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終末少女の黒幕ロールプレイ  作者: Red_stone
「世界」の疾患編
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第27話 絶望の絶壁


「まあまあ、お二人とも。メシが用意できたんで食いましょ? あまり考えすぎてもいいことなんてないっすよ」


 横から戦士団の一人がたっぷりと汁物の入った椀を渡す。

 これは時間がかかると思って、部下達は料理をしていた。火を焚いて保存食と山菜を適当に煮込んだだけだが、まあ行軍中としては上等な類に入る。 

 そもそも火を使えるというのがあまりない。急がなくてはいけないときは火など起こしてられないし、そもそも敵に位置を知られる訳には行かない場合は温めることさえままならない。


「お、うまそうじゃねえか。……いやあ、青空の下で食うあったけえもんってのは格別だなあ! これで肉が入ってれば最高なんだがなあ」

「……曇ってますよ」


 二人、火の方にまで近づいて椀をすする。寒くなるにはまだ早い時期だが、妙に寒い。ここは海に近く開けた空間というのもあるのだろうが。

 ――天に塔が突き立って以来、不気味なことが多すぎる。……であれば、鋼鉄の夜明け団もそれに当たるのだろうか。戦士長と副長、二人で寒々しいものを感じながら上を見上げる。そこには鋼の巨大な威容が変わらず鎮座している。


