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終末少女の黒幕ロールプレイ  作者: Red_stone
「世界」の疾患編
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第25話 絶望の真実 SIDE:サーラ


 そして、手持無沙汰に待つこと3時間ほど。方舟へと赴いたルナたちは、たくさんのごちそうを持って降りてきた。

 ――宴会が始まった。


「……ふう」


 サーラはやはり馴染むこともできず、皆から外れた場所に立っている。


 なんなのだ、と思う。戦争が楽しいと思えるような、命を捨てるようなことが喜びだと……そのような彼らとは仲良くできない。あまりしゃべりかけたいとも思えなかった。少なくとも、今は違う生物のように感じられて話したくもなかった。


 それならご馳走の一つばかり――とも思うが、何か違和感を感じて食べたくならなかった。夢のような、見たこともないご馳走……だけど何か”違う”。

 魚の刺身、脂が乗っていて、美しいソースと相まって芸術品のようなカルパッチョ。絶品に違いない。でも、”刺身とはあんなに形が揃うものだったか”?

 お肉とチーズがこれでもかとばかりに乗ったピザ。よだれが出てきそう。でも、”ピザとは具材の1㎜もずれも許さないとばかりに同じ形をしたものだったか”?

 ――極めつけはルナ専用とばかりに置かれた果物たっぷりのケーキ。なぜだか近づきたくもないような、嫌な予感が止まらない。そんなものを、ルナはアルカナにアーンされて嬉しそうに食べている。


「おや、食べ物に口も付けないとは感心ですね」

「……ッあなたは」


 名前は知らない小さな子。だけど、アルトリア様と離れたグループで一番偉そうにしていた人だった。そして、もう一人の男の人と一緒にルナと戦った人。

 レーベ。幼くなった彼女は背格好だけならサーラよりもよほど年下に見える。だが、世の中を嘲るような表情がとても違和感があるようで、しかし似合っているようにも見える異常。ルナとは違う意味で人間には見えない。


