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終末少女の黒幕ロールプレイ  作者: Red_stone
辺境国消滅編
291/361

第31話 商売人の傲慢


 テンペスト王国で商人ギルドと呼ばれる組織から、手紙で呼び出しを受けたルナ。それはいくつかの商家が寄り集まり、血統に寄らずその組織力で王に意見するだけの力を持つに至ったまさに”商売に命をかけた”組織(ギルド)だった。

 あて先には、なんと”マルルーシャ村を占拠する一団の主”だと言う。まあ、翡翠の夜明け団への対応なんて王様だって間違えているし、悪口は皆することだから責められないことかもしれない。

 アダマント姉妹は抹殺を提案したが、ルナは面白がって足を運ぶことにした。


 メンバーは、言い出しっぺのレーベは当然来る。アリスとアルカナは常にルナの横に居るので当然ついてくるし、今日の外行き用の椅子はギアだ。アダマント姉妹は許された権限を濫用してルナの傍にて侍っている。

 そして話を聞いていたアルトリアとファーファもなんとなく付いて来た。

 手紙を持ってきたのは自分と言えど、感情の面ではどこまでも巻き込まれたと思っているサーラも小さくなって後ろについて来ている。


 そして、ルナたちは10分とかからずにそこへたどり着く。大きな円盤で空を飛んで、ギルドでも一番デカイ建物の上空に到着した。

 何の天変地異の前触れかと、ギルドの人間たちが大騒ぎしている。その中で各自飛び降り、それぞれ視線を巡らせる。


「――なるほど。豪勢なことだね、ここまで成金らしい家もそうはないと思わないかな? ねえ、お姉ちゃん」

「まあ、な。ただ商売人であれば、ものごとの価値とはどれだけ金に代えられるかということなのだろうさ。倉庫と言うには不合理だがな」


「おお? 変な形の犬があるよ。アリスちゃん、アリスちゃん。こっち、犬のお尻の穴まで彫ってある! おもしろーい」

「ファーファ? 変なところにはさわらない。もう、はしたないですよ」


「ええー? でも、おもしろいよー。……あっ!」

「ファーファ、あまり変なところに触れるな」


 アリスが諫めたにも関わらずファーファは飾ってある犬の像で遊ぶが、どんと押してしまい台座から転がり落ちるが……アルトリアがキャッチする。

 それはのどかな光景――に見えるかもしれないが。


「み……みなさん、やっぱり止めましょうよ。迷惑ですって……」


 サーラとしては気が気ではない。我が物顔で偉そうに押し入っているのだ。しかも、周りからは殺気だった顔で見つめられているし。

 いや、それどころか。


「侵入者はどこだ!?」

「天から降りて来た……黒翼共和国がここまで来たのか!?」

「殺せ! 誰であろうと碌なものではない!」


 どたどたと走ってくる音。――剣を持って武装した人たちだ。しかも、これは侵略の逆……防衛のためだ。

 自分を守るために戦って散った両親のことを思い出してサーラは顔が青くなる。


「やめ……やめてください!」


 サーラが彼らを止めようとする。5人ばかりで急いでやってきた男たち。彼らは急いできたためか、兜を被っていたり被ってなかったり。手甲くらいは全員が付けているし、全員剣こそ掲げているものの、戦う体勢ができているとは言い難い。

 もっとも、どんな装備があろうと姉妹の殺意に晒されれば一秒と持たないが。


「女か。それに、少女……子供も居るぞ」

「こんなのが黒翼共和国の……?」

「だが、敵ならば――」


 ざわざわと、さざめく。敵を目の前にしても戸惑いを隠せていない。サーラの眼には剣は凶悪な武器に映るが、ルナ達から見れば棒きれよりも脆いおもちゃ以下だ。


「静まりなさい。頭を垂れ、跪くがいい」

「ここに居るのは【翠鉄の夜明け団】の総帥、ルナ様なのです」


 アダマント姉妹が彼らの前に進み出る。


「え……? なんだ、このガキども」

「お、おい……いくらなんでもこの子たちを斬れなんて……」


 戸惑っている。アダマント姉妹は年若い姉妹にしか見えない。紫色のオッドアイがどこか異様な雰囲気を醸し出すものの。

 化け物、などと見るには経験が足りなさ過ぎた。本当の意味での殺し合いもしたことがない者達である。


「だ、だが――不法侵入者には変わりがあるまい。ここはギルドの中でもギルド長がお住まいである重要地点なのだから」

「本来であれば、ここまで侵入すれば死罪は免れまい。だが、何かの事情とあらば……」


 冷たく睨むアダマント姉妹、相対する彼らは少女の見た目に騙されて刀を下げてしまう。穏便に捕まえようと手を伸ばして――


「――猿め、ルナ様がお与えくださったこのアーティファクトに手を触れるか」

「汚らわしい。自らの程度というものを自覚せよ……!」


 アダマント姉妹の目に殺意が宿る。彼女たちにとって、ルナとはまさしく神である。そして、試練を突破した褒美として与えられた服と武器。ゴスロリのそれはまさしく神衣にも等しきアーティファクトである。