「――寒くなって来たな」


 火の近くで身体を寄せ合い、しばし舌鼓を打った。



「よし、じゃあ……やるか」

「やるしかないのか……」


 総員12名で蜘蛛の足元に立つ。見れば見るほどに不可能な難事に思えてくるが、まあ登る以外に方法はないのだ。


「だが、その前に……イハッタ、テペテ。お前たち二人はここで待て」


 戦士長は、もっとも若い二人に向かってそう言った。


「待ってください、私もやれます!」

「そうです! この身を国に捧げました! 命など惜しくはありません!」


 当然、彼らは反発する。若いというのはそういうことだ。それに、これでも戦士団の精鋭、プライドがある。

 例え尊敬する戦士長が相手でも、いや彼が相手だからこそ足手まといになるなど思われるのは我慢ならない。


「ま、そう言うなよ。こいつは先輩の特権ってやつだ。どちらにせよ、ここに見張り番は必要だ。鎧は置いて行くからな。剣は持つが、重りは持っていけねえ」

「ああ、それと寝ていていい訳ではない。こんな場所では見張り番の必要もないかもしれんが、ロープで何か下から運んでもらうこともあるかもな」


 戦士長と副長の二人から諭されれば、まあ反論はできない。仕事もあると言うのだ、それならまあ納得はできるから。


「――分かりました。皆さん、頑張ってください。できるだけ下でもサポートします」

「ああ、だが……落ちてくるかもしれねえからな。上には注意しとけ」


「落ち……いえ。分かりました……あの……」

「ん? 誰だってしょんべんひっかけられたくねえだろ? ま、登る前にしとくが、上で催しちまったら仕方ねえからな」


「しょん……やめてくださいよ!」

「おいおい、俺らに我慢しろってか? 言うようになったなあ、お前」


「ああ、もう! 分かりました! 小でも大でも好きにしてください! 絶対に避けますから!」


 がっくりと肩を落とす若者。登る者たちは笑いながら彼の肩を叩いて、蜘蛛の脚のところまで行く。


「くはは。んじゃ、そういうことで……てめえら、いっちょ山登りと行こうじゃねえか!」


 がはは、と大笑して――戦士長は一番に手をかけた。それは鋼でできた空中要塞、登ればどれだけ時間がかかるのか分からない。

 有翼種であれば空を飛べた。だが、そちらは隣国の黒翼共和国の領分だ。贅沢を言えない以上は、欠けた部分や凹んだ箇所を掴んでボルダリングの要領でやるしかない。


「……なに。ちっと触った感じ、人が掴んだくらいで壊れるような柔な代物じゃねえ。それに、切りたった崖だのもっとヤバいところを登ったことだってあらあな」

「その時は、ここまで遠い道のりではなかったがな。適宜、休憩を入れていくべきだろう。下から水をよこしてもらうこともできるしな」


「ま、やってみて考えりゃいいだろ。とりあえずは……ロープの半分ほどを目安に一旦進むかね」

「ああ」


 そして、全員が登っていく。


「思い出すなあ、崖を登って黒翼の連中を背後から強襲したときは気付かれちゃなんねえって話もできなかった」

「無駄な体力を使うな、と言いたいが……あんたは黙った方が体力を消耗するクチだったな。あの時は死にそうな顔をしてた」


「おうよ。俺にとっちゃおしゃべりできねえってのは、息が出来なくなるようなもんでなあ」

「お前にあこがれている少年達に謝れ。剣に命をかけた寡黙な剣聖……などと言われていても実態はこれだからな」


「いや、なんかかしこまった取材でなんかしゃべれって言われてもさあ。目の前にいない大勢を相手に……みたいな? なんか違うだろ」

「確かにお前がしゃべればスキャンダルだな。黙ってくれた方がうちの広報も助かるだろうさ」


「そうそう――」


 滑り出しは順調そのものだった。軽口をたたきつつ、上へ上へと。いかに壊れかけていようがそれはアームズフォート、人間の体重くらいで壊れはしないから危険な要素はない。

 ちょっと尖っているから危険なボルダリングというだけなのだ。


 ・・・・・・


 そして、1時間ほど経って副長は戦士長を呼び止める。


「ここらへんか」

「どうした、副長? まだまだ行けるぜ」


「小休止だ。当たり前だが、持ってきたロープではまるで足らんな。ここで水を補給する。あいつらに仕事をさせてやらねばな」

「ああ、滑車の要領で行くってわけだな? ひっかけやすい場所はあるか?」


「あったから言っている。少し油を持ってきた。……これで良し」

「おおい! イハッタ、テペテ! 聞こえるか!?」


「聞こえています! どうしましたか!」


「これから水筒を括りつけたロープを下ろす! 適当に引っかけておくから、水を補給して戻せ!」


「了解しました!」


 怒鳴り声で会話する。この距離だと、まだ聞こえる。


 ・・・・・・


 かかった時間は30分ほど。小休止というには長すぎたが、出発する。思ったよりも簡単だった。

 体力もまだまだ余っている。これならば難しいことはないと、そう思えた。


 ・・・・・・


 そして、次の1時間30分でロープの限界地点までたどり着いた。前の小休止では想像もできないほどに体力を使った。

 ただ登る、それだけで何も変わっていないはずなのに。


「戦士長、ここが下とやりとりできる最終地点だ。各自、何かあるか?」

「いや、俺にはねえなあ。水が欲しいところだが、さすがに腕がキツいんでいいわ。お前らは?」


「……いえ」

「いいえ……」


 元気がない。

 山登りとはいっても、通常の歩いて登るそれではなくボルダリングのそれだ。休憩があったとはいえ、合計で2時間30分だ。しかも、同じ距離を登るのに後半では1.5倍の時間がかかっている。

