らぬのだ! 誰ぞ、こやつを連れて行けい!」


 喝破する。衛兵が彼を立たせ、引き立てようとする。


「お、お待ちください王よ! 私はあの竜と一度戦いました。私の力を失えば……! それに、我がフレンヒト家も……!」

「くどい! 逃げ帰った者達ももはや要らぬ。牢に押し込めておけ」


 王の激しい怒りの前に彼も力を無くす。だが、膝を屈することすら許されずに連れていかれた。


 実際のところ、”これ”が少数しか帰れなかった理由だった。姉妹が殺した数は意外と少ない、戦闘意欲のない者をターゲットから外しているからだ。雷の咆哮も、あれはただの見掛け倒しだった。

 逃げ帰れば処罰は免れない。ゆえに帰ることなく逃亡したというだけの話。これは数百名の軍人が野盗として野に放たれたという最悪の事態が発生したことを意味する。


「……それで、黒翼共和国の様子は?」


 その国はずっと王国と敵対してきた。空を飛ぶ彼らは王国からの略奪を繰り返し、戦士団は彼らと戦争を演じてきた。

 自分以外の口が開かないので、外国の情報を扱う貴族が仕方なく口を開く。


「それが、奴らは国に引き籠って動きがありません。このようなことは初めてです。何か企みがあるのか……それとも、夜明け団を恐れたのか」


 一人の男が進み出る。戦士軍ともまた違う立ち位置、敵国を監視する役目を負う者だ。


「――馬鹿げたことを。マレクトの戦士軍を壊滅させたとはいえ、夜明け団ごときは倒せない敵ではあるまい。……どうせ、我らが消耗したところを漁夫の利でも狙うつもりだろうな」


「……王。ですが、それは。……ハインリッヒ殿が倒れ、マレクトの戦士団も倒れた今では王国の戦力は見る影もなく。漁夫の利と言うならば、もう――」

「下らぬことを言うなと、何度言わせるつもりだ? 二つの戦士団が倒れた? そのようなことで揺らぐ王国ではない。後継を選定し、役目を引き継がせるだけのこと。元々王国は三つの戦士団により成り立つ。『マレクト』さえ作りなおせば敵などいないのだ」


「……は! 出過ぎたことを申しました!」

「良い。我らの敵に動きがないならば、今こそ好機。夜明け団を可及的速やかに始末し、黒翼共和国との本格的な戦争に備えるのだ」


 立ち上がる。その一歩はまるで狼のように猛々しい。


「『オド』、そして『ケエル』の戦士軍よ!」


 雄たけびのような声に応えるのは同じく雄々しい声である。


「マレンティン・オド、ここに! そして我が『オド』の戦士軍の理は常在戦場! いつでも出撃が可能です、王よ!」

「レバシュ・ケエル、ここに! 我が『ケエル』の戦士軍とてオドに引けを取ることなどありませぬ。より早く、より強靭な力でもって即応して見せましょう!」


 三つの戦士軍、『マレクト』、『オド』、『ケエル』。マレクトが王を守護する盾ならば、オドとケエルは黒翼と戦うための剣。今は黒翼が動きを見せないためにここに帰ってこられた。そして、遠征を担う軍であるからこそ準備は速い。守備隊とは動きやすさが違う。