 それに触るなど、許せるはずがないのだ。


「やめてェ!」


 サーラが叫んだ。必死の形相だ、なにせ何の罪もない男の人たちが殺されてしまう。この人たちはただ仕事を全うしようとしているだけなのに。……そんなのは、酷い。


「うわっ。な、なんだ……別に何かしようって訳じゃねえよ」


 男は手を引っ込める。触れていれば命はなかっただろう。

 存外、ルナとて甘い。言葉ならば気にせぬようにと、罵詈雑言くらいでは殺さぬように皆に言い含めているのだ。でなければ、この殺気だったアダマント姉妹は止まらなかっただろうから。


「ううん……まあいいか。偉いやつは奥に居ると相場が決まっているものね。行こうか」


 ルナは最初からこの騒ぎを気にも止めていない。巨人のような鎧の上でぼーっとしている。

 実際は雑多に並べられた品々を手に取ることもなく品定めしていたのだが……結論として欲しくなるようなものはなかった。


「ああ、あちらだな」


 アルトリアが扉に手をかける。


「あ、お前――そっちは駄目だ!」

「子供じゃないし、女だろうと手加減しないぞ」


 どたどたと走ってくる武装した男が二人。今この場にあっても緊張感がない。上から落ちてきた――というか、まだ上に浮いている円盤は意識の外なのか。

 剣はやりすぎかなと、アルトリアを捕らえようとして組みつこうとして――


「少し、寝てろ」


 アルトリアが二人の首筋を撫でる。それだけで呆気なく意識が落ちた。


「あれ……あいつらは、なんで」

「安心しろ、命に別状はない。ああ、お前たちもただ立っているだけでは外聞が悪いか。済まないな、気が付かなかった」


「なに……を――」


 その言葉の意味を聞こうとした瞬間、意識が暗転した。あまりの実力差の前に、魔術を使うまでもないのだ。弱く気を叩きつければ倒せる。指一本動かす必要もない、というか動かすとそれはそれで殺してしまいそうだ。


「ああ! もう……傷つけてないとはいえ、あまり暴力とか力尽くはですね……!」


 サーラが頭を抱えている。ただの村娘でしかないことをわきまえているのか、その声は小さめだが……しかし全員聞こえていた。


「ふふ……では、サーラ。行きましょうか。なに、あなたのことは私が守ってあげましょう。ああ、そうだ。サファイアとルビィはくれぐれもルナの言いつけを守って良い子にしておくのですよ」


「当然です、黎明卿」

「我らは紫彩の双祭祀、ルナ様のお手を煩わせるようなことはしません」


 しゃちほこばった姉妹が嬉しそうに答えている。

 サーラとしてはこの二人はいきなり出てきて偉そうにしている調子者NO1と2だが、まあ整った顔も相まって少女らしい可愛さとも取れる。


「――さて、どんな人が出てくるのだろうね。人材の多彩さという点において、僕の夜明け団に並ぶものはないと思っているのだけど」

「人体改造などができるような技術力がないこの世界では、普通に太ったおじさんでは? 食うにも困ると言うのが実際にありえる技術力の低さであれば、デブもステータスでしょう」


「ううん。ネタバレは良くないよ。ま、レーベの言うことももっともだけど。冒険者やマフィアじゃないんだ。強面も、相手を警戒させるだけで良いことはないだろうし」

「そこを逆に考える、などとできるようにも思えませんね。所詮は文明レベルの低い時代の商人。数を数えられるだけ褒められるような環境では傑物は望めない」


「レベルの低い世界においては頭の良さや機転などよりも、コネや雰囲気とかの方がよほど重要だものね。そもそも評価基準さえ、まともなものはない。そんな世界で何が出来るというのか」