 かなり……キツい。腕の力だけで登るのがこれほどキツいとは思っていなかったのだ。


 それぞれの距離も離れている。休むためのちょうどいいくぼみを見つけるためと言うのもあるが、体力が落ちてきた者も居る。


「おい、体力が持たねえ奴はちゃんと言え。それと、戦士長の俺はいいが、お前らは絶対に下を見るな。いいか?」

「副長の俺も例外でいいな? ……ペッテム。大丈夫か?」


 一番危なそうな奴に声をかける。ビールが大好きな小太り、その体重から繰り出される一撃は強力だが……この山登りは格別に堪えるらしい。


「……問題ない……っすよ、副長……」


 息も絶え絶えで、落ちそうだ。

 しかし、どうすることもできない。休ませて、それで降ろすか? だが、このボルダリングで最も危険なのは降るときだ。下へ行くときの方が足を踏み外すことが多い。

 ここで降りさせるというのも、遅きに失した感がある。


「行けるか?」

「もちろん」


「――では、10分の小休止を取る。それから上を目指すぞ」


 戦士長は決断する。もっと休憩を長くとるべき? しかし、体力というのは休憩すればその分回復するものではないと知っている。それは、夜に数時間眠るときの話だ。

 ここでは、長く休憩すればその分手足が動かなくなる可能性がある。疲れが鉛のように全身に行き渡って動けなくなる、その前に登り切る以外に手段はない。


 ・・・・・・


 わざと明るい話題を振って……しかし30分後でも、最初の10分進んだだけの距離を踏破できていない。


「……副長。どれくらい進んだ?」


 戦士長と副長は先んじて進んでいる。声を落とせば下の方の仲間には届かない。


「下から見ないと詳しいことは分からない。ここから見ても遠近感が狂うからな。……とはいえ、全体の半分以上は進んでいるに違いない」

「そうか。……半分か」


「もう、下ろすことはできない。登るか、死ぬかだ」

「……だな。覚悟していたが」


 暗い声で話す。そうしている中に、出し抜けに聞こえてきた悲鳴。


「ペッテム……!」

「くそ、一人落ちたか」


「だが、俺たちは進むしかない。……登れ! でなければ、鋼鉄の夜明け団の脅威が我が国に降り注ぐことになる! 必ずや、それを阻止するのだ!」


 気合を入れる。


「「「応!」」」


 全員が応える。更に登っていく。


 ・・・・・・


 そして次の30分でもう一人が落ちた。


 ・・・・・・


 1時間、のろのろと進むうちに2人落ちた。


 ・・・・・・


 誰も口を利かない。戦士長でさえも口をつぐみ、さらに登る中で4人が落ちた。沈痛な雰囲気の中、2時間を数えた頃に。


「――来たぞ、頂上だ! 後はゆるやかに下降している。ここまで来れば大丈夫だ! 入れる場所も……あるぞ!」


 戦士長が喝采を叫ぶ。そう、登り切ったのだ。


「馬鹿な真似をして落ちるなよ。格好悪かろうが脚にしがみついて行け。できそうだからって、決して歩くんじゃないからな……!」


 副長もたどりついた。足をたどり、ちょうど脚の付け根の部分に崩れた箇所がある。人一人が簡単に入れる場所だ。


「たどり着いた! たどり着いたんだ、俺たちは。ペッテム、キテ……」


 3人目が頂上にまでたどり着き、そこを見て歓喜にうち震えて……


「え……?」


 立ち上がってしまった。そして、風が吹く。上空での風は……強い。彼の体勢を崩すには十分で。

 ぐらりと揺れて、足を踏み外す……


「立ち上がるなと言った」


 副長が押さえた。馬鹿が居ることを予測して頂上の近くで待機していた。


「慌てず騒がずゆっくり行け! 戦士長が待っている!」


 そして、生き残った最後の1名もそこへとたどり着く。


「戦士長、どうだ?」

「ああ――なんて言うか、こいつは鉄か? こんな贅沢に……全部が鉄なのか?」


 戦士長が胡乱気な表情で壁をコンコン叩く。そこにあるのは真っ白い壁。だが、色など重要ではない。着色くらい、王国でもいくらでもできる。

 問題は、それの材料。叩けばどれくらい硬いのかが分かる。そしてこの厚み、本気で斬っても、むしろ剣の方が折れるだろう。


「中まで鉄か。だが、脚の素材もそうだった。これ自体がとんでもない財産だな。剣や防具にしても使いきれないだけの鉄か」


「……とはいえ、妙だと思わないか? 脚も砕け、凹み――俺たちが登れるくらいにまで、だ。これを彼らが作ったとするなら、あのようにする理由はなんだ? 中も……無数の亀裂が走っているぞ」

「確かに妙だな、それは。そもそも脚から登るにせよ、そこから入れる穴が空いているのもおかしい。普通は木材か何かで塞ぐだろう。彼らはこれをどこから持ってきた? そもそも、”これ”はなんだ?」


「巨大な鉄の蜘蛛……ここまで壊れている理由は何か。遺跡だから修理できない? だが、ただ遺跡と言っても不審な点は山ほど、か」

「とはいえ、やることは一つだろう」


「ああ、進むぞ」


 戦士長がその奇怪な場所を進んでいく。壊れかけたその場所、一本道の道筋をただ進む。


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