 ……まあ、『マレクト』より強いかと言えばそんなことはないのだが。模擬刀で戦えば最強はハインリッヒで、宝物を持ち出せば最強はマレクトなのだ。


「ならば良し! であれば、すぐに発て! 夜明け団などという誰も知らぬような弱小勢力など叩いて潰せ! ゆめ、我らの本懐を忘れるでないぞ」


「「承知! ならば、我らの力をもって夜明け団の息の根を止めて見せましょう!」」


 そう、最強は彼らではない。だが、実戦……連携であるのならこの二人ならば上回れる。たとえハインリッヒとマレクトがタッグを組んだとしても。


 だから彼らは未来を信じて進軍する。夜明け団を倒すという輝かしい未来を疑わず、それどころか倒した後のことを考えて戦力を残す真似までする。

 もっとも、竜の前にいくら雑魚をそろえようと関係ないので精鋭だけで攻めるのは間違っていないのだが。いや、実力差を理解できずに攻め込むこと自体が間違っているか。

 ――それでも、彼らは夜明け団との決戦のために進軍する。


 だが、移動手段が馬では時間がかかる。


 その間にルナは幾多の村で『フルードルヒの樹』をバラまいていた。救いを求める弱者たちに死と言う救済をあまねく施すのだ。

 死に行く世界。弱いからこそ居場所がなく普通の人ですら来年の食べ物を心配するような事態。そうなっては、弱者など今日の食べ物すら満足に得られない。助けるなど、誰にもできない。




 戦士団と、(救済)を撒く夜明け団がぶつかる時がやってきたのだ。


「――少しの間に随分と勝手なことをやってくれたな、夜明け団よ!」


 夜明け団に追いついたオドが剣を掲げる。ルナとしては絶望しかない世界から開放する慈悲でも、はたから見ればただ殺しまわっているだけだ。

 自国でそんなことをされて、ブチ切れないほうがおかしいのである。彼は、王国を最前線で守る将軍であるのだから。


「だが、その非道もここで終わる。『オド』と『ケエル』、二つの戦士軍を相手にしてはひとたまりもあるまい」


 数は200名、雑魚を増やしても意味がないと精鋭のみに絞り機動力を上げた。追いつけたのも、その決断あってこそのものだ。

 そして、竜は一匹しかいない。


「……ふむ? また蟻が歯向かってきましたか」

「何度潰しても現れる。本当に蟻のごとくですね」


 ルナを神と崇める夜明け団。たむろする異形たちの中心の神輿にルナがいる、姿は見せない。近づいてきた剣を持つ集団に、先んじて姉妹が対応する。


「黙れ! ハインリッヒ殿を、そしてマレクト様を汚い手で倒した者に言われることではないわ! 早く竜を出すがいい!」

「へえ? あの玩具を知っていると。ああ――戦士団とは、この国の守護者でしたか。そういえば、そう名乗る者が居ましたね。ゴミかと思いましたが。……ああ、ゴミの仲間は蟻ですか」


 サファイアが魔法陣を生み出し、横に払う。巨大化したそれから鉄の竜が姿を表す。


「そのような繰り言を。どうせ卑怯な手を使ったに決まっている。そして、竜のことも生き残った戦士から聞いている。……我らに負ける理由はないぞ」

「負ける理由はない? ただあなた方がゴミであるから負けるのです。ルナ様がお作りになったものとはいえ、所詮は砂遊びで作られた人形。あなたたちでも遊べるようにと、作られただけのそれにいい気になって」


 自ら魔法陣から身を引き釣り出した鉄の竜は彼らを睥睨する。人が纏うことのできない鉄の厚みは、凄まじい威容となって眼前の者達を脅かす。


「――言葉による動揺を狙うか。案外、みみっちいのだな。残酷な世界の真実を暴き、苦しみのない死に誘う死神とその従者たちよ」

「冥界を守る竜、恐ろしき雷を放つ怪物め。我らの剣でもって、その命脈を断ち切ってくれる! 行くぞ、お前たち!」


 応と鬨の声が唱和する。


「ふふふ。ものを知らぬ痴愚が何を言おうと真実は変わらない。ですが、ルナ様はお優しいお方。安らかな終わりを願う者には夢を、そして戦いを望む者には敵を与えてくださるのだ」

「ゆえに、これで相手してあげましょう。あなたの仲間を殺したこの玩具で。もう少し力があれば倒せたという勘違いを心の救いに、死に行くがいい」


 鉄の竜が咆哮する。姉妹が揃ってポーズを取る。それはオッドアイ、紫色の瞳を誇るように。


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