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終末少女の黒幕ロールプレイ  作者: Red_stone
翡翠と鋼鉄の激突編
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第18話 ”毒”のモンスター・トループ


 次なる戦い。誘いに乗り、自ら敵の場所へ赴いた4機のモンスター・トループ達。そのうちの一機【ブラッド】は歓喜と共に戦場へと駆け着ける。


 それは轟音を上げながら突進する漆黒の機体。それはさながら暴走列車、全てを轢き殺す暴威そのものである。

 大質量が、鋼の堅牢さでもって突っ込んでくる。その脅威は言葉にするまでもなく。質量と速度に任せた粉砕は、もっとも原始的な暴力そのものである。


「クハハハハハ! 我こそはルナ様の直属部隊。あの御方自ら設計されし機械の身体! その全身を鋼に変えしモンスター・トループ……【ブラッド】なり!」


 その圧倒的な脅威が目的の人間を見つけ、踏み潰さんとうなりを上げて迫り来る。自然も命も知らぬとばかりに蹴散らしながら、そいつは突き進む。


「――さあ、鋼の体躯を恐れぬならばかかってくるがいい!」

「鋼だと? 知らんな。どれだけ硬かろうが、ヒトの英知の前に砕けぬものなど存在しない」


 だが、踏み潰される人もただのヒトではない。全身を鋼に変えただと? こちらは改造技術によって細胞の一片までも変貌済だ。

 ゆえに、違いはそれが生身か鋼かと言うだけ。ならばこそ互角、あとは勝利への執念がものを言うのだ。


「改造人間、第4世代。『星印(ステラ・サイン)』を心臓に賜りしこの身は、第四星将【金剛卿】ルート・L・レイティアである。我とて血管の一本に至るまでルナ様の手が入っているのだ。鋼よ、ただの重さで自身が上だと己惚れるならば、その無知を正してやろう」


 それは黒のコートを纏う男だった。むしろ青年実業家か、もしくはギャングでもやっていそうな恰好でギラリと目を光らせる。

 その男は手を開き、どっしりと重心を落として構える。


 ――あろうことか、受け止める気なのだ。全身鋼のサイボーグが全速で突っ込んでくる、そんな猛威を。


「「――おおおおおおおおお!」」


 腹の奥底を揺るがすような音に続いて、二つの雄たけびが空を裂いた。ぎゃりぎゃりと大地が削られる悲鳴が響く。

 抉れ、だが男は潰れた男になるどころかがっちりと叩きつけられた肩口を掴んで……


「……見事なり!」

「当然だとも」


 鎧の奥の機械眼が彼に視線を合わせる。ああ、これこそ待ち望んだ好敵手に他ならんと、須臾の時に二人で笑みを交わし。

 戦争は加速する。


「しいいいいいいい!」

「ぬおあ!」


 止まったのも一瞬、横に浮かぶ機械羽を振り下ろす。それは羽というよりも断裁刃でえあるのと同時に――


「ルナ様に与えられし我が力は物質すらも侵す毒である」


 ルートが目を見開く。彼の力は自身の身体に好きなように角を生やすこと。近距離に限定されることを度外視すれば使いやすくて応用の利く武器にして盾だった。

 だが、敵の攻撃を受け止めた盾たる(つの)に黒が侵食していた。ぼろぼろと、崩れ落ちていく。黒は緩慢に領土を広げていく。


「ぐ……チィィッ!」


 後ろに退避。使い物にならなくなった角は捨てる。


「ふ、どうやら我に与えられた毒は貴様の力を上回るらしい」

「それはどうかな? 使えなくなったら捨てればいいだけのこと。本来ならば本体まで一瞬で侵し尽くす毒なのだろうが――私の身体には、届かなかったぞ」


 睨み合う。少なくとも、互いに戦えるレベルの均衡した実力であると理解した。

 戦略、腕、そして運が勝負の行方を決める範疇の戦いだ。機械鎧でいえば遊星主、魔人で言えば災厄と戦うのとは違う。


「待ち望んだ戦争、とてもタノシイな。すぐに壊れてくれるなよ」

「知ったことではないな。俺は、強いやつに勝つのが好きなんだ。戦いなどではない」


 魔人が飛び出す、機械鎧が一瞬遅れて反応する。


「手札を遺したままくたばるなど、未練が残るというもの! 行かせてもらうぞ、ルナティックコード【紫爪蓮華】!」


 ぞろりと背から触手が飛び出す。それはまさに名は体を表すかのような毒々しい紫色。ならば後は説明するまでもないだろう。

 そしてルナティックコードとはルナが設定した攻撃プログラム。月読流の完全劣化でしかないが、完全なる合理を持って敵手を襲うそれは回避する手段などない。……次元の違うスピードかパワーで蹴散らす以外に対処する手段はない。


「は――手数を増やすか! 予想道理すぎて面白みがないな、【紫電四連】!」


 だが、同格であるなら対応はできる。

 目にもつかぬ速度で身体の各所に生えた角を振るう。侵食された、が敵の触手を弾いた。ならば角は捨てて敵の本体を目指す。”角を生やす”ルートの異能はこの毒に対してかなり相性が良い。