「ふふ。ルナ、一つ忘れていますよ。私たちが来た理由を考えれば、そんな考察など無意味です。あのような手紙を出す者に期待できる訳がないでしょう」


「……あはは! そりゃそうだ。これは一本取られた」

「では、拝ませてもらいましょうか。ギルド長とやらの顔を」


 無遠慮に屋敷を歩く一行は、ついに奥までたどり着いた。立ち並ぶ装飾品、鋼の全身鎧の彫像が踏み入る者を威嚇している。

 一等まして豪奢な扉を、アダマント姉妹が我が物顔で豪快に開く。


「居住まいを正しなさい。起立して、迎え入れよ」

「ルナ様のおなりです。……こざかしいおもちゃを振りかざすことはあなた方のためになりません」


 その堂々とした態度は何も警戒していない。だが、当然――騒ぎはここまで聞こえており、相手だって準備しているのだ。


「たとえ子供であろうと、ここにまで押し入ったのだ。覚悟はできているのであろうな!?」


 待ち構えていた警護兵。国にも通用するだけの力のある商人ギルド、ゆえにギルド長を守る彼も国内で有数の強さを持っている。

 戦士長ハインリッヒ・ダークニスに勝てはしなくても勝負になるだけの力を持っているのだ。それこそ、世界を目指せるだけの指折りの人物と言って間違いがない。待ち構えていた彼が迷いを振り切って剣を振り下ろす。


「ルナ様は無駄死にを好まれません」

「這いつくばりなさい」


 だが、それは所詮この国の――ということでしたない。サファイアが撫でるように触れただけでその最上級クラスの剣はあっけなく折れる。否、剣だけではない。わずかに触れただけで、鎧はひび割れ、本人は壁へと叩きつけられた。


「っが! ぐぅ――。ふざけるなよ、こうも簡単に……!」


 折れた剣を手に、立ち上がろうともがくが……しかし己の誇りと同義である剣は無残に折れて、小鹿のように震える足は己の体重すら支えられない。


「おのれ、化け物が!」


 扉の横に居た二人目。怯える心を鼓舞するためか雄たけびを上げ、その少女へ斬りかかる。今の光景は目にした、子供だと思って手加減するような心は吹き飛んでいた。


「叫ぶ。それで不意打ちのつもりですか? 戦いを生業とするならば、少しくらいは考えなさい。それにサファイア、手加減しすぎではありませんか?」


 ハエを叩くように手を振った。それだけで剣を折れ、彼は壁に叩きつけられて血を吐いた。


「……ルビィ。しかし、虫は強く叩くと死にます。ほら、血を吐いていますよ」

「死んでいないので、良いのです」


「まあ、それもそうですね。あなたも、いつまでもがいているのです? 手や足が壊れれば再生することもできない無力な人間の分際で、まだ我々に挑む気ですか?」

「まさか、殺されないと高をくくっているわけではないでしょうね?」


 姉妹が冷ややかな視線をいまだ折れた剣でもがく彼に向ける。

 だが、彼とてギルドでは最強などともてはやされていた。もちろん、国内に限っても上が居るのだが……それでもプライドがある。

 こんなに簡単に負けるなどと、認められない。


「ふざけるな。俺はヴァーダッシュ・ビダルシン。貴様らのような化け物などを恐れて逃げ出せばよい笑いものだ。俺は、必ず任務を果たす」


 ちらりと後方を見ると、呆けたような顔のギルド長が居る。逃げ出すことも出来ずに、ただなんとかなってくれと祈っている。彼を守らねばならない。


「――行くぞ!」


 震える足を叱咤し、折れた剣を握りしめて――


「煩い。もう潰してしまいましょうか」

「いいえ、ルビィ。それでも戦うというのなら、戦士として扱ってあげましょう。……それが、ルナ様の趣向であれば」


「……そうね、サファイア。ルナ様のため、それがいいわね」

「来なさい」


 手招きするルビィ。

 彼は足を踏み出した。身体はガタガタだが、それでも最後の一滴まで力を振り絞って最高の一撃を放とうと剣を振り被るのだ。


「――技を開陳するまでもないわね?」

「ええ、命を奪うというのは相手を戦士として認めることだとおっしゃられた。お前はそのレベルではない」


 手で手刀の形を作り、斬った。剣が鍔から真っ二つになって落ちた。それを目にする暇もなく、強力な魔力に当てられた彼は意識を失った。


「……! 生きて、る? ……良かった」


 後ろで見ていたサーラは胸を撫でおろす。命が奪われるのは悲しいことだ。誰であろうと、助かったのは良いことだから。


「貴様らは、なんなんだ?」


 ガタガタと椅子の上で震えるギルド長が問いかけた。

 やはり小太りの初老、テンプレと言ってしまえば身も蓋もないような姿の彼が夜明け団に向かって手紙を出した張本人。

 軽い気持ちだった。国家に対抗できるだけの勢力を持つ商業ギルドに怖いものなどないと思っていた。


 結果は、これだ。


「さて。曰く――マルルーシャ村を不法占拠した下手人、でしたか」


 レーベの冷ややかな声が場を打った。



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― 新着の感想 ―
[一言] 商人\(^o^)/ 触れただけで吹き飛ぶとか想像しただけでも面白いw
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