「いえ、特に他意はありませんよ。ですが、あれが毒だと気付いていないかと思いましてね」

「え? え――あれが、毒?」


 言われてみれば、ああそうかと納得するくらいにはあの料理たちはおかしい。でも、みんな喜んで食べているのに。

 と、いうか……この人、ケーキを食べている! 一番危なそうなあのケーキだ。


「まあ、一口二口程度であれば死にはしないでしょう。このケーキは別ですが」

「あ……え? はあ」


 そんなことを言いながら手に持った皿からフォークでパクパク食べている。とても忌々しそうに。甘いものが嫌いなのだと、知らなくても分かる表情だ。


「ですが、言われたことはあったはずですよ。あの子は、人は忘れるものだと言うことをあまり覚えていませんからね」

「え? 言われた……あ」


 思い出した。食べ物を挙げられない理由。うちに積んであるのが毒になるから、と言っていた。そして、特別に食べられるものを作ってくれることになった。

 なら、あれが――”積んであるもの”、食べられないものなのか。


「あなたが何かを口にしたとして、あの子は命よりも食欲を優先したと、そう捉えるでしょうね。まあ、他の誰かが止めてくれるとも思いますが」

「う……あ」


 冷や汗が流れた。食べれば死ぬ、なんて――そんな。始めから居心地が悪かったこの場所だけど、命の危機を自覚したら怖くなってきた。


「――ふむ」

「……」


 うずくまって、彼女を横目で見ると皿の上のケーキは食べ終わっていた。そして、ちょこちょこと走り回る子供サイズの人形が持ってきた盆の上に空の皿を乗せる。

 代りにワインのグラスを受け取り、一気に飲み干した。


「やはり、甘いものは苦手ですね。胸焼けがして苦しい、よくあんなものを好むものですね。まあ、気にしているのは味よりもむしろ見た目だけでしょうが――」


 忌々しそうな顔だ。そんな顔をするくらいなら食べなければいいのに、と思う。


「ああ、あなた方にとっては毒ですが我々には薬となるものです。魔力は摂りすぎれば死にますが、取り込まないと強くなどなれませんから」


 さらりと言ってしまう。


「……さて。あなたもここに居ては息が詰まるでしょうし、少し散歩などどうでしょうか」


 ふわりと微笑んで、彼女はそう言う。ただ、答えは聞いていないとばかりに踵を返して歩き出し――


「あ、あの……どこへ? ええと……その……?」


 さすがに付いて行かざるを得ない。悲しいかな、自分が一番下だという自覚はある。それで、偉そうな彼女に逆らうことなど出来ない。


「少し社会勉強などどうです? それと、私の名前はレーベで良いですよ。……サーラ」

「……へ? あ、はい」


 偉い人に名前を覚えられている恐怖を感じながら、彼女について行く。部屋よりも小さい、人が10人も入れば満杯になりそうな箱の中に入って扉を閉じる。

 すぐに胃の中が浮くような妙な感覚がする。


「おや? ああ、これはエレベーターですよ。上下の階に昇ったり降りたりするものです。そうですね、あなたは乗ったことのないものでしょう」

「……う。え?」


 まるで乗ったことがあるかのような口ぶり。彼女たちとルナの関係は……よく、分からない。古い友人のようでもあり、だがアルトリア達とは反目しているようでもある。


「さあ、こちらです。中へ入るわけではないですからね、気楽にしていてください」

「中へ……って。え?」


「ふむ。工場見学などもしたことがありませんか。原始的な農業しかない国の農民であれば、想像もつかないことであるかもしれませんね。あちらを見てください」


 す、と指差したその先にあるのは――


「え? 食べ物が流れて……? えっと、人が居ないのになんか転がって? 捨ててるの? でも……」


 透明な板の向こう側で機械が延々と何かを袋とじしている。こう見ると、ますます食べるものには思えないが。


「あれは焼いたクッキーを袋で綴じています。空気を抜くと腐りにくいですからね、瓶詰めなどを見たことがありませんか? あれも空気を抜いて腐敗を防いでいます」

「瓶……詰め? え、あれが?」


「まあ、加熱はしていませんがね。こちらは細菌の入らない清浄な空間で製造し、しかも窒素を充填などしますが……イメージとしては近いでしょうね。我々はあのようにして食べ物を作っています」


 レーベはまさに説明のお姉さんと言った雰囲気で話している。ただし、彼女本人は初見である。似た技術ならあるから、そこから引用しているだけだ。


「もう少し歩きましょうか」


 かつかつと、速くも遅くもない速度で歩いて行く。あの戦闘時には見えないほど速く動いていたのだから、合わせてくれているのだろうと思う。

 とはいえ、よくわからないから違うものでも同じものに見えて……工場見学は退屈極まりないものになっている。


「――そして、あなたに見て欲しかったのはこちらです」


 20分も経って、少し歩き疲れた頃に彼女は指を指した。


「うえ?」


 変な声が出た。


「え? は、畑? でも、土もないし――お野菜が、動いてる?」


 ガラスの向こう側にあったのは水に漬けられたじゃがいもの苗、しかもコンベアで移動している。


「何の変哲もない水耕栽培ですよ。まあ、あなたのところでは土を使っているのでしょうが、工場生産するとなると土を使うのもリスクなのですよ」

「……は、はあ」


 何を言っているかは分からないが、とりあえず頷いておいた。


「ええ。それで、あそこの機械と、水が出ている場所が分かりますか?」

「ええ……と。あ、はい。風が出てますね。あと、波もあって」


 空調と水の管理システム、サーラには分からないがこの水耕栽培システムの根幹を成す場所である。


「そこに、これが入っています」

「ええ……と?」


 レーベが取り出したのは、ガラスに閉じ込められた綿としか見えないものだった。頑丈そうな綿に見えるが、これでは台無しだとちょっと思った。


「ああ、これはサンプルでガラスの用に見えるのは封印術式です。とても貴重なサンプルですので、このような処置を取っています」

「……は、はあ?」


「反応が薄いですね。これがあれば世界を救えるというのに」

「え、はあ。……はあ!?」


「ええ、これが先ほどのあそこに入っています。これであなた方の食べられる食料を作ることができます」

「そ、それは本当ですか? それがあれば、皆が飢えずに済むって。ルナ……様が畑は駄目になるって言っていましたけど、その綿? があれば……!」


「はい。”あれば”、ですがね」

「あれ……ば? でも、そこに……」


「このサンプルは小さな欠片ですよ。機械の中には人間よりも大きいサイズが入っています。誰もを救うためには、膨大な量が必要です」

「……でも、たくさん持っているんじゃ?」


「使用量から言えば予備はありません。何よりもこれは消耗品です。使ってしまえば、もう終わりなのですよ」

「じゃ、じゃあいっぱい作ればいいじゃないですか。あの人はいつも、できないことは何もないって顔して……!」


「ルナがその顔をしているのは興味がないことをする気がないからです。”これ”は錬金術ではなく、高度に発展した工学の産物。――複製することは不可能です」

「そん……な。でも……」


 膝をつく。


「でも……なんで、そんなことを私に……?」


 そうだ、こんなことを私に教える必要なんてない。現に、ルナは言っていなかった。食べ物を生産する術、そしてその術はもうすぐ使えなくなるのだということ。

 ……一介の村娘には、重すぎる真実だ。


「ああ、そういうことですか。――私たちの戦争を止めてくれたあなたには、感謝しているような、一方で恨めしいような複雑な感情があるのですよ。ですから、これはちょっとしたお返しです」

「……な。え――」


 愕然とする。確かにあの戦争を止めたのは自分なのだろう。あんなことを言ってしまったから。……でも、人の命が大切なのは間違っていないのに。この人だって、今、生きているのに。――生きている、から?


「この世界は終わっている。もはや神すらどうしようもない行き詰まり。救いの糸は人が掴めば切れる細い蜘蛛の糸(夢想)。絶望を理解せず、何も知らずに救世主気取りで戦争を起こす者も居るでしょう。ルナですらもどうしようもない滅びの中、あなたはどうするのでしょうね?」


 レーベは、ニタリと唇の端を歪ませて……嗤っていた。



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