 四肢どころか生えた角で縦横無尽の攻撃を可能とし、しかも触った場所は即座に捨てることが可能。狙ったとしか言いようのない相性だった。


「ルナティックコード【火魔鼬(かまいたち)】!」


 だが、それすらも機械鎧の罠だ。触手で先手を取り、斬撃にて必殺を決める。そもそもルナの信奉者ならば、毒で決めるよりもルナの使う月読流の正統劣化に当たる技で仕留めたいと思うのは当然だろう。

 回避できるような甘い攻撃ではない。防御? ならば良し。ダメージを負った上に動きを止めたなら更なる必殺を繰り出すまで。月読流は全ての攻撃が絶死であり、次につながる連携技なのである。


「予想通りと言ったはず! どうやら受けた薫陶では俺の方が上らしいな!」


 斬、と腕を断たれた――にも関わらず、ルートは突き進む。始めから牽制をいなし、本命を受けた上で進む気だった。

 相手が火魔鼬に対応する一瞬を狙う気だったブラッドは虚を突かれたのだ。まさか、そのまま来るとは。次の攻撃に移るまで僅かな時間が要るが、相手が許すはずもない。


「……ッ! ルナティッ」

「鈍い! 【紫電四連】!」


 一瞬にして四の打撃が叩き込まれ、ブラッドは後方へ弾き飛ばされた。角による4連攻撃は鋼の装甲を抉り、中身の黒を晒させる。

 壊れた装甲の中から溢れ出るのはじくじくとした黒い液体。そして、砕けた歯車。”中身”までつくづく人間離れしている。まさか、それでルートが怖気づくこともないが。


「鋼の装甲、歯車の身体――滴るそれは汚染された油か。なるほどな。そして紫色は同じでも、貴様の身体全てが毒である訳ではないのだな」

「……バレたか。だが、」


 ルートが見る前でブラッドは一瞬動きを停止する。まさかわずかに欠けただけで動きが止まるほどのダメージという訳でもあるまいと不審に思うが。


「さあ、死の演舞を続けよう。勝つのは、俺だ」

「いいや。勝利をあのお方に捧げることがモンスター・トループの誉れであれば、敗北は認められぬ」


 再起動するのを見て、考えるのは止める。相手の事情など関係ない。ルートはここに勝ちに来たのだ。

 そして、ブラッドもまた戦いを求めてやってきた。


「「死闘を、続けよう……!」」


 様々な駆け引きを用いて両者は戦う。鎧には数々の傷が刻まれていく。そして、ルートにも傷が刻まれるがそこは持ち前の回復力で癒す。

 ただし、どちらにしても体力は刻一刻と削られて行く。


 そして、刻まれた傷が10を超えて血が、油が止まらなくなろうとも戦い続ける二人。その二人は傷だらけの身体を引きずってなお、対峙を続ける。


「――ブラッド、だったか。思い出したぞ、”毒”の改造人間がかつて居た。軟体の身体を持ち、どれだけの化け物にも通じる毒を持ったお方だった」

「……」


「だが、それは半日すら持たない。決戦のために改造され、その決戦で敵を道連れに死した。どうやら、貴様も寿命のようだな」

「――見抜かれていたか」


 表情のない機械の顔に韜晦の苦笑を浮かべる。レン・ザ・ジェリーフィッシュという名の翡翠の夜明け団の大幹部、ルナの片腕の地位を得ていた少女。そして、ブラッドはそれをダウングレードした魔導人形だった。


「当然だ。その触手もプログラム通りにしか動かせていない。しかも貴様自身も時折動きが止まっていたぞ。意識が途切れるんだろう? ……魔人の最期も、そういうものだからな」

「返す言葉もない。だからこそ、お前たちが現れてくれて感謝している。死ぬなら戦場で逝きたいからな。我が最期の一撃を受けてくれるだろうか?」


「ふん。手向けの一撃など馬鹿馬鹿しい。軟弱な一撃であれば、それごと砕いて思い出すこともない。貴様の名を覚えて欲しければ、精々気張れ」

「ふ……望むところ。勝利を諦めるなど、夜明け団には相応しくない惰弱である。全力で、貴様に打ち勝って見せよう。ああ、最期に勝てるならば、それ以上のことはない」


 微笑とともに交わす言葉。機械鎧、そして傷に引きつった顔では半笑いにすらならないけれど。

 確かに思いが通じ合った瞬間だった。こいつが相手であれば悪くないと、心から思えた。


「「――行くぞ!」」


 ゆえに、全力で。ああ、認めるからこそ勝ちたいのだ。相手が素晴らしい人物であるほどに勝った時の美酒は甘美であるから。

 すべての力を振り絞り、最強の一撃を繰り出すために大地を揺らしながら踏み込んだ。


(つき)読流……【桜花】」

「奥義、【散華八連】!」


 機械鎧が繰り出すは無数の斬撃、舞い散る桜のごとく全てを斬滅する絶殺の領域。そして、対する魔人は生やした八つの角でもって切り裂いた。

 領域を削り、ブラッドの元までたどり着き……最後の一閃が機械の身体を真っ二つに割った。魔人は、立つことすらやっとの有様で呟いた。


「お前は強かったよ、ブラッド。その名、覚えておく」


 バラバラと散らばる機械の破片、黒く汚染された油が血のように広がった。そして朽ち行く禍々しい触手たち。その中にどろりとこぼれた脳髄が混ざっていた。



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